『プラネット・ウィズ』新興プロダクションの萌が挑んだ、全12話 913カットのCG制作／No.1 モデリング編

CafeGroupが2017年9月に設立した萌（もえ）は、アニメCG制作に特化した新興プロダクションで、デザイン・モデリング・アニメーション・撮影の全工程が社内で完結する。オリジナルTVアニメシリーズ『プラネット・ウィズ』（2018）では、全12話 913カットのCGを設立直後の萌が約7ヶ月で制作した。本記事では、その高い制作力を紹介する。なお、本記事はモデリング編、CGカット制作編の全2回に分けてお届けする。

※本記事は月刊『CGWORLD + digital video』vol. 249（2019年5月号）掲載の「新興プロダクションの萌が挑んだ全12話 913カットのCG制作 TVアニメシリーズ『プラネット・ウィズ』」に加筆したものです。

TEXT＿尾形美幸 / Miyuki Ogata（CGWORLD）
PHOTO＿弘田充 / Mitsuru Hirota

▲『プラネット・ウィズ』PV

左から、アニメーター・伊井誠幸氏、アニメーションディレクター・佐藤直樹氏、アニメーター・今直明氏、プロデューサー・大竹秀和氏、リードモデラー・副島貴大氏、リードモデラー・木村貴之氏、CG監督・平岡正浩氏、制作進行・佐久間周平氏、アニメーションディレクター・神谷久泰氏、モデラ--・齊藤翔大氏、リードアニメーター・滝川幸稔氏、アニメーター・齋藤緋里氏、アニメーター・牛山舞奈氏、リードアニメーター猪狩貴文氏（以上、萌）

会社設立とほぼ同時期に、1クール分のCGカット制作が決定

『プラネット・ウィズ』は漫画家の水上悟志氏が描き下ろした1,074ページのネームを基にしており、アニメーション制作はJ.C.STAFFが担っている。全12話のCGカットの総数は約1,700で、CGキャラクターのアニメーションを必要とする913カットを萌、そのほかの止め絵（一枚画）で見せるカットをJ.C.STAFFで分担した。「宮崎駿監督の『毛虫のボロ』（2018）の制作に参加した後、J.C.STAFFの松倉友二プロデューサーにお会いする機会がありました。萌の起ち上げ準備をしていることをお話したら、『当社の仕事を手伝ってください』とお誘いいただき、会社設立とほぼ同時期に1クール分のCGカット制作が決まった次第です」と代表取締役の平岡正浩氏はふり返る。

大竹秀和氏（プロデューサー）
ModelingCafeで知られるCafeGroupに属するとはいえ、子会社ではない新興プロダクションの仕事としては、質量共にかなり異例だ。「過去の実績を通して平岡が勝ちとってきた信頼があってこそだとは思いますが、最初に聞いたときは耳を疑いました」とプロデューサーの大竹秀和氏は苦笑する。一連の決定を受け、2017年の末に急遽合流した大竹氏は、物量・コスト・スケジュールなどを調整し、制作を軌道に乗せるのに苦心したと語る。

佐久間周平氏（制作進行）
「2018年の2月頃に私も合流しましたが、アニメ案件の制作管理は未経験だったので、異例づくしの船出でしたね」と制作進行の佐久間周平氏は語る。

その後、7月からのTV放送を目指し、3月からモデリング、5月からCGカット制作に着手した萌は、制作の物量がピークに達していた7月末に、なんと併行して会社の引っ越しを行なった。「それまでは渋谷のModelingCafeの一画を間借りしていましたが、本作のために一気にスタッフを集めた結果、引っ越さざるを得なくなりました」（大竹氏）。波瀾万丈な1年だったが、萌が手がけたCGカットはJ.C.STAFF以外の業界関係者にも評価され、その知名度は一気に高まったという。

スケール未定の状態でセットアップを先行

本作では、当初からキャラクターは作画、ロボットと龍はCGで表現するという方針が示されており、ロボットや龍がメインとなるカットは、レイアウトから撮影入れまで萌が担当することになった。「2018年の初頭の時点では、設定画も絵コンテも制作中で、水上先生のネームが唯一の情報源でした。そのため、まずはネームを紐解き、CGパートの作業量を見積もることから始めました」（平岡氏）。

実際にカット制作を始めてみると、当初の見積より作業量が増えたため、止め絵のカットはJ.C.STAFFのCGチームに制作を依頼したり、作画とCGが同じフレームに入るカットは絵コンテ段階でなるべく減らしてもらうなどして調整したが、それでも最終的な萌の担当カットは913を数えたという。

3月に入ると設定画が徐々に届き始め、最初に念動巨神装光の虎居英雄、次にネビュラソルジャーの先生ロボのモデリングに着手し、ルックの検討やセットアップも順次開始した。

▲先生ロボの設定画。先生ロボや閣下ロボなどのネビュラメインマシンデザインは、いづなよしつね氏が担当している

なお、モデリングは平岡氏と3名のモデラーが分担して行なっており、最終的なCGモデルの数は30を超えたのに加え、戦闘で破壊されたダメージモデルなど、各種バリエーションも制作したという。「先生ロボと閣下ロボは、最初に登場した後、ドーピングモード、宇宙船バトルモードに移行すると決まっていたものの、スケールは未定でした。8体の念動巨神装光もスケールが未定だったのに加え、どれも体型がバラバラで複雑な関節ギミックも必要だったので、リグはMayaでイチから組むことにしました」（平岡氏）。3ds MaxのCATやBipedの場合、セットアップ後のスケール変更が難しいため、Mayaのリグのグループ最上位にスケール用のノードを設定し、後で変更できるしくみにしたという。

左から、先生ロボ、ドーピングモードの先生ロボ、宇宙船バトルモードの先生ロボ。体型に加えスケールも大きく異なる。設定では約6ｍ、8ｍ、150ｍだが、CGモデルではスケール感を変えている

▲念動巨神装光。左から、根津屋正義、熊代晴海、因幡美羽、羊谷葉介、鷹取紅華、虎居英雄。全て体型や骨格構造がちがうため、モデルもリグも一切流用できなかった。「第1話のカット制作では、ラフデザインを基にアニメーション用のラフモデルをつくらないと間に合わない状況だったので、どの精度までつくり込むかの判断に悩みました」（平岡氏）

第1話から、先生ロボに加え、7体の念動巨神装光と龍まで登場するとわかっていたため、モデリングとセットアップを急ぐ必要があったと佐久間氏は補足する。「絵コンテの到着を受け5月から第1話のカット制作に入ったものの、設定画の完成が遅れたこともあり、第1話に必要なCGモデルが完成し始めたのは6月中旬でした。そのためカット制作はアニメーション用のラフモデルで進めておき、併行してCGモデルの制作とクライアントチェックを進めました」（佐久間氏）。

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可動フィギュアとのすり合わせも求められた先生ロボ

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可動フィギュアとのすり合わせも求められた先生ロボ

先生ロボは可動フィギュア制作も同時進行していたため、アニメーション表現に関わる関節部分以外は可動フィギュアの形状に近づける必要があり、そのすり合わせにも苦心したという。「関節ギミックは独自の工夫をしていますが、排気口の構造などは可動フィギュアに合わせました」（平岡氏）。

▲【左】先生ロボのアニメ用モデルに対する修正指示／【右】先生ロボの可動フィギュア用モデルに対する修正指示。可動フィギュア用モデルの制作は、フィギュアメーカーが担当している

▲【左】完成した先生ロボの正面／【右】ワイヤーフレーム

▲【左】同じく、先生ロボの左側面／【右】ワイヤーフレーム。実際のネコの後肢と同様、カカトが高い位置にあり、中足骨にあたる部分が長いデザインのため、特殊なリグが必要となった

▲【左】同じく、先生ロボの左斜め背面／【右】ワイヤーフレーム

▲同じく、先生ロボのターンテーブル

▲ヒザの関節ギミックの詳細。【左】のピンク色と黄色のパーツは連動しており、【中】から【右】のようにヒザ関節を曲げるのにしたがい、ピンク色のパーツが下方へとスライドする。ただしヒザ関節が曲がりきっても、ピンク色のパーツがヒザからはみ出さないしくみになっている

▲先生ロボのレンダリング素材と、コンポジットのながれ

モデリング編は以上です。
CGカット制作編はこちらでご覧いただけます。

info.

プラネット・ウィズ Blu-ray BOX 特装限定版（全2巻）

価格：各19,000円（税抜）
収録話数：各6話分
スペック：第1巻リニアPCM（ステレオ）／AVC／BD25G×2枚／16：9＜1080P High Definition＞
第2巻リニアPCM（ステレオ）／AVC／B25G×1枚+BD50G×1枚／16：9<1080p High Definition>・一部16：9<1080i High Definition>
仕様：アニメーションキャラクターデザイン・岩倉和憲　描き下ろしBOXイラスト、インナーイラスト
特典：原作・水上悟志新作描き下ろしネーム漫画（24P）／ドラマCD／各種映像特典／スペシャルブック1（52P）／オーディオコメンタリーほか

© 水上悟志・BNA・JC／Planet With Project