「圧倒的な映像体験を」という目標を掲げた『劇場版 少女☆歌劇 レヴュースタァライト』は、公開直後からその鮮烈なビジュアルセンスが話題をさらっている。TVシリーズ(2018)と劇場版 再生産総集編(2020)に続いて制作を指揮した古川知宏監督は、本作のCGにどんな役割を期待したのか、3D.C.G.I担当の萌への取材を基に全2回に分けて解説する。以降のNo.1では、ワイルドなレヴューを彩った、3D舞台照明と野菜キリンの制作背景を紐解いていく。
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※本記事は、月刊『CGWORLD + digital video』vol. 276(2021年8月号)掲載の「ワイルドなレヴューを彩った CGでなれけば描けない画『劇場版 少女☆歌劇 レヴュースタァライト』」を再編集したものです。
TEXT_日詰明嘉 / Akiyoshi Hizume
EDIT_尾形美幸 / Miyuki Ogata(CGWORLD)
つくる楽しさにかまけて、納期ギリギリまで粘ってしまった
名門演劇学校に通う9人の舞台少女たちが、"トップスタァ" を目指して競い合うTVシリーズ『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』。そのオーディションは "レヴュー" と呼ばれ、サーベルや日本刀などの武器による決闘形式で行われる。舞台少女たちを実写さながらの華やかなライトで照らし、ミュージカル音楽をバックにくり広げられるケレン味たっぷりのバトルは、従来のミュージカルファン層を超えた人気を博した。
神谷久泰氏はTVシリーズでは3D舞台照明としてCGによるライトワークを担当し、鮮烈なレヴューを彩った。古川氏と神谷氏は同世代で、『ユリ熊嵐』(監督:幾原邦彦、副監督:古川知宏、3D監督:神谷久泰)の制作時には、映像演出や趣味の話題でも意気投合。古川氏の初監督作品となった本作のTVシリーズ始動時には、自ら神谷氏を口説いて誘うほどの厚い信頼を寄せていた。そのため、神谷氏もより踏み込んで制作に関わることができたという。古川監督は「作品には "発明" が必要だ」と考えており、ライトワークを駆使した、過去に類を見ない名乗りシーンを神谷氏と共に生み出した。
▲【予告編】劇場版 少女☆歌劇 レヴュースタァライト
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3D.C.G.I :萌
CG監督:神谷久泰
CGプロデュース:平岡正浩
CG制作進行:佐久間周平
TVシリーズ制作時の神谷氏は個人参加だったが、再生産総集編以降は萌のCGアーティスト(CGモデリング5名、CGアニメーション8名)を率いて参加。プリプロダクションを経て2020年4月頃に劇場版の特報用映像を制作した後、カット制作を開始した。古川監督は数多くの挑戦的な演出アイデアを語り、神谷氏の気持ちも盛り上がったものの、絵コンテが仕上がるまでは総物量が見えず、CGで何をつくるかの取捨選択に悩んだという。
最終的に総カット数は約1,450となり、萌は361カットの制作に関わった(CGガイドのみの参加も含む)。「つくる楽しさにかまけて、納期ギリギリまで粘ってしまった」と反省の弁を述べた神谷氏だが、信頼に対し誠実に向き合った姿勢は画面の端々から感じられる。劇場版でさらに進化したCG表現の数々を、以降で紹介する。
画の正しさよりも演出を優先した3D舞台照明
神谷氏はアニメCGの制作現場で約15年のキャリアを積んで現在にいたる。「古川監督からは、アニメーターとしての気持ち良さに対する理解や感覚を期待されていました。CGの画は数学的に正しいですが固くなりがちなので、演出の意図を汲み取り、デフォルメする必要がありました。とはいえ空間的な正しさが守られていないとCGは上手く機能しないので、全体を見ながらバランスをとる必要があって、仕様化が難しかったです」(神谷氏)。
本作はTVシリーズ制作時から画の正しさよりも演出を優先していた。そのため3D舞台照明では、ライトの大きさ・角度・タイミングや、床などのアセットに様々なデフォルメを加えている。とりわけ快感を覚えるライトワークが、舞台少女たちの名乗りシーンだ。TVシリーズ第1話の愛城華恋(CV:小山百代)の名乗りシーンでは、画面奥から手前へと、スポットライトが続けざまに点灯する。ここでは手前のライトほどベース部分が大きく、光芒の照射範囲が広くなるよう調整されており、光がカメラをよぎる瞬間に照射範囲を最も広くすることで、視聴者に「眩しい」と感じさせる演出になっている。TVシリーズ制作時、18テイクもの調整を重ねてつくられたこの演出は、後に披露されたほかの舞台少女の名乗りシーンを演出する際のベンチマークとなった。
TVシリーズの演出を踏襲した、愛城華恋と神楽ひかりの3D舞台照明
劇場版の終盤の華恋と神楽ひかり(CV:三森すずこ)の名乗りシーンは、いずれもTVシリーズの演出を踏襲しつつ、劇場版らしい豪華な仕上がりになっている。この部分は仕様化ができず、古川監督と神谷氏の間で細かいすり合わせが必要だったため、劇場版の制作終盤には神谷氏が古川監督の現場に出向き、付きっきりで最終調整を行なった。
▲3D舞台照明のMayaの作業画面。劇場版の華恋の名乗りシーンでは、手前のライトほどベース部分を大きく、光芒の照射範囲を広くすることで立体感を強調している。【下】は完成カット
▲劇場版のひかりの名乗りシーンでは、カメラアングルは水平で、画角は広角。床面の板ポリゴンを手前にくるほど下方へ湾曲させることで、手前の光芒の照射範囲を歪ませ、画のパースを強調している。【下】はカット用のカメラビュー
"異質感" が期待された野菜キリンのカット
一方で古川監督は、CGに "異質感をもたらす" 役割も期待していた。劇場版にのみ登場するフォトリアルな野菜キリンはその好例で、ジュゼッペ・アルチンボルド(16世紀の画家)による作品群を参考に、30品目以上の野菜によってキリンの形を構成している。「セル画調の前後のカットに馴染ませる必要はないというオーダーで、CGならではの情報量の多い画を存分につくってほしいと言われました」(神谷氏)。
▲【左上】野菜キリンのデザイン画の一部。どんな野菜で構成するか具体的に提案されている/【右上】【左下】【右下】野菜キリンのCGモデル。喉元と心臓の近くにトマト(劇場版で象徴的に用いられているプロップ)が埋め込まれている。各野菜の形状を1点ずつ調整し、UVを開き、Substance Painterで質感を付けた後、デザイン画を参考にしながらキリンの形になるよう野菜を配置している。「奇異な発注でしたが、デザイン的にも演出的にもねらいが完全に絞り込まれており、担当モデラーが熟練者だったので、2テイクほどでほぼ固めることができました」(神谷氏)
▲完成カット
さらに古川監督は "表現としてのパワーが足りているか?" という問いかけをくり返していたそうで、特に後述する(No.2 - 双葉と香子のデコトラ・舞台列車・真矢の鳥・華恋の列車篇 参照)デコトラのカットは非常にパワーのある画に仕上がっている。「古川監督はCGでなれけば描けない画はどこなのか、大事に見極めようとしてくれました。結果的にあまり画面に残らなかった試みもありますが、次の機会に活かせる経験として蓄えられていると思います」(神谷氏)。
本記事は以上です。以下の関連記事も合わせてお楽しみください。
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『劇場版 少女☆歌劇レヴュースタァライト』
原作:ブシロード/ネルケプランニング/キネマシトラス
監督:古川知宏
脚本:樋口達人
キャラクターデザイン:齊田博之
アニメーション制作:キネマシトラス
製作:レヴュースタァライト製作委員会
cinema.revuestarlight.com
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月刊CGWORLD + digital video vol.276(2021年8月号)
特集:シン・エヴァンゲリオン劇場版
定価:1,540円(税込)
判型:A4ワイド
総ページ数:112
発売日:2021年7月9日
cgworld.jp/magazine/cgw276.html