TBSグループを総括する東京放送ホールディングスが主催する映像フェスティバル『DigiCon6 ASIA』。2019年における第21回では、アジア各国・地域で選ばれた作品から各賞を選出、受賞する「DigiCon6 ASIA Awards」が初めて日本国外の香港で催された。その模様をふり返る。
TEXT_沼倉有人 / Arihito Numakura(CGWORLD)
Special thanks to DigiCon6 ASIA
<1>新たにウズベキスタンが参加、14の国と地域から1,439もの作品が集う
『DigiCon6 ASIA』は、アジアの各国と地域から、優れた映像作品とクリエイターを発掘することを目的とする映像フェスティバル。東京放送ホールディングス(以下、TBS)が主催する本フェスティバルは、2000年に前身となる『DigiCon』として初開催された。2004年に『DigiCon6』、2014年に『DigiCon6 ASIA』へとリニューアルしながら、成長を続けている。なお、年数と回数にギャップがあるのは、2002年に第3回(The DigiCon3)と第4回(The DigiCon4)が開催されたためだ。
What is DigiCon6 ASIA? - 2020 (日本語版)
TBSは、クリエイターに作品のクオリティや魅力をアピールする場を提供し、才能を感じさせるクリエイターには新規ビジネスや海外のコンテストへの応募などに向けた可能性を探る支援を行い、アジアの映像コンテンツ市場の発展に寄与することを目的に、本フェスティバルを主催している。
第21回では、新たにウズベキスタンが参加。復帰したベトナムを加えた、14の国と地域からの応募総数は1,439作品に達した。アワードは、それぞの国・地域で行われる「DigiCon6 Regional Awards」、そこで選ばれた作品とクリエイターが一堂に会する「DigiCon6 ASIA Awards」の2つで構成されている。
第21回「DigiCon6 ASIA Awards」授賞式は、香港の歴史文化複合施設大館(Tai Kwun)で行われた。授賞式が海外で行われたのは初めてのことだが、TBSと香港デジタルエンターテインメント協会(Hong Kong Digital Entertainment Association、HKDEA)は、その実現に向けて10年近く前から協力していたという。今後も、数年おきに海外での開催を目指しているとのこと(写真提供:DigiCon6 ASIA)
DigiCon6 ASIAがユニークなのは、アニメーションと実写を区分けせずに全てのジャンルを同じ土俵で審査していること。15分以内の短編であれば内容も表現技法も自由。プロアマも問わない。また主催はTBSだが、国外のオーガナイザーは当該国の放送事業者や映画制作者等の協会が務めており、選出される作品も地域性が色濃く出る傾向にある。例えば、初参加のウズベキスタンが選出した2作品はいずれも実写であった。ちなみに、日本の応募作品はアニメーションが6割、実写が4割とのこと。
第21回「DigiCon6 ASIA Awards」では、香港のPoint Five Creationsによる『Another World』が「GOLD(Grand Prize)」を獲得した。左から、プレゼンターの伊藤有壱氏(I.TOON)、香港特別行政区政府の貿易経済発展局次官で法務官のチァン・パク・リ・バーナード/Bernard Chan Pak-Li博士、『Another World』監督のトミー・ン・カイ・チュン/Tommy Kai Chung Ng氏(Point Five Creations)、HKDEAのガブリエル・パン/Gabriel Pang会長(写真提供:DigiCon6 ASIA)
Another World 世外 (粵)
<2>業界をリードするマスターたちのプレゼンテーション
第21回「DigiCon6 ASIA Awards」は3日わたり開催された。1日目は、「Asian Master Summit」と題して、審査員を務めた伊藤有壱氏(I.TOON)、元DreamWorksで現在は映画監督として活躍するラーマン・ヒュイ/Raman Hui氏、ポリゴン・ピクチュアズ代表取締役の塩田周三氏、クラウドファンディングを用いたアニメーション映画『重甲機神 Baryon』を製作したジョジョ・ウォン/Jo-Jo Hwang氏(One Punch Creativity)の4氏が講演を行なった。
左から、ラーマン・ヒュイ氏、伊藤有壱氏、ジョジョ・ウォン氏、塩田周三氏、4氏と共に審査員を務めた香港のネコ・ロー・チイン/Neco Lo Che-ying氏
伊藤有壱氏は「現在の日本のストップアニメーション事情」というテーマで講演を行なった。歴代の代表的なアニメーション作家として、持永只仁氏、川本喜八郎氏、岡本忠成氏の3氏と代表作を紹介した。続けて、現代活躍する作家として、村田朋泰氏(TMC)、合田経郎氏(ドワーフ)堀 貴秀氏(YAMIKEN)、八代健志氏(TECARAT)らを紹介した。
そして、香港での開催を記念し同じく港町であり、西洋化の波に直面しながら発展してきた横浜を舞台にした自作『HARBOR TALE』のコンセプトや制作手法について、実際の資料を披露しながら語った。
伊藤氏による講演の様子。自分の作風はネオクラフトアニメーション(伝統的なアナログのアニメーション技法に3DCG等のデジタル技法を組み合わせたアニメーション)であると、語った
HARBOR TALE ショートバージョン(2min)
ラーマン・ヒュイ氏は、2015年に公開された監督作品『モンスター・ハント』のメイキング講演を行なった。世界興収3.87億米ドル(※Box Office Mojo調べ)という、大ヒットを記録した本作。香港で生まれ育ち2Dアニメーターとしてキャリアをスタートさせた後、1989年にカナダへ渡りシェリダン・カレッジで3DCGアニメーションを修得。その後は、DreamWorksを中心に北米で活躍してきたヒュイ氏が長年夢見てきた"中国で映画をつくること"が初めて実現した作品でもある。
『モンスター・ハント』PV。VFX制作は中国のBase FXがリードした
本作は実写映画だが、ヒュイ氏はDreamWorks在籍時代に共同監督を務めた『シュレック3』(2007)の経験などを下に、世界観であれば多くのコンセプトアートを描き、スタッフとのイメージを共有。予算内で成立するように調整を重ねた。モンスターのデザインでは、アセット制作に先立ちデザイン画に基づくミニチュア造形を作成。アニメーションさせる上での課題の確認、制作過程ではデザインに着想を得た台詞を思いついたため脚本を書き直すこともあったそうだ。
ヒュイ氏の講演模様。主にプリプロダクションと撮影現場における取り組みが紹介された。初めて実写映画を監督したため、当初は演出方法に苦労したという。「役者さんに『24fpsで歩いて』と言っても伝わりません(笑)。また、アニメーションはイチから全ての要素を作らなければなりませんが、実写は役者さんに演技指導をすればすぐに演じてもらえます。実写はアニメーションに比べ、より役者やスタッフに委ねる面が大きいことを実感しました」
塩田周三氏の講演では、ポリゴン・ピクチュアズの足跡について、代表的なプロジェクトと貴重な映像を交えて紹介された。同社の社是は創業者の河原敏文氏が掲げた「誰もやっていないことを 圧倒的なクオリティで 世界に向けて発信していく」であることで知られるが、中国アニメーション産業の盛り上がりや動画配信サービスに代表されるメディアの変容など、この15年ほどの激動に対しても、『シドニアの騎士』(2014)を皮切りとするセル調CGアニメーション、中国の人気モバイルゲーム『陰陽師』PV制作を通じた中国市場への参入、さらにアニメーション制作ノウハウを自動車のインターフェイス等のプロダクトデザインに活かすという新たな試みなどを通じてこのモットーが実践されていることが説明された。
塩田氏の講演より。1983年創立のポリゴン・ピクチュアズは、現存するCGプロダクションとしては世界最古のプロダクションであると語った
ジョジョ・ウォン氏は、自身が監督・脚本を手がけたアニメーション長編『重甲機神 Baryon(バリオン)』の制作について講演。本作はウォン氏が設立し、CEOを務めるOne Punch Creativityが製作・制作した完全オリジナルの作品であり、完成まで5年もの月日が費やされた力作だ。未知なる宇宙人の侵略に対し、台湾を中心とする各国出身のキャラクターたちが立ち向かうというストーリーだが、2014年に制作を発表した後、2016年に行われたクラウドファンディングでは達成率210%の成功を収めた。
講演するウォン氏。インディペンデントで本作のようなオリジナル大作を完成させるために、チームを少数精鋭にし、実作業は可能な限り外部パートナーの協力を求めることを心がけている。実際にOne Punch Creativityのメンバーはウォン氏を含めた5名でつくりきったという
当初は全26話のシリーズ作品として制作が進められたが、物量の大きさから制作が難航したため、100分の劇場長編へとシフトすることでクオリティを落とさずに制作規模を約半分にまで圧縮することに成功。画づくりでは、日本のロボットアニメ作品から大きなインスピレーションを得られたことが語られた。台湾では昨年11月8日に劇場公開されたが、現在は国外での上映実現に向けた取り組みと並行して次回作の構想を練っていることが紹介された。
『重甲機神 Baryon』本予告
<3>入選した作品で特に印象的だったもの
最後に、2日目に催されたスクリーニングで印象に残った3作品を紹介しよう。まずは、インドのRegional Awardsでゴールドを獲得した『KITE』だ。本作は、Weta DigitalやAnimal Logicでアニメーターとして活躍してきたサーガー・フンデ/Sagar Funde氏が、監督、脚本、楽曲を除く実作業の全てをひとりでつくりきったものだが、冒頭のタイトルバックからハリウッド映画に通じるエンターテインメント精神が前面に出ており、自主制作作品としてはかえって新鮮だった。
Kite ( Patang ) - Animation Short Film
プレゼンテーションを行うフンデ氏。制作当時はAnimal Logicで常勤していたため、平日の作業は1時間に限定、主に週末を利用し3年を費やして完成させた
続いては、ASIA Awardsで「SILVER(Best Technique)」に輝いたモッ・チャン・ヘイ・ヘイデン/Mok Chun Hei Hayden氏(香港)が監督した『LIONVERSE 獅語』である。1960年代から2000年代までの50年間の香港の変遷をスタイリッシュなモーショングラフィックスと実写のストップモーション的な3DCGアニメーションで描いた作品だが、見事な出来映えだった。
Lionverse Teaser from Spicy Banana on Vimeo.
プレゼンテーションを行うヘイデン氏。モーショングラフィックスとデザインを得意とするSpicyBanana Creationsの創立者であるヘイデン氏は、香港人が何世代にもわたり継承してきた「Lion Rock Spirit」(香港のランドマーク獅子山のような困難に直面しても為せば成るという香港人特有の精神)が、2000年代以降に生まれた若い世代には忘れられつつあること知り、本作をつくることを決意
最後は、ASIA Awardsにて「That's Entertainment」を受賞した『Terrorvision 3000』である。インドネシアの主に広告媒体のクリエイティブを手がけているPercolate Galacticが2018年に制作した短編アニメーションだが、『アドベンチャー・タイム』にも相通じるシュールかつコミカルな作風は、同社の信条「LIKE THE DURIAN IN OUR LOGO, PERCOLATE GALACTIC CREATES EXPERIENCES THAT PEOPLE SIMPLY NEVER FORGET.(会社ロゴに描かれたドリアンのように、人々が決して忘れない経験を創り出す。)」が体現されていた。
TERRORVISION 3000
プレゼンテーションを行うシニア・アニメーターのユージン/Yujin氏。同氏を中心とするアニメーター4名で制作。ツールはToon Boom Harmonyを用いているとのこと。PERCOLATE GALACTICのアニメーション部門にとって初のオリジナル作品だが、デビッド・クローネンバーグ作品に着想を得たそうだ
第22回「DigiCon6 ASIA」は、新たにラオスが参加。アジアの15の国と地域で作品募集中である。日本(JAPAN)は、一般部門に加え、18歳以下のクリエイターを対象としたYouth部門を設けており、一般部門は7月31日(金)24時まで、Youth部門は8月31日(月)24時まで受け付けている(※詳細は公式サイトを参照)。本誌読者もぜひエントリーしてもらいたい。
info.
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22nd DigiCon6 ASIA 開催概要
<スケジュール>
一般作品募集期間:〜2020年7月31日(金)24:00
Youth作品募集期間:〜2020年8月31日(月)24:00
JAPAN Awards 2020年10月24日(土)東京都写真美術館
ASIA Awards 2020年11月28日(土)東京丸の内・丸ビルホール
<サポーター>
後援:総務省、外務省、東京都
ALL ASIA パートナー:三菱地所、丸ビル、Inter BEE、アビッドテクノロジー、ワコム、コニカミノルタ ジャパン
協賛:ボーンデジタル、レイ、BS-TBS