2019年10月から翌年1月にかけてAT-Xほかにて放送された『神田川JET GIRLS』は全12話のTVアニメで、ジェットレースを通して絆を深めていく少女たちの群像劇を描いている。作中に登場するジェットマシンは主に3Dで表現され、それに乗る少女たちの表現では作画と3Dが併用された。本記事ではモデリングとリギングにスポットを当て、そのこだわりを全2回に分けて紹介する。とろんとした肉感を表現するための繊細なリテイクや、こだわりのメッシュ分割を紹介したNo.1に続き、No.2では少女とジェットマシンのリグにスポットを当てる。
※本記事は月刊『CGWORLD + digital video』vol. 261(2020年5月号)掲載の「 「くい込みが大事」ジェットマシンに乗る少女たちの肉感を徹底追求 TVアニメ『神田川JET GIRLS』」に加筆したものです。
TEXT_尾形美幸 / Miyuki Ogata(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota
▲TVアニメ『神田川JET GIRLS』PV 番宣
仕様とノウハウを組み合わせ、フルスクラッチでリグを設計
リギングの際、サムライピクチャーズではBipedを多用してきたが、本作ではマッドボックスの仕様と自社のノウハウを組み合わせ、柳田 晋氏(CGリードリガー)がフルスクラッチでリグを設計し、ほかのスタッフと手分けして、3Dモデルごとの調整を行なった。
▲左から、CGモデルディレクター・今垣佳奈氏、3DCG監督・廣住茂徳氏(以上、マッドボックス)
▲左から、CGディレクター・林 和正氏、CGリードリガー・柳田 晋氏、モデラー・望月一輝氏、モデラー・熊谷直希氏(以上、サムライピクチャーズ)
ちがう体格の少女間でも流用できる、セパレート構造のリグ
▲腕・脚のリグは関節の移動による伸縮が可能で、ほかのリグからセパレートできるようになっている(セパレートの詳細は後述)。作中で腕・脚を上のように極端に伸ばすことはなかったが、画になるポーズやレイアウトにするため、若干の伸縮がなされたカットは少なくなかった
▲珠風に乗るかぐや。後方には黒丸が同乗している。【上】本来のプロポーションのままでは手がハンドルに届かないため、【下】腕・脚を伸ばすことで、自然なポーズを実現している
▲先のかぐやのリグ
▲1〜5のリグはセパレートできる構造になっており、ちがう体格の少女間であっても流用可能。それぞれ、1 胸、2 顔、3 肘・尻・膝、4 手、5 腕・脚を制御するためのリグ。どれも単独で成り立っているため、対応するパーツの位置に合わせ、コンストレイントやリンクの紐付けを行い、順序に沿って組み合わせることで、同じ構造のリグを作成できる。腕・脚のIKと、6 スケルトン、7 コスチューム、8 髪を制御するためのリグは固有となっており、各少女の体型やデザインに合わせて作成した後、前述の1〜5のリグを追加している。コントローラも少女間で流用できるよう、あらかじめサイズ調整がなされている。ただし、サイズが規格外の黒丸は、個別に調整を施している。一方で、カップA65のパン姉妹は胸を動かす必要がないため、胸のリグは設定していない。(胸のリグの詳細は後述)
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SpringMagicと2種類のコントローラを併用し、胸の弾力を表現
SpringMagicと2種類のコントローラを併用し、胸の弾力を表現
▲【上】2本の細長いボックスはSpringMagicで胸を揺らすためのボーン。SpringMagicを使うと全フレームにキーが打たれるため、コントロール用のボーンと分けている。左右の大きなボックスは胸のベースボーンで、胸のスキンを割り当てており、表示のみでコントロールはできない。黄色サークルはベースボーンのコントローラで、移動によって先端側を制御する。回転・スケールはできない。赤色サークルもベースボーンのコントローラで、移動・回転・スケールによって体幹側を制御する/【下】細長いボックスを移動させた場合。黄色サークルは先端側にリンクされている。このボックスにSpringMagicを割り当てるだけでも、効果的な揺らし表現が可能
▲【上】黄色サークルを先端側へ引っ張った場合。体幹側へ押し込むと胸が縮む。制御下に置けないため、自動でスクワッシュする機能はない/【下】黄色サークルを上に移動させた場合。胸の向きの調整が可能
▲【上】赤色サークルにスケールかけた場合。胸の大きさの調整や、スクワッシュ表現のときに使用する。ジェットマシンに胸を押しつけるときなどにも有効/【下】赤色サークルを上に移動させた場合。胸の体幹側の移動に使用。質量を意識した胸の誇張表現などに用いると効果的
▲【上】赤色サークルを回転させた場合。胸のねじりの制御に使用/【下】鎖骨のボックスを移動させると、直下の胸も自動的に追従する
ジェットマシンの変形ギミックやテクスチャ削減も提案
かぐやが乗る珠風は、望月一輝氏がモデリングとリギングを一貫して担当しており、RGBマスクによるテクスチャの削減をはじめ、様々なアイデアを提案したという。
▲珠風のデザイン画の一部。【上】はクルーズモードの5面図、【下】はカラーリングとデカール
▲珠風の3Dモデル。【上】はクルーズモード、【下】はブーストモード。ブースト使用時には各所が変形し、エンジンパワーの増幅によって推進力が上がり、吃水線が下がる
▲クルーズモードからブーストモードへ変形するリグも作成されたが、サイドウィングの形状だけはつじつまが合わなかったので、横に張り出すブースト使用時(左)と、格納される未使用時(右)の3Dモデルを別々に作成し、切り替えられる構造にした。「大半の変形は整合性のとれたギミックを提案できましたが、サイドウィングは縦横比が変わっており、再現不可能でした」(望月氏)
▲デカールのRGBの値をRGBマスクで指定し、3ds Maxで本来の色を描画することで、テクスチャ枚数を減らしている
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ジェットマシンの変形リグで、画になるレイアウトを実現
ジェットマシンの変形リグで、画になるレイアウトを実現
▲少女の腕・脚と同様に、ジェットマシンにも、各所が伸縮したり、グネグネと曲がったりする変形リグが設定されている
▲例えば珠風のシートには、【上】の本来の位置から、【下】のように長く伸びるリグが設けられた。これもまた、画になるレイアウトを実現するための工夫
▲このシーンでは、本来は変形しない設定のガンナームーブ(シートの両サイドにある棒状のパーツ)やシートを変形させることで、珠風に乗るかぐやがより魅力的に映る画づくりを実現している
▲先のシーン制作時の3ds Maxの作業画面。珠風だけを表示している
▲先の珠風を別のカメラで映したもの。ガンナームーブが左右非対称になっており、のカメラに映っている方(向かって右側)の先端が上に移動している。加えて、本来はガンナームーブに対して平行なはずのシートも大きく傾いている。「アニメのレイアウトでは、画面の手前は広角で、奥は望遠というパース表現が多用されますが、3Dのカメラではそれが再現できず、迫力のない画になりがちです。だから3Dモデルの方を変形させて収まりのいい画にするというケースが多々あり、一連のリグが重宝しました」(廣住氏)
ノウハウの共有が業界の成長と評価につながる
サムライピクチャーズは、アニメに加え、ゲームやVFXなど、多彩なジャンルの3D制作を手がけてきたため、そのノウハウやアイデアは、アニメを専門にしてきたマッドボックスにとって新鮮なものが多く、勉強になったと今垣氏は語った。「自社の使い勝手や撮影さんとの折り合いもあり、手を加えた部分もありますが、教わったノウハウをそのまま使わせてもらった部分も多々ありました。技術は大事な商売道具だと思うので、使用を快諾してくれた姿勢に懐の広さを感じました」(今垣氏)。
これに対し、「安売りしようというわけではないですが、ノウハウを共有することで、より良い3Dをつくれるようになれば、業界全体が成長できるし、われわれの評価にもつながると思っています」と林氏は応えた。実際、本作の3Dは監督に評価され、当初予定よりも3Dの使用カットが増えたという。
「新しい会社とつながることで、画づくりの新しいアイデアが得られることを実感したので、今後もいろいろな会社の方と、お互いに成長できる温度感でご一緒していきたいです。その結果、視聴者が喜んでくださり、作品を応援してもらえたら、多くの人の心が温かくなると思います」(廣住氏)。
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info.
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TVアニメ『神田川JET GIRLS』
Blu-ray&DVD Vol.1〜Vol.3 発売中
原作:KJG BOOSTERS
原案:高木謙一郎
監督:金子ひらく
シリーズ構成:雑破 業
キャラクター原案:鳴子ハナハル
キャラクターデザイン:宮澤 努
マシンデザイン:麦谷興一(CHOCO)山本七式(SUDACCI)
アニメーション制作:ティー・エヌ・ケー
製作:KJG PARTNERS
kjganime.com
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月刊CGWORLD + digital video vol.261(2020年5月号)
第1特集:CGキャラクターLAB
第2特集:デジタルの強みを活かすイラスト制作
定価:1,540円(税込)
判型:A4ワイド
総ページ数:128
発売日:2020年4月10日
cgworld.jp/magazine/cgw261.html