>   >  身近なところからファンタジー世界を創造するーコンセプトアーティストYuuri氏の思考プロセスを、作例をもとに解説【AMD セッション】
身近なところからファンタジー世界を創造するーコンセプトアーティストYuuri氏の思考プロセスを、作例をもとに解説【AMD セッション】

身近なところからファンタジー世界を創造するーコンセプトアーティストYuuri氏の思考プロセスを、作例をもとに解説【AMD セッション】

[PR]

ゲームやアニメなどのコンテンツの世界観を決定付ける「コンセプトアート」は、一般的な風景画と異なり、構成要素のすべてに説明が求められる。誰も見たことのない世界をえがくためには、どのような思考プロセスを経て、どのようなデザインコンセプトを打ち立てていくべきか。

本記事では11月7日(土)に開催された「CGWORLD クリエイティブカンファレンス2020」のセッション「身近なところからファンタジー世界まで、デザインアイデアの思考手順」の模様をレポートする。

TEXT_神山大輝 EDIT_池田大樹(CGWORLD)

講演者プロフィール

  • 有里 氏
    コンセプトアーティスト・イラストレーター

    2018年末までゲーム会社勤務
    現在はフリーランスでゲームやアニメを中心にコンセプトアート、設定画、キービジュアル、イラスト等を描いています。また、コンセプトアート関連の書籍も執筆中。
    Twitter : @tenkichi1212

Information

  • AMD(Advanced Micro Devices)

    50年以上の歴史を持つアメリカの半導体製造会社。「Athlon」や「Ryzen」シリーズなどを展開するCPUとともに、「Radeon」シリーズによるGPUの両方を開発する。さらに、CPUとGPUを1つに統合したAPUなども手掛けている。
    https://www.amd.com/ja


▲デジタルアーティストの創作活動を支援するAMDのPV。コンセプトアートの着想方法やデジタルを用いたアート制作の利点について、有里 氏について語っていただいた

何を考えてデザインするのか?実例に基づく思考プロセスを解説

セッションに登壇したのは、コンセプトアーティスト・イラストレーターのYuuri氏。2018年末までゲーム会社で勤務し、独立後はフリーランスとしてゲームやアニメを中心にコンセプトアートや設定画などを描いている新進気鋭のクリエイターだ。

一般的に、コンセプトアートはSFやファンタジー作品などの壮大な世界の風景を描いたものと認識されているが、こうしたメインとなるアートは数枚のみで、実際の業務としては街の一角やキャラクターが生活する室内の様子、小物などのデザインも含めた小規模なアートを数多く描いている。本講演は、コンセプトアートの「小さい範囲から大きな範囲」まで、いくつかの作例を提示しながら、思考プロセスを明らかにしていくといった流れで行われた。

最初に、もっとも身近な例として取り上げられたのは、Yuuri氏が一日のほとんどを過ごすことになるという仕事スペースのレイアウトだ。部屋のレイアウトは、中で過ごす人物の属性や性格、性質を表しているものであり、写真を見るとトイレットペーパーをペン立てにしていたり、書類が手元に置いてあったりと、ここに座れば大体のことが行えるという家具の配置になっている。また、観葉植物の代わりに椅子とカーテンを緑色にしている(長期間、家を空けることが多い)、本が上下さかさまで本棚に並んでいたりと、趣味嗜好や行動、性質も感じ取れる。

Yuuri氏自身は「部屋の中」をデザインするとき、自分が作中のキャラクターになったつもりで、日々のルーティンや行動を想像しながら描いていくという。「この写真からは、そこで誰かが生活しているように感じられるはずです。生活をしていると、なにかものが動いたり、空気を動かしたり、においや音を出したりする。置いてあるもの1つ取っても、生活者の意思が介在します(Yuuri氏)」。こうしたキャラクターの行動を考えながら、部屋のデザインを考えていく。

作例①:「小学5年生の部屋」をデザインする

それでは、架空の人物の部屋をデザインする時の思考プロセスはどのようなものだろうか。ここでは、実際の作例として、小学5年生の部屋を2パターン取り上げた。

①の作例は、時代が現代、両親は共働きであり、子どもは一人で過ごすことが多いという設定になっている。まず、両親が研究職ということで、ロケーションは大型の研究施設に近い郊外の閑静な住宅街を選択。かぎっ子らしい寂しさを表現するため、温かいイメージを持たせるよりもモノトーン、寒色系の色使いとなっている。

また、1人の時間が多いことから、最新のゲーム機やタブレットなど、一人遊びが可能なものが配置されている。その配置のさせ方も、キャラクターの「何でもそつなくこなす」という性質を反映して、あまり散らかっておらず理路整然と並んでいる。

一方、②の作例は、時代も文化的背景も異なる、兄弟の多い小学5年生のキャラクター像になっている。昭和30年代後半から40年代前半がテーマであることから、団地ほどは新しくなく、バラックほどは古くない公営住宅のイメージとなっている。

時代考証として、映画などを参考しながら、親に幼少の頃の話を聞く、子どもの頃の生活様式が近かった方にヒアリングをするなどの調査を行い、その結果で得られた要素をデザインとして落とし込んでいる。

例えば、当時の公営住宅の広さと兄弟の数を照らし合わせた際、ひとり一部屋という構造は難しいため、勉強はちゃぶ台で行っている形が想定される。また、箪笥はひとり1段で、自分の引き出しと主張するためにシールを貼っておく。おもちゃはシンプルなものがほとんどで、チラシの裏に絵を描いたり、ラムネのビー玉を集めて置いてあったりと、その時代の方にヒアリングした内容を取り入れた「いかにもありそうな」デザインとなっている。

同じ年齢の少年の部屋という題材でも、時代や境遇、性格、家族構成、文化水準が違えば、これだけの違いを持った部屋になる。一見すると当たり前のことだが、調査を行ったうえで納得感のあるデザイン、どの要素を切り取っても理由があるデザインを作り上げることの重要性が示されている。

作例②:「料理屋」をデザインする

続いて、2つの料理屋のデザインを行った際のプロセスの解説が行われた。ひとつは女将が1人でやっている料理屋で、もうひとつはファンタジー世界の料理屋となる。

設定は「50代の女将が一人で営む小料理屋」であり、忙しいときは近隣に住む娘が手伝いに来てくれるというもの。最初に考えるのは、「見せ場(デザインのセールスポイント)がどこなのか?」という点。このお店が登場するストーリーによって、見せ場がどこになるのかも変わってくるが、今回はカウンターにセールスポイントを設定した。その後は、先ほどの部屋のデザインの時と同様に、ここで生活を営むキャラクターのルーティンや動線を考えて行く。

「客数は何名で、どの規模のバックヤードが必要で、ゴミ出しはどういった経路で行うのか?」こうした細かい理由付けも踏まえて完成したデザインがこちらとなる。デザインの方向性は昭和レトロで、あたたかみのある配色と、実家のような安心感のある内装になっている。

「こうしたコンセプトを詰め込みながら、「あるある」と言ってもらえるようなデザインをつくっていきます。今回は、グルメサイトであれば口コミはこんな感じかな?というところまでを考えてつくっています(Yuuri氏)」。

続いてはトカゲのような種族が営むファンタジー世界の料理屋で、これまでに描いてきた作例と異なり、「実際には絶対に存在しないもの」となる。しかし、こうした空想上のものを描く際も、考え方はあまり変わらないという。

このケースでは、すでに世界観を決定付けるコンセプトアートがあり、スケール感や文化レベルは設定的にも明らかになっているため、ここからさらに「この民族の生活がうかがえるようなコンセプトアート」をつくることが目的となる。

先ほどの料理屋との違いは、実在する建物ではないため外観を創造で描くしかないというところ。周辺環境から想像で描いていくことになるが、その際は街全景から考えているという。ストーリー上必要になる施設(族長の家や宿など)とは異なる配色やデザインにして、その世界を自分がプレイヤー目線で歩いた時に飽きさせないような工夫も必要となる。

街全体のデザインと、役割を持つ設備の配置と要素が決まったところで、料理屋のデザインに取り掛かる。宿は洞窟の近く、お店は船の上となっているため、料理屋は水車と滝の近くの水辺に配置した。水車のそばにした理由は、先ほども出て来た「セールスポイントをどこに置くか?」という要素が関係する。

「この種族は手先が器用でないため、あまり手の込んだ料理はしないはずです。串焼きや丸焼きなど、素材を生かした料理が中心だと考えました。そこで、大きな魚を丸焼きにしているところをセールスポイントにするため、その動力として水車を活用している形にしています(Yuuri氏)」。

その後は、これまでと同じように店主の性格やキャラクター性を設定した上で、ルーティンや動線を意識したデザインを行っていく。西洋風の椅子ではなく座布団を配置したり、木材などの素材を無加工で内装に使ったりといった、種族の特性を生かした内装をつくっている。

作例③:「竜宮城の温泉街」をデザインする

最後はファンタジーの世界観デザインの実例として、「竜宮城の温泉街」という大きなテーマを持ったコンセプトアートの制作手法が解説された。世界のデザインを考える時は、環境や文化、歴史、生物などの多角的な視点を持って構想するのが重要であり、そのためには膨大な量のリサーチが必要となる。あらゆる部分に説明ができてはじめて辻褄の合ったデザインが成立するからだ。

今回のお題になっている竜宮城は、一般的なモティーフとしては「色とりどりのサンゴに囲まれた、海の中の和風宮殿」のようなものだが、Yuuri氏は一般的な範疇から更に発展させるために竜宮城の伝承をリサーチし、これを踏まえた新しい文化とルールを自分で設定したという。

ギリシャ神話や星座との関連性や、中国の神仙思想などの文献調査やネットでのリサーチを踏まえて、アイディアを広げるためのとっかかりを探していく。文化的背景だけでなく、海の中の生物の姿かたちを確認しながら「何を素材にするか」「デザインとして活かせそうか」などを考えるなど、多方向からの要素出しを行っている。

こうしたキーワードから、さらに関連するキーワードを広げて行き、色や雰囲気、模様などを考えながらリファレンスとなる写真などを集めていく。Yuuri氏はこれを「自分がなにを良いと思ったのかを認識して、どういった感動を伝えたいかを探す作業」と呼んでいたが、これ以外にも膨大なリサーチを行っていたという。このような道筋を経て導き出した今回のデザインの方向性が、以下の10項目となる。

歴史や文化的背景のリサーチと、描きたい竜宮城のデザインの方向性をもとに、本作のテーマを「龍王の娘である乙姫たち4姉妹がそれぞれ経営する常世の国の温泉旅館」と設定。このテーマに則って、続いては温泉街のリサーチを行っている。

温泉街のリサーチは、小学生の部屋や料理屋のデザインを考えていた時と同じく、温泉宿がどういった間取りで、中にどんな施設があって、誰がどういった動線で働いているのか?というルーティンから調査を行っている。不動産会社のWebサイトで間取りを確認し、働いている人の動き方は実際に温泉旅館まで足を運んで取材を行っているという。

取材で得た知識や、その場の風景などは写真やスケッチに収め、このあとに続く制作の際のアイディアの一部としている。例えば、温泉街に張り巡らされているパイプがどのような形状なのか、公共の蒸し器とはどういったものかなどは、現地に足を運ばなければなかなか得られない知見だ。そして、ファンタジー世界に説得力を持たせるために、重力や移動方法、天候や水の扱い、建築素材などの設定も併せて考えていく。

描きたい世界がどういった環境なのかを、物理現象と照らし合わせて考えて行く。重力の有無や移動方法、風が発生するのかどうかを考えたのち、そこに住む生物(キャラクター)がどういった存在かを考えていく。こうした調査と設定の策定を経て、ようやくコンセプトアートを描き始める準備が整った。

作例②のファンタジー世界の料理屋と同じく、まずは全体の外観をイメージして描いていく。今回は「キャラクターは、水の中のように縦にも移動できる」という設定があるため、現実世界に存在する温泉街をちょうど縦向きにしたようなデザインになっているほか、遊び心として雲竜図のモティーフも取り入れている。

この温泉街を自分(またはプレイヤー)が探索をした際、同じような色合いだと飽きてしまうため、この段階でカラーバランスも考えている。ロビーや温泉街、庭園、客室など、施設ごとにメインとなる色イメージを決定しておくことで、場所ごとに色合いの異なる魅力的な街並みをつくることができる。今回は、この世界の基準となるコンセプトアートを描く際、もっとも要素の多そうな温泉街をチョイスし、描き進めていくこととなった。

コンセプトアートを描く際に注意しているのは、ファンタジー要素と現実要素のバランスだという。「ファンタジーに寄せ過ぎて、奇抜な方法だけを取り入れると伝わらないデザインになりますし、現実に寄せ過ぎるとファンタジー感が薄れてしまいます。このバランスには細心の注意を払っています(Yuuri氏)」。

こうして完成したのが、こちらのコンセプトアートだ。例えば、現実世界にもあった蒸し器は、フジツボで表現したモティーフが取り入れられていたり、海底火山からの地熱を上に運ぶためのパイプには赤いサンゴが用いられている。イカの体表変化に電光掲示板のような役割を持たせたり、現実世界から流れてきた旅人のために日本語が書かれていたり(海外旅行の際に良く見かけるように、少し間違った日本語になっている)、描かれたひとつひとつの要素に理由があるコンセプトアートとなっている。

講演の終わりに、Yuuri氏はコンセプトアートの役割と、そこに必要な考え方を以下のように語っている。「しっかりと設定を考えておくと、どこを聞かれてもきちんと答えることができます。コンセプトアートは、誰かとアイディアを共有するためのもの。自分が説明できないと、誰にも理解できないものになってしまいます(Yuuri氏)」。

ファンタジーは自分の想像上の世界であるため、これを人に伝えて納得してもらうためには明確な理由と、現実世界との関連性を作品に入れ込む必要がある。また、何を描くにしても、元ネタを知らなければ広げようがない。ただの奇抜な風景画で終わらせないためにも、綿密なリサーチに基づいた世界の設定を熟慮する必要がある。Yuuri氏はこれこそが自分のデザインにしっかりと責任を持つことだと語り、講演を締めくくった。

問い合わせ先
日本AMD株式会社
www.amd.com/ja

特集