「J-WAVE INNOVATION WORLD FESTA」(以下、イノフェス)は、FMラジオ局J-WAVE筑波大学の共催で行われるテクノロジーと音楽を融合させたイベントだ。初回の2016年は筑波大学で開催されたが、昨年からは規模を大幅に拡大して、舞台は六本木ヒルズへ。4回目となる今年も、昨年に引き続いて六本木ヒルズの5つのエリアをジャック。9月28日(土)・29日(日)の2日間にわたり行われた同フェスの、初日である28日の様子をレポートする。

TEXT_三好日生 / Hinase Miyoshi(Playce)
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada
PHOTO_山川哲矢 / Tetsuya Yamakawa、安西美樹 / Miki Anzai

テクノロジーの未来を考える、体験型フェスの幕開け

危惧されていた天気も心配には及ばず、今年のイノフェスは晴天の中で開会式を迎えた。オープニングアクトには日本のシンガーソングライター、Nao Kawamuraが登場し、圧倒的な歌唱力で会場の空気をひとつにした。

その後、イノフェスのミュージックプロデューサー、VERBAL(m-flo)らにより鏡開きが行われ、イノフェス2019の幕が上がった。「皆さんが音楽やテクノロジーを楽しめる場を設けられて嬉しく思います。今日はどんどん新しいものに触れ、遠く感じられたテクノロジーを、身近に感じてもらいたいです」(VERBAL氏)。

臨場感あふれる体験に来場者も大興奮、展示・体験エリア

イノフェスの会場となったのは、六本木ヒルズに点在する5つのエリア。展示エリアとライブエリアがあり、最新テクノロジーを実際に体験できるのは、「イノフェス・テックプラザ」、「つくばイノベーションテラス powered by 田中貴金属グループ」、「イノベーション・パーク」の3つ。「CHINTAIイノフェスアリーナ」と「Denkaイノフェス・メディアカフェ」では、テクノロジーを駆使した演出でライブパフォーマンスが満喫できる。

体験型の展示を行なっていたイノフェス・テックプラザで注目を浴びていたのは、テクノスポーツ「HADO」。ヘッドマウントディスプレイとアームセンサーを装着して、手から球体の波動を打つことで敵チームと戦う、新感覚のスポーツである。また、車の窓全体にプロジェクターで映像を投影することで臨場感のあるドライブを体感できる「LEXUS UX SIMULATOR | VISIONARY」などが出展した。見るだけではなく実際に体験できる展示に、多くの来場者が大興奮。朝から体験希望者による長蛇の列ができていた。

HADO - AR × Sports

イノフェス・テックプラザ

つくばイノベーションテラスでは、「日常を彩る技術」をコンセプトに、筑波大学の学生がプロデュースした展示を多数用意。

中でも注目を浴びていたのは、超音波のチカラで空間に霧のクリーンをつくり出す「ミストスクリーン」。この装置は、壁に限らず、空中に透けて見える映像を出現させることができる。当日は水の中を泳ぐ魚の映像が投影され、霧の揺らめきと同調した幻想的な映像となった。ミストなので、触ってもぶつからないのも特長。投影された映像に手を伸ばすと絵柄が変化するというインタラクティブな演出に、多くの来場者が驚きの声を上げていた。

つくばイノベーションテラス powered by 田中貴金属グループ

イノベーション・パークではエンターテインメント系のテクノロジーが並んだ。その一角には、開発ユニットAR三兄弟と新海 誠氏がコラボした、新海 誠作品の名シーンを再生する球体の装置が展示された。

エリア内の一番奥に設置された大きな球体のスクリーン。スクリーンの手前には、新海 誠作品の中からピックアップされた象徴的な花やアイテムを、標本状にしたプレートが並べてあった。その中から好きなものをセットすると、球体スクリーンに新海 誠が生み出した数々の名シーンが大迫力で蘇る。次々と映し出される美しい映像と音楽に、微動だにせず見入ってしまう来場者の様子が印象的であった。

イノベーション・パーク

3つの体験エリアの他に、MRやAIに触れることができるテクノロジー体験ブースも並んだ。curiosityのブースを覗いてみると、整理券が配布されるほどの人気ぶり。そこで来場者が体験していたのは、『MRアドベンチャーゲーム"The Land of OZ"』である。このゲームの舞台は、現実空間に出現する『オズの魔法使い』の世界。体験者は主人公となって、物語を展開させる謎やギミックを解き、突如出没するモンスターと戦いながらオズの世界を冒険していく。

MRアドベンチャーゲーム

最新のMRヘッドセット「Magic Leap One」を使用し、行動や会話を選択することでオズの世界で展開されるストーリーが変化することもこのゲームの大きな魅力である。体験者の見ている世界が他の来場者にも見えるスクリーンも準備されていたので、歩いていた人も思わず立ち止まり、映し出されるリアルなMRに釘付けの様子であった。

テクノロジー体験ブース

有名アーティストやタレントが続々登場、トークセッション&ライブ

「CHINTAIイノフェスアリーナ」と「Denkaイノフェス・メディアカフェ」で行われたトークセッションでは、様々な業界から著名人が登壇し、音楽やテクノロジーの未来についてそれぞれの想いが語られた。

その中でも今回は、「YouTuberとVTuberが創るエンターテインメントの未来」をフィーチャー。司会にはAR三兄弟の川田十夢氏。ゲストに迎えられたのは、バーチャルタレントのプロデュースとマネジメントを手がける大阪武史氏のほか、バーチャルタレント「桜木健二」を用いてYouTubeに動画を投稿している佐渡島康平氏、YouTuberとして活動するお笑い芸人の中田敦彦氏の3人だ。さらに、スペシャルゲストとして大人気バーチャルタレントのキズナアイ氏も登壇した。

それぞれジャンルのちがう動画を投稿している、異色の顔ぶれがズラリ。共通点や異なる部分を議論しながら、バーチャルタレントと人間のコラボレーションについて熱く語り、トークセッションは大いに盛り上った。

話題の中心は、バーチャルタレントという呼び名すらなかった2016年から、動画投稿を開始していたキズナアイ氏。自身のアピールポイントを尋ねられた彼女は、バーチャルタレントならではの「早着替え」を披露。いつもの長い髪と、白とピンクの衣装から、瞬時にショートカットの緑色の衣装に変身してみせた。また、1つのスクリーンから別のスクリーンに瞬間移動したり、自身のサイズを自在に変化させるなど、人間にはできないパフォーマンスをアピールした。

近年は活動範囲を拡大し、舞台上に設置されたモニターを通してイベントに出演したり、アーティストとしてライブパフォーマンスも行っているバーチャルタレントのキズナアイ氏。トークセッションのあとにはスペシャルライプが行われ、巨大なスクリーンに映し出される映像と可愛らしい歌声で、会場のボルテージは最高潮に。興奮気味にピンク色のペンライトで応援する観客が多く見受けられた。

バーチャルタレントは日本だけでも1万人近く存在し、今もなお増え続けている。人間にはできない演出や、それを用いた人間とのコラボレーションを実現することで、今後益々の盛り上がりを見せていくことは間違いない。

フィナーレを飾った「香るステージ」

28日の大トリは、EXILE SHOKICHI氏によるライブパフォーマンス。巨大なスクリーンに楽曲の歌詞が映し出され、迫力のあるダンスと魅力的な歌声で会場を魅了した。さらに特徴的だったのは、会場を漂う香りのテクノロジー演出。

披露された楽曲は、アンコールを含め全部で8曲。それらの楽曲のイメージにあった香りをEXILE SHOKICHI氏自身が選び、曲ごとに会場の香りが変わっていった。曲が変わると観客から、「あ! 香りがさっきとちがう!」と言う声もあがり、甘い歌声と同時に甘い香りを堪能している様子が見て取れた。五感全てでパフォーマンスを感じることができる特別なステージを最後に、イノフェス一日目は大盛況の中、幕を下ろした。