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AMD が昨年リリースしたワークステーション向けグラフィックスボード ATI Fire Pro V8800 と ATI FirePro V5800 。両製品とも、多画面出力と RGB 10bit 出力に対応した豊かな色再現性おいて競合製品よりも高いコストパフォーマンスを有していることが特長だ(詳しくは、本レビュー記事・前編を参照してもらいたい)。後編となる今回は、CG・映像制作者がグラフィックスボードに対して求める最重要ポイントである描画パフォーマンスについて検証したい。
描画パフォーマンスを検証する
グラフィックスボードについて、CG・映像制作者、特に実作業を手掛けるデザイナーが知りたいのは各種スペックの細かな数値や規格ではないことは言うまでもない。我々が"本当に知りたいこと"とは、
1.ムービーの再生状況(コマ落ちしないか等)
2.作業時のプレビューレンダリングの回数&その速度
3.サードパーティ製プラグインとの相性
4.3DCG描画と、そのメモリ管理
5.最終レンダリングの速度
以上の5点である。いずれも、作業者の主観的な印象を伴うものであるため、これから述べる検証結果についても感覚的な表現が多くなってしまいがちだ。しかしハードウェアスペックの先入観を持たずに、起きた現象をそのまま書き伝えたい。
前置きが長くなったが、今回は昨年リリースされたAMDのワークステーション向けグラフィックスボード「FireProシリーズ」のハイエンドモデル ATI FirePro V8800(以下、V8800)と、同ミドルの ATI FirePro V5800(以下、V5800)の描画パフォーマンスについて一連の検証を行なった(マシンは HP Z800 Workstation を利用した)。検証用のデータは、2010年9月4日に埼玉アリーナで開催された『TOKYO GIRLS COLLECTION 2010 A/W』(第11回 東京ガールズコレクション)の「洋服の青山ステージ」で使用されたスクリーン映像のプロジェクトを使用。具体的には、キヤノンのデジタル一眼 EOS 7D で撮影されたフルHDサイズの QuickTime ムービー(MPEG-4 AVC)を Adobe Premiere Pro CS5 に読み込み、ピクチャー・イン・ピクチャーで最大6ソースまで段階的に増やしていった。はたして、編集に耐えうるだけの処理をグラフィックスボードは行なってくれたのだろうか?
V8800を搭載したHP Z800 Workstation にて、Premiere Pro CS5上でフルHD画質の動画を再生。ピクチャー・イン・ピクチャーを使い、数秒間隔で再生させる動画ファイルを増やしていってみた。最大6ソース(レイヤー)まで増やしてみたところ、CPUやメモリの稼働率は上昇するものの、最後までコマ落ちすることなくスムーズに再生できた
今度は、ボードを V5800 に積み替えた状態で同じテストを試してみた。こちらも最後までコマ落ちすることなく再生することができた。動画を見てお分かりの通り、タイムラインをスクラブさせた際もスムーズに追従してくれるので、快適に作業が行えた
ノンリニア編集の場合、通常はスーパーや静止画素材は別として、フッテージとしては最大4ソース程度で編集することが多いのではないだろうか。その意味では、かなり高負荷の処理であるはずなのだが、V8800 、V5800 共に 6ソース(レイヤー)まではスムーズに再生することができた。これは素直に驚きである。ちなみに V8800 に対して 7ソースを試してみたところ、途端に全レイヤーに配置されたムービーがコマ落ちしてしまった。恐らく、HDD のデータ転送能力が間に合っていないのだろう。また、6 レイヤー中の 1レイヤーに対してエフェクトをかけてみたところ、途端に動きが鈍くなってしまった。ここら辺はボードの開発だけでなく、ソフトウェアが GPU アクセラレーションへの対応を拡充する必要があるので、今後の改良を期待したいところだ。
テスト前は、価格差が動作の差として明確に現れるかと思っていたのだが、上述の通り V8800 と V5800 共に問題なくフルHD 動画 6ソースの同時再生を、最後までコマ落ちさせずに行うことができた次第。いわば、現行の Evergreen 世代の FirePro 3D Graphicシリーズがいかに高い基本性能を有しているかを実感する結果となった。
さらに特筆したいのが、V8800、V5800 どちらも非常に自然な階調表現を持っていることだ。描画パフォーマンスから話が逸れてしまうのが、検証作業を行なっている最中に終始感じていたのだが、両ボードから出力される画像は階調が非常に美しく、変な色ムラなどは全く見られなかった。競合他社製品と比較すると、メリハリのあるコントラストの強い画づくりというよりも、穏やかで元データの色情報を忠実に描画しているような印象を受けた。その根底にあるのは、V8800 並びに V5800 が RGB 10bit 出力に対応していることである。今回は、ナナオの FlexScan SX2262W を併用することでRGB 10bit 出力/表示環境が実現できたわけだが、イコライジングされていない忠実なルックを下に、クリエイティブワークを行えることの重要性はかなり大きいだろう。CRT が事実上、世界中で生産終了してしまい、LCD をはじめとする後継となる表示デバイスが依然として CRT 同等の色再現を出来ずにいる(主に暗部の階調と動画応答性において)こともあり、今日では"マスターモニタ"という概念が地位低下しつつあるのは否めない。その弊害として、「明るければよい」、「色がギンギンに乗っていればよい」、「黒がギュッと締っていればよい」などと、家庭用テレビと同じ感覚で素人臭い画づくりをするグラフィックスボード、モニタが巷に溢れてしまっている(CG・映像制作者のカラーマネジメントに対する意識の低さも課題だろう)。そうした中で、ナチュラルで上品な色再現を行う ATI FirePro V8800 、同V5800 の設計思想には大いに賛同する。特に V5800 は、10万円を切る価格帯で 3画面同時出力対応(DisplayPort×2+DVI×1)と RGB 10bit 出力を実現しているのだから驚きだ。
ベンチマークツールによる測定
ここまで主観的なコメントが前に出すぎてしまったので、今度はオーソドックスに、ベンチマークツールによる客観的なパフォーマンス検証について解説しよう。今回は、SPECviewperf 11 、CINEBENCH R11.5 、ファイナルファンタジーXIVオフィシャルベンチマークという、3 つのソフトで計測を行なった(ドライバーのバージョンはいずれも「FirePro/GL/MV Software Suite 8.743.3.2」を使用)。
まずは、SPECviewperf 11 である。非営利団体Standard Performance Evaluation Corporation(SPEC、標準性能評価法人)が公開・配布している本ソフトは、世界中で最も幅広く使われているOpenGLベンチマークの定番と言えよう。そして、その結果をまとめたのが下のグラフ。V8800、V5800共に良好なスコアを叩き出しているのではないだろうか。
SPECviewperf 11によるパフォーマンス測定結果をグラフにまとめたもの。maya-03では、ウルトラハイエンドに位置付けられるV8800、V8750がV5800に大きく差を付けているが、lightwave-01では、僅差だがミドルレンジのV5800がウルトラハイエンドの2ボードより高い数値を示した
次に、CINEBENCH R11.5 で計測。その名の通り、独マクソン社が開発する統合型CGソフトCINEMA 4Dをベースにしたベンチマークソフトである。CPUとOpenGLの測定が行えるが今回はCPUについては割愛した。結論としては、V8800に加え、V5800も前世代のV8750よりも高いスコアを叩き出した。
CINEBENCH R11.5のV8800測定結果。OpenGLのスコアは「63.51」と、V8750の「48.73」やQuadro FX 5800「45.52」よりも高い数値を叩き出した
続けて、V5800 を測定したところ「62.16」という、V8800 に肉薄する非常に良好なスコアであった。グレード(スペック)よりも世代差が数値に影響するのかもしれない
最後に、ファイナルファンタジーXIVオフィシャルベンチマーク である。本ソフトにはスコア結果の目安が示されているのだが、それに当てはめるとV8800は「快適」、V5800 と Quadro FX4800 は「やや重い」という結果になった(このテストは、おまけで試したこともあり V8750 の測定は行わなかった次第)。このベンチマークソフトは言うまでもなく、ファイナルファンタジーXIV というビデオゲームを快適にプレイできるか、つまり OpenGL ではなく DirectX9.0c の描画パフォーマンスを測るものなので、Radeon や GeForce などのコンシューマー製品のハイスペックなモデルの方が往々にして高スコアを出すことが多い。その点は誤解なきようお願いしたい。
V8800 の「ファイナルファンタジーXIVオフィシャルベンチマーク」測定結果
同じく V5800 のスコア。少々厳しい結果となったが、『FF14』という、非常に美麗=高負荷なゲームグラフィックを描画するわけなので妥当な結果と言えるのではないだろうか
参考までに筆者の手元にあった、Quadro FX4800でも測定してみた
今回利用した3ソフトに限らず、ベンチマークソフトは数値を下に客観的な性能比較ができるという意味では実に有意義だが、実際のCG・映像制作では、目指す表現や、レンダリング方式などの作業アプローチによって、ソフト/ハードのパフォーマンスも大いに変わってくるのは言うまでもない。月並みの言葉だが、あくまでも目安に止めてもらえればと思う。
また、グラフィックスボードの性能を効果的に引き出すには、適切なドライバがインストールされている必要がある。特に高度な処理を行うワークステーション用ボードの場合は単純に最新のものを使えば良いというわけではなく、動作保証がされているドライバを用いることが重要だ。グラフィックスボードのドライバ情報は常に更新されているので、定期的に確認することをお勧めしておく。
個人的な導入の目安
V8800 と V5800 の描画パフォーマンスについて、実際のCG・映像制作に即したクリエイター主観と、ベンチマークソフトによる客観の両面から見てきたがいかがだっただろうか? どちらも FirePro 3D Graphic シリーズの最新モデル(2011年1月上旬時点)だけあり、筆者としては非常に高い性能を実感することができた。
「機械なのに生きているようだ」、「電子機器なのに人にやさしい」というのは、Apple製品に対してよく聞くコメントである。今回のレビューでは、まさに同様の印象を V8800 と V5800 に抱いた次第。グラフィックスボード本来の役割を突き詰めると、GPU が演算した結果を、画像情報として表示デバイスに伝達する、ということになるのだろうが、両ボードには良い意味で人間臭いというか、数値至上主義とは違うベクトルの開発姿勢を感じた。思い込みかもしれないが、エンジニアだけでは気が付かない、いや、気付いていたとしても価値として見出さないアイデアがこの製品には埋め込まれている気がする。単純なハイスペック化、高機能化とは別の視点から、ユーザビリティを考慮しながら設計されているように感じるのだ。その象徴が、上述した RGB 10bit 出力による素直な画づくりである。少しでも興味を持った人には、ぜひ実際に自分の目で確かめてもらいたい。
ウルトラハイエンドモデルに位置付けられる ATI FirePro V8800(奥)と、同ミドルの V5800(手前)
最後に、ヴィジブレックスという映像プロダクションの機材購入を担当する筆者の視点で購入するとしたら、ATI FirePro V5800 と FlexScan SX2262W の組み合わせである。この組み合わせで可能となるRGB 10bit 出力の滑らかな階調と忠実な色再現性に大いに魅了されてしまった。SX2262W は現在実勢価格で6万円ぐらいなので、個人のパフォーマンスを重視するフリーランスや、プロダクションの中でもエースに位置付けられるデジタル・アーティスト向けに、この組み合わせで3画面環境を構築するというのは大いにアリだろう。タイム・イズ・マネーとは言うが、時間はお金で買うことはできない。費用対効果を最大限に引き出したいのであれば、導入を考えてみてはいかがだろう?
V8800とV5800、そして後編で解説するパフォーマンス検証時に比較した前世代の最上位モデルV8750の主立ったスペック一覧。現行シリーズではV8800のさらに上位モデルとして1枚で6画面表示が可能なATI FirePro V9800もラインナップされている
TEXT_田中啓生(VISIBLEX)
PHOTO_弘田 充・大沼洋平
SPECIAL THANKS_株式会社ナナオ、日本ヒューレット・パッカード株式会社
ATI FirePro 3D Graphicsシリーズ
問い合わせ先:株式会社エーキューブ
TEL:03-3221-5950
FAX:03-3221-5953
エーキューブ公式サイト
『TGC '10 A/W × 洋服の青山』
今回のレビューでは、昨秋にVISIBLEXが制作した、ファッションイベント『TOKYO GIRLS COLLECTION 2010 A/W』(第11回 東京ガールズコレクション)の「洋服の青山」ステージ映像を使用させて頂いた。改めてご協力に感謝したい。
『TOKYO GIRLS COLLECTION 2010 A/W』「洋服の青山」ステージ映像
制作:有限会社ヴィジブレックス
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