『斗え!スペースアテンダントアオイ』はケイカの由水 桂氏が同社の若手アニメーターらと共に制作したオリジナル作品で、「あにめたまご 2019」の4作品のひとつとして制作された。本作では、作画のようなタイミングやルックをCGで再現することに特に力を注いでおり、作画のノウハウを実地で学んだり、専用ツールを開発したりといった努力が重ねられた。そんな本作の完成までの道のりを紹介する。なお、本記事はモデリング編、カット制作編の全2回に分けてお届けする。
※本記事は月刊『CGWORLD + digital video』vol. 251(2019年7月号)掲載の「作画のようなタイミングを目指したケイカのオリジナル短編アニメ『斗え!スペースアテンダントアオイ』」に加筆したものです。
TEXT_尾形美幸 / Miyuki Ogata(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota
▲『斗え!スペースアテンダントアオイ』ノンクレジットOP
作画のノウハウを吸収し、専用ツールも開発
由水氏は「あにめたまご 2019」に応募する3年前からアニメーターの室井康雄氏が開設した「アニメ私塾」で作画の通信教育を受け、二段(プロ原画マン相当)の認定を受けた。その後はTVアニメ『ダーリン・イン・ザ・フランキス』(2018)などに原画として参加しながら作画のノウハウを実地で学び、それを社内で共有してきたという。「アニメCG制作に本格参入するなら、その前に作画をみっちり勉強しておきたいと思いました」と由水氏は語る。同社の若手の何人かもアニメ私塾で学んだ経験があり、伊藤尚貴氏は準二段の認定を受けている。
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由水 桂氏 - 「CGと作画の両方を経験してみて、両者の一番のちがいはタイミングにあると思いました。CGアニメーションはタイムシートに対する意識が希薄になりがちで、作画のような表現を目指すにしても、1秒あたり24コマの画を機械的に12コマに減らすことで2コマ打ちの動きにするといったケースが多々あります。でも作画の場合、ひとつながりの動きであっても、ここは2コマ打ち、ここは3コマ打ち、ここは1コマ打ち(フルコマ)というように、いろいろなタイミングを組み合わせることで、作画ならではの動きを表現しています」(由水氏)。
本作では、そんな作画のタイミングや、アニメの文脈を意識した演出を実現するため、アニメーターの小田剛生氏に作画監督を依頼したという。小田氏は宇宙海賊とモブキャラクターのデザインや監修、アクションシーンの絵コンテ、作画修正など、多方面でその手腕を発揮した。さらに指導アニメーターとしてモズーの喜田祐介氏が参加し、若手アニメーターの仕事をバックアップした。
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喜田祐介氏 - 「最初に、各若手が担当したいカットをアンケート形式で答えてもらい、なるべく各々の希望を優先しました。普段の仕事であれば途中で引き取るような難しいカットも、極力最後までやってもらうよう心がけました」(喜田氏)。勘のいい若手の中には小田氏が「まるで作画みたいですね」と驚くようなタイミングの動きを付けた人もおり、予想以上の成果が出せたと由水氏は補足する。
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服部 剛氏 - タイミングに対するこだわりはツール開発にも反映されており、パイプライン設計として参加した服部 剛氏は、アニメーションカーブの中から必要なコマだけを自動的にレンダリングし、After Effectsにインポートするツールを開発した。レンダリング時間の大幅な削減に加え、若手たちに最後まで残すコマを意識しながらキーを打ってもらうという点でも有効だったという。
必要最小限のコマだけをレンダリングするインハウスツールと、SHOTGUNの活用
▲本作の制作にあたり、MotionBuilderのアニメーションカーブの中から値が変化しているキーだけを自動的に識別し、必要最小限のコマだけをMayaでレンダリングするインハウスツールが服部氏によって開発された。なお、識別された情報はUATというブラウザベースのタイムシート作成・制作管理ツールにAERemap形式(.ard/.ardj)でインポートでき、自動的にタイムシートも生成できる
▲前述のUATで生成されたマクロを利用して、タイムシート情報をAfter Effectsにインポートし、タイムリマップを適用することも可能
▲本作の進行管理には、服部氏の勧めで新たにSHOTGUNが導入された。【左】プロジェクトメンバーの作業量と進捗率をグラフ化した画面/【右】SHOTGUNはパイプラインの要となるデータベースとしても機能しており、例えば大判サイズの画をレンダリングする際には、SHOTGUNに入力されたサイズ情報が自動的に参照されるようになっている
▲上はSHOTGUNのScreening Roomを使用中の画面で、アップロードされたカットを仮編集したような状態でつなげて視聴できるため重宝したという
© ケイカ
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作画のタイミングや
アニメの文脈を意識した演出を実現
作画のタイミングを意識したCGアニメーション
▲アオイのキックがモブのハイジャック犯にヒットするカット19
▲【A】〜【H】本カットでは、小田氏による絵コンテ、およびビデオコンテのタイムシートを基に、由水氏が作画のタイミングを意識したCGアニメーションを付けている。アオイとハイジャック犯は別のタイミングで動いており、アオイの場合は【A】【B】は2コマ打ち、【C】〜【E】は1コマ打ち、【F】〜【H】は3コマ打ちとなっている。なお、【E】の足先のブレや、【F】〜【H】の飛沫は小田氏の作画によって追加されている
小田氏による、入念な作画監督チェックとレタッチ
▲本作ではレンダリング画像を小田氏が全てチェックし、前述のような作画に加え、不自然な部分のレタッチも行なった。【左】はカット199のレタッチ前、【右】はレタッチ後で、髪のハイライトやシルエット、肩の曲線などが細かく修正されている。さらに、この後の撮影工程ではラインの調整も行なっている。「撮影はマッドボックスに依頼しており、トレスマシンを使っていた時代のような、ややざらつきのあるレトロなラインを再現していただきました」(由水氏)
▲レタッチ後のカット199
CGの良さを活かした、カメラワークやモブキャラクター表現
▲メイン・サブ・モブキャラクターの大半が集合するOPのカット71
▲【A】〜【D】本カットは、絵コンテもアニメーションも由水氏が担当した。3DCGが得意とするカメラの回り込み表現を効果的に使い、【D】ではギャグ顔も織り交ぜるなどして、本作の雰囲気を端的に表現している。モブキャラクターによる、各々の性格を反映した細やかな芝居も見どころのひとつだ。「キャラクターのデザインはできるだけシンプルにする一方で、表情の豊かさ、演技の細やかさに力を入れました」(由水氏)
© ケイカ
[[SplitPage]]カメラマップを活用した、8秒のトラックバック
▲空港内のダイナー(簡易食堂)から外の通路へとカメラがトラックバックするカット27
▲【A】〜【D】本カットは多くのモブが登場する8秒の長尺カットで、ここでもCGの良さが活かされている。本カットのアニメーションは喜田氏が担当した
▲【左】ダイナーのデザイン画/【右】ダイナーの3Dモデル
▲本カットの背景はカメラマップで表現されており、若手の菅野 俊氏が作業を担当した。トラックバックによってパースが変化しても破綻が起きないよう、貼り込み用の美術の詳細を美術監督に細かく指定したそうだ
アニメの文脈を意識した、遊び心のある演出
▲リリィが超能力を使ってお盆を投げるカット101
▲【A】〜【C】本カットは若手の伊藤氏が担当し、由水氏が修正した。何の変哲もないお盆を投げるカットだが、アニメの必殺技バンクを意識した豪華な演出がなされている/【D】SHOTGUNでつくられた本カットに対する修正指示
▲レイのシャワーシーン用モデルのターンテーブル
▲【A】〜【D】シャワー室でアオイがレイに抱きつく一連のカットは、若手の滝ケ平氏が担当した。アニメCGでシャワーシーンを表現したことを「僕の、今回最大のチャレンジ」と由水氏は冗談めかして語ってくれた。「CGなのにシャワーシーンが入っているということが、僕にとってはギャグのひとつなんです。『こいつ、こんなことやってる』というように、楽しんでもらえれば嬉しいです。担当した滝ケ平は女性ですが、演出意図を汲み取った良い動きを付けてくれました。ちなみに、このシーンは90年代に放送されたあるTVアニメに対するオマージュにもなっていて、同作のヒロインの芝居のタイミングなどを参考にさせてもらいました」(由水氏)
インタビューの最後に、由水氏は「本作で培った教育ノウハウを活かし、今後も作画の基礎・技術・文脈を3Dアニメーターに継承すべく、若手の育成を続けていきたいです」と抱負を語ってくれた。ケイカと本作がこれからどんな展開を見せてくれるのか、引き続き注目していきたい。
© ケイカ
info.
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『斗え!スペースアテンダントアオイ』
原作・脚本・監督:由水 桂
作画監督:小田剛生
指導アニメーター:喜田祐介
若手アニメーター:奥山和晃、宮田浩明、滝ケ平真悠、大野莉緒、伊藤尚貴、菅野 俊
パイプライン設計:服部 剛
プロデューサー:山中友実子
制作進行:田中宏樹
制作:ケイカ
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