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従来のウォーターフォール型パイプラインを維新し、コンカレント型パイプラインを実現するルックデベロップメント(以下、ルックデヴ)&ライティングツールとして欧米のCGプロダクションを中心に導入が進んでいるKATANA。近年は国内でも導入や検証が進んできた。本記事では、eg+ worldwideが手がける、カタログやWebコンフィグレーション用の自動車CG制作におけるKATANA導入事例を紹介。ついに国内でも走り出したコンカレント型パイプラインへの移行プロジェクトの最新状況をコロッサス Rスタジオの澤田友明氏(レンダリングスペシャリスト)が解説する。さらに本記事の後半(3ページ目)では、2020年10月末にリリースされたKATANA 4.0の新機能も紹介する。

TEXT_澤田友明 / Tomoaki Sawada(コロッサス Rスタジオ)
EDIT_尾形美幸 / Miyuki Ogata(CGWORLD)

そもそも、KATANAとは何なのか?

KATANAはFOUNDRYがリリースするルックデヴ&ライティングツールだ。単にルックデヴとライティングを行うだけなら、従来のDCCツールでも問題なく対応できる。しかしKATANAの価値はそれだけに留まらない。ノードベースの非常に強力なUI・UXを備えているため、従来のウォーターフォール型パイプラインが抱えていた様々な課題を解決し、複雑で手強い大規模プロジェクトを柔軟かつ軽快に処理できるコンカレント(同時並列処理)型パイプラインを実現するツールなのだ。

eg+ worldwideにおけるKATANA導入事例
自動車CGのパイプラインをコンカレント型へ移行するプロジェクト

KATANAを導入することで得られるメリットは、わかりやすいようでわかりにくい。例えば、レンダリングが速くなるとか、新しいシェーダによって表現力が上がるとか、リアルタイムにリッチなエフェクトをつくれるとか、そのような目に見えるタイプの理解しやすい変化とは一線を画す内容だからである。しかし、残業が減る、終電に間に合わなくなるようなトラブルが起こりにくい、他人の作業を簡単に引き継げる、シーンファイルから任意の内容をコピペできる、ファイルを開くまでの時間が短いといったメリットは、CG制作を生業とする人にはより身近な内容として受け止められるはずだ。


■制作パイプラインの課題■
eg+ worldwideは、自動車をはじめとする工業製品のビジュアライゼーションを手がけている。同社では、カタログやWebコンフィグレーション用の自動車CG制作のパイプラインをコンカレント型へ移行すべく、新たにKATANAを導入。小手先の改変ではなく、制作環境そのものの大胆な改革に着手した。その舵取りを担う今野亮成氏(シニアテクニカルスーパーバイザー)と小林大悟氏(リードデジタルアーティスト)に詳細を語っていただいた。

  • eg+ worldwide
    制作業務の中心を担うデジタルアーティスト、研究開発を担うテクニカルアーティスト、自動車の仕様を管理するプロダクトスペシャリストなど、複数の職種を募集中とのこと。「人間が最も見慣れているのは『人間』と『自動車』と言われるほど、自動車は難しい題材です。フォトリアルなCG制作の高みを目指したい人にとっては、やりがいのある仕事だと思います。映像やゲームなど他業種からの転職も大歓迎ですし、新卒採用も行なっています!」(今野氏)
    www.egplusww.jp


  • 今野亮成氏(シニアテクニカルスーパーバイザー)
    デジタルアーティストを経て、部内の効率化全般の業務専任担当に移行。ハードウェアやソフトウェア管理などのエンジニア業務から、ツール開発、新規業務のパイプライン構築、新規ソフトウェアの検証、導入の推奨まで、守備範囲は多岐にわたる。アーティストが快適に業務に集中できることを目標に、日々自身の業務に取り組んでいる。


  • 小林大悟氏(リードデジタルアーティスト)
    大手自動車会社のWebコンフィグレーションプロジェクトに立上げから参加。大量の画像を制作するツールを自ら開発し、効率化にも貢献した。制作業務に加え、チーム運営の進行業務も担っている。


eg+ worldwideにおける、自動車CG制作の従来のパイプラインのながれは以下の通りだ。CG制作はMaya、コンポジットはNUKEを使用。レンダラは以前はMental rayだったが、現在はV-Rayに移行している。

1. クライアントからMaya形式の自動車モデルのデータ(※1)を受け取る
2. 先のデータを整理し、V-Rayでレンダリング可能な状態にする
3. モデリング
4. シェーディング
5. バリエーション制作(※2)
6. ライティング
7. レンダリング
8. コンポジット

※1 3D形状データ、マテリアル情報、バリエーション情報で構成されている。
※2 自動車モデルは、同じ車体でもカラーやグレードのちがうバリエーションが数多く存在する。Webコンフィグレーションでは、全てのバリエーションを、360°のアングル(10°ちがいの36枚の画像)で見せる必要がある。


一見シンプルなながれに見えるが、自動車CGは同じモデルでも販売地域やバリエーションごとにちがいがあるのに加え、更新が頻発する。Webコンフィグレーション用の自動車CGは海外販売版も含めると何千という点数になり、シーンひとつを制作し、レンダリングすれば完了というわけではないと小林氏は語った。

▲同じ車体だが全てバリエーションが異なる


パイプラインの上流でクライアントがモデルの更新を行うと、下流の作業に大きな影響をおよぼす。しかもバリエーションが尋常な数ではないため、モデルの差し替え、差分編集などが発生すると、以降の作業量が雪だるま式に膨らみ、様々な問題が発生することが制作上の課題になっていたという。


■KATANAとの出会い■
前述の課題解決の糸口となったのが、海外のCGプロダクションが映画制作にKATANAを使い、ライティングの効率化を図ったことを伝えるWeb記事だった。その後、Industrial Light & Magicの折笠 彰氏が登壇したセミナー(※)などでより詳細な情報を得ていく中で、各機能(工程)を独立して管理できる、ノードベースで複雑なシーンにも対応できるといったKATANAのメリットに対する理解が深まっていった。eg+ worldwideでは以前からNUKEを導入しており、ノードベースのソフトウェアに対する心理的・技術的なハードルが低く、ノードベースがもたらす効率化を実感してもいた。加えて、NUKEを通してFOUNDRY製品に対する信頼性が高まっていたことも決め手になったという。

※ 折笠氏が登壇したセミナーのレポートは以下よりご覧いただけます。
ILMのパイプラインにおけるKATANA活用事例を折笠彰氏が解説「ルックデベロプメント&ライティング セミナー」レポート(2018.08.19 公開)


「実際にKATANAを触ってみて印象的だったのは、パラメータの変更箇所を明示してくれる点や、パラメータをPythonエディタにドラッグ&ドロップするとPythonコマンドのヒントがもらえる点など、細かい部分のつくりが親切なことですね。全体的にモダンなつくりになっていることも好印象でした」(今野氏)。


■KATANA導入後のパイプライン■
KATANA導入後は、MayaからAlembic形式で書き出した3D形状データをリファレンスで管理し、それ以外の情報はKATANA上で切り離して扱えるようになった。シーンファイルが軽くなり、膨大なバリエーション制作においてもノードベースの柔軟な管理が可能になったため、上流の変更が下流におよぼす影響を最小限に抑えられるようになったという。

しかし、現時点ではAlembic形式で書き出せるのは3D形状データとアニメーションデータのみで、マテリアル情報とバリエーション情報は書き出せない。かといって3D形状データをKATANAへ読み込んだ後、それ以外の情報をイチから作成・編集するのは時間がかかり過ぎるため、マテリアル情報とバリエーション情報をMayaからJSON形式で書き出すPythonカスタムツールを今野氏が開発した。しかもMayaから書き出した全情報をKATANAとUnreal Engineの両方で復元できるパイプラインまで構築したという。今後は画質を追求できるKATANAによるプリレンダーCGと、画質や速度が日々向上しているUnreal EngineによるリアルタイムCGの両面で、さらなる制作の効率化を図っていくとのことだ。

KATANA導入後のプリレンダーのパイプラインのながれは以下の通りとなった。

1. クライアントからMaya形式の自動車モデルのデータを受け取る
2. Mayaから3D形状データをAlembic形式で書き出す
3. Pythonカスタムツールを使い、Mayaからマテリアル情報とバリエーション情報をJSON形式で書き出す
4. 3D形状データをKATANAに読み込む
5. Pythonカスタムツールを使い、以下の情報をKATANAで再現する
- Material
- Material Assign
- Display Layer
- Variation
6. KATANAでライティング&レンダリングを実行(これらの工程は、他工程から切り離して管理できる)

▲KATANAの作業画面。エリアライトを設定している


3D形状データを差し替える際には、前述のPythonカスタムツールを用いることで、マテリアル情報・バリエーション情報も自動で差し替えられる。しかもKATANA上で変更したマテリアルのパラメータや、ライティング&レンダリングの設定とは切り離して管理できるため、後工程への影響は抑えられている。

また、従来のパイプラインではWebコンフィグレーション用の自動車CGのレンダリングにRender Layerを使用していたが、Render Layerを増やすとMayaの動作が重くなる、データが壊れたときの修復が困難といった問題があった。KATANAではノードを分岐することで複数のレンダリング設定を一括管理できるため、柔軟かつ迅速に設定を切り替えられるようになった。加えて、複数のアーティスト間でのシーンやテンプレートの共有が容易になり、グループワークの強みがさらに発揮できるようになったという。

次ページ:
KATANAパイプライン検証デモ

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■KATANAパイプライン検証デモ■

▲KATANAパイプライン検証デモ/eg+ worldwide 提供


ここまでに紹介した、eg+ worldwideによるKATANA導入から現在までの経緯をまとめると以下のようなる。

●eg+ worldwideのパイプラインは、Maya形式のデータからの開始が避けられない
●Maya形式のデータの更新が頻発し、下流工程に大きな影響をおよぼしていた
●工程の並列化によって問題を解決するため、KATANAを導入した
●プリレンダー(KATANA)とリアルタイム(Unreal Engine)の両方に対応できるパイプラインを構築
●3D形状データはAlembic形式、マテリアル情報とバリエーション情報は汎用性の高いJSON形式で管理
●JSON形式のデータの書き出し・読み込みが可能なPythonカスタムツールを開発


■KATANAを検証したアーティスト(小林氏)の所感■

アーティストの立場でKATANAの検証を行なった小林氏の所感は以下の通りだ。

●Mayaと比較して、シーンファイルの読み込み時間が圧倒的に速い
●ノードの操作感が軽く、スムーズにシーンデータを構築できる
●複数のライティングパターンを備えたシーンデータも容易に構築できる
●ノードによる各パラメータのオーバーライドも簡単に行える
●ノードベースなのでデータ構造を把握しやすい。ほかのアーティストからデータを引き継いだ際にも、迅速に作業を開始できた

一方で、使いづらさを感じた点は以下の通りだ。

●レンダリング完了までの詳細な情報を確認できるようレンダーログの情報を充実してほしい
●シェーダのビジュアルはレンダリングしてみないと確認できないため、パラメータの設定を感覚で行うことが多くなる。Mayaのマテリアルビューアのようなものがあると調整しやすいのではと感じる
●ビューア上でオブジェクトを選択した後、アサインされているシェーダへのアクセスに少々手間を要する
●HDR Light Studioと連携できるようになってほしい


■今後の課題と展望■
前述したように、MayaとKATANA間のマテリアル情報はPythonカスタムツールを使ってやり取りしているが、現時点ではアーティストが利用できるシェーディングネットワークに制限がある一方で、ツールの改修には手間がかかっており、表現力と汎用性、工数のバランスが悪い状態になっているという。「マテリアルのフォーマット変更も検討しており、多数のプラットフォームに対応しているSubstanceやMaterialXなども視野に入れています。しかしKATANA上でイチからマテリアルを構築していくパイプラインにできれば、この課題は解決していくのではないかとも考えています」(今野氏)。

詳しくは後述するが、KATANA 4.0ではピクサーUSDテクノロジーがビルトインされたため、MayaからUSDデータ形式で出力すれば、3D形状とアニメーションだけでなく、マテリアル情報もそのままKATANAに読み込めるようになった。なお、現時点でその恩恵を受けられるレンダラはArnoldのみとなっている。今度USD対応レンダラやアプリケーションが増えていけば、KATANAを中核としたコンカレント型パイプライン導入のハードルはますます下がってくるだろう。


■KATANA導入を検討している方々へ■
eg+ worldwideへのインタビューの締めくくりに、KATANAを使いこなす上で必要とされるスキルについて、今野氏に語っていただいた。

「KATANAやNUKE、Houdiniなどのノードベースのソフトウェアを扱う場合には、自分がつくっているシーンの状況を全て把握したい(=コントロールしたい)という考え方が重要になってくると思います。知らない間にソフトウェア側で何らかの処理がなされていることを良しとするのではなく、自分がコントロールするという気持ちで触っていると、段々とKATANAを使うことが面白くなっていきます。また、工程の順序(設計図)を頭の中で描ける力があれば、操作が容易になると思います。とはいえノード(=機能)を理解していれば、設計図が曖昧でも結果を見ながら柔軟に変更できるので、導入の敷居は低いと思います。先入観をもたないことも重要ですね。例えば当社でNUKEを導入した際には、After Effectsの先入観を捨てることで、楽に操作できるようになりました。『Mayaではこうだ』といった先入観をもたずにKATANAを触った方がいいように思います」(今野氏)。

次ページ:
KATANA 4.0の新機能とは?

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KATANA 4.0の新機能とは?

KATANA 4.0には、従来のノードベースによる柔軟な操作性に加え、アップデートされたUSDテクノロジー、最先端のライティングUI、先進的なForesightレンダリングワークフローなどが備わった。

▲Lights, Camera, Katana 4.0(日本字幕付き)
この動画以外にも、YouTubeのThe Foundry Japan チャンネルでは複数のKATANA関連動画が公開されている。合わせてご活用いただきたい


■Hydra Viewer■ ピクサーUSDテクノロジーによるHydra Viewerが改良
・イメージベースドセレクション

Hydra Viewerのモニターレイヤーでレンダリングされたイメージから、ダイレクトにシーンオブジェクトを選択できるようになった。


・新しいライティングツール Lighting Mode
Hydra ViewerにLighting Modeが搭載された。Lighting Modeはライトの作成・操作・編集に必要なツールをすぐに使用できるため、インタラクティブで直感的なライティング環境が実現する。


ライトメニューからNormal、Specular、Reflectionなどの要素を選択し、オブジェクト上をクリックすれば、その場所にライトが当たるようになる。Hydra Viewer上でのコントロールは、以下のようにショートカットでも行える。

● Ctrl + ドラッグ(ライトの距離調整)
● Ctrl + Shift + ドラッグ(ライトの大きさ調整)
● Shift + クリック(プルダウンメニューから選択したライトを新規作成)

なお、Lighting Modeを有効にするとオブジェクト選択が無効化される。複数のライトのパラメータをHydra Viewer上にスプレッドシート表示させ、まとめてコントロールすることも可能だ。


■Rendering■ レンダリング関連の機能強化
・Foresight Rendering

ひとつのKATANAプロジェクトファイル内から、複数のショット、フレーム、アセット、アセットバリエーション、そのほかのタスクを処理しながら、複数のイメージを同時にレンダリング可能。

・Improved Render Farm Integration
KATANAのFarmAPI Pythonパッケージにより、開発者がレンダーファームシステムとKATANAをより密接に統合できるようになった。

・Katana Queue and Remote Rendering
ローカルのレンダリングキューとネットワーク上でアクセス可能なリモートワークステーションを用いて、レンダリング開始可能な最小限のレンダーファームを実装・出荷できる。

・Multiple Simultaneous Rendering
実行中のライブレンダリングと並行して、複数のプレビューレンダリングを開始可能。

・Catalog & Monitor UI Improvements
ツールセットが改良され、複数のレンダリングを同時に実行する際のワークフローの柔軟性が向上。モニターをスプリットできるようになった。


  • Catalogも改良され、レンダリングしたイメージサイズをコントロールできるようになり、確認が容易になった。


■Network Material UI Enhancements■ ネットワークマテリアルのUIを改良
・Multiple Network Materials in NetworkMaterialCreate Nodes

ひとつのNetworkMaterialCreateノードで、複数のネットワークマテリアルのロケーションを作成可能。


・Node State Filtering
ノード内の編集状態に基づき、NetworkMaterialEdit内のノードを暗くしたりハイライトしたりできるようになり、視認性が向上した。


■USD■ ピクサーUSDテクノロジーをビルトイン
・USD Export using, USD Material Bake

UsdMaterialBakeノードを使用して、マテリアルとそのアサイン情報をUSDファイルにベイクできるようになった(デフォルトではUsdPreviewSurfaceに対応)。


・USD Scene Delegate Improvements
Katana Scene Delegateが追加され、Hydra Viewer上でUsdPreviewSurfaceベースのマテリアルを表示できるようになった。



本記事は以上です。KATANAの関連記事は以下よりご覧いただけます。

KATANAによるパイプライン・ワークフロー改善(2018.10.23 公開)
ILMのパイプラインにおけるKATANA活用事例を折笠彰氏が解説「ルックデベロプメント&ライティング セミナー」レポート(2018.08.19 公開)

KATANA関連情報


KATANA 30日間無償体験版 ダウンロードURL
https://www.foundry.com/ja/products/katana/try-katana

定価
年間サブスクリプション:198,000円(税抜き)
※KATANA1本購入につき、レンダーライセンス5本を無償バンドル

開発元へのお問合せ
FOUNDRY 日本支社(jp.sales@foundry.com

購入に関するお問合せ
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