CafeGroupが2017年9月に設立した(もえ)は、アニメCG制作に特化した新興プロダクションで、デザイン・モデリング・アニメーション・撮影の全工程が社内で完結する。オリジナルTVアニメシリーズ『プラネット・ウィズ』(2018)では、全12話 913カットのCGを設立直後の萌が約7ヶ月で制作した。本記事では、その高い制作力を紹介する。なお、本記事はモデリング編、CGカット制作編の全2回に分けてお届けする。

※本記事は月刊『CGWORLD + digital video』vol. 249(2019年5月号)掲載の「新興プロダクションの萌が挑んだ全12話 913カットのCG制作 TVアニメシリーズ『プラネット・ウィズ』」に加筆したものです。

TEXT_尾形美幸 / Miyuki Ogata(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota

第1話から総力戦、ピーク時には4話を同時進行

カット制作は萌の7人のアニメーターが分担して行なっており、一部の作業は外部の協力会社にも依頼している。「第1話の制作はある程度余裕があって、話数が進むごとに余裕がなくなっていく......というのが、典型的なアニメ制作の進行だと思うのですが、本作の場合はさっそく第1話から余裕がなかったので、7人による総力戦で取り組みました」(CG監督・平岡正浩氏)。余裕のない状況はその後も続き、第1話の制作と併行して、第2話、第3話の制作にも7人で取り組むことになった。


  • 佐久間周平氏(制作進行)
  • 「ピーク時には全員が4話分のカット制作を抱えていました。第1話の撮影入れと同時進行で、第2話のレンダリング、第3話のモーション制作、第4話のレイアウトもやり、順次、社内のディレクターや社外の演出さんにチェックを依頼するといった具合です。担当アニメーターも私も状況把握が追いつかず、優先順位をつけるのに手こずりました。早々に限界を感じたので、平岡や大竹と相談し、ModelingCafeでも使っていたSHOTGUNの導入を決めました」(佐久間氏)。


▲SHOTGUNの管理画面。この画面では第10話のCGカット全体を管理しており、「レイアウト・モーション」「背景原図」「作画ガイド」「レンダリング」「撮影入れ」からなる5列の工程を設定し、各カットのステータスを確認できるようにしている


▲各カットの管理画面。初回テイクから完成テイクまでの制作データや、各テイクの修正指示を閲覧できるようにしている。「膨大なカットの制作管理を私ひとりで行う必要があり、だんだん判断が難しくなってきたので、5月頃にSHOTGUNの導入を決めました。表示する項目は必要最小限に絞り、シンプルにするよう心がけています。まだまだ改善の余地があり、現在も社内のプログラマーに機能拡張を依頼しています。アニメーターが担当カットのチェックをディレクターに依頼する際、レイアウト、カメラ、モーションなど、何をチェックしてほしいのかが明確に可視化される機能の実装を予定しています」(佐久間氏)


できれば話数単位で外部の協力会社に依頼したかったが、その余裕もなかったと平岡氏は補足する。「外部に依頼すると、どうしてもやりとりに時間がかかりますし、上がってきたものがクライアントさんや私の期待するものとちがった場合には、まとめて修正が発生します。なるべくリスクは分散したかったので、外部への依頼はカット単位の作業に留めました」(平岡氏)。

モデラーとアニメーターの連携が支えたCGカット制作

一方で、萌の社内ではモデリングとアニメーションのディレクター同士がすぐに顔を合わせて話し合える環境だったので、迅速なクオリティアップを実現できたという。「例えば、作中に何度も登場する岩エフェクトの制作では、カット単位でモデラーに岩モデルのカスタマイズを依頼しました。先生ロボや閣下ロボのダメージモデルも短期間で仕上げてもらえたりと、両者の連携にすごく助けられました」(佐久間氏)。


  • 大竹秀和氏(プロデューサー)
  • アニメCGを得意とする優秀なスタッフを社内に抱えていることが、萌の制作力を支えていると大竹氏は語る。


・戦闘シーンを彩る、岩エフェクト

▲先生ロボが手足をギガキャットハンマーに変形させるときに出現する、青色の岩を使った専用エフェクトのテスト


▲第4話の岩エフェクトを制作中のMayaの作業画面


▲同じく、After Effectsの作業画面



  • 【A】

  • 【B】


  • 【C】

  • 【D】


  • 【E】

  • 【F】

▲【A】〜【F】第4話の岩エフェクトの完成カット。本エフェクトは、後日、念動巨神装光が出現する際にも使われるようになった。「1. 岩が伸びる/2. 発光する/3. 割れる」という基本的な演出ルールだけを取り決め、岩の形状・サイズ・出現時のタイミングなどはカットに応じてMaya、あるいはAfter Effects上で臨機応変に変更している。なお、テスト時のギガキャットハンマーは可動フィギュアのハンマーと同じスケールでつくっているが、実際のカット制作時のハンマーはハッタリ重視で少なくとも2〜3倍のサイズに拡大している。そのため岩の量や破片のスケール感に注意したという


・因幡美羽の必殺技

▲【左】第1話のカット制作時の因幡美羽/【右】前述の完成カット。この時点ではセットアップが未完成だったが、飛行シーンのみだったので事なきを得た。第2話では地に足を着けて戦うシーンがあったため、セットアップ完成後のCGモデルに差し替えられた


▲第2話で披露された因幡美羽の必殺技を制作中の画面。縦回転という要件以外は任せてもらえたので、体はシンプルな回転体とし、首を複数配置してクッキリと残像が残るようにしている


・新たにつくられたダメージモデル

▲第10話の宇宙船バトルモードの先生ロボと閣下ロボによる戦闘シーン用に、新たにつくられたダメージモデル。【上】はMaya、【下】はAfter Effectsの作業画面



  • 【A】

  • 【B】


  • 【C】

  • 【D】

▲【A】〜【D】前述のダメージモデルを使った完成カット。「破壊のたびにダメージモデルをつくるのは現実的ではないので、CGカットでは大がかりな破壊をしない場合が多いのですが、このシーンでは逃げずに破壊する必要がありました。モデラーに相談したら、張り切って1日くらいで期待以上につくり込んでくれました。私自身、時間がない中でも、がんばるべきところはがんばりたいという思いがあるので、このCGモデルが上がってきたときは嬉しかったです」(平岡氏)

© 水上悟志・BNA・JC/Planet With Project

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全長8kmという設定の「巨大な龍」の
スケール感をきちんと見せる

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全長8kmという設定の「巨大な龍」のスケール感をきちんと見せる

龍は第1話では1カットしか登場しないため、モデリング着手が後回しになったこともあり、セットアップも含めて平岡氏自らが担当した。「後半では物語に大きく関わってくるので、自分でしっかりつくろうという思いもありました」(平岡氏)。

▲龍の設定画


▲最初にZBrushでデジタルマケットをつくり、Mayaにインポートしてセットアップしている。テクスチャ制作にはMudboxを使用。【上】はZBrush、【下】はMudboxの作業画面


▲【左】カラーのテクスチャ/【右】イルミネーションマスク。ほかに、スペキュラ、スプレッドマスク、ラインマスクを使用。テクスチャサイズは8K


▲完成した龍のCGモデル


▲龍のリグ


▲第7話で先生ロボが龍の真横を飛行するカットのカメラを設定中の画面。画角は約28度、焦点距離は80mmの中望遠レンズの設定になっている。ドーピングモードの先生ロボは約8m、龍は8kmという設定のため、先生ロボにフォーカスすると龍は体表の一部しか映らない



  • 【A】

  • 【B】


  • 【C】

  • 【D】


  • 【E】

  • 【F】


  • 【G】

  • 【H】

▲【A】〜【H】前述の完成カット。龍の全身をじっくり映す長尺カットになっている。「このカットはネーム段階から『巨大な龍』のスケール感を見せるという方針が示されていたので、絵コンテ完成後の打ち合わせの際にCGでどこまで表現できるかを監督や演出さんから相談されました。アニメで巨大なものを表現する場合には、大きな止め絵をスライドさせる処理が昔から多用されています。また、あえてセル調にせず、グラデーションを使って質感やスケール感を表現するといった処理も併用したりします。今回はモデリング段階から龍のスケール感をきちんと見せるつもりで準備していたので、逃げずにじっくり見せるカットをつくりました」(平岡氏)


取材の最後に今後の抱負を尋ねたところ、平岡氏はつぎのように語ってくれた。「本作では限られた時間内で最大限の結果を出すことを目指しましたが、今後はより多くの時間をクオリティアップに使えるよう、作業量の管理やパイプラインの拡充に力を入れています。萌は設立当初から『アニメCGをつくる』という強い意志を掲げているので、今後もこの分野のトップを目指し、会社を育てていきたいです」(平岡氏)。

2019年に入ってからも、萌は『Fate/stay night Heaven's Feel Ⅱ.lost butterfly』(CG/撮影パート)や『ワンパンマン season2』(CGディレクション・CG制作全般)など、多彩なアニメCG案件を手がけている。引き続き、同社の活躍に注目していきたい。

© 水上悟志・BNA・JC/Planet With Project

info.

プラネット・ウィズ Blu-ray BOX 特装限定版(全2巻)

価格:各19,000円(税抜)
収録話数:各6話分
スペック:第1巻 リニアPCM(ステレオ)/AVC/BD25G×2枚/16:9<1080P High Definition>
第2巻 リニアPCM(ステレオ)/AVC/B25G×1枚+BD50G×1枚/16:9<1080p High Definition>・一部16:9<1080i High Definition>
仕様:アニメーションキャラクターデザイン・岩倉和憲 描き下ろしBOXイラスト、インナーイラスト
特典:原作・水上悟志 新作描き下ろしネーム漫画(24P)/ドラマCD/各種映像特典/スペシャルブック1(52P)/オーディオコメンタリーほか

© 水上悟志・BNA・JC/Planet With Project



  • 月刊CGWORLD + digital video vol.249(2019年5月号)
    第1特集:進化するゲームグラフィックス
    第2特集:VRミステリーアドベンチャーゲーム『東京クロノス』
    定価:1,512 円(税込)
    判型:A4ワイド
    総ページ数:128
    発売日:2019年4月10日