11月13日〜15日に幕張メッセで開催されたInter BEEAdobeはブースを出展しなかった。その代わりというわけではないが、11月14日に会場内のMEET-UPエリアでVook主催のAdobeビデオ関連製品に関するセッション「Adobe DAY in Inter BEE 2019」が開催された。ここではセッション中から気になったトピックをピックアップしてお伝えする。なお、このセッションの詳細はVookで見ることができる。

TEXT & PHOTO_石坂アツシ / Atsushi Ishizaka
EDIT_山田桃子 / Momoko Yamada

<1>Adobeツールを検証する「Adobe 4K 大検証会」

セッションの皮切りは、PremiereProユーザーグループ代表の市井義彦氏とFacebook・AEユーザーグループ管理者の山下大輔氏による4K編集周りの検証。Adobe Premiere Pro 2020 (ver.14.0.0)での4K映像処理時間をMac、Windowsで測定し、その結果に関しての考察が行われた。

計測は書き出し速度と再生フレームレートで行われ、再生フレームレートでは、通常再生、リサイズ、エフェクト(ブラー)適用、レガシータイトル合成、エッセンシャルグラフィックス合成、LUT適用、トラックマット合成、マルチ画面、という個々の条件で測定された。また、使用デバイスを内蔵SSDに加え外付けのSSDとHDDでも行うという実戦に即した検証だった。

書き出し検証では、4K(3840×2160)60p ProRes HQの15秒ムービーを、H.264、H.265、ProRes422(mov)、ProRes422(mxf)、DPX、などのコーデックで出力し、その速度が測定された。結果はVookでご覧いただくとして、感想としては現状のパーソナルマシンスペックではOSやビデオチップによって特に差が出ることはなさそうだ。

再生フレームレートでは、コマ落ちするかどうかが課題となる。検証は、H.264、H.265、ProRes422(mov)、ProRes422(mxf)、DPX、などのコーデックの4Kムービーをベースに通常再生と合成後のプレビュー再生で測定が行われ、結論としてHDDからの再生でフルフレームが出ることはなく、やはり4Kの編集環境にSSDが必須であることがわかった。また、合成内容によってGPUへの依存度が異なるため、例えば同じCPUのMacBook Proでも搭載しているビデオチップで大きな差が出るという結果が出た。これはユーザーにとって今後のマシン購入検討の大きな参考になるだろう。

Adobe Premiere Pro 2020(ver.14.0.0)での4K映像処理時間を測定し、その結果に関して考察が行われた

測定はMacとWinおよびSSDとHDDを使って行われた

4KムービーにLUTをあてた場合のプレビュー再生結果

<2>NewsPicksが語るテレビとWeb「Web動画会 NewsPicks」

落合陽一氏によるライブ動画番組「WEEKLY OCHIAI」などの映像コンテンツを制作するNewsPicks。プロデューサー/チーフディレクターの安岡大輔氏と清水 誠氏はテレビ業界から、セールス/事業開発の吉澤立彦氏は大手広告代理店からWebの世界に飛び込んできた。「Web動画会 NewsPicks」のセッションでは、彼らの視点からテレビとWebのちがいが語られた。

3人とも、テレビとWebは相互作用をもたらすものであると考えており、まずはテレビのもつ価値から話が始まった。毎週一定のクオリティをつくり続けるテレビ番組スタッフの能力と分業制、培ったノウハウなどの話題が交わされ、その業界とWeb業界の両方を知る彼らからの意見が語られた。

テレビとWebは一見対立関係にあるように思われるが、彼らにとって両者は共有できるものであり、対立対象ではなく利用対象として今後も可能性を探っていきたいと述べてセッションを締めた。

テレビ業界と大手広告代理店からWebの世界に飛び込んできた三方がテレビとネットのちがいなどを語った

<3>短尺広告のノウハウ「Web動画会 6秒企画」

Web広告は短尺の方向に進んでいる。サイバーエージェントグループの6秒企画は6秒広告の制作会社だ。このセッションでは6秒企画の二宮功太氏と白戸裕也氏から、短尺広告が広まった背景と制作ノウハウが解説された。

Web広告の短尺化が進む背景としては、スマホでのタップやスワイプ動作によるWebのテンポ感の変化があるという。視聴者は従来の長さの動画広告を敬遠するようになった。また、視聴者の消費行動も一定の時間をかけてから購買する「ジャーニー型」から、瞬間的に購買する「パルス型」へと変わっており、YouTube、Facebook、InstagramといったWeb動画の主要サイトも短尺動画を推奨している。こういった背景をもとに6秒広告では短尺のCMを作成しているが、単にテレビCMを短尺しては効果が出ず、短尺ならではのノウハウが必要だという。

「6秒広告のつくり方」と題して実際のCMを見せながら短尺広告のメリットとそれを生かすための制作方法が説明された。中でも、16:9とスクエアの両方の画角を撮影時から考慮する、というのはWeb独自の制作手法だ。6秒広告では企画段階からWebならではのアイデアを検討しており、Web広告が今後どのように進化していくのか楽しみだ。

短尺化に向かっているWebCMの現状と短尺CM制作のノウハウが解説された

「Web動画会」のコーナーではNewsPicksと6秒広告メンバーによるWeb動画に関するQAも行われた



<4>Adobe×他社製品の連携ワークフローについて

Adobe製品と他社製品の連携ワークフローに関してのセッションでは、iNA Creative Studioの永田裕之氏からはPro ToolsBlackMagic Design社公認トレーナーのニコラス・タケヤマ氏からはDaVinci Resolveとの連携が紹介された。

両者に共通なのが、場合によって使用ソフトを使い分ける、ということであり、スタジオやプロダクションに縛られることのない個人作業の幅が広がっている昨今ならではと実感した。

Pro ToolsではAdobe Premiere ProからOMF、AAFを受け渡す際のポイントが解説され、実際の編集データを使った連携ワークフローが実演された。

Adobe Premiere ProとProtoolsの連携ワークフローが実演された

PremiereからProtoolsへOMFを渡す場合の編集時注意点も解説された

DaVinci Resolveではカラーグレーディングに使用するメリットとデメリットが解説され、他ソフトとの相性に関しては話題がFinal Cut Proにまで及んだ。

DaVinci Resolveのメリットと他ソフトとの連携に関しての解説が行われた

今回のセッション全体を通して特徴的だったのが、1つのソフトで全てまかなおうとする一昔前の風潮は薄れ、複数のソフトの相互作用で柔軟に仕事をこなそうとしている点だった。それはソフトウェアだけにとどまらず制作体制や企画に関しても言え、全てに対して柔軟性が求められている。これはWebの進化とは切り離せず、メディアが視聴方法も制作方法も「個人」に向かって急速に進んでいることに他ならない。Adobe製品を通してそういった社会の変化が垣間見えるという点からもこういったセッションは非常に興味深く、今後も積極的に開催されるべきであろう。