64bit 環境へのネイティブ対応が話題を呼んだ CS5 の発売から早2年。アドビ システムズの主力製品が CS6 へメジャーアップグレードとなったのを期に、5月 25 日(金)東京 六本木「ニコファーレ」にてユーザー向けイベント「Adobe CS6 VIDEO EVOLUTION - 超進化型ツールが変える映像制作」が開催された。本イベントは会場であるニコファーレの特徴を活かして、会場に来られないユーザーにもニコニコ生放送USTREAM によるライブストリーミング配信が行なわれた。視聴者からの書き込みはリアルタイムに会場で流され、ゲストがそれを見て答えるという一幕もあり、インタラクティブな反応が楽しめる、充実したイベントであった。

会場のニコファーレ。ニコニコ動画最大の特徴である、一言コメントが会場の横スクリーンに流れる。ゲストや参加者らが寄せられるコメントに注目する姿も見られた

After Effects × ベジェ=アニメーション

まず、株式会社 KOO-KI から木綿達史氏白川東一氏をゲストに迎え「KOO-KI が体験した CS6」と題した講演が行なわれた。最初に同社が手掛けた CM やゲームのオープニングムービーなどを紹介するデモンストレーション映像を放映。その中の1つ、コミカルな動きが印象的な「追悼 赤塚不二夫展」エントランス映像を題材に、どのように映像を制作したのか、CS6 との違いなどについて解説していった。




Entrance movie for the Fujio Akatsuka Retrospective Exhibition from KOO-KI on Vimeo.
「追悼 赤塚不二夫展」エントランス映像



同映像は、原画キャラクターや 3D の文字など各種素材にパペットツールによる処理を加え、コミカルな動きに仕上げている。制作当時(2011 年)は Maya でレンダリングしていたという飛び出す 3D 文字だが、今回 After Effects CS6 に加わったベジェを押し出す 3D 機能を駆使することで、同様のアニメーションを After Effects 上で制作できるようになったという。また CS6 では、Illustrator で作成したベジェ素材をそのまま After Effects に読み込むことができる。そこで Illustrator で作成した傘のイラストを用いて、After Effects のみを使ったベジェアニメーション制作が実演された。今後、3D テキストや簡単なアニメーションの制作は After Effects だけで可能になるかもしれない。

他に CS6 では、グローバルパフォーマンスキャッシュによって処理スピードが高速化され、After Effects の作業効率が非常に向上したという。同じ作業が早く終わる分、今までより制作にかけられる時間が増え、より良い作品を作るためのアイデアを練る時間を生み出すことができるようになったと2人は語り、映像制作の現場からも CS6 に対する期待が伺えた。

<左>終始、イベントの進行を務めた アドビ システムズ株式会社 古田正剛氏
<右>株式会社 KOO-KI の木綿氏(左)と白川氏(右)。同社は NTT データ の CM、『クレヨンしんちゃん』とコラボした関ジャニ∞の『T.W.L』MV、『実況パワフルプロ野球 2012』オープニング CG など多種多様な映像制作を手掛けている

「追悼 赤塚不二夫展」エントランス映像のコンポジットファイル。原画のキャラクターと Maya で書き出したテキスト素材にイラストの煙素材を加え、パペットツールでアニメーションさせている。枠にハマらない世界観を表現したという

Illustrator で作成したベジェ素材をそのまま読み、After Effects だけでイラストの傘が風で煽られるベジェアニメーションを作成した。以前は1コマ1コマ描いた素材を読み込む必要があったが、CS6 からは After Effects 上でベジェアニメーションを作成できるというわけだ

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進化した Adobe Premiere Pro CS6

次に行なわれた Premiere Pro CS6 の新機能紹介では、ゲストとして株式会社マリモレコーズ 江夏由洋氏が登壇。編集ソフトの将来はどうなっていくのか、HD の次のステージにくるものは何か、次世代アプリケーションとして 64bit とファイルベースネイティブ対応の制作環境がいかに優れたものになっているかを紹介した。

編集ツールとして、これまで Final Cut Pro に引けをとっていた感のある Premiere Pro だが、CS6 では Final Cut Pro のユーザーも無視できない大きな進化を発揮したと江夏は語る。サポート形式が広がり、Final Cut Pro、Avid のプロジェクトを読み込むことができるのだ。つまり、Final Cut Pro や Avid のユーザーが Premiere Pro を導入しやすくなり、ワークフローに Premiere Pro を取り入れやすくなったと言える。

  • 株式会社マリモレコーズ
    江夏由洋氏

    Premiere Pro CS6 プレリリース版のコミュニティーで世話役を勤めていた。元大手民放キー局のテレビマンという経歴を持つ映像作家でもある


まず目についたのが、インターフェイスの改善だ。読み込んだフッテージはサムネイルで表示されるので確認しやすく、またカーソルのスクラッチ動作でプレビューを行なえるホバースクラブも実装している。そして何といっても Mercury Playback Engine の強化は見逃せない。この機能はすでに CS5 で導入されたものであるが、今後重要が増してくるであろう 4K 素材を5つ同時にノーレンダリングでシームレスに再生してみせた。

大きく改善された Premiere Pro CS6 のインターフェイス。読み込んだフッテージがサムネイルで確認できる。複数素材の同時再生も難なくこなした




なお、会場で使用したメインマシンは最新の Intel Xeon Processor E5-2687W をデュアル(合わせて 32 スレッド)搭載、メモリ 128GB を積んだ HP 製のハイパーマシンで、そのスペックに会場からもニコニコ動画のコメントからも驚きの声が上がっていた。再生時の解像度はハーフサイズではあるが、MacBook Pro でも同様のファイルを再生してみせ、高いパフォーマンス性能を示した。

また昨今のデジタルビデオツールの進化に合わせ、CS6 では RED や一眼レフの多くの動画フォーマットにネイティブ対応した。RAW データを直接読み込むことで、変換に要する手間をかけることなく編集作業を行なえる。さらに再生しながら色見を調整したり、Premiere Pro 自体に調整レイヤーを追加できるようになったことも見逃せない。ワープスタビライザーによるローリングシャッター補正、マルチモニタの編集など、Premiere Pro CS6 の躍進が期待される大きなバージョンアップであることが印象づけられた。

Mercury Playback Engine の強化により、4K のネイティブ素材をリアルタイムに再生しながら Ultra キーエフェクトでキーイングの処理をし、さらに調整レイヤー追加による3ウェイカラー補正ができるなど、驚きの処理能力をみせつけた

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グローバルパフォーマンスキャッシュ

続いてラスベガスで開催された NAB 2012 のレポートを挟み、Vilvo Designworks 緒方達郎氏によって After Effects CS6 の新機能が紹介された。緒方氏によると「一言で言うと、きちんとやってくれる新機能」というのが印象とのこと。ユーザーが仕組みや複雑な手順が判らなくても、ちゃんとやりたいことを手伝ってくれる機能が備わっているのだという。

  • Vilvo Designworks
    緒方達郎氏

    After Effects CS6 プレリリース版のコミュニティーで世話役を勤めていた。After Effects のユーザー同士が情報を共有するコミュニティーサイト AEP PROJECT の企画・運営も行なっている

CS6 ではグローバルパフォーマンスキャッシュによるキャッシュの効率化が図られ、 RAM プレビューに大きな進化がもたらされた。今までは RAM プレビュー後、1度何か変更を加えると、例えヒストリーを戻してもまた最初から RAM プレビューをかけ直す必要があった。しかし、グローバルパフォーマンスキャッシュの搭載により、1度キャッシュを保持したものは同じキャッシュをいつでも即座に呼び戻すことができる。よって部分的に変更した RAM プレビューは、変更箇所のみを処理して変更のない部分はキャッシュを使うのですぐに再生できるのだ。またヒストリーを戻せば、前の RAM プレビュー結果を即座に表示することも可能。さらに、コンポ上、同じ構成のフレームと判断すると同じキャッシュとして自動認識されるので、キャッシュの使い回しができ、非常に作業効率が良い。これはタイムリマップ使用時にも同様に適用されるという。

また、Premiere Pro との連携も強化された。Dynamic Link により Premiere Pro ともキャッシュのやり取りができ、After Effects と Premiere Pro 間での作業の往復にストレスはない。トライ&エラーを必要に応じて頻繁に行える、なんとも嬉しい機能追加である。他にもレイトレース 3D レンダリングエンジンの搭載によって、テキストやシェイプを押し出し、反射や環境マップなどを加え、リアルな描画が可能になったとのこと。他にも 3D カメラトラッカーによる優れたトラッキングのデモなど、多彩な新機能の紹介が行なわれ、ユーザーの期待値は高まっていた。

レイトレース 3D としてパスを 3D に押し出すことが可能になり、環境マップによるリアルな写り込みも表現できるようになった。また平面だけであった 3D 機能も板を直接曲げられるようになるなど、簡単な 3D のロゴアニメーションの制作であれば、After Effects 1つでかなりの部分まで対応することができる

3D カメラトラッカーでは、2D フッテージに 3D 要素を配置してトラッキングすることが簡単にできる。エラーが出た場合は、エラーが出ている特徴点を選んで編集もでき、応用性は高い

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Adobe 公認のクラウドサービス

次に東映ラボ・テック株式会社 根岸 誠氏が登壇、新しい映像制作支援サービスを紹介した。ユーザーがデジタルカメラで撮影した各フォーマットの RAW データをクラウドサーバ上にアップすると、SpeedGrade CS6 などを用いて同社で即座にカラコレを行い、翌日には映像の色調確認ができる。Adobe 製品を使用したクラウドサービスとしては初の公式認定となる。また撮影済みデータをクラウドサーバに保存することで、ユーザーは場所を問わずサーバにアクセスして編集することが可能。その他、素材管理には映像の長期保管に有利な LTO テープでのデータ保存や、データの閲覧サービスなども提供される。今後は After Effects の分散レンダリングサービスも準備しているという。クラウドサーバと Adobe 製品がうまく合致して実現できた、プロから一般ユーザーまでを対象とした新しいビジネスの提案であった。

  • 東映ラボ・テック株式会社
    根岸 誠氏

    Adobe Creative Suite 6 Production Premium の導入により、ポストプロダクションとしてのさらなる一歩となる「映像制作支援サービスプロジェクト」という新しいサービスを提案した

広がる可能性、Adobe Creative Suite ファミリー

イベントの最後を飾ったのは Adobe Creative Suite ファミリーの紹介だ。アフレコ時の編集に威力を発揮するスピーチ自動同調機能の他、音量やノイズを振幅統計で測定し、ITU-R BS.1770-2 のラウドネス標準規格の音量に簡単に準拠することができる音声編集ツール「Adobe Audition CS6」。今回新しく加わったツールとしては、インターフェイスを簡易化し、カット編集に特化することで制作作業を効率的かつ直感的に進められる「Adobe Prelude CS6」Lumetri Deep Color Engine の調整能力により、諧調情報をフルに利用した強力なカラーグレーディング機能を利用することができる「Adobe SpeedGrade CS6」がある。どれも非常に魅力的なツールであった。

Adobe Audition CS6 のインターフェイス。スピーチの自動同調では、動画に録画した元となる声の波形とスタジオでアフレコした声の波形を参照することで、リップシンクの修正を自動的に短時間で完了できる

Adobe Prelude CS6 のインターフェイス。インターフェイスを簡易化し、カット編集に特化させている。編集データは Premiere Pro に送信したり Final Cut へ XML 形式で書き出すことが可能。まさしく Prelude(前奏曲)の名前に相応しい役割を果たす新しいツールである

Adobe SpeedGrade CS6 のインターフェイス。Premiere Pro から DPX の連番ファイルを読み込み SpeedGrade 用プロジェクトファイルを作成するか、EDL ファイルを SpeedGrade で読み込む。カラーグレーディングの情報は「ルック」という形で管理し、多くの特殊なフィルタをプリセットのパターンとして搭載している。簡単にカラーグレーディングを行なえるツールだ

イベントを振り返って

イベントに参加した感想であるが、業務で使用する場合、プロジェクトの進行に合わせて特別に必要性がなければ、直ちにソフトをアップグレードして最新版を使用する機会は少ない。しかし今回、グローバルパフォーマンスキャッシュや Mercury Playback Engine の搭載でより強力になった CS6 は、是非ともそのパフォーマンスを実感すべく、直ちに使用してみたいと思うツールへと劇的に進化していた。

現段階で一般家庭の需要がどこまであるかは別の問題として、映像業界において、大画面、高画質による鮮明な映像制作というものは、これからも無視できない永遠のテーマであろう。正直イベント参加前には、高解像度における 3D レンダリングの計算時間は大きな課題であり、4K 素材の普及はまだまだ先のものであると思っていた。しかしここに来て、これだけ強力なツールが登場したとなると、想像以上に早く 4K 時代が到来するのかもしれないという感想を持ち帰ることとなった。64bit とファイルベースネイティブの制作環境を持つ次世代アプリケーション「CS6」の登場は、この先の映像制作におけるワークフローに大きな影響を及ぼすことは間違いないだろう。

TEXT_永岡 聡(lunaworks)
PHOTO_大沼 洋平

「Adobe CS6 VIDEO EVOLUTION
 - 超進化型ツールが変える映像制作」

開催:2012 年5月 25 日(金)
会場:ニコファーレ
主催:アドビ システムズ 株式会社

「Adobe CS6 VIDEO EVOLUTION - 超進化型ツールが変える映像制作」