>   >  ツールの垣根を取り払い、自由度の高いパイプラインを実現〜白組・アニメ『Fate/Grand Order -終局特異点 冠位時間神殿ソロモン-』におけるKATANA導入事例
ツールの垣根を取り払い、自由度の高いパイプラインを実現〜白組・アニメ『Fate/Grand Order -終局特異点 冠位時間神殿ソロモン-』におけるKATANA導入事例

ツールの垣根を取り払い、自由度の高いパイプラインを実現〜白組・アニメ『Fate/Grand Order -終局特異点 冠位時間神殿ソロモン-』におけるKATANA導入事例

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FOUNDRYが提供するUSD/HYDRAネイティブのルックデベロップメント(以下、ルックデヴ)&ライティングツールKATANA。ノードベースによる強力で柔軟なコントロールが可能なUIとUXを備え、従来のウォーターフォール型パイプラインが抱えていた様々な課題を解決し、大規模で複雑な手強いプロジェクトでも軽快に処理することを可能にするツールだ。

近年国内でも様々なプロジェクトへの導入が進んでおり、CGWORLD.jpでも度々その事例を紹介してきた。今回は、白組によるアニメ『Fate/Grand Order -終局特異点 冠位時間神殿ソロモン-』への導入について、中核スタッフへのインタビューを通して解説する。

TEXT_澤田友明 / Tomoaki Sawada(コロッサス Rスタジオ)
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)


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KATANA 4.0リリース!ついに国内でも走り出したコンカレント型パイプラインプロジェクト。その導入から、検証デモ、展望まで、しっかり解説 (2020年12月11日公開)
KATANAによるパイプライン・ワークフロー改善(2018年10月23日公開)
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  • 『Fate/Grand Order -終局特異点 冠位時間神殿ソロモン-』
    全国の劇場にて絶賛特別上映中
    配給:アニプレックス/制作:CloverWorks/3DCG:白組
    anime.fate-go.jp/ep7-tv/
    ©TYPE-MOON / FGO7 ANIME PROJECT

白組初のKATANA導入プロジェクト、その経緯

7月30日(金)から公開中のアニメ『Fate/Grand Order -終局特異点 冠位時間神殿ソロモン-(以下、FGOソロモン)』は、大人気スマートフォンゲーム『Fate/Grand Order』のメインシナリオ第一部のクライマックスともいえるエピソード「終局特異点」の映像化作品だ。白組は本作の3DCG担当として名を連ねており、劇中に多数登場する「魔神柱」と呼ばれるクリーチャーの制作を主に手がけている。本プロジェクトで、白組は社内で初めてKATANAを本格導入した。

KATANA導入の経緯を本作で3Dディレクターを務めた白組の吉田裕行氏は次のように語る。「当社でこれまで主力にしていた3ds Maxをメインツールとした制作体制を、より発展性のあるものに変えていきたいと考えていたところに、KATANAを使った海外の制作事例などを知ることで興味をもち、FOUNDRYからの協力とプロジェクトのタイミングが合ったことにより、導入を決めました」。


  • 吉田裕行/Hiroyuki Yoshida
    3Dディレクター
    白組

吉田氏の制作チームでは、これまで3ds Maxをメインツール、V-Rayをレンダラとするウォーターフォール型パイプラインを主力としてきた。3ds Max+V-Rayはオールインワンタイプでこれまでも様々なプロジェクトで使用されてきた組み合わせだ。日本でもユーザーが多く実績もある。

しかし実際には大量のカットをこなすために非破壊的に複数のシーンをまたいでプロパティを共有することは難しく、重いモデルデータの取り回しも決して快適とは言えなかった。加えて、最近ではツールの多様化により、協力会社の数も絞られてしまうという問題もあった。

「白組・調布スタジオの案件ではMayaを使うこともありましたが、3ds MaxとMayaを合同で使用する機会は少なく、メインツールをMayaに替えたとしても、それで全ての課題が解決するわけでもない。メインツールにとらわれない、新しいワークフローを試してみたい。3年、5年先を見据えて表現の幅を広げるためには、どこかで新しいことにチャレンジする必要があると感じていました」と吉田氏は当時の思いをふり返った。

そこで白羽の矢が立ったのが、テクニカルアーティスト・石田裕太郎氏が以前から独自に検証を進めていたKATANAだった。「セミナー等で海外の映像制作パイプラインで導入されているKATANAのことを知り、FOUNDRYからテストライセンスをお借りして検証を進めつつ、プロジェクトへの導入タイミングを伺っていました。ちょうど『FGOソロモン』制作の話が来たことでタイミングが合い、本格導入することとなったのです」(石田氏)。


  • 石田裕太郎/Yutaro Ishida
    テクニカルアーティスト
    白組

2つのパイプラインを同時並行で動かしながらの検証

KATANAの導入に際しては、まずは3ds Max+V-Rayのパイプラインから3ds Max+Arnoldへとレンダラを変更するところからスタートした。今ではArnoldを採用しているプロダクションも多く、CGを学ぶ学生も基本的にはArnoldを使って学習している。これは外注先の確保という点だけでなく、KATANAの検証期間を考慮し、もしKATANA導入が上手くいかなかった場合でも3ds Max+Arnoldのパイプラインでプロジェクトを遂行するための保険的意味合いもあったという。

検証はKATANAの基本的な仕様からマテリアルアサイン、ルックファイル/ライブグループ、3ds MaxからAlembicを介したKATANAへのデータの受け渡しなど段階的に進められた。「レイアウト作業と並行して、2020年9月から2021年1月までの期間で検証および必要な開発を進めていきました。今回導入が上手くいかなかったとしても、2回3回と続けることで本格的に導入できるようになればと考えていましたが、結果的に最後までKATANAで作りきることができました」と語るのは、CGアニメーションディレクター鳥居 豪氏。


  • 鳥居 豪/Go Torii
    CGアニメーションディレクター
    白組

以下はKATANA導入前に想定された『FGOソロモン』のパイプライン図だ。3ds Maxをメインとして、モデリング、ルックデヴ、リギング、アニメーション、ライティング、レンダリングまでを行なっている。

※画像はクリックすると拡大されます

以下の導入後のパイプラインでは、モデリング、リギング、アニメーションは3ds Maxだが、ルックデヴ、レンダリングにおけるオブジェクト設定と、シーン構築、ライティング、レンダリング設定をKATANAで行い、さらにNUKEにおけるカットごとのコンポジット構築を自動的に行なっている点が新しくなったところだ。

※画像はクリックすると拡大されます

▲3ds Max上での魔神柱制作の様子

▲3ds MaxからKATANAへAlembicデータを出力する独自ツール「Alembic Exporter」による各種データ書き出しの様子

▲KATANAでの作業の様子

▲完成カット

独自ツールの開発

先述の「Alembic Exporter」をはじめとして、今回の導入にあたっては様々な独自ツールの開発も行われた。特筆すべきはKATANAからDeadlineにレンダリングジョブを投げてレンダリングが上がった後に、NUKE上で各ショットごとのコンポジットを自動生成できる「KATANA Render Tool」だ。では実際にそれらの新しく開発されたツールのUIや、KATANAでの作業画面やキーポイントをご覧いただこう。

■Alembic出力とKATANAでのシーン構築■

  • ◀3ds MaxからAlembicを出力するためのツール「Alembic Exporter」。KATANAでの表示用にローモデルのAlembicも出力している

▲KATANA上のノードグラフ

▲複数ショットのAlembicを読み込み、Graph State Variablesでショットを切り替えられるようにしている

▲シーングラフXMLで魔神柱の数ごとにグループ化し、その中でさらに3ds Maxのレイヤー名でグループを作成、オブジェクトをまとめている

▲3ds MaxからAlembicを出力した場合、マップチャンネルにスペースが含まれてしまいレンダーエラーとなってしまうため、アトリビュートを設定し直す。カメラのクリッピング設定もここで行う

▲マテリアル設定はライブグループで読み込んでいる。ライブグループ内では、マテリアル設定以外にもコレクションクリエイトやオブジェクトカラー設定なども行なっている

  • ◀魔神柱は複数のマテリアルバリエーションがある。KATANAでは3ds Maxで設定されているマテリアル名から判定して、マテリアルアサインを行う

▲シーングラフを展開するとレンダーモデルが表示される

▲ベースとなるライトをライブグループで読み込む。ショットごとにライトの強度や位置をエディットしている。ライトはHDR、KeyLight(distant light)、FillLight(Quad Light)で構成

▲レンダー設定やAOV設定もライブグループで読み込んでいる。出力バージョンはユーザーパラメータで設定

▲魔神柱を1本ずつレンダーするため、RenderNodeを本数分設定。1本ずつにするため、RenderNodeの前でPruneによって他の魔神柱を削除している。「こういったオブジェクトの削除などをフレキシブルに設定できるのがKATANAの強みだと思います」(石田氏)

▲KATANAでのAOV設定。ライブグループで読み込んでいる

  • ◀KATANAから出力しているAOVの一覧


■KATANA、Deadline、そしてNUKEとの連携■

  • ◀「KATANA Render Tool」のUI。KATANAからDeadlineにジョブをサブミットし、NUKEコンポを自動生成するためのツール。対象のRenderNodeを選択したり、Graph State Variablesを切り替えながらレンダーすることができる

▲KATANA Render ToolからサブミットされたDeadlineジョブ。KATANAのレンダーが終了するとNUKEのジョブが走るようになっている

▲自動生成されたNUKEコンポジット。魔神柱1体ずつベースコンポを通して、After Effects用に必要な素材をPNG形式で出力

  • ◀出力したAOVをNUKEで調整。画像はpositionを使って、高さ調整用のマスクを作成している

▲完成画像

KATANA導入がもたらした様々なメリット

KATANAを導入して良かった点について、鳥居氏は次のように語ってくれた。「これまでは1つのシーンファイルで1つのカット作業を行うことが普通でしたが、KATANAではノードベースの利点やGraph State Variables等の固有の機能を活かして複数カットの同時処理が行えるため、1つのKATANAシーンファイルで10~20カットの作業ができました。また指標となるマスターカットを用意しておけばそれに連なるサブカットの処理がとてもやりやすく、全体としてクオリティのベースアップにつながっています」。KATANAはノードベースでシーンを構築していくため、複数のカットであっても同じ環境や設定を使う場合はそれらを共通化し、異なる部分だけをカットごとに入れ替えるという手法を容易に行うことができる。

また、アーティスト視点からのメリットをCGアニメーションディレクターの滝沢雅人氏に伺ったところ、「ZBrushで緻密にモデリングされた魔神柱が大量に登場するカットの制作では、今までだとデータが重すぎて思うように操作することができませんでしたが、KATANAに読み込むと軽く扱えることがわかりました。これによってトライ&エラーを行う回数が増え、リモートでの作業も軽快に行うことができました」。KATANAは大量のオブジェクトや複雑で巨大なシーンでも軽快に操作が行えるよう設計されているため、特別なハードウェアを使用せずともユーザーの負担を軽減させられるメリットは大きいと思われる。「加えて、当社は以前からコンポジットにNUKEを活用していたこともあり、同じFOUNDRY製品であるKATANAはUIがとっつきやすく、NUKEとの連携が容易にできたことも導入が成功した要因のひとつだと思います」(吉田氏)。


  • 滝沢雅人/Masato Takizawa
    CGアニメーションディレクター
    白組

さらにプロダクションを管理する側から見たメリットとしては、これまではショット担当者に加えて同人数程度のコンポジターが必要であったが、KATANAのノードベース操作に慣れてしまえば、ほぼ半分の人数で作業を行うことができた点が挙げられた。実際には4~500カット強の初期オーダーに対し、汎用素材の準備やKATANAを効率的に用いることで実質半数程度の作業カロリーに抑えることで4〜5名程度のスタッフ稼働で対応できたという。また、DCCツールの垣根を取り払うことで協力会社への発注も行いやすくなり、プロジェクトの予算に合わせて効率化と適材適所の両方をねらうことができるという感想も語られた。

「今までの3ds Maxをメインとする制作パイプラインからKATANAというハブを中心に据えたパイプラインに変更することによって、様々なソフトウェアで作成されたモデルやアニメーションを容易に取り込むことができるようになり、これまで以上に多くの協力会社やフリーランスデザイナーとの協業を進めることができるようになりました」(吉田氏)。

現在一般的な業務では既存のDCCツールが多く使用されている一方、学生やフリーランスデザイナーは費用を抑えられるBlenderをはじめとするフリーソフトを習得している場合が多い。しかし、どちらをメインにしてもファイル形式の仕様上1つのツールに縛られてしまい、互換性はない。しかしKATANAはオリジナルのシーンファイル形式といった概念をもたず、AlembicやUSDといったユニバーサルなファイル形式を使ってシーンを構築していくため、様々なソフトウェアで作られた資産を有効に活用できるのだ。

KATANAは固定の絵筆に囚われない作品制作を実現する

最後に吉田氏からKATANAの導入が白組にどのような変化をもたらしたか、そして導入を検討している方々に向けてのメッセージを語っていただいた。

「今回はプロジェクトとのタイミングが上手く重なったということも大きいのですが、これまでの白組の制作体制を何とか変えていきたいという石田をはじめとする多くのスタッフの熱意が、プロジェクト進行と同時並行で行われた検証期間という決して十分とは言えなかった状況をも乗り越えて、KATANAの導入、さらにコロナ禍でのフルリモートワークによる制作という大きなチャレンジを成功に導いたと考えています。加えて、FOUNDRYからの丁寧なサポートとともに、日本におけるKATANAの販売価格が見直され、導入費用が安く抑えられたことも大きな後押しとなりました」。

「これからも白組は固定の絵筆に囚われず先を見据えてチャレン