2022年3月より、Blenderの学習Twitterアカウントを運営している「しー氏」。社会人として本業がある中、毎日動画をアップする活動を続けている。しー氏が投稿するのは、ほとんどがぷるぷるとしたゼリーのシミュレーション動画。特に、今年4月に「1カ月ぷるんぷるんチャレンジ」と題して投稿した作品群はBlenderユーザーの間で注目を集めた。

今回はこのチャレンジに取り組んだねらいに加え、制作のこだわりやオススメのテクニックについてインタビューした。

コロナ禍をきっかけにメタバースに興味をもち「Blender沼」へ

CGWORLD(以下、CGW):はじめにしーさんの自己紹介をおねがいします。プロフィールに「社会人」とありますが、普段はどういったお仕事をされているのでしょうか?

しー氏(以下、しー):インフラ会社のいち社員として、製品の販売企画・販売支援・マーケティング・技術指導を行なっています。3DCGとは程遠い業界・業務内容です。

しー氏

【投稿】制作物やBlenderメモ動画をアップしています
【PC】CPU:Core i7、メモリ:32GB、GPU:RTX3070 Ti
【動画編集】:Filmore
Twitter:@appleshinshin
www.youtube.com/@shi-blender/featured

CGW:差し支えなければもう少し経歴を教えてください。今までに、なにかしら3DCGに関連する学業やお仕事には就いていたのでしょうか?

しー:大学院まで化学を専攻しており、ナノテクノロジーに関する研究を行なっておりました。ナノテクノロジーとは言ってもフラスコやビーカー、様々な分析装置を扱う研究内容であり、3DCGとは無縁の世界です。企業に就職してからも3DCGやグラフィックス・デザインとは無縁の業務内容でした。

CGW:Blenderは独学とのことですが、Blenderを勉強しようと思ったきっかけはなんでしょうか? 

しー:コロナ蔓延による外出規制で「メタバース」に興味をもったことがきっかけです。気軽に旅行することができないという環境下でメタバースという仮想空間を使った旅行ができたら面白いのではと考えていました。身体に障害をもつなど、遠出が困難な方でも気軽な世界旅行気分が味わえる世界をつくってみたいと考えましたが、当時はそのようなサービスがなかったため、自らつくってみようとCG業界に興味をもつようになりました。調べていく内にBlenderは無料で始めることができて、チュートリアルが豊富にある上にフリーソフトとは思えない程の高性能な機能が備わった3DCGソフトであるということがわかり、Blenderという「沼」にはまっていきました

CGW:だいたい、いつぐらいから勉強を始めましたか? 

しー:Twitterを始めたのと同時に勉強を開始したので、Blenderを始めたのは2022年3月頃からですね。

Twitterアカウント開設当初のツイートより

CGW:独学で勉強されているとのことですが、参考にしている書籍やチュートリアルなどがあれば教えてください。

しー:主にYoutubeチュートリアルにお世話になりました。Blender基礎全般は[3D Bibi]さん。モデリングの基礎は[M desgin]さん。シェーダーノード設定は[Yuki’s blender school]さん、[Sphere Cube]さん。アニメーション付は[夏森 轄]さん。それと、物理演算やジオメトリーノードなどは海外のYoutubeチュートリアルを参考にしました。

CGW:大変な勉強量ですね。

しー:独学で一番苦しかったのはチュートリアルを見つけるのに手間が掛かること、制作物に対するインプットがないことでした。そのため、制作物は積極的にツイートし、他の方の制作物も定期的に閲覧しながら創作意欲を高めていますが、講座などを受けることでもっと効率的に学ぶことができたと、今になっては感じています。

モチベーション維持のために始めた1ヶ月チャレンジが人気に

CGW:それでは、「1カ月ぷるんぷるんチャレンジ」についても教えてください。ゼリーの動画を4月12日(水)から1ヶ月間、毎日アップされていましたが、どうしてこのチャレンジをしようと思ったのでしょうか? また、ゼリーを題材に選んだ理由は何でしょうか?

しー:ゼリーの透明感、ぷるぷる感が好きだったので3DCGで再現できればと考えていました。約1年前につくり方を発見したのをきっかけにゼリー制作を開始しています。その後もたくさんのゼリー制作をしていきたいと考えていた一方で、物理演算でのパラメータ設定が煩雑だったり、シミュレーションに時間がかかる、レンダリングに時間がかかるなど様々なハードルがあることから制作モチベーションの維持が難しかったんです。そこで、自身に「1カ月間毎日投稿」という課題をつくることで、半ば強制的にハードルを乗り越えてみようという考えでチャレンジを開始しました。

CGW:投稿した動画にたくさんの「いいね」が付いていますが、いわゆる「バズる」ために心がけていることや注意していることはありますか? 

しー:つくりたかった「ゼリー」を追い求めていただけで、「バズる」ことは目指していなかったのですが、一方で予想を遥かに超える注目をいただきました。CG制作スキルはお世辞にも高いとは言えず、ノウハウとある程度のPCスペックがあれば誰でも短時間でつくれるものなので、運の要素が一番大きいと思っています。一応、Twitterでの活動をメインとして行く上で心がけていたこととしては、

・視聴者皆さんと一緒に楽しむアカウントにしたかったのでリクエストや意見を積極的に取り込む
・コメントは全て目を通して、確認した内容には”いいね”を付ける
・アカウントに統一性をもたせるため「クリエイティブ」な投稿をメインにし、毎日投稿する
・CG界隈に縛られず幅広い方々に喜んでいただけけるような投稿を目指す
・不満不平は投稿しない

などがあります。

CGW:ご自身で一番お気に入りの動画はどれでしょうか?

しー:「撮影後の世界(1/3)~(3/3)」という設定の3点がお気に入りです。

しー:今までのゼリー投稿にはなかった「ストーリー」を含んだ制作物になっています。切断されたり、潰されたり、爆破されたりしているゼリーたちですが、その後は完全に復活して皆様を「魅せる」ために喜んで撮影に向かっているというメッセージを込めています(笑)。物理演算(ゼリー挙動)に物理演算(流体、吸引)を重ねた少し複雑なつくりにしています。

物理シミュレーション前の画面
ゼリー(メタボール)のシェーダ設定(いろいろと試した中で一番シンプルな設定)

CGW:ツイートにたくさんの「いいね」が付いたり、しーさんを模倣してゼリー動画をアップする方もいるようですが、そうした反響をどう思いますか?

しー:想像を遥かに超えてCGクリエイターのみならず、幅広い方々からリアクションをいただけてとても嬉しく感じます。ゼリー動画をきっかけに「3DCGに興味をもちました」というお声も複数いただいており、制作物を通じてCG業界に興味をもつ方が増えたと思うと嬉しい限りです。

視聴者からのリクエストにも対応! しー氏のぷるぷるゼリーにかける情熱はまだまだ続く

CGW:ゼリーの制作ノウハウがかなり蓄積されてきたかと思いますが、オススメのBlenderアドオンやTIPSなどがあれば教えてください。

しー:ゼリー動画の制作では「Molecular+」というアドオンを使用しています。それと、リアリティー+透明感を追求したゼリー制作にはシミュレーション・レンダリングに時間を要するため高性能PCが必須となる点、注意が必要です。少しでも時短ができるように、ミュレーションとレンダリングについては次のことを行なっています。

シミュレーション:パーティクルのレンダリング方法は「ハロー」を選択した状態でシミュレーションを実行。パーティクル数は30,000以下に抑える
レンダリング:解像度を初期設定から1080×1080に下げる。レンダーのノイズ閾値を初期設定よりも高く設定(0.05)し、最大サンプル数はレンダリング時にノイズが感じられない程度まで下げて実行(300)。時間がないときはクラウドレンダリングサービスを活用

CGW:「1カ月ぷるんぷるんチャレンジ」をふり返っての感想をお願いします。

しー:視聴者の皆様からの温かい応援をいただきながら、数多くの新しいノウハウを学ばせていただき、充実した毎日を送ることができました。時間が限られた中での制作になるためクオリティがいまいちの作品も多かったと感じます。リクエストにも迅速にお応えできない状況でしたが、そんな中でも応援してくださった皆様に感謝の気持ちでいっぱいです。今後も皆様からのお声を取り入れつつ、CGスキルを高めながら新しいことに挑戦していきたいと思います。

CGW:「1カ月ぷるんぷるんチャレンジ」が終わった後も、ファンの方からのリクエストに答えて、さらにたくさんのゼリー動画を投稿されていましたね。

しー:そうですね。ゼリー関連の動画については、リクエストで制作した作品や、CG制作関連のメモ動画も投稿をしていますので、ご覧いただけたら嬉しいです。

CGW:よろしければ、今後について教えてください。また新しい1か月チャレンジをする予定はありますか?

しー:1カ月チャレンジとは異なりますが、新しい企画を検討中です。

CGW:そのほかに挑戦したいことなどはありますか?

しー:最近のアップデートでBlenderに追加されたシミュレーションノードを使った物理演算やBlenderと他ソフトとの組み合わせ、AI生成の活用、CGとホログラムの融合、メタバース空間の制作などなど、まだまだやれていないこと、やりたいことが盛りだくさんです!

CGW:今回はありがとうございました。今後のご活躍も楽しみにしております。