世界観を表現し、着る者の魅力を際立たせ、コミュニケーションの媒介となるコスチューム。『CGWORLD + digital video』vol. 277では、デジタルにより日々進化するコスチュームのセカイを大特集した。CGWORLD.jpでは全46ページの特集の中から約12ページを抜粋し、全4回に分けて転載する。以降では、『ファイナルファンタジーXIV』(以降、『FFXIV』)におけるスクウェア・エニックスの制作事例を紹介しよう。
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TEXT_日詰明嘉 / Akiyoshi Hizume
EDIT_尾形美幸 / Miyuki Ogata(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota
コスチュームは世界を構築する重要なピース
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左から、キャラクターアーティスト・鈴木 学氏、アニメーター・千葉 瞳氏、キャラクターコンセプトアーティスト・生江 亜由美氏(以上、スクウェア・エニックス) - 2013年の『新生エオルゼア(パッチ2.0)』正式サービス開始以来、世界的トップクラスの人気を誇る『FFXIV』。本年4月には全世界累計登録アカウント数が2,200万を突破。11月には最新拡張パッケージ『暁月のフィナーレ(パッチ6.0)』が発売される。そんな本作を彩るコスチュームの制作過程を追っていく。
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ファイナルファンタジーXIV
開発・運営:スクウェア・エニックス
ジャンル:MMORPG
対応環境:PlayStation 5、PlayStation 4、Windows、Mac、Steam
プロモーションサイト:jp.finalfantasyxiv.com
最新拡張パッケージ『暁月のフィナーレ』特設サイト:jp.finalfantasyxiv.com/endwalker
フリートライアル特設サイト:sqex.to/ff14ft
※『ファイナルファンタジーXIV』をまだプレイしていない方には、レベル60まで無料でいつまでも遊べるフリートライアルがオススメです。一部機能に利用制限はあるものの、『新生エオルゼア』から拡張パッケージ『蒼天のイシュガルド』までのRPGゲーム2本分を体験できます。
RPGとは "役を演じる" ゲーム。なかでもMMORPGは、大勢のプレイヤーと冒険や日常を共にするため、自らの分身であるアバターの装いを自分らしく彩ることが重要な関心事だ。『FFXIV』では、千差万別の選択肢の中からお気に入りのコーディネートを考え、光の戦士となって冒険できる。一方で、プレイヤーキャラクター、ノンプレイヤーキャラクター(以降、NPC)を問わず、そのコスチュームは世界を構築する大事なピースでもある。本作のコスチュームデザインには、キャラクターの役割や作品世界であるエオルゼアの様々な文化が色濃く反映されている。
▲【左】NPCのヤ・シュトラと、【右】同じくNPCのリーン
そんな本作のコスチュームデザインを担う開発スタッフのひとり、生江 亜由美氏(キャラクターコンセプトアーティスト)は、大学で西洋服装史を専攻していたという納得の経歴の持ち主だ。「掘り下げ癖があるので、まずは服の背景や歴史を学ぼうと社会学の分野からアプローチを始め、ほぼ独学で服のイラストを描くようになりました。布から服をつくるより、服を描いた方がストレートにつくりたいものを表現できるという発想になったんです」(生江氏)。本作にはパッチ1.0の起ち上げ段階から参加しているベテランで、現在はキャラクターアート班のリーダーとしてマネジメント業務を担う一方、NPC・装備・武器のデザインや販促イラストの制作も行なっている。
▲【左】白魔道士(女性)の4段階目のジョブ専用装備(通称、AF4)と、【右】赤魔道士(男性)のAF4
鈴木 学氏(キャラクターアーティスト)はCG映像会社を経て入社。現在はキャラクターモデリング班のサブリーダーで、人型キャラクター全般の制作・監修・マネジメントを担う。「分業体制で、人型、モンスターなど、専門性の高い仕事ができる点が本作の特徴ですね」(鈴木氏)。生江氏と同じく、千葉 瞳氏(アニメーター)もパッチ1.0から本作に携わっている。現在はモーション班でフェイシャルのリーダーを務めつつ、コスチュームのセットアップも担当。以降では、本作のコスチューム制作の物語を紐解いていく。
いざ、エオルゼアへ。
▲【左】黒魔道士(女性)のAF4と、【右】パッチ6.0から加わる新ジョブの賢者のAF
▲賢者の紹介映像。「ドクター×科学者×魔法学者=白衣×SF×ローブ」というコンセプト。特筆すべきは従来にないIラインのシルエットを、仕様の隙間をすり抜けて実現したことだ。詳細は『CGWORLD + digital video』vol. 277で解説しているので、ぜひご覧いただきたい
キャラクターアート班の仕事とシワの物語
キャラクターアート班には約10名が所属している。そのうち数名はモンスター専属のため、実装数が多い武器に関しては社外の協力も得つつ、残りのアーティストで人型のキャラクターの装備や武器をデザインしている。企画と発注はアイテム班やシナリオ班から出され、提示された設定を手がかりにリサーチを行う。設定は、『漆黒のヴィランズ(パッチ5.0)』のNPCのヤ・シュトラのように「第一世界で、従来の幻術士から魔女に変わる」といったわずかな情報しかないときもあれば、細部まで決まっているときもある。「設定からイメージを膨らませ、リサーチをしながらモチーフを選んでいきます。参考になりそうな服やアクセサリーはもちろん、近い風景や建築物も調べて、どんな雰囲気だったら似合うのか確認するんです。最低でも丸1日はリサーチに使います。自分にとって一番楽しい工程なので、時間を区切らないと永遠に調べ続けてしまいます(笑)」(生江氏)。
リサーチ後は、集めた情報を基にラフを作成する。生江氏の場合、ラフは平均して5~7案、多いときは差分込みで20案くらい提出する。ラフ選定はアイテム班やシナリオ班が行い、吉田直樹プロデューサー兼ディレクター(以降、吉田P/D)が最終決定する。挑戦的なデザインで3Dでの検証が必要な場合は、キャラクターモデリング班やモーション班と協議し、必要であればデザインを調整する。その後、ラフの清書(三面図)を作成し、アイテム班、シナリオ班、吉田P/Dの最終確認を経てモデリング班に渡される。発注から清書完成までの期間は、ひとつのデザインにつき10日程度だ。
本作は3〜4ヶ月に1回のペースで大型アップデートが公開されるため、なるべく円滑に制作を進める必要があり、アート班には明解な設計図を制作することが求められる。本作に限らず、ゲーム業界では珍しくないつくり方だが、アパレル業界の服づくりとは大きくちがう。アパレル会社の多くは、抽象的なデザイン画からパターン(型紙)をつくり、サンプルをつくり、モデルに着せ、その印象を見ながらパターンを直し、またサンプルをつくる、という工程をくり返しながら完成形を探るため、明解なデザイン画を決め打ちでつくることはない。
20案近くのラフが描かれたヤ・シュトラのコスチューム
ヤ・シュトラは、張り出した耳と、しなやかな尻尾が特徴の種族・ミコッテの女性幻術士。パッチ5.0では魔女として登場することになったため、新たなコスチュームがデザインされた。発注時の情報量が少なく、カワイイ系でいくのか、シリアス系でいくのかも定まっていなかったため、生江氏は多彩なラフを描いていった。なお、生江氏の場合はアナログの画材で線画を描き、それをCLIP STUDIO PAINTに取り込んで仕上げている。ラフを描く際には、あえて様々な画材を使うことで、自分のクセから脱した線を引けないかと試したりもするそうだ。「はっきり決まっていないときは、手を動かして、いろいろ描いていくのが私のスタイルです。特にローブやドレスは好きなので、いくらでも描いていたいです」(生江氏)。
▲ヤ・シュトラのコスチュームのデザイン案。ここで紹介している9案以外にも、袖や裾の差分を含めると20近くの案を描いたという。その中から選ばれたのが、赤枠で囲まれた案だ
▲採用案を清書した三面図。古布・古革の端切れをつなぎ合わせてつくったローブという設定で、色褪せた素材感・ダメージのある素材感が表現されている。裾のランダムな破れ方もデザインされており、生江氏のこだわりが窺える。また、パッチ5.0のトレーラーではヤ・シュトラがフードで顔を隠しており、それが風にあおられて外れることで正体がわかるという演出が予定されていたため、フードを被ったデザイン画もつくられた
▲ヤ・シュトラの3Dモデル。左と中央はローポリモデルで、右は各種マップを適用したもの
デザイン画のシワをZBrushで再現
▲ヤ・シュトラのローブのディテールやシワはZBrushでスカルプトし、ノーマルマップをxNormalでローポリモデルにベイクしている。「生江さんのデザインはシワのこだわりがすごいです。シワのニュアンスの再現はモデラーの腕の差が出やすく、どうやって綺麗に再現するか、難しいところであり、非常に楽しいところでもあります」(鈴木氏)。シワやギャザーの作成では、Marvelous Designerも試験的に導入されている。詳細は『CGWORLD + digital video』vol. 277で解説している
▲ヤ・シュトラの完成モデル
自然なシワや凹凸のつくり方
キャラクターモデリング班がまとめたコスチューム制作のガイドラインの一部も紹介する。
▲【左】のようなデザイン画のシワや凹凸をポリゴンで再現する際には、正面からの印象だけでなく、面のながれを意識することが重要だ/【中】悪い例。シワの形状を正面からトレースして頂点を追加しているため、【右】斜めから見ると凹凸のないシルエットになっている
▲【左】良い例。シワのながれを考慮してポリゴンを配置しているため、【右】斜めから見ても凹凸のあるシルエットになっている
▲【左】ZBrushでシワをスカルプトする際の悪い例。赤丸部分に同じようなシワが2本入っており、メリハリがなく、不自然に見える/【右】良い例。ベルト下のシワを1本にまとめたことで、自然な印象になっている
▲【左】パンツのような直線的なコスチュームは、青色部分に影ができるようにシワを入れることで、赤色の直線の主張が和らいで自然な印象になる/【中】悪い例。赤丸部分のシルエットが直線的で、ローポリ感が残っており、不自然な印象になっている/【右】良い例
▲【左】赤丸部分のポリゴンの直線の主張が強く、不自然な印象になっている/【中】悪い例/【右】良い例。シワやたるみを入れると直線が目立たなくなる
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月刊CGWORLD + digital video vol.277(2021年9月号)
特集:デジタルで彩るコスチュームのセカイ
定価:1,540円(税込)
判型:A4ワイド
総ページ数:112
発売日:2021年8月10日
cgworld.jp/magazine/cgw277.html