正式サービス開始に先駆けて100万人超が事前登録したスマートフォン向けゲーム、わいわい陣取りアクション『リンクスリングス』。王道キャラクターたちに加え、新感覚のマルチバトルが魅力的な意欲作だ。
※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 253(2019年9月号)からの転載となります。
TEXT_谷川ハジメ / Hajime Tanigawa(トリニティゲームスタジオ)
EDIT_海老原朱里 / Akari Ebihara(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada
© Sumzap, Inc. All Rights Reserved.
『リンクスリングス』
配信:サムザップ
価格:基本プレイ無料(アプリ内課金あり)
ジャンル:わいわい陣取りアクション
Platform:iOS/Android
linqsrings.jp
ゲームデザインにマッチしたキャラの魅力が光る爽快バトルアクション
5月にサムザップより配信されたわいわい陣取りアクション『リンクスリングス』は、スマホゲームでありながら、4人対4人の対戦が楽しめるオンラインマルチプレイヤーゲームだ。対戦と言っても、キャラクター同士が攻撃しあってキルカウントを競ったり、拠点防衛戦をくり広げるのではなく、自チームのエリアを広げて、相手チームを上回るのが目的だ。キャラクターのタイプや固有スキル、武器スキルによる攻撃は、あくまで手段であって目的ではないというところが、本作のゲームデザイン上の肝と言えるだろう。
右より、ディレクター・飯田隼一氏、3DCGデザイナー・遠藤七菜氏、リード3DCGデザイナー・坂本一史氏、3DCGデザイナー・宮本明希子氏、リードクライアントエンジニア・中島圭宏氏(以上、サムザップ)
www.sumzap.co.jp
自身のチームのエリアを増やすには、とにかく走り回るだけでいい。相手チームが獲得したエリア上を走り抜ければ、自チームのエリアとして上書きすることができる。さらに、走破したエリアのラインで輪を作ると、大逆転アクション「コネクトリンク」となり、敵チームをも飲み込んで閉じた輪の内側全体が自分たちのエリアとなる。囲んでエリアを増やすという着想自体は、ゲームにおいては昔からあるものだが、『リンクスリングス』ではシンプルなアクションゲームとして、小気味よくまとめ上げているのが秀逸だ。塗り分けられるエリアや、スキル発動時の派手なエフェクトといった演出が活きており、否応なしに盛り上がる。
スピード、テクニック、パワーといったゲームデザイン上のキャラクター特性と、それぞれのキャラクターならではの個性は、アーティストにより丁寧なビジュアルでしっかりと演出されている。どのキャラクターもゲームらしい王道をいくデザインで、プレイヤーによっては性能よりビジュアルの魅力で自分の「推しキャラ」を選択することもあるという。近未来のホログラム世界という舞台設定やキャラクターボイスとの相乗効果で、キャッチーなアクションゲームに昇華させている本作の特徴を詳しくみていこう。
<1>キャラにはまるプレイヤー続出! バリエーション豊富なキャラクター
独自の評価軸によるキャラクターの描き分け
『リンクスリングス』では、何と言っても押しも押されもせぬキャラクターの魅力がプレイヤーを夢中にさせている。ゲームを有利に運ぶことができるキャラクター性能のみにこだわらず、「推しメン」ならぬ「推しキャラ」を擁してゲームに挑むプレイヤーも続出しているというから、本作におけるキャラクター人気のほどが窺えるというものだ。
このことは決して偶然の産物ではなく、登場キャラクターのプランニング段階から、しっかりとしたアートデザインが行われている。アニメやコンソールゲームなどを原作にもつスマホゲームの場合、キャラクターの人気度合いは、おおむね事前に予想がつく。しかし、本作のような完全新作のオリジナルゲームの場合、原作の呪縛に縛られずに済む反面、"受け"を広く取らなければならない。そのためには、ゲームデザイン上の「キャラクターの描き分け」と密接に連携した、アートデザイン上の「キャラクターの描き分け」が必要だ。『リンクスリングス』においては、キャラクターポートフォリオにマップして、独自の評価軸による「描き分け」を意識してプランニングしていると共に、スタッフ間で情報を共有しているため、このあたりのゴールに対するスタッフ間の認識のズレも生じにくい。こうしてつくられたキャラクターデザインに従って、アーティストの手によりキャラクターモデルが丁寧に制作されている。描画パフォーマンスを維持しながらもキャラクターの魅力を最大化するために、リソース配分にはメリハリをもたせている。こうしたアーティストの技能に依存する部分では、どのゲームにも通用する基本をしっかりと押さえたつくりをしていると言えるだろう。
キャラクターデザインと性格分布図
カイトのキャラクターデザイン【左】は王道の主人公タイプの少年、ルルのキャラクターデザイン【右】からは、ラノベや同ジャンル原作のアニメにおける、いわゆる"妹キャラ"の印象を受ける
キャラクターの性格分布図を合わせて見ると、発案者の意図が見えてくる。あまり複雑な設定を語っても、かえってアーティストの創作を阻害する可能性もあるため、こうした2軸ほどの分布図にマップするのがちょうど良いのだろう
アーティストのこだわりが詰まったキャラクターモデル
デフォルメを行なった正面と斜め後ろからの二面図。この二面図に基づき、バトルフィールド用とインターミッション用の2パターンのモデルがMayaで制作されている
【上の2画像】は共に上がバトルフィールド用のモデル、下がインターミッション用のモデルだ。両者を比較して見ると、幕間のインターミッション画面では、描画するオブジェクト数が相対的に少なくドローに余力があるため、髪に加え、腕や脚といった円筒状の部位、小物といった曲面部分に対して、バトルフィールド中のモデルより多くのポリゴンが割かれていることがわかる
作品イメージに似つかわしいフェイシャルアニメーション
本作ではバトルフィールド中のキャラクターの表情は不変と大胆にわりきっている反面、インターミッションではかわいらしい表情の変化を見せてくれる。フェイシャルアニメーションはテクスチャ描き変えによるもので、目、眉、眼球部分、口元に加え、目のハイライトやチークの赤みといった部分まで個別のパーツとして用意されており、なかなか芸が細かい。これらのパーツを組み合わせて、喜怒哀楽の多彩な表情を実現している
表情の制作指示
指示に基づいて制作されたフェイシャルアニメーション
次ページ:
<2>細部まで丁寧に演出されたアクションがバトルフィールドで全開
<2>細部まで丁寧に演出されたアクションがバトルフィールドで全開
アニメーションがカギを握るアクションゲームとしての気持ち良さ
通信対戦を主眼に置いたマルチプレイヤーゲームということで、『リンクスリングス』のわりきりはかなり大胆だ。特にアニメーションやエフェクトといった要素には、その様が見て取れる。選択と集中を合理的に行なった結果として、アートのクオリティとパフォーマンスのバランス、人的リソースといった各種リソースの適切な配分の実現につながった。
このあたりの施策は一見、ごく普通の取り組みに見えるかもしれないが、他の評価の高いゲーム同様、当たり前のことを当たり前のレベルで実現させるのは意外と難しい。定められた制約の範囲内で、より良いものを目指すには、ゴールに対する理解と作品に対する愛情が不可欠だ。キャラクターアニメーションのキーポーズや、UnityのShuriken環境でのエフェクト表現の工夫からは、"良作の条件"が満たされていることがわかる。
開発チームの運営面ではマネジメント、ディレクション、ゲームデザイナー、プログラマー、アーティストの全てが協調路線で風通しも良く、終始円滑なコミュニケーションと意思決定の伝達が行われていたという。取材時の和やかな雰囲気からもそれは感じ取ることができた。バランスの取れたチーム状況は、作品の出来映えに影響する。プログラマー側から提示されたレギュレーションを遵守しながらも、アーティストの発案で導入されたキャラクターの身長差や、アクションの機微といった部分が、本作トータルの印象を好感のもてるものに昇華させている。
共通のスケルトンでアニメーション作業を効率化
インターミッションにおけるディテールアップの一環として、前述のフェイシャルアニメーションに加えて、キャラクターごとの身長差【画像】が設けられている。バトルフィールドでの疾走状態では歩幅や脚繰りスピードが全てのキャラクターで共通であるため、体格が異なるとモーションの見え方に違和感が出てしまうが、インターミッションではその影響はほとんどない
戦場での有利不利は排除する一方、あくまで個性の演出として導入された。身長差はあるものの、スケルトンの基本構造【画像】は全てのキャラクター共通で、アニメーションを共有したり、基本となるアニメーションから差を付けていくことで、モーション制作の作業量を低減している
また、実際のモーション制作では作業を容易にするために、リグの作成にとどまらず、オリジナルのプラグイン【画像】を開発して、IK/FKの切り替え、コントローラの表示ON/OFF、コントローラのピッカーといったMayaのUI拡張や、よく使用する基本ポーズの保存と呼び出し、本作用に拡張されたFBXの入出力といった便利機能を追加している
小気味良い爽快感を演出する攻撃アニメーション
バトル中の一連の攻撃アニメーションの一例。デフォルメキャラクターのアニメーションといっても決して単純なものではなく、かなり長尺に多くの要素を詰め込んでいるのがわかる。キャラクターの愛らしさを確保しながらも、プレイヤーに爽快感を感じさせるアクションに仕上げられた
対戦の緊迫感をおおいに盛り上げる戦闘エフェクト
バトル中のスキルエフェクトはごく限られたテクスチャアートリソースで制作されている。これはリソースの節約という意味もあるが、どちらかというとテイストの統一感を重視しているという。エフェクトの基本は共通のテクスチャをマップしたビルボードによるパーティクルアニメーションで、Unity標準のエフェクトシステムとその制作環境Shurikenを駆使して制作されている
完成した戦闘スキル「ガイアインパクト」エフェクト発動画面
エフェクト制作中のUnityエディタ画面
エフェクト用テクスチャ素材
ほかにもスペシャルスキルではモデル素材【画像】も組み合わせて、エフェクトをさらに豪華に見せている
次ページ:
<3>陣取りゲームの興奮を左右するバトルフィールドのビジュアル表現
<3>陣取りゲームの興奮を左右するバトルフィールドのビジュアル表現
ゲームロジックと連動したバトルフィールドの視覚変化
本作独自の表現であり、隠れた見せ場とも言うべきものが、フィールド上の陣取り表現だ。本作のフィールドはグリッド状に分割してタイリングした状態のものを、1ライン置きに1セルの半分の長さだけシフトさせた状態のアトリビュートマップで管理している。画面解像度が低いコンソール機用のウォーシミュレーションゲームでヘックスの代わりに活用されていた表現をイメージするとわかりやすいだろう。
このグリッド管理単位はダイナミクス、スタティックを問わず、フィールド上のオブジェクトの状態管理の単位であると共に、本作のユニークな要素である「陣取り」の支配状態の管理単位でもあり、さらにフィールドに従属する様々な事象の判定にも使用されている。これは独自のUnityエディタ拡張のマップエディタで視覚的に表現されており、本作のフィールド管理を参考にするのに役立てられている。
陣地の支配状態管理では遮蔽状態を意味するステンシル値を、この管理単位のそれぞれのセルごとに保持しておき、キャラクターが通過するとステンシル値を書き換えると共に、その値に従ってフィールドプレーンをスイッチして表示表現を変化させている。また、二次元空間が閉じているかどうかの判定も、座標系を用いたものよりはるかに単純化されているため、「コネクトリンク」の成功判定と、その結果としての陣地の塗り替えにも同様に活用されている。
合理的な工程を経て制作されるバトルフィールド
本作のバトルフィールド【画像】はレベルデザイン先行だ。まずレベルデザイナーが、ゲームプレイがより白熱したものになるよう、テスト用のフィールドを制作して実際にテストプレイし、妥当性を検証する。形状が固まった段階でアートディレクターがビジュアルの方向性を決定するラフを描き、それに基づいてイラストチームで詳細なイメージボードを制作する
最後に背景モデラーがテレイン部分をフィールドごとにモデリングして、コリジョンに影響を与えないアセットを配置すると共に【上】、Unityエディタを拡張した独自のマップエディタを使って存在と高低、衝突といったアトリビュートを管理しているオブジェクトを配置している【下】
ホログラム世界の空気感を演出するフォグとパーティクル
本作ではパフォーマンスを優先しているため、動的ライティングだけでなく、プリコンピュートしたライトマップを活用したライティングも施されていない。テクスチャリソース上限の制約から同一テクスチャを複数箇所で使用しているため、アーティスティックに描き込むことも難しい状況だ。そこで、どうしても弱くなってしまう立体感を強調するために、フォグとシェーダエフェクトによって、大気による光線の拡散、屈折をアーティスティックに摸した色彩遠近技法が表現されている。下の画像群はフィールド遠近感の強化の例
このほか、パーティクルエフェクトの配置やそのアトリビュート設定はUnityエディタ上で行われている
パーティクルエフェクトが効果的に使われているカリフラ森林のフィールド
試行錯誤がくり返された本作独自の陣取り表現
プレイヤーが獲得したエリアの塗りつぶし表現はプログラム側で動的に制御されている。幾度も試行錯誤がくり返された「陣取り」表現は、自チーム、相手チーム、未踏破それぞれのプレーンをもつフィールド平面を管理するステンシル値を参照して、視覚的な表現を切り替えている。ただ、それだけではエッジ部分のスパイクしたトライアングルが美しくないため、曲面的な美しさをもたせるように、エッジ部分のさらに外側に割りの細かいポリゴンを生成、配置して、最終的なエッジ部分に丸みをもたせている
また、動的に生成したエッジ部分にはエリアの塗り分けを強調するエフェクトを追加し【左】、さらにエッジに沿って鉛直方向にもポリゴンを生成して、エッジウォールにもエフェクトを流している【右】。両者ともにアーティスティックな表現ではなく、専用のシェーダによる表現だ