2016年7月24日(日)から7月28日(木)までの5日間にわたり、アナハイムで「SIGGRAPH 2016」が開催された。CGWORLD.jpでは、数回に分けて今年の見どころをふりかえる予定だが、まずはダイジェストをお届けする。

TEXT_沼倉有人 / Arihito Numakura(CGWORLD)



今年で第43回目をむかえた世界最大のコンピュータ・グラフィックのカンファレンス「SIGGRAPH」。3年ぶりに米カリフォルニア州アナハイムでの開催となったが(7月中に開催されるのも3年ぶりだ)、今年は全体的におとなしめの印象を受けた。中身で勝負する硬派なカンファレンスともいえるが、規模的には縮小傾向にあるSIGGRAPHが予算削減の憂き目に遭っているのではないかと邪推したくなるほど、サービスの劣化や準備不足の印象を感じてしまった。現時点(2016年7月27日)では、参加者数ならびにExhibitionの出展社数の発表がないため推測の域を出ないのだが、おそらくは3年前の参加者数1万7,162人、出展社数180を下回ると思われる(※ちなみに昨年LAで開催された第42回は、来場者数1万4,800人、出展社数143であった)。

SIGGRAPH 2016ダイジェスト

会場となったアナハイム・コンベンションセンター

もちろん、規模の縮小が衰退に直結するわけではない。コンピュータ・グラフィックの研究学会としてスタートし、今現在もそれが中核であることには変わりのないことを考えると、時代に即したカンファレスへと変貌を遂げる過程にあるのかもしれない。
昨年からスタートした、「VR VILLAGE」は常時にぎわいをみせていた。

SIGGRAPH 2016ダイジェスト

VR展示を体験する、今年度のキーノート・スピーカーを務めたZ. Nagin Cox/Z・ナジン・コックス氏(Spacecraft Operations Engineeer、NASA ジェットス殷賑研究所)。コックス氏は、火星探査計画においてローバー(無人探査機)のエンジニアを務めている

今年は、通常のインスタレーションならびにデモに加えて、「VR STORYLAB」と名付けたストーリー性のあるVR作品だけをあつめたサブコーナーが新たに設けられた。ここでは、今年度のトライベッカ映画祭でも注目された元DreamWorks Animationのディレクターたちが起ち上げたVRプロダクションBaobab Studiosの『Invasion!』や、日本からのエントリー『攻殻機動隊 新劇場版 VIRTUAL REALITY DIVER』など11作品が体験できるようになっており、改めてVR市場が拡大しつつあることを実感できた。

SIGGRAPH 2016ダイジェスト

「VR STORYLAB」の様子

Invasion! Sneak Peek 360
会期4日目(7月27日(水))に行われた「Experience Presentations - Production for VR」セッションにて、『Invasion!』の監督を務めたEric Darnell/エリック・ダーネル氏(Baobab Studios共同創業者)は、カット割りやフィルムメーカーによる意図的なカメラワークといった従来型の映画演出技法を使えないVR作品においては、キャラクターアニメーションがより重要になると語っていた


同じく昨年初めて実施されて好評を博した「REAL-TIME LIVE!」は今年度も継続、13チームによるリアルタイムCGの表現ならびに技能力が競われた。Ninja Teheory、Epic Games、Cubic Motion、3Lateral Studioによる「From Previs to Final in Five minutes: A Breakthrough in Live Performance Capture」が、見事栄冠を手にした。

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最優秀賞を獲得した、「From Previs to Final in Five minutes: A Breakthrough in Live Performance Capture」のリアルタイムデモの様子。現在、「REAL-TIME LIVE!」の動画が公開中だ

日本からもスクウェア・エニックスが「REAL-TIME LIVE!」に参加。「Real-Time Technologies of FINAL FANTASY XV Battles 」と題した、『FINAL FANTASY XV』開発用デバッグ版のバトルシーンによるリアルタイムデモを披露した。

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FFXVのリアルタイムデモを披露した、スクウェア・エニックス 第2ビジネス・ディビジョン/長谷川 勇氏(左)とテクノロジー推進部/三宅陽一郎氏(右)

逆に昨年から大きな変化をみせたのが「Computer Animation Festival(CAF)」である。CAFのメインプログラム「Electronic Theater(ET)」では、昨年は33作品を選出し、最優秀賞をはじめとする10種類の賞が設けられていたのに対し、今年は25作品に絞られ、各賞もデフォルトの3種類(最優秀賞、審査員賞、優秀学生プロジェクト)に戻された。
また、日中に上映される4プログラムに減らされた上に、そのうちの「WINNER'S CIRCLE」は過去7年間の上映作品のレトロスペクティヴであったことを考えると、今年度のCAFはかなりの狭き門だったにちがいない。

今年の最優秀賞(BEST IN SHOW)に輝いた『Borrowed Time』のティザー。本作をはじめ、全体的にアーティスティックな作品が目立ったのも今年度の特徴だと思う。日本勢では『東京コスモ』がETに選出。それに加えて、デイタイムプログラムとして、『ルドルフとイッパイアッテナ』(オー・エル・エム・デジタル)のブレイクダウンと『FFXV』(スクウェア・エニックス)のデモ動画が上映された

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『Borrowed Time』を制作したQuorum Filmsのメンバー(ET上映前の授賞式にて)

"Cosmos Laundromat" - First Cycle. Official Blender Foundation release.
審査員賞に選ばれた、"Cosmos Laundromat"(Blender Foundation)、オランダのBlenderユーザーたち(Gooseberry in Amsterdam)を中心にオープンベースで制作された。シュールな世界観と実写ストップモーションのような質感が印象的な逸品だ


La légende du "Crabe Phare"
最優秀学生プロジェクトに選ばれた、"Crabe Phare"


エキシビションには132の団体が出展。意外だったのは、アナハイムと言えばディズニーランドだが、ディズニー/ピクサーが出展を見送ったこと。近年は、大手のDCCベンダーでも出展を見合わせることが増えているが、図らずともコスト意識の高まりを感じてしまった。
そうしたなか、33の団体が初出展、日本勢ではLive2DTHEATAの製造・販売を行うリコーが初めての出展となった。

常連組の中では、NVIDIAがひときわ大きな存在感を示していた。巨大なブース内に8つのVR体験ルームを用意。会期中、人の切れ間のない盛況ぶりであった。さらに同社が行なった65の技術講演のうち最多の19がVRに関するものといった具合に、VRに対する本気の度合いがうかがえた。

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NVIDIAのブース。50×70メートルというスペースは、おそらくは今年のエキシビションの中では最大のサイズにちがいない

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エキシビション開催前日の行われたプレスカンファレンスより。NVIDIAは、SIGGRAPH 2016の会期に合わせて、Pascal世代のGPUを搭載した「Quadro P6000」ならびに「Quadro P5000」を発表。そのほかにも、開発者向けに新しいVRおよびレイトレーシング・ツールの提供開始なども表明した

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VRによる産業機械のトレーニングシステムを提供するForgeFXのブース。今年もVR関連の製品開発やサービスを提供するブースが目立っていた

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