7月31日(土)から9月25日(土)まで放送されたアニメ『マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝 2nd SEASON -覚醒前夜-』。本作は2011年に放送された『魔法少女まどか☆マギカ』の外伝として開発された同名スマートフォン向けゲームを原作としている。アニメ制作技術の総合イベント「あにつく2021」にて、本作を制作したシャフトのデジタル部 VEチーフ 3DCGディレクターの島 久登氏が登壇し、「シャフト流!アニメーションにおける3D活用の現在地とこれから」と題して、メイキングなどが語られた。本稿ではその様子をお伝えする。


TEXT & PHOTO_真狩祐志 / Yushi Makari
EDIT_三村ゆにこ / Uniko Mimura(@UNIKO_LITTLE)、小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)







2Dアニメーションのワークフローとフォーマットの策定

まず島氏は「シャフトとしては、3Dをゴリ押ししている作品をそんなに作っているわけではないため、いかにも3D然としたものを押し出した説明をしてもあまり意味はないと思う。2Dの中で3Dがどのように使われているか、どのような作業があるのかといったところにフォーカスした方がメリットが大きいのでは」と、本セッションのねらいを挙げて解説していった。

▲シャフト VEチーフ 3DCGディレクター・島 久登氏。制作進行からキャリアをスタート。もともと撮影(コンポジット)志望で応募したところ、面接中に社長から制作進行を勧められたそうだ

▲赤文字の工程について解説。レンダリングサーバがないため、各自のローカルマシンでレンダリングしている

メインで使用しているソフトはMaya、LightWave、Adobe Creative Cloud。サブで3ds Max、Houdiniである(現在、LightWaveからMayaに移行中)。少人数で制作しているため、全員がゼネラリストとして作業をこなし、得意なことがあるスタッフにはその比率を上げてメインで作業してもらっている。

▲2Dのワークフローにおける3Dの役割を赤字で示している

3Dと言うと「2Dと別々で作業する」と思う人が多いかもしれないが、実際には3D単体での作業はほぼ不可能だ。2Dの作画や仕上げが終わって色が付いたセル(2D)データが上がってから作業をすることが非常に多いため、次の話数に関わる箇所の準備をして素材を待ちながら、納品が近いものの作業をこなしていくケースが多い。2Dの作画よりも先に作業に入り、撮影(コンポジット)と同じタイミングで作業が終わることもあり、プロダクションレベルとしては「最初から最後まで」、全工程において作業に関わっていかなければならない。

2Dの作画は「紙ベースでの作業」と「デジタルでの作業」が共存している。この点は会社によってちがいはあるが、最終的な出力フォーマットがプリプロのレベルの場合、恐らくフルHDになっていない場合が多いという問題がある。これを納品先でアップコンバートしてフルHDにしている、といったケースが多いように感じる。シャフトとしては、4Kや8K(現状8Kでの制作が必要かはさておき)など将来的なフォーマットを見据えている。解像度とピクセルサイズが上がっていくことを考えると、対応していく必要があることが予想される。とはいえいきなり上げるのではなく、既存のものを1段階上げて、納品前の段階でフルHDにするかたちで進めているようだ。

▲紙媒体との互換性保持を考慮して策定

「フルHDの画質の担保」ということで、A4サイズの紙を186dpiでスキャンした2,156×1,526にしている。白い部分が実際にテレビに映る1,980×1,080ちょうどのサイズ。A4サイズにしているのは、各社ともだいたいA4サイズで描かれていることが多いためだ。「A4サイズで描かれているものをフルHDで担保するにはどうするのか、というところから導き出したら、その解像度とピクセルサイズになりました」(島氏)。

デジタルでの作画はワコムの液晶ペンタブレット「Cintiq 16」を使用。100%表示にした際に紙と比較して実寸サイズと変わらないものが用意でき、フルHDでドットバイドットの作業ができる。紙とデジタルの見映えを同じにするという点で、制作スタート段階での差異を相殺するという取り組みだ。紙の作画の場合、各セクションで作業工程がズレるごとにスキャンや出力が何度も起こり、解像度やサイズが変わってしまう問題がある。最初に作業したものとの不統一は、各セクションの作業効率を優先するために生じてしまうのだ。

フルデジタルでアナログを介さずに制作していく場合は、その問題が起きることなく2,156×1,526のまま撮影まで行うことが可能。3Dを2Dの作画に合わせて作業をする場合でも、「ピクセルのズレ」が起こらないなどメリットが多い。ただ、制作スタッフに新しい技術を覚えてもらう必要があるなど、様々な問題がありなかなか進まない。



3D作業が先の場合「2Dのための3D作業」とは?

下の画像は『マギアレコード』1話のカットから。3Dレイアウトでは、作画が紙で作業する前に3Dで画面構成などを決めてしまう。絵コンテから切り抜いた画をPhotoshopに取り込み、PSDデータを3Dにもってきて作成していく。

▲3DはLightWaveで作業している(以下、同様)

キャラクターの代わりとなる3Dモデルを配置して、カメラをグリグリと回してレイアウトを決めていく。レイアウトでしか使わない部屋モデルの場合、細部のつくり込みは省かれている。本編にも使用される部屋モデルの場合は、別に用意するかこのモデルをディテールアップする。過去作品では、アニメ『<物語>シリーズ』の教室やアニメ『美少年探偵団』の美術室になる。

▲ソファが大きかったり椅子の位置がちがったりといったことがよくあるそうだ

カメラが決まったら出力して、先ほどのフォーマットにはめていく。はめた状態が下の画像なのだが、「コンテは設計図でしかない」ため絵コンテが意図する画に寄せ、3Dでカメラを配置して画づくりを行う。実際に絵コンテを描いている段階で設定等を渡しているが、描く人の脳内でズレていってしまうことが多々ある。

▲キャラクターが作画、3Dレイアウトが背景で美術の素材として使われて、撮影を経てこのような画になる

そういった場合は、演出と相談しながら絵コンテと比較して3Dでの位置を動かすか、サイズを変えるかを決める。「3Dで制作している」というより、「3Dの中で2D用の画を作っている」といった感じで、「そこに寄せていくにはどうしたら良いのか」というアプローチがなされている。

下の画像は『マギアレコード』7話から。作画のアタリ作成は3Dレイアウトとはちがっており、作画が先に作業している。作画とマッチさせる部分を3Dで出力しなければならない場合、作画の差異を埋めていかなければ画が合わず事故につながる。それを避けるため、「作画で3Dを入れるとこうなる」といったことを指示するという。

先ほど絵コンテが入っていたところに、今度は作画されたレイアウトが入っている。そこに3Dがはめられた画像がこちら。このときも本番で使う画像ではなく、形状や輪郭がわかるように3Dは白黒にして出力する。白黒にする理由は、作画が紙ベースで作業する場合、カラーで印刷して渡すと塗料の分だけ若干厚みが出てしまうからだ。下敷きにするとデコボコしてやりづらいため、「社内ではカラーにしない」という方針となったそうだ。

本番用に背景の映り込みが入っているが、実際にアタリを出す場合はこういったことはない。アタリ出しをした上で、セルとマッチムーブさせるところで本番用に3Dを出力する。『マギアレコード』自体の作業工程が複雑でその作業が大変だったという。セルが上がってきて出力になるところで、さらに2工程くらい進んだ状態のものが画像(上)。それを出力し撮影したものが画像(下)になる。

似たような作業として「セル合わせの3D作業」がある。先に上がった作画に3Dを当てるのだが、セル作業後に再び3Dを当てるのではなく、セルが完成した後に合わせて3Dを載せるという作業で、社内でも混同することがあるという。先ほどはレイアウトだったものが、「完成したもの」を下敷きとして使っている。これは『マギアレコード』14話。手のところのソウルジェムが、作画に合わせて動いていくのを入れている。Photoshop上に載せたものしか用意できなかったが、先ほどのような作業画面でやっている。

考え方としては、基本的に「3Dは2D作業のため」にあり、いわゆる「作画の補助」として使われている。「セル合わせ」がまさにそうだが、ソウルジェムや本編中で一部の武器もそうだったりする。後は、キャラクターが持っている食器類などの小物だ。良く出てくる小物だが作画だと崩れやすいもの、ディテールを常に一定に保っておきたいものを3D化している。

また、画面構成の補助もそうだ。出てくる頻度が非常に多いものや再利用性が高いものを3D化して、3Dでレイアウトをまかなっている。作画で制作していくと労力がかかる部分、作業する人によってレベルの差が出てしまいクオリティの担保が難しくなる部分、タイトなスケジュールであるにも関わらずディテールを求められる頻度が上がり、人員の確保が難しくなっている部分の補助として、3Dレイアウトの比重が大きくなっている。



表現としての3D 〜アニメにおける3Dはどうなる?

続いては「表現としての3D」に関してだ。FX系の表現では「エフェクトアニメーター」と呼ばれるスタッフもおり、3Dではなかなか表現しづらいものや2Dならではの表現を描いている。そういったスタッフに対抗するのとは「別のベクトル」として必要になってくる「群衆」や「水」、「煙」を表現していく。PCが得意とする部分を活かすために使われることが多く3Dの方が人員が多いということもあり、時間やクオリティコントロールが可能になる。

▲瓦礫が追いかけてくるカットのレイアウト

これは『マギアレコード』1話冒頭で瓦礫が追いかけてくるカットだ。この場合は3Dレイアウトに近いが、先に3Dで動きを作った上でこれに合わせて作画するようにお願いして素材を渡している。「瓦礫の束を作画で制作するとなると大変な労力と時間を要するが、3Dで制作することでよりダイナミックな画になった」と島氏は話している。

それとは別にカメラワークのダイナミクス。3Dでは、セルと背景の2D表現では難しい「3次元のZ軸」や奥行き方向、単なる横移動でもパースの変化が可能になってくる。画像は『傷物語』のカットの「(建て替えられる前の)国立競技場」で、先に3Dでカメラワークを付けている。少し分かりにくいが、手前と奥にじわりと全体的にパース感を付けている。こういったことを作画のみで行うと、観客席を1枚ずつ描かなければならないため大変な労力がかかるだけでなく、ディテールの保持もまた難しくなってくる。

▲アニメにおける3Dのこれから

アニメにおける3Dが今後どのようになっていくのかについて、本セッションで語られた見解は2点ある。1点目は「さらなる2Dとのマッチムーブの進化」だ。日本における3D技術は、海外と比較すると「最先端技術を駆使して新しいものを作っている」というわけではないように感じられる。

逆に言うと、映画 『スパイダーマン:スパイダーバース』 (2019)のように、「日本アニメの表現」に挑戦している点は面白い事例ではないかと島氏。「日本アニメの動かし方や見せ方は、日本の中で醸成された特殊な見せ方だったりします。個人的にはそういったものをさらに強化したり見せたりしていくのが良いのではないかと思っています」(島氏)。また、アジア圏では日本以上に「上手い見せ方」で制作しているのも事実であり、このままでは日本は置いていかれるのでは......と危機感を覚えているとも。全て3Dで制作しようというのではなく、「3Dとセルの良い部分」を活かしつつさらに映像表現として昇華させていく必要があるのではないだろうか。

▲CG部署とVE部署のちがいについてよく聞かれるという島氏。「撮影とは別で、3Dも含む特殊な処理が必要ということで起ち上がったのがVEです」(島氏)

2点目が「3Dとのハイブリッド化の進化」で、作画スタッフが3Dソフトを利用して素材作成をするといった使われ方である。これはすでに、一部のフリーアニメーターや小規模チームの間では浸透しはじめている手法だ。その背景には「Blenderの進化」と「3Dソフトを扱うハードルを下げた」という点が挙げられ、「作画機能」や「ドローイング機能」を駆使した「ハイブリッド化」の事例が増えている。

島氏は「アンテナの張り方として、2Dだから3Dだからという考えはいったん捨て、どちらの情報も入れていくという姿勢が大切なのではないでしょうか。今後も現在の作り方とはちがった手法が出てくるはずです。新しい手法が登場したときに乗り遅れないようにしたいですね」と、情報収集も重要であると話した。

また島氏は、紙媒体からフルデジタルのワークフローに移行していく途中だが、そこからさらに先のモデルについてもアンテナを張り、絶えず情報収集を行いつつ技術の向上を怠らないようにすることで「強い人材」となり、人としても求められていくのではないかと、学生にエールを送りセッションを終えた。