腱鞘炎と戦うデザイナー氏が5月27日(月)、Xに投稿した3Dキャラのブレイクダウン動画は、国内を超えて海外まで波及し、3DCG界隈が湧いている。投稿は5,000リポストを超え、そのクオリティに対してはもちろん、見せ方・プレゼンテーション方法にも喝采が上がっている。

CGWORLDでは同氏にコンタクトを取り、インタビューを実施した。

CGWORLD編集部(以下、CGW):投稿が話題ですね。まずはプロフィールから教えてください。

腱鞘炎と戦うデザイナー(以下、腱鞘炎):ありがとうございます。私は、専門学校で2年間3DCGの基礎を学んでから、新卒で映像制作会社に入社しまして。そこでは背景モデラーからキャラクターモデラー、スーパーバイザーと職種が少しずつ変わって、2017年にフリーランスとして独立しました。

CGW:フリーになられてからはどういったお仕事を?

腱鞘炎:コンシューマーゲームや「VR」と付く案件が多いですね。VTuberさんやミュージックライブ、配信活動を中心としたグループのプロジェクトにも携わっていまして、モデラーとして参加したり、SVとしてルックデヴや仕様書作成、外注さんから納品されたモデルのクオリティ管理を行うこともあります。

CGW:今回話題になった投稿を含め、XやYouTubeでの活動について教えてください。

腱鞘炎:最初の頃は、作業画面をキャプチャしたタイムラプス動画をYouTubeに投稿していました。

腱鞘炎:当時から「いかにして動画時間を短くまとめるか」を模索していたんです。まず、自作したマウスとキーボードの入力があるときだけビープ音を鳴らすツールを起動した状態で画面録画をします。そして、それをPremiere Proで編集するときに、無音部分を検出して自動でカットするアプリを通します。そうすると無駄な部分が自動で省けるんです。そうやって動画をつくっていました。

CGW:すごい。

腱鞘炎:その後、ZBrushのUndo Historyを録画することで、メッシュがひとりでに変形する動画がつくれるという機能から着想を得て、現在のような形に落ち着きました。

CGW:話題の動画はMayaでアニメーションを作成されたのですよね?

腱鞘炎:そうなんです。Mayaにはそんな便利な機能はないので、まずは完成したモデルを、トポロジーが変化しないように一手ずつ、頂点を重ねては複製するを繰り返して、プリミティブまで戻したらブレンドシェイプ(シェイプキー)で繋げて、一定の間隔で切り替えるようにキーを打っています

CGW:手間がかかっているんですね。

腱鞘炎:そうですね。Xでは顔・髪・身体・衣装と動画を分けてつくっているんですが、一番手のかかった髪のパートは、Mayaでのアニメーション作成に7日、BlenderでのレンダリングからPremiere Proでの動画出力まで3日。合計10日ぐらいかかりました。

CGW:過去の投稿で「教材というよりは一つの作品として作っている」というご発言がありました。

腱鞘炎:業界の中だけでなく、業界外からも3DCGやモデラーとしての自分に興味を持ってほしいという気持ちがあって、そこに重きを置いてつくっているんです。これはタイムラプス動画をアップしていた頃から変わりません。

CGW:その理由は何でしょうか?

腱鞘炎:3Dモデラーは2Dの絵師さんたちとちがって、ひとつの作品にかかる物理的な労力が多い傾向にあるからです。3DモデラーがSNSで作品を投稿するときって、やっぱり「WIP」(Work In Progress、未完成)の頻度が多いと思うので。数週間、数ヶ月かけてつくった3Dモデルを公開だけして終わってしまうのはもったいないので、「WIP」を「WIP」以上にするために生まれたのがこうした動画です。業界の専門知識がなくても、「なんとなく3Dモデリングってこういうもの」とエンタメ的に魅せるという、一種のビジュアライゼーション作品ですね。

CGW:先日の動画はまさにねらい通りだったのではないかと思います。こうした動画ではリアルタイムプレビューをそのまま使っていますが、その意図は何でしょうか。

腱鞘炎:ひとつでも多く作品と呼べるものを投稿したいので、ビューポート表示をそのまま使って時短しているというところです。作業としては、コンポジットを含めた画づくりはBlenderで完結させています。

CGW:Blenderでの画づくりはどのように?

腱鞘炎:アウトラインの表現方法はFreestyleを使っています。以前はSolidify(ソリッド化)モディファイアーを使っていて、より複雑な設定ができるFreestyleに最近変更したんです。ただ、レンダリングしないと結果がわからない部分があるので、今はグリースペンシルやPSOFT Pencil+ 4 Line for Blenderを使うことも検討中です。

CGW:他にも課題はありますか?

腱鞘炎:クロスシミュレーションやパーティクルエフェクトなど、キーフレームで速度制御ができないものに対して、Blender内でコマ打ちができないのが課題ですね。特に衣装のセカンダリは、ボーンで揺らすよりもクロスを使った方が時短になることが多いのですが、そうするとコンポジット作業が必須になって、時短を目指す意味では本末転倒になってしまうという……。現状は、ボーンにクロスシミュレーションをベイクして、キーフレームでコマ打ちするための手順を模索していたりします。

CGW:最後にメッセージをお願いします。

腱鞘炎:3Dキャラクターは動かして可愛いか、格好良いかだと思っています。ですから私は、制作物を「可愛いでしょ!」とアピールするための前提として“動かす”ようにしています。自分の頭の中にあるキャラの表情や仕草も含めて表現して共有した制作物ですが、「良いモデルだ」と思っていただけたなら本望です。今後も一貫性をもって活動し、その結果をより多くの選択肢に繋げていきたいと思います。

CGW:期待しています。ありがとうございました。




同氏のYouTubeチャンネルに2023年10月末に投稿された動画「6分で見せるアニメルックの3Dキャラクターモデリング┃タイムラプス」も72万回再生と注目を浴びた作品のひとつ。併せて確認してほしい。

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