アメリカ、マーベル・コミックの人気作品『アイアンマン』がアニメーション化され、アニマックスにて放送中だ。制作を担当したのは老舗のアニメ制作会社マッドハウス。これまで2Dアニメーションで高い評価を得てきた同社だが、本作では社内でのCGキャラクター・アニメーション制作にも挑戦している。これまで培ってきた2Dアニメーションの技法を活かしたCG制作に注目した。
アメコミの人気ヒーローをCGでアニメ化
アニメ版『アイアンマン』は、実写映画版『アイアンマン』(2008)をベースとした主人公トニー・スタークが日本を舞台に活躍するTVシリーズだ。
本作は、従来の2DアニメーションとCGアニメーションのハイブリッドで制作されており、アイアンマンなどのロボット系キャラクターは基本的にCGアニメーションによって制作されている。これまで、『よなよなペンギン』(2009)などのフルCG作品も手掛けてきたマッドハウスだが、実際にはCG制作は外注することが多く、本格的なCGアニメーションを内製するのは初めてのことだという。
内製にあたっては、マッドハウスの社内企業とも言えるデジタル部門のマッドボックスがCGアニメーションの制作を担当した。「マッドハウスは、これまで2D主体のアニメーションを制作してきたので、2Dアニメのワークフローは確立しているのですが、3DCGに関するワークフローは未知な部分が多かった。毎週放映される番組のCGを作り続けていくというのはどういうことなのかを体験したかったんです」と、3Dディレクターの籔田修平氏は語る。今回、CGアニメーションの制作スタッフとして、現役の2D作画アニメーターである森山 洋氏等を起用するなど、2Dアニメーション制作の老舗としてのノウハウをCGに活かす工夫も随所に見ることができる。マーベルのキャラクターが日本のアニメ手法でどのように料理されていくのか、非常に楽しみな作品だ。
モデルには式コントローラや関節ごとのヘルパーを設置
本作品に登場するアイアンマンなどのメカ系キャラクターは、ほぼフルCGで作成されている。モデリングからアニメーション付けまでのほとんどの工程は、3ds Maxによって行われた。CGモデルは、帯番組で使用されるモデルということで、効率よく完成度の高い動きが付けられるように、様々な部分にアトリビュートを使用した式コントローラによるギミックが仕込まれており、アニメーターがキャラクターの演技付けに作業を集中できるよう工夫されたそうだ。
今回は、2D素材と違和感なく共存できるモデルが求められたため、キャラクターを構成する各パーツのスケールを、自由に変更できるようにセットアップされた。そのため、Bipedを使ってリグをセットアップせず、通常のボーンを用いたリグ構成となっているという。なお、モデルのデザイン自体は、部分的に2D作画によるアイアンマンも使用しないといけないカットも想定されるため、2D作画に切り替わっても作画可能な範囲に3Dモデルのデザインも考えられているとのこと。
アイアンマンのモデルの手の部分の式コントローラ。手を握る、指を動かすなどの動作を簡単に行えるようにセットアップされている。特に機械っぽい動きにならないように、各指に入力される角度が微妙にずれるように設定されている
セットアップされたアイアンマンのモデル。身体の各パーツは、自由にスケールを変更することができるようにセットアップされている。設置されている緑のヘルパーを操作することで、モデルのデザインを破綻させず各パーツのスケールを変更することができる
コントローラを操作して、頭、右腕、左足のスケールを変更したもの。アクションの強調などには非常に便利な機能だ
2Dアニメーションの誇張した画づくりをCGでも実践
本作のワークフローでは、CGが絡むカットに関しては、最初にレイアウトをマッドボックスで作成し、そのレイアウトに合わせて、2D背景などが作成される流れで進められている。
カットのレイアウトを作成する場合、カメラのレンズ口径の調整だけでは、迫力がでない場合などアイアンマンのモデル自体のスケールを変更するなどの工夫がされている。「この作品で大事なのは、フレーム内での構図の収まりやポージングなんです。フレーム内での収まりが良ければ、後は動きのメリハリを付けることで、カッコ良いアクションが成立すると思っています。なので、アイアンマンのモデルは、カットごとに完全に見え方重視で、パーツの大きさが手前と奥で違っていたり、パーツの比率を変更したりしています。この作品は基本的に2Dアニメの作品だと思っているので、2D作画的なアニメーションのカッコ良さをCGのアニメーションでも表現したいですね」と籔田氏は語る。CGアニメーターに、現役の2D作画アニメーターを積極的に採用していることも、2Dと3Dの垣根を越えてあくまでカッコ良いアニメーションを表現したいというマッドボックスのチャレンジの現れだ。
標準状態のアイアンマンのプロポーション。映画版やコミックを参考にオリジナルデザインになるべく忠実にモデリングされている
カット用に手足の比率などを変更したモデル。上半身はコンパクトに表現し、逆に下半身はスケールを大きくしている。特に頭のサイズは半分以下となっており、垂直方向へのパース変化を強調するプロポーションだ
プロポーションを変更したアイアンマンのモデルをシーンに配置して、実際のカメラワークを施したもの。膝下から頭部へかけて極端な広角レンズを使用したショットとなっており、アオリ感のある力強いレイアウトとなっている
撮影を施した完成カット。これらの工夫により迫力のあるシーンが完成する
効率よくクオリティアップするための工夫も
本作で使用されているアイアンマンのモデルは、アニメーション処理やレンダリング処理の効率化を図るために、非常にシンプルなものとなっている。通常このようなCGキャラクターでは、ロングショットとアップショットで、クオリティを変えたモデルを複数用意する場合が多い。しかし本作では、「アイアンマンの場合、特別なケースを除いてロングもアップもモデルは兼用しているんです。その変わりにマテリアルの方でディティールに変化を付けて、アップ時などに情報量のある絵にできるように対応しました」(籔田氏)。単一の解像度モデルで様々なカメラワークに対応させているわけだが、キャラクターのディテール描写については、ロングからミドルショットまでのマテリアルと、アップショット用のマテリアルを2種類用意することでフォローしているという。
また、効率よく映像のクオリティアップを行なうためには、コンポジット作業も大きなポイントとなってくる。「本作では、実はCGのアイアンマンの他にも2D作画によるアイアンマンもカットに混じっています。2D作画にコンポジット側で質感を調整することでCGと違和感のない質感表現をしています」と語るのは、コンポジット担当の五関 寿氏。こうした姿勢からも帯番組で使用するCGを効率よく制作していくため、オーバークオリティな作業を極力排除し、あくまで2Dアニメーションとしてのクオリティが追求されていることが窺える。
ロングからミドルレンジで使用する、アイアンマンのベースとなる質感。ベースのマテリアルは、3ds Max標準のマテリアルを使用している。テクスチャは特に使用していない。輪郭線は3ds Max用 ノンフォト リアリスティック・シェーダー プラグイン「Pencil+」を使ってレンダリングされている
アップ用の質感を施したアイアンマン。ロング用のモデルに比べると、カゲ面との境界が調整されたり、全体の階調が増えている。またハイライトの入り方も複雑になっており、アップで撮影した時でも金属質感が表現されるように調整されている
TEXT_大河原浩一(Bit Pranks)
PHOTO_弘田 充
作品情報
TVシリーズ『アイアンマン』
アニマックスにて毎週金曜22:00から放映中。
原作:マーベル・コミックス
ストーリー:ウォーレン・エリス
監督:佐藤雄三
キャラクターデザイン:梅原隆弘
メカニックデザイン:小池 健
製作・著作:Superhero Anime Partners、ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント、マッドハウス
『アイアンマン』公式サイト
メインスタッフ
左から順に
五関 寿氏(コンポジット担当)
平野将彦氏(モデリング担当)
森山 洋氏(アニメーター)
根本繁樹氏(プロダクトマネージャー)
籔田修平氏(3Dディレクター)
マッドハウス公式サイト