ゲーム開発者向け大規模カンファレンスCEDEC2021が、8月24日(火)から26日(木)の3日間にわたり、昨年に引き続きオンラインにて開催された。育児休暇取得は労働者の権利。しかしいざ実行となると気がひける方も多いのではないだろうか。収入や仕事に対する不安、上長や人事部、経営者に話を通すのも面倒だ。一方で育休取得者にとったアンケートでは「後悔している」との回答はほぼなかった。「ゲーム業界の男性育児休業~職場復帰の実態。リモートワークでの育児両立の難しさと働き方。3社事例紹介。」では、セガ、ヒストリア、スクウェア・エニックスから育休取得経験者が集い、「育児イベントの乗り越え方」についてディスカッションした。育休取得に悩んでいる方はぜひ本文を読んでいただきたい。
TEXT_武田かおり / Kaori Takeda
EDIT_三村ゆにこ / Uniko Mimura(@UNIKO_LITTLE)
ゲーム業界は男性も育休を取りやすい
ゲームに例えるならば、出産した女性が育児休暇を取ることは「強制イベント」だが、ほとんどの男性にとって育児休暇(以下、育休)は「選択肢の1つ」だ。「取得せずにそのまま働き続けるルート」、「少しの期間だけ取得するルート」、「がっつり取得して育児に専念するルート」から選択可能となっている。本セッションでは育休取得経験者の男性が集まり、男性の選択肢を広げるためのパネルディスカッションが行われた。
登壇者は、竹内公紀氏(セガ/データアナリスト、課長代行)、渡邉吉治氏(セガ/リードプログラマー)、増田 亮氏(セガ/リードプログラマー)、安部拓也氏(ヒストリア/ゲームエンジニア)、澤田 唯氏(スクウェア・エニックス/ゲームデザイナー)。そして経営者という立場から佐々木 瞬 氏(ヒストリア/代表取締役)、司会進行役は茂呂真由美氏(セガサミーホールディングス/総務本部)の6名。その内「育休取得経験者」は5名となっている。
▲(左から)佐々木 瞬氏、竹内公紀氏、渡邉吉治氏
▲(左から)増田 亮氏、安部拓也氏、澤田 唯氏
まず、本セッションのベースとなるアンケート回答者の属性に触れておこう。回答者数419名のうち男性が327名。さらに男性の内訳は「育休が取れなかった:107名」、「取った:53名」、「検討中:20名強」、「上司や同僚など当事者以外」。育休を取得する機会があった160名についての勤務先の規模と職種が資料1となる。従業員が20名以下の企業から1,000人以上の企業まで、様々な職種から回答が集まった。
▲資料1:アンケート回答者の性別と男性回答者の内訳
▲資料2:勤務先の規模と職種
データアナリストの竹内氏がアンケート結果から読み取れることを順に解説。「育休取得者の勤務先の規模を見ると、小規模企業も大規模企業も3割を越えているが、100〜299名規模の会社は2割強となっています」(竹内氏)。この結果について、ヒストリア代表の佐々木氏が「腹落ちする部分がある」という。「大きい会社は社会的責任もまた大きいため制度についていかなければならない面があるし、小さい会社は経営者が制度を決めることができる。100〜299の会社はハンドリングが難しい規模じゃないか」と分析。
▲育休取得者の勤務先の規模と育休取得者の職種
▲育休を取得しなかった方の理由と、育休を取得した方の取得のきっかけ
「育休を取得しなかった」理由に目を向けると、「収入が減ってしまうから」との回答が比較的多い。収入に対してプログラマーの増田氏は、育休状態をシミュレーションしたという。「具体的に計算すると、僕が育休を取った当時で手取りが8割になることがわかりました。ウチは共働きですし奥さんのキャリアを応援できることが取得の後押しになりました」と話す。ゲームデザイナーの澤田氏は「自分の場合は有給が残っていたので、連休と組み合わせて第一子&第二子のときそれぞれ3~4週間ほど休みを取りました。収入面を気にすることなく申請も手軽なので、育休だけが産後に休む手段ではないと知ってほしいです」と、有給を育児のために使うという選択肢の提示があった。
▲育休取得を伝えたときの反応と伝えた時期
▲上司や同僚の方に聞いた「育休取得についての考え」
気になる周囲の反応についてアンケート結果を見ると、「本人が望むなら使って良い(協力できることは協力したい)」「積極的に取るべき」と、安心できる回答が多く集まっている。育休取得を相談した時期については、6ヶ月以上前・3〜5ヶ月前と早い段階から伝えているという回答が多い。直近になって伝えると「普通」という反応が多くなっている。上司や経営者としても人材を補完する期間が必要なため、余裕をもって伝えた方が良さそうだ。安部氏からは「出産や仕事の納期は予定日とずれることってあるじゃないですか。私、2人目が3週間早く生まれたんです。(出産日が)ずれたとき、自分がどのように勤務するのか、休むのかも合わせて相談しておくと良いのかな」と相談内容について助言があった。
▲家事育児全般を担当しているとの回答が多い
実際、育休を取得した男性は育休中に何をやったのか。竹内氏は「ウチは2人共ひととおりのことができるようになろうということで、掃除、洗濯、子供の世話。妻の出産後の体調のことも考えて、生まれる前から練習していました」と話す。また渡邉氏が意識したのは「妻の産後鬱予防」。夜にすんなり寝る子供であれば良いが、子供によっては眠りかけたところで布団に寝かせると目がパチっと開いて泣く→親があやす→眠そうだから寝かせると泣く→あやす......の繰り返しだ。「妻に寝かしつけをがんばってもらうと、妻の睡眠時間とメンタル的な余裕も減ってくるので、僕が寝かしつけをやって妻にはしっかり休んでもらっていました」(渡邉氏)。
▲「男性育休取得期間(左側)」と「満足度・不満度について(右側)」のグラフ
今回のセッション参加者で、育休が出世に影響したと感じているのは増田氏だ。「時短勤務だと、夕方にバグ報告が来たときに本来であれば残業するところを翌日にしてもらったり、他の人に対応してもらう必要があったので、そこで影響が出たという自覚はあります」(増田氏)。一方、同じく時短勤務中の渡邉氏は、上長から育休取得や時短勤務を他の社員に広めてほしいとの要望があったという。そのためにも「特に効率化に関することや、自分の工数を正確に出すというところは意識するようになりました」と話している。先駆者の変化を周囲が見ることで、職場での育児休暇取得に対する捉え方が肯定的になり、今後の育休取得に繋がるかもしれないというわけだ。
リモートワークと育児の両立はクリア可能? それとも無理ゲー?
セガからの登壇者3名の1日のタイムスケジュールを見てみると、勤務時間の前後に家事・育児。子供が寝た後に家事・残業。そしてささやかなフリータイムを過ごしているのがわかる。1日に出社とリモートワークの両方を行う、というヒストリア安部氏は特殊な例かもしれない。安部氏は「事前にプロジェクトの相談をした上で、毎週末に翌週のスケジュールをSlackとカレンダーで共有するようにしています。例えば、保育園のお迎えと大切なミーティングがかぶる日はいつもより早くお迎えに行き、自宅からミーティングに参加します」と話し、自分で裁量をもって出社とリモートワークを切り分けているという。
筆者もヒストリアでの「育児・介護レギュレーション」はとても有効だと感じている。働き方を固定せず柔軟に自分で判断できることは、ハプニング頻出の子育て期間中は誰にとっても助かるしくみではないだろうか。
▲竹内氏、増田氏、渡邉氏の1日のタイムスケジュール
最後にセッション参加者の言葉を一言ずつ引用したい。「夫婦それぞれに合った休みの取り方、分担の仕方があると思います。今回ディスカッションした選択肢を頭の片隅に置いて、適切なかたちで選んでいただけたらセッションの甲斐があったのかな」(澤田氏)。「育休中には育児の現場にがっつり取り組めます。そこで得た知見と構築した環境は、復帰後のトラブルでも自分が貢献できる度合いはちがうと思うので、そういう面も踏まえて育休という選択肢を考えていただけたらと思います」(安部氏)。
「自分自身が家事育児に向き合うことで、時間内で手早く終わらせる技術とか身に付くんですよね。なので、育休を取って良かったと思っています。今回のセッションがみなさんの不安を払拭できると幸いです」(増田氏)。「育児って夫婦ワンチームでやること。育休という制度は整っていますし、会社も早めに相談してもらえば動いてくれるので、夫婦ワンチームで乗り切っていただければと思います」(渡邉氏)。「子供が生まれると生活スタイルが変わってしまいます。それに慣れる期間という意味でも、育休明けからどう仕事に復帰するかを考える時間という意味でも、育休を取得すると、いいスタートを切れるんじゃないかと思います」(竹内氏)。「経営者として、本人も周囲も納得できるかたちで仕事が回せるように、気軽に周囲を頼れる社内文化的な面、制度的な面、インフラ的な面、それぞれの観点から社内環境を整えていきたいと改めて思いました」(佐々木氏)。
このパネルセッションで得た知見を会社なり家庭なりに持ち帰って共有していただきたい。出生後間もない子供と過ごすレアな期間を、より良いかたちで乗り越える際の役に立つかもしれない。