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KLabが開催する学生向け3DCGデザイナーズコンテスト「KLab Creative Fes'15」で本戦が実施され、10作品のプレゼンテーションが行われた。国内外で活躍する審査員によるパネルディスカッションなども開催され、様々な刺激や知見が交錯するイベントとなった。
KLab Creative Fes'15 予選通過者たちの熱烈なプレゼンテーション
モバイルオンラインゲーム大手のKLabが実施する学生向け3DCGデザイナーズコンテスト「KLab Creative Fes'15」の本戦が8月9日に六本木ヒルズで開催された。予選応募者を中心に約100名が参加し、敗者復活戦で勝ち上がった2組を含む、合計10組がプレゼンテーションを実施。ローラーブレードのイメージムービーを制作した西村丞二さんの作品
『MIRAGE FLAME』がグランプリに輝いた。
本イベントはモバイルオンラインゲームのリッチコンテンツ化で最先端を進むKLabが学生に夢と目標を与えるため、今年はじめて実施したものだ。賞金総額は50万円で、KLabの内定チケットが得られる特別賞も授与される。3DCGを使用していればジャンルは不問で、特にメンバー数に制限はない。
本戦に出場した作品は動画が7作品、静止画が3作品で、子どもから大人まで楽しめる温かみのある作品から、エッジの効いたクールな作品、東日本大震災をテーマにしたメッセージ性の高い作品など多岐にわたった。個人作品が占める割合も多く、あらためてツールの進化など3DCG制作をとりまく環境の充実ぶりが感じられた。
イベントの冒頭では、審査員によるパネルディスカッションも開かれた。左から 小出誠也氏(KLab)、早野海兵氏(画龍)、山家 遼氏(ModelingCafe)、田島光二氏(Double Negative Visual Effect)、北田栄二氏(ModelingCafe福岡)
会場ではポートフォリオアドバイス会や若手デザイナー座談会、審査員のCG作品が掲示されたギャラリーも実施された。学生がKLab社員に対して率直な質問を投げかけたり、ポートフォリオに対して熱心な指導を受ける姿が見られたり、学生同士で交流が行われたりと、様々なかたちで刺激や知見が交錯する場になっていた。
グランプリ:西村丞二さん
『MIRAGE FLAME』
ナイキやBMWをはじめとした、海外の広告映像にみられるテンポ感があって美しい映像を制作をテーマに、架空のローラーブレードのブランド「MIRAGE FLAME」のイメージムービーという設定で制作された。ヨーヨーが変形してローラーブレードの車輪になるというギミックも加えられている。
【左上】Hyper Yo-Yoが真上に向かって回転している【右上】靴ひもがハトメの中に勢い良く入る【左下】Hyper Yo-Yo が RollerBladeのタイヤに変形する【右下】分離されていた全パーツがRollerBladeの形状になる
コンテ制作ではより正確な演出をめざすと共に、周囲からのアドバイスももらいやすいとして、CG素材で絵コンテを作成した。近景での演出を多用するため、靴紐などの柔らかい素材と、皮や樹脂といった固い素材の質感をリアルに表現することに注力している。
このほかレンダリング時間を節約するために、セッティングを自動化するスクリプトをPythonで自作。レイヤーやパスの設定から、マスクやデプスのマテリアル生成などを自動化し、バッチ処理でレンダリングできるようになっており、コンポジットに時間を割けるように工夫された。
【受賞コメント】
ローラーブレードのPVがあまりなかったので、対象に選びました。子どもの玩具という認識を外すことと、子ども時代に父親からはじめてもらったプレゼントという、2つの狙いをこめて演出しました。受賞については嬉しくて言葉が出ません。学生のうちに本気になれるものを見つけられて、しかも表彰までされて、良かったです。今後も創作活動を続けていきます。
【審査員コメント】
エッジの効いた絵作りや、かっこいい演出など、好きなものや得意な表現が何か、自分で良く理解されていると思いました。子どもの頃に夢中になったものを、大人になって習得した3DCGという技術で映像表現されたわけで、すごく良いと思います。実は僕も子どものころ、ヨーヨーの大会で優勝した経験があるんですよ。そのため、ヨーヨーが変形してローラーになるシーンでは、思わず画面に引き込まれました。
またクリエイティブだけでなく、スクリプトまで作成してレンダリング作業を効率化された点もすごいと思いました。これから仕事を続けられていく中で、思い通りにならないことも出てきます。そんなときでも、自分がこれまで好きだったものを思い出して、がんばってください(山家氏)
2位:KENPS(武中敬吾さん・野本有紀さん)
『ゆめみるシロ』
クラシックの名曲「花のワルツ」をBGMに、「シロ」を中心とした絵具のキャラクターたちが、キャンバスの中の世界をカラフルに染め上げていく作品。
色のない自分に落ち込んでいた「シロ」が、キャンバスの中で鮮やかな赤・青・黄に出会い、混ざり合うことで無数の色たちが生まれ、真っ白だった世界が、点描画のように彩色されていく。
【左上】主人公のシロ。陶器製のパレットに座っている。【右上】シロの憧れの鮮やかな絵画。しかしそこに「白色」はない。【左下】キャンバスの中には遊園地のような世界が広がっている【右下】色彩豊かに色づいた世界
テーマは「子どもから大人まで世界中の人が楽しめるような作品作り」で、身近で愛らしいキャラクターを通して、シンプルだがリアルなファンタジー世界を作り上げることがめざされた。制作期間は約9ヵ月で、武中氏が監督・絵コンテ・アニメーション・ライティング・音響を担当し、野本氏がCGスーパーバイザーを担当している。
はじめに二人でさまざまなシーンのアイディアを出し合い、それを元に絵コンテから実制作へと進んでいった。高校の美術室でロケハンを行い、イメージを膨らませるステップも踏んでいる。カラーコレクションなどのチェックは大学にある11.1チャンネルサラウンドの4Kシアタールームで実施した。
【受賞コメント】
子どもを中心に、大人まで全ての人に感動を与えたいという思いを込めて制作しました。そのために、シンプルかつ意外性のあるストーリー展開や、身近にありそうなかわいいファンタジー、見応えのある画面づくりにこだわりました。作品を制作している間、休日や深夜まで作業に付き合ってくださった先生方や、家族や友人などお世話になった方に良い報告ができてとても嬉しいです。
【審査員コメント】
作品の完成度が高かったです。わかりやすさもあり、すごくいいなと思って、個人的には一番高い点数をつけました。赤・青・黄色のキャラクターが交わって、そこからいろいろな色のキャラクターが生まれていく中で、黒くて悪い奴が出てきたらおもしろいなとか、自分なりに想像も膨らませながら鑑賞していました。すばらしかったです。(田島氏)
3位(特別賞同時受賞):三浦光理さん
『THE SOLJOYA』
生態系の頂点に立つ聖獣をテーマにした作品で、「SOLJOYA(ソル・ホージャ)」とは「太陽の宝石」の意味。架空の生物をリアルに表現するために、質感と設定が細部に至るまで突き詰められた。
特徴的な背中の角は太陽をモチーフとしており、ミネラルとケラチンが硬化したもの。火口付近の鉱石からこれらを摂取しているという設定で、コンゴウインコのくちばしからヒントを得ると共に、魚類的な顔立ちを加味して神聖さを醸し出させている。筋肉の付き方はライオンや馬、体表も牡蛎・ホネガイ・ウミガメ・サイ・ダチョウなど複数の生物が参考にされている。
テクスチャは4Kサイズが3枚用いられており、ZBrushでポリペイントを施した後にPhotoshopでディティールを加え、手描きでひび割れも追加。3Dモデルもアニメーションさせることを前提にメッシュを分割し、近景用と中・遠景用の2種類が作成されている。台座は聖獣の生息地を想起させるため、ベネズエラのギアナ高地を参考に岩場と水たまりの組み合わせで表現されている。
【受賞コメント】
「SOLJOYA」は太陽の宝石という意味で、質感と説得力をもたせることを念頭に、自然 界の様々な動物の生態やマテリアルを参考にしました。生体や環境にあった架空の生き物を作るうえで、質感と設定上の説得力をもたせることが重要だと考えました。膨大な知識と論理的な説明を通して、他人に作品を伝えることについて学びました。 今回特別賞とW受賞ということで、まったく予期しておらず、ただただ嬉しいです。今後も個人制作をがんばっていきたいと思います。
【審査員コメント】
3Dモデルのプレゼンテーションとして非常にすばらしかったです。モデルの形状だけでなく、クリーチャーのストーリー性やバックボーンなどが細かく考え抜かれており、自分なりに消化した上で作品として結実されていました。これからも様々な個人作品をつくられると思いますので、楽しみに見させていただきます。本当におめでとうございます。(北田氏)
特別賞:祭田俊作さん
『Cyborg girl』
荒廃した世界で生き残っている、半分人間で半分機械という設定の少女。大気が汚染されていて呼吸ができなくなっている世界という設定で、口元を覆うマスクと背中の生命維持タンク、胸の呼吸器などがデザインされている。また厳しい環境ゆえに身体も弱っており、両足が義足に置き換わっている。
使用ツールは背景がMaya 2016で、人物はZBrush 4R7とMudbox 2015をメインに使って、それぞれ作成された。制止画の作品ではあるが、アニメーションさせることを前提に作られている。そのため人物のメッシュもあまり細かく分割せず、ZBrushでスカルプトが追加された。顔はサブサーフェイス・スキャタリングマップをベースに、ディフューズマップで傷などが表現されている。他にディスプレイメントマップで皺などを表現し、毛穴などのディティールはノーマルマップで追加した。
アルファチャネル、ディヒューズマップ、フローバルイルミネーション、反射、屈折、スペキュラ、サブサーフェイス・スキャタリングといった具合に、パスで素材を分け、レンダリングした後に、最終的にPhotoshopで合成された。空気感や大気中の塵の表現、色味といった細かいところにも配慮を重ねたという。
【受賞コメント】
荒廃した世界で生きる半分人間で半分機械の少女という設定です。アニメーションを前提に、できるだけポリゴン数をおさえて、ZBrushによるスカルプティングで形状をデザインしています。
【審査員コメント】
敗者復活戦で勝ち上がってきたということで、改めておめでとうございます。作品はすばらしかったのですが、なぜこのキャラクターが、こういう形状をしているのかという、バックボーンの点で説得力が不足していたのが残念でした。今後も個人制作や企業内での仕事など、さまざまな形で活躍されると思います。次回作に期待しています(北田氏)
次ページでは、惜しくも入選には漏れてしまったが、130名の応募者の方から本戦に出場したその他6名の作品を、応募者のコメント、審査員のコメントとともに紹介したい。
先﨑大朗さん
『終点』
【制作者コメント】
福島県の被災地出身者として、原発の問題をテーマに映像を制作しました。柔らかい動作や水彩画のようなテクスチャ、メタファーを多用した映像などを心がけました。
【審査員コメント】
審査員コメント:自分も福島県出身者として感慨深くプレゼンテーションを拝聴しました。手描きの水彩画風テクスチャーから、絵本の中にいるような印象を受けました。今後もこうした作品を作ってメッセージを発信してください(早野氏)
霍漫さん
『steam punk』
【制作者コメント】
飛行士にあこがれる発明少年を主人公に、スチームパンクの世界観での冒険活劇をイメージしてキャラクターを作成しました。
【審査員コメント】
自分でデザインしたキャラクターを自分で立体にできるのが3DCGの一番の魅力だと思います。2Dと3Dの両方で高いクオリティを達成しており、非常にすばらしかったです。今後も両方ができる優秀なデザイナーをめざしてください(早野氏)
市川泰雅さん
『destroyer』
【制作者コメント】
原爆の父と言われるロバート・オッペンハイマーから着想を得て、環境改善ロボット「rha」が人類に氾濫をおこすというムービーを作成しました。「rha」は太陽神ラーをイメージしています。
【審査員コメント】
技術的に未熟な部分もありますが、絵作りの点ではプロデビューできるくらいかっこよかったです。僕と好きなものが近いかもしれませんね。家でヘッドフォンを見ながら鑑賞していて、一番テンションが上がりました(田島氏)
佐藤晴香さん
『インビジブル』
【制作者コメント】
テーマは自分が音楽から受けた映像を共有してもらうことです。五感を刺激するような触覚的な表現と、動きやスピードの強弱によるリズムなどに注力しました。
【審査員コメント】
音を形で表現するのがおもしろくて、質感や形状から音の硬さ・柔らかさまで表現されており、目を惹きました。他にも同じような作品があれば、鑑賞してみたいです(田島氏
)
佐藤開音さん
『Planet Destruction Order』
【制作者コメント】
自分が好きなレトロフューチャーのSF映画のイメージで作りました。作業時間を短縮するために、ワークフローの構築やメモアプリを活用した進捗管理などを行いました。
【審査員コメント】
キャラクターがおもしろいですね。動きや形もすごく好きです。途中で時間軸が巻き戻るシーンがありましたが、あれが最初まで巻き戻って、命令を出した社長が実は・・・みたいなところまでみせられると、さらに良かったと思いました(山家氏)
谷 耀介さん
『映画のマナー体操』
【制作者コメント】
映像・音楽・技術など自分の好きな創作活動を1本のフィルムにまとめました。近所の映画館をモチーフにビジュアルボードを制作し、お遊戯のイメージで発想を広げました。
【審査員コメント】
独特の世界観や色使いがユニークで印象に残りました。3Dの表現だけでなく、プレゼン用のイラストもすごくいいですね。2Dの作品でもっと続きが見たいと感じました。(山家氏)
次ページでは、イベント冒頭で行われた5名の審査員によるパネルディスカッションの模様とコンテスト開催の背景や意義についてのインタビューを紹介しよう。
審査員パネルディスカッション
「これからのクリエイターに求められること」
審査員によるパネルディスカッションでは、国内外で精力的に活躍するデジタルアーティストたちだけに、さまざまな含蓄のある意見が飛び出した。
まず「学生にしてほしいこと」というトピックでは、山家氏から「毎日机に向かって作品を作り続けることは当然で、完成した作品をフォーラムなど投稿して、フィードバックをもらうことが大事」とコメントされた。早野氏も社員や学生に対して「10代の作品作りにかけるパワーや情熱は途方もないものがある。20代くらいで、その人の作品スタイルが決まってくる」として、早い段階からの自覚を説いているという。北田氏も「25歳から28歳くらいで技術的に伸びた。仕事をはじめて2ー3年目で毎日が楽しかった。20代でどれだけ技術的な知見を貯金できるかで、その先が決まる」と指摘。田島氏も「海外では仕事とプライベートの境界線がハッキリしている。学生のうちに時間を惜しんで勉強すれば、逆にプライベートがとりやすい会社に就職できるのではないか」という。
また小出氏の「最近はツールや環境がずいぶん良くなっているので、そのぶん感性を養うことが重要ではないか」問いかけに対して、田島氏は「ツールが進化して誰でもかっこいい絵が作れる時代になってきたので、そこから一歩上に上がれる力が必要だ」と回答。山家氏は「基礎力と新しいツールの使い方の両方を覚えることが大事で、自分もZBrushがまだ珍しかった頃に飛びついたことが、就職につながった」と回答した。北田氏は「技術や感性は個人の努力に依存するので、まずは手を動かすしかない。その上で国内は海外よりも技術が遅れているので、英語力も含めてグローバルな知見を収集することが大切」だと補足。早野氏は「パネリストはみな、自分の得意分野をうまく活かして成長してきた。自分の得意分野とCGが融合している部分をうまく見つけられると、効率的に成長できる」とコメントした。
KLab Creative Fes'15の開催背景とコンテストの意義とは?
CGアーティストを対象としたコンテストが減ってきた現状に対して、長く危機意識を持っていたというKLab小出氏。新たな才能の発掘という意味でも、CG・映像業界の活性化という意味でも、こうした取り組みが必要だと考え、会社全体の取り組みとして実施するに至ったという。モバイルオンラインゲーム大手というイメージが強い同社だが、「グラフィックには早い段階から力を入れており、今後さらに3DCGのニーズが高まるため、企業ブランドの確立の一つとしても有効だと思っています」と開催に至った背景を説明した。
小出氏は「エントリーが260件で、作品応募総数は130件と、CGを学ぶ学生の総数に比べれば少なかったことは否めません」と振り返った。これに対して北田氏は「デジタルアーティストとしてスキルアップするには、作品を批評してもらうことが不可欠なので、もっと積極的に前に出て行くべき」と賛同。田島氏も「CG・映像業界の関係者は優しい人が多いので、もっと気軽に声をかけてみたら良いんじゃないでしょうか。自分も高校生からアドバイスを求められることがあります」とあかした。小出氏は「CGを仕事にするためには、自分から行動できなければ難しいと思います」と語っていた。
今回第一回目の開催ながら応募作品の質としては非常に高いものだったようだ。早野氏は「学生でここまでできたら十分で、即戦力として採用したい学生も何名かいましたね」と語る。一方、今後のアドバイスとして北田氏は「全体的にストーリー性を意識しすぎて、間延びした作品も多かったですね。5~6分のものを3分くらいに削れば、各々のシーンでクオリティが上がったと思います」と指摘した。
こういったコンテストは技術力の向上や自分の才能を世に知らしめるための好機だ。特に個人クリエイターや地方在住者にとって、その恩恵は大きい。こうした「眠れる才能」を発掘するコンテストの意義は今後より一層大きなものになっていくと思われる。
TEXT_小野憲史
PHOTO_蟹 由香
KLab Creative Fes'15
予選応募期間 : 2015年1月27日(火)~2015年6月30日(火)
予選結果発表 :2015年7月8日(水)
本選 :2015年8月9日(日)
www.klab.com/jp/recruit/kc-fes/about.html
主催:KLab株式会社