斗え!スペースアテンダントアオイ』はケイカの由水 桂氏が同社の若手アニメーターらと共に制作したオリジナル作品で、「あにめたまご 2019」の4作品のひとつとして制作された。本作では、作画のようなタイミングやルックをCGで再現することに特に力を注いでおり、作画のノウハウを実地で学んだり、専用ツールを開発したりといった努力が重ねられた。そんな本作の完成までの道のりを紹介する。なお、本記事はモデリング編、カット制作編(7月9日(火)公開)の全2回に分けてお届けする。

※本記事は月刊『CGWORLD + digital video』vol. 251(2019年7月号)掲載の「作画のようなタイミングを目指したケイカのオリジナル短編アニメ『斗え!スペースアテンダントアオイ』」に加筆したものです。

TEXT_尾形美幸 / Miyuki Ogata(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota

▲『斗え!スペースアテンダントアオイ』ノンクレジットOP


▲左から、由水 桂氏(ケイカ)、喜田祐介氏(モズー)、滝ケ平真悠氏、大野莉緒氏、菅野 俊氏、伊藤尚貴氏、(以上、ケイカ)、服部 剛氏(フリーランス)

実制作だけでなく、企画の立案もトレーニングが必要

本作は、恒星間を航行する旅客機のアテンダントであるアオイと、その同僚のリリィ、レイの活躍を描いており、お洒落・カワイイ・カッコイイ・楽しい・セクシーといった要素を盛り込んだサービス精神旺盛なアニメCG作品に仕上がっている。本作の企画が最初に発表されたのは2007年の東京国際アニメフェアで、立案者の由水氏はその後も本企画を段階的に練り上げてきた。

▲2007年の東京国際アニメフェア出展時の企画書に掲載したアオイたち


▲2010年の東京国際アニメフェアにて公開したアオイたち


「『あにめたまご 2019』への応募を決めた2017年の暮れ頃に、以前から温めてきた3本の企画の中から本作を選出しました。相談に乗ってくれたグリオグルーヴの坂本雅司さん(プロデューサー)にも『一番破天荒で面白い』と言ってもらえたので、これをブラッシュアップしていこうと決めました」(由水氏)。

「あにめたまご」は、日本国内のアニメスタジオからオリジナル企画を募り、その制作現場でのOJTと若手育成講座(OFF-JT)を通して若手アニメーターを育成する「若手アニメーター等人材育成事業」の通称だ。主催は文化庁で、一般社団法人 日本動画協会が事業を受託している。「当社では設立当初から『社内ゼミ』と称する勉強会を定期的に実施し、若手の教育に力を入れてきました。とはいえ、普段はどうしても仕事優先になりがちで、かといって勉強しているだけでは成長できないというジレンマもありました」(由水氏)。

▲【左】社内ゼミ用の教材に掲載したアニメーションの解説図/【右】社内ゼミの様子


▲ロトスコープによるアニメーション課題


『あにめたまご』に採択されれば、ゆとりのあるペースで、教育に主眼を置きつつプロジェクトを推進できる。しかもオリジナル作品をプリプロから手がけられる点に魅力を感じたという。「実制作だけでなく、企画の立案もすごくトレーニングが必要だと思っています。いきなり『企画を立ててください』と言われても、なかなかできるものではありません。だから、この機会に若手たちにもプリプロから参加してもらい、ゼロからイチを創造することへの抵抗感をなくすトレーニングもしたいと思いました」(由水氏)。

▲あにめたまご 2019の企画書に掲載したアオイたち

企画段階から、なるべく若手のアイデアを採り入れる

本作のメインキャラクターであるアオイ、リリィ、レイは、デザインからモデリングまで一貫して由水氏が担当している。ただし企画をブラッシュアップする中で、若手たちにもスケッチやイメージボードを描いてもらい、なるべく彼らのアイデアを採り入れるようにした。なお、参加した6人の若手は全員が異業種からの転職者で、中にはCGを始めて3〜4ヶ月目の新人もいたという。「当社はアニメーションに力を入れているため、どの新人にも最初にアニメーションを教えます。ほとんどCGをやったことがない人でも、絵が描けたり、作画のアニメーションを勉強していたりすると、短期間で入社2〜3年目の人より上手くなることも珍しくないので、アニメーションはCGが得意ではない人にもチャレンジしやすい工程だと思います」(由水氏)。

▲若手によるアオイたちのコスチューム案。【左】は大野莉緒氏、【右】は滝ケ平真悠氏が制作


▲由水氏による、アオイのギャグ顔のスケッチ


▲左から、リリィ、アオイ、レイのデザイン決定稿


© ケイカ

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100パターンを超える表情を全てポリゴンで造形

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100パターンを超える表情を全てポリゴンで造形

本作に関わらず、ケイカでは設立当初からモデリングにMODO、アニメーションにMotionBuilderを使用している。どちらも使いやすさとパフォーマンスの高さが気に入っていると由水氏は語る。1体あたり100パターンを超えたメインキャラクターの表情は、ブレンドシェイプ用のモデルはもちろん、ギャグ顔用の線の1本まで全てポリゴンで造形し、UV編集やテクスチャ作成の工数削減を図った。口パクもポリゴンで表現しており、正面と横顔で使い分けるため、顎が動く口パクと動かない口パクを用意している。リグはMayaで組み、MotionBuilderでコントローラを作成した。なお、一連のセットアップでは若手の奥山和晃氏がリーダーとして尽力したという。

▲社内のモデリングでは常にMODOを使用


▲本作のレンダリングにはPencil+ 4 for Mayaを使用


▲画面右上に表示されているのは、colMapというインハウスの色指定ツール


▲アオイのターンテーブル


▲MayaのHumanIKをベースにリグを組んでいる


▲コントローラはMotionBuilderで作成。画面内には、100パターン近くに上ったフェイシャルのコントローラが表示されている


▲数多くのパターンが列記された、メインキャラクターの表情リスト


▲アオイの表情の一例

作画のようなギャグ顔や誇張を3DCGで表現

▲ギャグ顔もMODOを使い全てポリゴンで造形している


▲アオイのギャグ顔の一例


▲アオイのギャグ顔のチェック用動画


▲作中におけるギャグ顔


▲手や足のスケールを変えることで、作画のような誇張されたパースを表現するためのリグもつくられた


▲作中における手の誇張表現


© ケイカ

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モブキャラクターの作成には
若手も積極的に参加

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小田剛生氏のデザインが忠実に再現された、4人の宇宙海賊

▲宇宙海賊のデザイン案。【左】はミランダ(この段階ではローライという名前だった)、【右】はイコン。アオイたちと敵対する4人の宇宙海賊のデザインは、本作の作画監督を務めたアニメーターの小田剛生氏が担当している


▲【左】4人の宇宙海賊のデザイン決定稿/【右】ミランダの色彩設定


▲【左】山中友実子氏によるミランダの3Dモデル/【右】前述のモデルに対する小田氏の修正指示


▲MODOの作業画面に表示したミランダの3Dモデル


▲ミランダのターンテーブル

モブキャラクターの作成には、若手も積極的に参加

▲小田氏によるモブ(バーテンダー)のデザイン決定稿。モブのデザインは、若手の大野氏のアイデアを小田氏がブラッシュアップするフローで制作された


▲バーテンダーのターンテーブル。若手の宮田浩明氏がモデリングを担当している。「宮田はアニメーションでは苦戦したものの、積極的にモデリングやセットアップに取り組み、力を発揮してくれました」(由水氏)


▲【左】大野氏によるモブ(イカ家族)のデザイン画/【右】小田氏によるイカ家族の芝居を伝えるイメージボード


▲小田氏によるイカ家族のデザイン決定稿


▲山中氏によるイカ家族の3Dモデル


▲【左】大野氏によるモブ(エッグ)のデザイン画/【右】宮田氏によるエッグの3Dモデル


▲【上】全モブのデザイン決定稿/【下】前述の決定稿を基につくられた3Dモデル



モデリング編は以上です。カット制作編は7月9日(火)の公開を予定しています。
ぜひお付き合いください。


© ケイカ



info.

  • 斗え!スペースアテンダントアオイ
    原作・脚本・監督:由水 桂
    作画監督:小田剛生
    指導アニメーター:喜田祐介
    若手アニメーター:奥山和晃、宮田浩明、滝ケ平真悠、大野莉緒、伊藤尚貴、菅野 俊
    パイプライン設計:服部 剛
    プロデューサー:山中友実子
    制作進行:田中宏樹
    制作:ケイカ
    twitter.com/spaceattendant



  • 月刊CGWORLD + digital video vol.251(2019年7月号)
    第1特集:デジタルヒューマン&バーチャルスタジオ
    第2特集:世界観を表現するデジタルアート
    定価:1,512 円(税込)
    判型:A4ワイド
    総ページ数:128
    発売日:2019年6月10日