秋の恒例イベントとして定着しているCGWORLD クリエイティブカンファレンスが、今年も完全オンラインで2021年11月8日(月)〜12日(金)に開催された。本記事では、SIGGRAPH Asia 2021特別座談会「初のハイブリッド開催:見どころすべて話します!」と題したセッションの模様をレポートする。SIGGRAPH Asia 2021(12月14日(火)〜17日(金)開催)の主要メンバー4人が語った、SIGGRAPH Asiaの楽しみ方と、参加することで得られる価値を紹介しよう。

TEXT_尾形美幸 / Miyuki Ogata(CGWORLD)


オンサイト会場では、日本語の同時通訳やBOFも実施

SIGGRAPHは48年の歴史をもつCGとインタラクティブ技術に特化した国際学会で、アメリカとカナダの様々な都市を転々としながら毎年夏頃に開催している。CGとインタラクティブ技術の分野では世界で最も権威のある学会と言える。詳しくは後述するが「学会」という言葉だけでは語り尽くせない様々な側面をもっており、学術界の研究者だけでなく、産業界のエンジニアやアーティスト、業界就職を目指す学生にとっても価値ある場になっている点が大きな特徴だ。

2021年で14回目となるSIGGRAPH Asiaは、2008年にシンガポールで開催された第1回を皮切りに、アジアの様々な都市を点々としながら、毎年冬頃に開催している。日本での開催は、2009年の横浜、2015年の神戸、最大規模となった2018年の東京に続き、4回目となる。そんなSIGGRAPH Asia 2021の見どころを、本セッションでは次の4人の登壇者が解説した。

●カンファレンス チェア・塩田周三氏(ポリゴン・ピクチュアズ 代表取締役)
●Games チェア・長谷川 勇氏(スクウェア・エニックス テクノロジー推進部 シニア・マネージャー/R&Dテクニカルプロデューサー)
●Art Gallery チェア・小川秀明氏(アルスエレクトロニカ・フューチャーラボ 共同代表)
●Local Committee・安藤幸央氏(エクサ クリエイティブサービスデザイナー、SIGGRAPH 東京 委員長)

▲本セッションの登壇者とMC。右上から時計まわりに、塩田氏、小川氏、長谷川氏、安藤氏、MC担当の筆者(CGWORLD・尾形美幸)。なお、小川氏はオーストリア在住のため、時差のある中での参加となった


コロナ禍の影響を受け、SIGGRAPH 2020、SIGGRAPH 2021、SIGGRAPH Asia 2020はオンライン開催となったが、SIGGRAPH Asia 2021はオンサイトとオンラインのハイブリッド形式となる。この形式での開催は、SIGGRAPHにとって初の試みだ。


オンサイトの会場はSIGGRAPH Asia 2018と同じく東京国際フォーラム、オンラインのプラットフォームはDelegate Connectとなる。


SIGGRAPH Asia 2021のテーマはLIVEで、オンサイトの価値とオンラインの価値を併せもったカンファレンスにすると、塩田氏は抱負を語った。「現代は、インターネットを通して、様々な情報を、安易に素早く入手できる時代です。しかし、情報に命を宿し価値あるものにするためには、情報の発信者と受取手のインタラクションが不可欠だと、私は思います。セッション中のQ&Aであったり、会場内での雑談であったりを通して、情報が咀嚼され、自分事になっていくのです。そういうライブ感あふれるカンファレンスをご提供できるよう、各プログラムのチェアと共に準備を進めていますので、ご期待ください」(塩田氏)。


SIGGRAPH Asiaに参加することで得られる価値を端的にまとめたのが、安藤氏による以下のスライドだ。SIGGRAPH Asiaで扱う情報は多岐にわたるため、業界・職種・経験年数を問わず、参加する人の興味や習熟度にフィットした情報と刺激を得ることができる。この機会を上手く使えば、自身の目線の高さを、今よりも上に引き上げることができるだろう。


チケットの種類と価格は以下のスライドの通り。残念ながら早割価格は既に無効となっている。比較的お手頃価格の「会場エクスペリエンス」でも、Art Gallery、Emerging Technologies、Computer Animation Festival、Games Gallery、Onsite Trade Exhibition(展示会)、XR Presentations & Talksなどを体験できる。詳細はこちらを参照。


▲SIGGRAPH Asia 2018のEmerging Technologiesの様子


▲SIGGRAPH Asia 2018のExhibitionの様子


「フルアクセス」と「バーチャル フルアクセス」のどちらにするかを迷っているという視聴者からの質問に対して、塩田氏は次のように回答した。「絶対、フルアクセスが良いと思います。オンライン(バーチャル)での参加は便利ですが、フラフラするという行為がなかなかできないんです。フラフラすることで得られるものがSIGGRAPHにはめちゃくちゃあります。SIGGRAPHでしか会えないような人に偶然廊下で会って話をするとか、移動するときに隣の人と感想を語り合うことで新たな示唆を得るとか、そういった何かと何かの狭間で僕らはいろんなことを学べるんです。今後メタバースのような仮想世界の技術が進化すれば、狭間すらもバーチャルに置き換わる時代が来るとは思います。今はまだ、そこにいたっていないので、非合理的な時間、目的のない時間の中にある偶然の出会いを体験するために、ぜひ会場に足を運んでいただきたいです」(塩田氏)。

加えて、国際学会であるSIGGRAPH Asiaの使用言語は英語だが、英語が不得意な日本人のために、大きなホールで開催されるプログラムに関しては、オンサイト限定で日本語の同時通訳をつけるという。同時通訳は、大ホール内で表示されるQRコードをスマホで読みとって翻訳サービスサイトにアクセスすることで、各自のイヤホンを通して聞くことができる。同時通訳を聞きたい場合は、スマホとイヤホンを忘れずに持参しよう(なお、Webベースのサービスなのでアプリのダウンロードは不要で、PC+イヤホンでの利用も可能だ)。

日本語セッションとして企画されている[アニメづくりのR&D:現状と今後]では、アニメ制作を支援するR&Dの現状と今後の見通しが議論される。こちらも学術界の研究者、産業界のエンジニアやTA、学生に幅広くお勧めしたい内容だ。


また、Technical Papers(技術論文)の内容を専門家が日本語で解説するBOF(Birds of a Feather)も開催される。「BOFというのは、同じ羽の鳥は群れる、すなわち類は友を呼ぶという意味の英語のことわざです。[Technical Papersを知る]では、研究の背景や意義を各分野の第一人者が日本語で解説してくれるので、産業界のエンジニアやリサーチャー、学生にとっても価値のあるプログラムだと思います」(安藤氏)。


CG・アニメ・ゲーム分野の企業関係者と学生の交流の場として設けられた[プロダクションミートアップ]も、国内の企業が参加するので日本語で対応してくれる。就職・転職活動の場として、ぜひ活用してほしい。ポートフォリオやデモリールの持参もお勧めしたい。


以降では、4人の登壇者によるプログラム紹介のハイライトを紹介する。

Keynote(基調講演)

基調講演は2つ企画されており、15日(水)にはソニーグループ 執行役 副社長 兼 CTOの勝本 徹氏が、「創造性×テクノロジー ~世界を感動で満たすには~」と題し、テクノロジーの力がクリエイティビティにもたらす可能性を語る。


16日(木)にはAKILI 共同創設者/最高クリエイティブ責任者のマット・オマーニック氏が、「医療としてのビデオゲーム」と題し、ゲームと脳科学が融合した新しい医学カテゴリーである「デジタルセラピューティクス」について解説する。「9年の開発期間を経て生み出されたAKILIのADHD治療技術がFDA(アメリカ食品医薬品局)に認可されたと聞き、僕はびっくりしました。ゲーム開発や映像制作を通して培われた技術が、人々に感動を与えるだけではなく、人々を健康に導く可能性もあることが示されたのです。2つの基調講演を通してテクノロジーの可能性を知ることで、我々にも新たな示唆が芽生えるんじゃないかと、すごく期待しています」(塩田氏)。

Technical Papers(技術論文)

CGとインタラクティブ技術の分野は、学術界と産業界の距離が近く、研究者・ツールの開発者・コンテンツや作品の制作者の交流が活発だ。「例えば、SIGGRAPHでTechnical Paperを発表した研究者が、翌年にはAdobeに入社してツールを開発しているといったことが日常的に起こっています。SIGGRAPHは、人と技術が産学間を円滑に行き来する場としても機能しているのです」(安藤氏)。


Technical Papersに注目している人は、初日(14日)に大ホールで開催されるPapers Fast Forwardにぜひ参加してほしい。会期中に発表されるTechnical Papersのダイジェストを総覧できるため、業界全体の技術トレンドを把握できる。


例えば過去のSIGGRAPH AsiaでNVIDIAが発表したGauGANは、機械学習を活用することで、ラフなスケッチからフォトリアルなアートを生成する技術だ。アーティストのコリー・ウェルズ氏は、この技術を最大限に活用することでコンセプトアート制作の効率化を図っている。


なお、この技術はNVIDIA CANVASとして提供されているため、システム要件を満たすPCがあれば、誰でも利用することができる。


▲SIGGRAPH Asia 2018のTechnical Papersの様子


▲SIGGRAPH Asia 2018のPostersの様子

Games

GamesはSIGGRAPH Asia 2020から始まった新しいプログラムのため、まだまだ発展途上であり、意欲的な挑戦が続けられている。2021のGamesのコミッティは、ゲーム会社で開発に従事するメンバーと、大学でゲームの研究や教育に従事するメンバーで構成されている。「我々は、SIGGRAPHとSIGGRAPH Asiaへのゲーム関連業界からの投稿、および参加者の増加を目指しています。また、それらを通してゲーム関連業界の存在感を高め、SIGGRAPH AsiaでのGamesのプログラムの確立を目指しています」(長谷川氏)。


Gamesのプログラムは、Technology、Art、Funの3要素を縦軸、LIVE(SIGGRAPH Asia 2021のテーマ)、CROSSOVER(SIGGRAPH Asia 2018のテーマ)を横軸にして考えられている。例えばTechnology × CROSSOVERを軸としたバーチャルプロダクションの導入に関する講演や、マレーシア・デジタルクリエイティビティ・フェスティバル(MYDCF 2021)からの講演。Art × LIVEを軸としたコンセプトアーティストによるライブドローイングが企画されている。さらにCEDECとのコラボレーションとして、CEDEC2021から選りすぐったセッションが英語で披露される。また、Fun × CEDECを軸としたビデオゲーム黎明期のドキュメント展示や日本ゲーム大賞作品の試遊展示も企画されている。


加えて、Technology × LIVEを軸とした、Real-Time Live!とのコラボレーションも見逃せない。

Real-Time Live!

SIGGRAPH AsiaでのReal-Time Live!は今回で3度目となる。リアルタイムCGとインタラクションを極めた9件のプレゼンテーションが採択されており、前述のGamesとのコラボレーションに加え、アニメーション映像、3Dモデルの制作支援技術、プロジェクションマッピングやバーチャルプロダクションの最先端技術、AR技術のスポーツや教育への応用など、多様性に富んだ構成となっている。見る人に新たな示唆や刺激を与えてくれる人気のプログラムなので、ぜひオンサイトで体感してほしい。


▲SIGGRAPH Asia 2018のReal-Time Live!の様子

Art Gallery

SIGGRAPH Asia 2021のArt Galleryでは「未来の儀式と共鳴」というテーマに対して147作品の応募があり、15作品が選出された。「COVID-19のパンデミックは人類が形成してきた伝統・文化・システムに影響を与え、世界各地のアーティストたちも巻き込まれました。Art Galleryでは、彼らの作品をキュレーションし、文脈をつくることで、未来の儀式はどうなっていくのか、人々はどのようにして共鳴していくのかを議論する場をご提供します」(小川氏)。

▲選出された作品の一部。未来のアミニズム、自然と人のコミュニケーションの在り方、テクノロジーと人との関わり方、個人と世界の連携のあり方などを問いかける作品が集まっている


オンサイト会場では、日本人キュレーターによるガイドツアーも企画されており、より深く作品群を理解できるようになっている。未来のアートについて語り合うトークセッションや、隣接会場での特別プログラムなども予定されているので、いつもとはちがう角度から表現について考える機会になるだろう。

▲SIGGRAPH Asia 2018のArt Galleryの様子

Computer Animation Festival

恒例のComputer Animation Festivalは、オンラインとオンサイトの両方で楽しめるようになっている。なお「会場エクスペリエンス」のチケットで大ホールのElectronic Theaterと小ルームのAnimation Theaterの両方を鑑賞できるので、ぜひこの機会に多くの作品を見てほしい。


▲SIGGRAPH Asia 2018のComputer Animation Festivalの様子

Featured Sessions

オンサイトとオンラインで開催されるFeatured Sessionsは、VFX/CG関係者にとって見逃せないプログラムだ。海外スタジオによる、ドラマ『Foundation』、映画『シャン・チー/テン・リングスの伝説』、映画『DUNE/デューン 砂の惑星』などのトークが予定されている。オンサイト参加者は日本語同時通訳があるのでお勧めだ。国内スタジオによる、アニメシリーズ『聖闘士星矢:Knights of the Zodiac』、アニメシリーズ『ブレードランナー:ブラックロータス』、短編アニメ『スターウォーズビジョンズ:The Duel』などのトークも予定されている。

Demoscene

リアルタイムに映像や音楽を生成するプログラムを「デモ」と言い、デモを鑑賞したり完成度を競ったりして楽しむイベントを「デモパーティ」と言う。「デモシーン」はデモやデモパーティを中心としたコンピュータのサブカルチャーだ。最近のデモシーンではプロシージャル技術が必須となっており、ゲーム開発や映像制作に応用できる知見も数多くある。SIGGRAPH Asia 2021ではデモシーンのプログラムも企画されているので、楽しみにしてほしい。

オンサイトの価値を再発見する場を提供したい

コロナ禍以降、我々はオンラインでのコミュニケーションやカンファレンスに慣れ、その利便性を享受してきた。今後、コロナ禍が完全に収束しても、オンラインの利便性が忘れ去られることはないだろう。しかし、オンサイトで得られていた体験の全てが、オンラインに置き換えられるようになったわけではない。「今現在、我々は限りなくノイズキャンセリングされた世界で生きています。その結果、ノイズがあるから生まれる創造性や、人に会うことで得られる示唆が失われて久しいと思います。SIGGRAPH Asia 2021で、それを再発見していただきたいです」(小川氏)。

info.

SIGGRAPH Asia 2021
2021年12月14日(火)〜17日(金)東京国際フォーラム(有楽町)+オンライン

2021年12月6日(月)〜 バーチャル・プラットフォーム
sa2021.siggraph.org/jp/