[PR]

デジタル・コンテンツ業界を目指す学生のためのフリーペーパー「CGWORLD Entry」のイベントCGWORLD Entry Liveの第二回目が2014年10月5日、ベルサール九段にて開催された。 前回は企画セッションの模様を中心にお伝えしたが、今回はゲーム・アニメ・実写VFXの各分野を牽引する企業によるメイキングセッションの模様をお伝えしよう。

スクウェア・エニックス ヴィジュアルワークス部 セッション
『進化し続けるライトニング』

生守一行氏
株式会社スクウェア・エニックス ヴィジュアルワークス部
ジェネラル・マネージャー兼 チーフクリエイティブディレクター

コンピュータグラフィックス(CG)は技術(テクノロジー)とアート(グラフィックス)が融合した表現領域だ。両者のバランス良い進化が求められるが、時には崩れることもある。しかし、そうした時こそ真の創造性が発揮されるのかもしれない。
株式会社スクウェア・エニックスのヴィジュアル・ワークス部(以下、VW)でゼネラルマネージャ兼チーフクリエイティブディレクターを務める生守一行氏の講演は、その実例だろう。「進化し続けるライトニング」と題して、「ファイナルファンタジー(FF)XIII」三部作の主人公キャラクター、ライトニングの頭部3Dモデル変遷について解説した。プレイステーション3、Xbox 360で発売され、シリーズで初めて高解像度のグラフィックスに対応した「FF XIII」(2009年)。「XIII-2」(2011年)「ライトニング リターンズ(LR)」(2013年)と続く、同一世界観・主要キャラクターでの三部作だ。

「FF XIII」シリーズ3部作を通じた、映像品質向上のために注ぎこんだ技術の変遷

生守氏は「当初から三部作が決まっていたわけではなく、パイプラインやアセットなどもそれに適した構造になっていなかった。一方、続編ということで予算やスケジュールも短縮せざるを得ず、さまざまな工夫がなされた」と説明する。

ゲーム機の世代交代にあわせて、技術検証も兼ねたプリプロダクションが徹底された「XIII」の開発。特にライトニングの表情や衣装のディティール、質感などの表現にこだわった。しかし本制作に向けた最終検証で壁に突き当たる。ネックになったのはレンダラーだった。エンジニアリングコストの高さやフィジカルライティングの弱さなどから、当初予定されていたRenderManが見送られ、mental rayが採用されることになる。

その後、好調なセールスを受けて続編「XIII-2」の制作が決定されたが、すでにVWでは他タイトル向けにツールやパイプラインなどが刷新されていた。しかし旧アセットの再利用などの理由で、過去のパイプラインを再利用することになる。予算やスケジュール面から総合的に判断されてのことだが、現場では戸惑いも見られた。

最終的に選択されたのが、オリジナルのシェーダーを開発して、質感や陰影をアップさせる方法だ。あわせてフェイシャルアニメーションやカメラアングルも、より細かく調整された。こうしてライトニングの頭部3Dモデルはそのままに、全体的なクオリティを引き上げることに成功したのだ。

RenderManでレンダリングされていたプロトイタイプ版(ライトニング1号)と、mental rayが採用された本制作版(ライトニング2号)。エンジニアリングコストやライセンスコスト、他のパートとの兼ね合いなど、総合的な見地から判断された。これによりフィジカル・ライティングやグローバルイルミネーションが可能になるなどの恩恵もあった

「XIII-2」の開発ではオリジナルシェーダーが制作され、旧アセットと新アセットの双方で質感などの最適化がおこなわれた。またフェイシャルアニメーションやカメラアングルなどを細かく調整することで、頭部3Dモデルはそのままに全体的なクオリティアップが行われている。両者を比べると微細だが確実な進化が見られる

しかし、話はそれで終わらなかった。「LR」の開発が決定したからだ。「XIII」のプリプロダクションから数年が経過し、求められる映像品質も向上していた。そこで「LR」では満を持して頭部3Dモデルの改良や、パイプラインが刷新されることに。生守氏は「同じキャラクターなので、あからさまな変化は避けたい。このさじ加減が難しかった」と振り返った。

このように「FF XIII」シリーズでは三部作を通して、技術面(シェーダーの開発やツール・パイプラインの刷新など)とアート面(3Dモデルのクオリティアップなど)の双方で、状況にあわせた選択が行われ、映像品質の向上に貢献した。この両者がCGの両輪であることは、冒頭で紹介したとおりだ。生守氏は学生に対して「個人でもチームでも、このバランスを常に考えて良い作品を創ってほしい」と締めくくった。

「LR」ではライトニングが再び主人公になったことで、頭部3Dモデルの改良が行われた。ヘアー、フェイス、全身などで使用されたポリゴン数も1.5倍程度に増加。リギングシステムも最新の技術で改良され、より自然なポーズが可能になっている。またパイプライン自体も改良されている

ファッション雑誌とのコラボを実施するなど、三部作終了後もキャラクターたちは進化を続けている。本件では実際のモデルを撮影後、頭部だけを「FF XIII」シリーズのキャラクターに変更している。フィジカル・ライティングが可能になったため、ライティングもモデル撮影時の環境光データが流用できた

NHKアート セッション
『テレビ番組におけるデザインおよびCG・VFX業務の紹介』

寺部 晶氏
株式会社NHKアート デザインセンター デジタルデザイン部
アートディレクター

ふだん何気なく視聴しているテレビ番組。しかし今では、その多くでCGによる映像表現が行われている。株式会社NHKアートで、デザインセンター・デザインデジタル部のアートディレクターをつとめる寺部晶氏は「テレビ番組におけるデザインおよびCG・VFX業務の紹介」と題して、これらの制作概要について説明した。

番組コンセプト・アウトプット先に応じた映像演出の有り方とは?

NHKアートはNHKのグループ会社で、昭和36年に設立され、番組で放送される美術制作・デザイン全般を担当している。そのうち寺部氏が所属するデジタルデザイン部は、3DCG・VFXの制作を担当する部署だ。ツールはMayaを中心に、After Effectsでコンポジットする形式が主流だが、場合によってまちまち。寺部氏は「番組ディレクターがロケなどカメラで撮影するもの以外の、テレビ画面に映る様々なものを作っている」と説明した。

寺部氏が紹介したのは「①番組のデザインおよびCG・VFX」「②タイトルCGの制作」「③テレビドラマ・ドキュメントのCG・VFX」だ。①では「NHKスペシャル 京都祇園祭 千年の謎」と「NHKスペシャル ミラクルボディ」、②では「戦後史証言プロジェクト 日本人は何をめざしてきたのか」、③では「1914 幻の東京」が取り上げられた。

「番組のデザインおよびCG・VFX」には、「番組内で使用される再現ドラマなどのCG・VFX」「キャスターなどが番組解説を行うスタジオCG」「事象や専門家などの考えを説明するための解説CG」などがある。このうち「京都祇園祭」では女優の栗山千明さんが祇園祭の歴史を辿る内に、国宝「洛中洛外図」の世界に入り込むシーンで、再現CGが制作された。もとになった日本画のタッチはそのままに、絵の質感をそのまま立体にしたようなCGを3ヶ月で制作したという。

洛中洛外図をベースに再現された都の街並みと出演者の合成イメージ。ベースとなる美術品以外にもさまざまな資料が集められ、建物のディティールなどが再現されている。出演者の合成にはスタジオ内でのバーチャルセットとクロマキー合成の両方が使用され、カットによって使い分けられている

「ミラクルボディ」で作成されたのは解説CGだ。解説CGとは番組ディレクターが取材した内容を、視聴者向けにわかりやすく説明するための映像のこと。同番組はトップアスリートの肉体やパフォーマンスを科学的に分析する内容で、MRIで撮影した脳の断面図の解説や、モーションキャプチャーで撮影した肉体の動き、ピッチ上でのサッカー選手の動きなどがCGで作成された

タイトルCGには大河ドラマのオープニングCGのような壮大なものから、ニュース番組の冒頭で流れるアイキャッチ的なものまで、大小さまざまな案件が含まれる。「戦後史証言プロジェクト」では、人々の証言をもとに歴史を描くというコンセプトから「電球が次々に灯っていく」「たくさんの立方体が空中を飛んでいく」「大小の歯車が回転する」という3種類のプランが寺部氏らから提案され、電球案が採用された。番組の顔となる映像なので、コンセプトに対する理解と幅広い提案力が求められるという。また、絵コンテの制作にもCGの静止画が使用され、制作スタッフのイメージの共通化と効率化が図られているとのことだ。

最後の「テレビドラマ・ドキュメントのCG・VFX」では、関東大震災前の東京の街並みを再現する「1914 幻の東京」の事例が紹介された。本番組は通常のHDではなく、4K映像で制作されており、撮影・編集機材からCG制作まで、すべて4Kに対応したものが使用されている。背景はデジタルマットで作成され、エキストラの実写映像がクロマキー合成された。遠景のエキストラではCGキャラクターも併用されている。

寺部氏は仕事のやりがいとして「テレビにはさまざまなデザインのアウトプットがあり、自分に見合った表現で勝負できる」と語りました。またテレビならではの影響力の大きさや、さまざまな部署の人間が集まって制作する団体競技的な面も魅力だという。あまり一般には知られていない分野ですが、この講演を聴いて少しでも興味を持ってもらえれば嬉しいと締めくくった。

関東大震災前の東京を再現するうえで、予算やスケジュールの関係からフル3Dではなく、デジタルマットと人物の合成がおこなわれた。震災や空襲で多くの建物が破壊され、現存する写真なども乏しいため、資料には当時数多く印刷されたカラーの絵はがきなどが用いられている

番組作成には70名のエキストラが集められ、クレーンによってさまざまなグループで撮影され、組み合わせて使用されている。日本橋のシーンではCGのキャラクターも作成され、手前はエキストラ、奥はCGキャラクターといったように、組み合わせて使用されている

オレンジセッション
『バディ・コンプレックス アニメCGメイキング』

【左から】織笠晃彦氏、藤原勇太 氏
有限会社オレンジ バディ・コンプレックス班 CGチーフ

日本独自の表現様式ともいえる、手描き作画によるリミテッド・アニメーション。デジタル化の進展とともに、この領域においても3DCGによる映像制作が増加中だ。有限会社オレンジでCGチーフを務める織笠晃彦氏と藤原勇太氏は、「バディ・コンプレックス アニメCGメイキング」と題して、作画アニメにおけるCGの役割や、手描き作画とCGのなじませ方、CGならではの良さを加味する表現方法などについて解説した。

ますます進化し続けるアニメCGの今

「バディ・コンプレックス」は「機動戦士ガンダム」などで有名なサンライズが手がけたロボットアニメで、同社ではメカが登場するカットをCGで作画している。設定画を元に3ds Maxでメカのモデリングを行い、可動部分の設定をもとにセットアップ。絵コンテやレイアウトをもとにアニメーションを作成してレンダリング。After Effectsでエフェクトの追加などを行い、撮影会社にAEデータとして納品するのが主な作業の流れだ。

モデリングでは独自にスプラインを作成したり、ハイライトをポリゴンで追加しているさまが示された。設定資料だけでは情報量が不足しがちで、シェーダーによる陰影ではアニメ的なハイライトの表現が困難だからだ。戦艦などのモデルには反射光やオクルージョンなど6種類の質感を加えているが、こりすぎると背景などと浮いてしまうため、バランスが重要。セットアップ時は関節部分の詳細設定を作画側に追加発注もしている。

また3DCGではパースやデッサンが正確な一方で、そのままではアニメ的なケレン味に欠けるアクションになりがちだ。そのため同社ではポリゴンの表面にスキンを設定し、自由に伸び縮みできるようにしている。これにより胴体が曲がったり、足が伸びたりといった、アニメ的な表現を可能にしているのだ。

CG制作はメカだけのカットでは絵コンテから直接。キャラクターとメカが混在するショットでは、作画のレイアウト出しを待って行われる。絵コンテやレイアウトといった平面的な世界を3ds Maxで立体的に再構築し、アニメーションやカメラワークを設定して、レンダリングするというのが主な流れ。大まかな位置移動やカメラワークを最初に設定し、徐々に細部の動きを作り込んでいく。織笠氏と藤原氏は「作画だけでは難しいカメラの回り込みや背景動画なども、3DCGを使用することで可能になり、よりダイナミックな表現が可能になる」と説明した。

「バディ・コンプレックス」のCG制作工程。通常の設定画だけでは資料が不足するため、リギング用に関節部分の設定資料を描きおこしてもらうこともある。メカだけのシーンは絵コンテからCGを作成するが、キャラとメカが混在する場合はレイアウトから作成し、一枚絵としての完成度を担保させている

設定画から3Dモデルを描き起こすだけではディティールが不足するため、スプラインやハイライトを独自に追加する。ハイライトはシェーダーではなく、あえてポリゴンモデルを上乗せする。シェーダーではアニメっぽいハイライトを載せることが困難だからだ。表面にはスキンを設定し、アニメ的な動きを可能にしている

一連の作業が終了したら、ポストエフェクトをAEで行う。本作の見せ場である、カップリングモード時の羽の発光表現では、羽の3D位置回転情報をプラグインのAftermaxを介して出力。その後AEの3D機能を使用してテクスチャとしてはめ込み、最終的なカップリングの処理を行っている。光の粒子や爆発エフェクトなどの表現も、3DCGではなくAEのプラグインなどで表現する。このようにCGデザイナーが2Dと3Dの両方の思考を併せ持つことで、効率的な作業が可能になるという。

こうして出力されたAEデータは最終的に撮影会社に納品され、作画素材と共にコンポジットされる。同社では撮影会社と協力して、作画素材も3DCG素材も同じようにAE上で扱えるように工夫している。織笠氏と藤原氏は「素晴らしい作画素材を見ると、3DCGも触発されて、ますますやる気が出る。またインターネットなどで、すぐに感想や評価が得られる」と仕事の醍醐味を語る。メカだけでなく、人物も含めたフル3DCGの映像作品が増加している昨今、ますます多くの可能性が広がっていると説明し、講演を締めくくった。

カップリングモードでの羽の表現は3dsmaxでテクスチャーデータを作成し、AEで3Dモデルにはめ込んで調整する。光の粒子もAEのパーティキュラーを使用する。こうして作成されたAEデータは撮影会社に納品され、作画素材とともに最終処理が行われる。作画素材とCG素材を撮影会社が同じように処理できるように工夫されている

アニメーションは大まかな動きから徐々にディティールへと段階的に設定していく。絵コンテの指示をもとに3D空間上で動きを設定していく、3DCGならではの「絵作り」だ。カメラが回り込むなど作画では難しい演出も、3DCGでは自在に行うことができるため、よりダイナミックな演出が可能になる(石野氏)

TEXT_CGWORLD編集部ほか
PHOTO_大沼洋平





CGWORLD Entry Live vol.2

開催日:2014 年10月 5 日(日)
会 場:ベルサール九段
主 催:ワークスコーポレーション