Epic Games Japanが主催するUnreal Engineの公式大型勉強会「UNREAL FEST EXTREME 2020 WINTER」が、11月16日(月)~22日(日)にかけてオンライン上で開催された。本稿では、サイクロングラフィックスによる11月17日(火)のNON-GAME講演「アニメ『ノー・ガンズ・ライフ』における、UE4によるCGとセルアニメとの融合」の模様をレポートする。
TEXT_楳園麻美(Playce)
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada
▲TVアニメ『ノー・ガンズ・ライフ』第2期PV ver.1.1
映像表現の在り方を大きく変えたUE4によるCGとセルアニメの融合
最初に登壇したのは、サイクロングラフィックス代表であり、TVアニメ『ノー・ガンズ・ライフ』のVFXスーパーバイザーなどを務めた加藤道哉氏。同作品はセルアニメの背景美術を全てUE4で制作した初めてのハイブリッドアニメーションであり、「セルアニメのワークフローそのものをUE4用に改良する必要があった」と加藤氏は語る。アニメ制作には多くの人が関わるため、新しいツールの組み込みは責任重大であり、全スタッフの理解と協力を得ること、そして、綿密な計画とスケジューリングが不可欠だったと言う。
また、監督や演出陣と密に打ち合わせながら、原作コミックの緻密な世界観に合わせてステージを制作したとし、「コンポジット側として、セルの世界とUEの世界を取りもつことが非常に重要であることがわかった」と制作時をふり返った。
次に、同作品のCG監督を務めた設楽友久氏より、UE4.21を使用した本編制作のデモンストレーションが行われた。アウトライナーファイルのフォルダを話数、カットごとに整理したことで、「スムーズに作業が行えた」と設楽氏。バッチレンダリングに関しては、一話につき300カット必要な同作品では時間を費やすため、Excelで一括してバッチ処理をかけるツールを開発したことが説明された。
▲多いときには1シーンに100カットが収まるという同作。シーンをつくる際に1つのカメラでの取り回しも試みたが、そのカメラを失うと全カットを失うというリスクを避けるため、膨大なカメラとダミーキャラクターが溢れた状態になっても、1カット1カメラ制を採用したという
続いて行われたのは、UE4.24を使用したエンディングムービー制作の紹介だ。アニメーションは、アクターにモーションキャプチャで演じてもらい、手付けアニメーションや複雑なカメラワークをUE4上で詳細に詰めたと説明。本ムービーは全てUE4のシーケンサー上で音楽に合わせて編集されており、「3Dソフトの中で編集ソフトを操作していくイメージで新鮮だった」と加藤氏。一方、コンポジット、編集、カラーグレーディングをUE4での作業と全て同時に行なっており、その点に関しては、今後UE4のポストプロセス機能を含め、ワークフローの開発が必要であると語った。
▲エンディングムービー制作の様子。【上】UE4.24では、電子看板に連番やQuickTimeファイルを貼りこむと、レンダリングする際にフレームレートが安定せず、電子看板内の映像を思ったとおりに動かせないことがわかった。そのため、ゲームデータのようにムービーを1枚のスプライト表示にして表現。【下】ただし、巨大モニタは解像度的にスプライトでは表現できず、急遽After EffectsのMochaで貼り込んだ。UE4からはトラッキングポイントを出力している
設楽氏によるデモンストレーションでは、本編のつくり方とのちがいなどを説明。「シーケンサーで全体のバランスを一連で制御したことで、短い制作期間の中でもクオリティアップできた」と設楽氏。また、コンポジットへのテイクの更新も全カット一気に行えるため、完成するまでのスピードがこれまでに経験したことのないものであったと語った。
▲エンディングムービーのスローカットについて。アクションはキャプチャデータ。破片は3ds Maxのパーティクルで作成し、UE4へ戻すという作業を何度かくり返してパーティクルのタイミングを調整。車のへこみは、アセットを置き換えてからパーティクルを発生させている。スパークはカメラアングルを見つつ、リアルタイムで調整している。「今回は間に合わなかったが、次回はナイアガラエディタを使って視覚効果の作成に挑んでみたい」と設楽氏
最後に、UE4によるCGとセルアニメを融合することで、制作スケジュールが非常にタイトな日本のTVアニメの常識が変わるかもしれないと両者は語り、セッションを終了した。
▲アニメ「ノー・ガンズ・ライフ」における、UE4によるCGとセルアニメとの融合 | UNREAL FEST EXTREME 2020 WINTER