『スター☆トゥインクルプリキュア』、『アイカツフレンズ!』のEDディレクションや『ドラゴンボール超 ブロリー』のCGディレクションなどで腕を振るうCGプロダクションECHOES(エコーズ) 。同社の新作短編アニメーション『PIANOMAN』をフィーチャーした同社初の個展「ECHOES .LTD 映像展」を8月28日(金)から9月13日(日)までの期間、東京都千代田区にある3331 Arts Chiyodaにて開催した。
TEXT_日詰明嘉 / Akiyoshi Hizume
EDIT_三村ゆにこ / Uniko Mimura(CGWORLD)
クリエイションを楽しむ
「日頃の業務で得た技術を活かしてオリジナル作品を制作する」という理念のもと、これまで1~2年に1本のペースで短編作品を制作してきたECHOES。新作の『PIANOMAN』は構想から完成まで5年を費やし、2020年1月にWeb上で初公開された。3月には『つくばショートムービーコンペティション2020』にてウィットスタジオアニメーション賞を、『北九州デジタルクリエーターコンテスト2020』では大賞と、立て続けに受賞した作品だ。
会場となった3331 Arts Chiyodaは、閉校した千代田区立練成中学校の跡地を利用して2010年にオープンした文化芸術施設だ。学校跡地を利用しているため、訪れる人は教室や階段などに懐かしさをおぼえるだろう。ギャラリーやスペースごとの利用が可能のほか、体育館やラウンジといった広さでセミナーやショーの開催もできる施設となっている。
▲今回の展示が行われたギャラリーBは約50畳ほどの広さ。壁面には『PIANOMAN』の本編とメイキング映像が交互に投影されている
▲完成映像を絵コンテやブレイクダウン映像と並べることで、この場面がどのようにつくられていったのかを同時に追うことができる
本作の監督を務めたECHOES代表の児玉徹郎氏は、「今回の短編に限らず、環境映像だったりデジタルサイネージ的なものは学生時代から大学講師でのゼミまで、ずっとライフワークにしていました。今回は会社の活動として初めてのケースです。3331 Arts Chiyodaは複数のギャラリーがあって、僕たちの展示だけではなく他の展示を見に来た方にも楽しんでいただけます。秋葉原に近い場所柄もあって、外国人のお客様にもご覧いただけているので、より多くの方に見ていただける機会に恵まれた場所だと思います」と語る。
設定
展示品
▲壁面にパネル化して掲示された設定画(上)。机の上は絵コンテやコンセプトアートを収録したファイルが置かれ、自由に見ることができる。メイキング映像で気になった箇所を確認する人も。また、作品のメインとなるピアノの立体模型も展示されている(下)
本作は「内容はよくわからないが画的に面白そう!」をテーマに、セッション的に制作を進めた作品だ。そのため、シナリオの段階から制作は二転三転としていったが、自主制作作品あるためそのクリエイションを楽しんだという。ただ、そんな中でも当初から貫いたビジョンがあった。それがピアノの演奏シーンだ。
▲作中のハイライトでもある演奏シーンの撮影も、メイキングで紹介されている。演出メモが掲載されているカットも。音楽制作は中橋孝晃氏。ECHOESとは『#コンパス』 短編アニメ『深川まとい 牡丹』編でもタッグを組んだ
「最初に思いついた演出が音楽のシーンでした。僕らは誰も楽器を弾けないのですが、どうにかして音楽をつくりたかったんです。そこで、ピアノやバイオリンなどの楽器をミュージシャンに弾いていただいて、それを様々なアングルから撮影してそれらを解析してアニメーションにしました。そうすることで、僕らでも音楽がつくれると。モンスター化した主人公がピアノを弾くシーンでは、指があまりにゴツいのでスケールダウンをしています(笑)」(児玉氏)。
また、別の壁面にはコミックをフルカラー出力したパネルが掲示されている。これはこの展示会用に作られたもので、『PIANOMAN』本編へつながるサイドストーリーの内容だ。 「映像としては最初に予告をつくり、その後にコミックス、そして本編という流れで制作していきました。映像と制作資料、コミックスがあれば展示会ができるという話になり、この開催実施に至りました。コミックスをつくったのは今回が初めてなんです。何かしら特徴を出す必要があると考え、フルカラーで若干アメコミ風になりました。最初のものと完成したものとでは、絵もストーリーも変わっているのでメッセージもちがったものになっています。お話はあえて抽象的だったり、観る人に想像してもらったりといった点を大きく残しています。逆に、わかりやすくしたらつまらない作品になったのではないかと思います」(児玉氏)。
自主制作の短編アニメーションを制作してWeb上で公開する。すでに2020年1月の時点で完結しているこの取り組みを、後日改めて展示会として実施した背景を伺った。
「クライアントワークの場合は目標や予算、スケジュールがあるからこそ引き出されるクオリティがあると思うんです。しかし、こうした自主制作って悪い言い方をするとちょっと緩くなりがちで。知り合いで美術を描いている人がいて、展示会を見にいくこともあるのですが、そこで展示されているのは仕事よりも抽象度が高くなっているんですよね。だからこそ、僕たちは仕事かそれ以上に観てくれる人を意識してつくるようにしています」。
「この展示場にふらっと訪れた人がいたとして、その人たちを楽しませることができなければ、僕らの努力が至っていないということです。先入観なく楽しませることができる作品をつくれて、はじめて1人立ちできるのだと思います。また、Webで公開しただけではなかなか得られない反応を直に見ることができます。こういったところが、展示会を開催する意義となっているのではないかと思います」(児玉氏)。
イメージボード
1~2年に1作品の自主制作を発表し続けてきたECHOES。次回作が楽しみだが、すでに予告編は完成しているという。「次回作は『KIZAHASHI』というタイトルです。階段という意味ですね。オリジナル企画の面白いところは3つの媒体で展開できるというメリットがある点です。次の作品はしっかりとレイアウトを描き込んで、レイアウトブックのような形にできればと。『PIANOMAN』は12Pだったので、その3倍あれば背表紙のある本になります。予告編は完成し、プリプロは絵コンテとモデリングまでは終わっているので、あとはつくるだけです。映像の完成は来年度中を目標にと考えています」(児玉氏)。
「仕事外で畑ちがいの人々に見てもらうことで、自分たちの何たるかが客観的にわかる」と児玉氏は語る。クライアントワーク以外への制作にモチベーションを保ち、意見を戦わせてつくり上げることができるのは、7名という少数精鋭のスタッフで固められ、リーダーの児玉氏のビジョンが各スタッフに深く浸透しているECHOESだからこそできたことなのかもしれない。次回作『KIZAHASHI』ではさらに展開を広げていくようだ。どんな作品をつくり上げてくれるのか、早くも待ち遠しい。