1月某日、コロプラ本社にて開催された新作アプリ体験会の模様をお届けしよう。

このたび同社がリリースしたのは、ノンフォトリアルのモンスター育成バトルRPGアプリ『MONSTER UNIVERSE(モンスターユニバース)』と、フォトリアルな探索型アドベンチャーゲームデモ『PRINCIPLES(プリンシプルズ)』の2タイトル。

UnityのレンダリングパイプラインであるUniversal Render Pipeline(以下、URP)への移行・カスタマイズをはじめ、様々なグラフィック表現のR&Dを行ない、アプリとして結実した両タイトルは、コロプラの今後のグラフィック開発の指針を社内外に示す作品となっている。

編集部スタッフによる実機での体験レポート、そして開発スタッフの声をそれぞれのタイトルについて紹介するが、読み終えた後には実際にアプリをダウンロードして進化したグラフィック表現を体験してみてほしい。コロプラの本気のグラフィックを目の当たりにするはずだ。

▼『MONSTER UNIVERSE(モンスターユニバース)』体験レポート

求められたのはよりリッチなグラフィック
開発フローを一新して取り組んだ新タイトル

モンスター交配システムが注目の3DアクションRPG。モンスターが大好きな主人公フィーナとともに、伝説のモンスターを生み出し島の生態系を取り戻していくストーリー。本格的なアクションも楽しめるゲームとなっている。

『モンスターユニバース』をプレイして、まず景観の情報量の多さに圧倒される。スマホ画面のなかで、樹木の葉は自然にゆれ、草原は風になびく。広大なフィールドのなか、どこを見ても飽きがこない構図とディテール。キャラクターは繊細なタッチで描かれているが、主人公の持ち前の明るさとアニメのようなコミカルな表現とあいまって、すぐに主人公に愛着が湧いてくる。

さて、開発面にフォーカスすると、本作ではプロジェクト開始当時すでに導入実績のあったURPを活用し、パフォーマンス改善に乗り出した。2021年のCGWORLD.jpの記事でも話題に上げているが、URPへの移行・カスタマイズをはじめ、様々な表現の検証に半年ほどの期間を設け、その後に実制作へと移ったという。

右から 池田洋一 氏(プロジェクトリーダー)、菅原 祐介 氏(アートディレクター)、北村康高 氏(背景デザイナー)

プロジェクトリーダーを務めた池田洋一氏(以下、池田氏)は開発を振り返り、「プロジェクト立ち上げのタイミングで、プロジェクトのほうから、各プロジェクトへの技術支援等を行なっている技術研究部開発効率化グループに『3DCGグラフィック表現を向上させたい』と相談があったことが、本作のグラフィック開発に注力するきっかけとなりました」と語る。

当時の開発フローは、プロジェクト開始後にプロジェクトで必要な技術検証を進めるというもので、予算やスケジュールを考慮するとトレンドの技術を採用しきれない、という状況にあったという。また、そのフローではターゲットとなるプロジェクトがないと技術開発が進まず、ツールや技術は進化していく一方でそれらを生かし切るプロダクトがない、というジレンマを抱えていたそうだ。そこで従来の「開発スタート後に、技術検証」というフローを改め、「まず技術検証をしてから、開発スタート」という新たなフローに舵を切る決断がなされた。それにより十分な技術検証と、その後の開発を経て世に送り出された第1作目が『モンスターユニバース』ということになる。

可能な限りリアルタイム描画を目指しつつ
最高にリッチな表現のアクションゲームを目指す

本作ではよりリッチな表現を目指して、可能な限り、様々なものをリアルタイムで表現することにこだわり抜いている。「草原ひとつとっても、いつまでもテクスチャ表現に頼らずに「大量の草」を表現したいという理想は以前からあり、それを実現するのにどういった描画方法が良いのかをエンジニアと話し合って進めていきました(池田氏)」。

ただしハイエンドなスマートフォン端末を所有していないユーザーも楽しめなければ意味がない。そこでユーザーの端末に合わせてフレームレートを落とさずにゲームを楽しめるように工夫が凝らされている。たとえば「端末によってシャドウのレギュレーションや植物の描画数を変えています(菅原祐介氏)」といった対処がなされたというが、これはURPのカスタマイズによって得られたメリットのひとつだ。

URPの採用によりカスタマイズ性が向上し、処理負荷が低減

URPへ移行したメリットは、本記事で取り上げたものだけでなく、コロプラが開発している複数のプロジェクトでもグラフィック機能の底上げにつながっている。

URPはパッケージとしてソースコードが公開されており、扱うエンジニアにとってエンジンの仕組みが把握がしやすく、欲しい機能を自由に追加できるなどカスタマイズ性が高い。さらにモバイルで動かす場合は、ビルトインレンダーパイプライン採用時よりもURPのほうが処理負荷の面でも有利になり、『モンスターユニバース』開発メンバーからもパフォーマンスが上がったという意見があった。その結果、モバイルでもSteamと比較しても遜色ない高品質のビジュアルをリアルタイムで描画させることが可能になった。

■本作におけるコロプラの取り組みの詳細は以下の記事をチェック!
>>『ボリューメトリックフォグも、シャドウもブルームもあきらめない。コロプラにUnity URP移行の今を聞く』

▼『PRINCIPLES(プリンシプルズ)』体験レポート

モバイルでここまで動く!
未来のゲームグラフィックの可能性を実機で示す

探検中に岩の割れ目から地下に落下した冒険者の目の前に、古代の遺跡が現れる、というアドベンチャーゲーム。解像度等はロウ、ミドル、ハイ、カスタマイズで選ぶことができるので、体験する際にはグラフィックオプションのカスタマイズもトライしてみてほしい。

まず最初に『プリンシプルズ』を体験した率直な感想を述べると、高精細でドラマティックなグラフィックを手元で操作できることが革新的だ。カーソルUIを操作すると、リアルタイムでコンシューマゲーム顔負けの美麗な画面がなめらかに動く。道中には木箱をはじめ、破壊可能なオブジェクトがいくつも配置されていて、物理シミュレーションのおかげで「壊している感覚」がダイレクトに味わえる。さらにヘッドフォンなしでも臨場感のあるサウンド演出で、音によって自分が今どこにいるかが把握できる。グラフィックとサウンドの両面でリッチなゲーム体験をつくり上げている。

コロプラの最新技術を詰め込んだデモである本作はスマートフォンのみで体験できるアプリで、iOSとAndroidに対応している。アニメ調のモバイルアプリのイメージがあるコロプラが、本気のフォトリアル表現に取り組んだ作品といえるだろう。

また本作は、新たにコロプラ内に立ち上げられた技術ブランド「COLOPL Creators」による1作目のアプリということでもある。

COLOPL Creatorsは、コロプラが開発中の最新技術を情報発信するための新ブランドで、ブログやSNSにて最新のコロプラ開発情報を発信している。こちらもぜひチェックしてほしい。
https://note.colopl.dev/

本作の開発コアメンバーは、元は『モンスターユニバース』の技術開発・検証に携わっていたスタッフで、そちらから離脱して新しく本プロジェクトの立ち上げを行なった。12月頃に始動した後、他案件と並行しながら携わるメンバーもいるなかで2022年9月に完成させたとのこと。なお本作の開発チームにはプランナーはおらず、デザイナー・プログラマー主導で開発が行われた。デザイナー・プログラマーが自ら考えてつくる、という積極性を重視したチーム構成だ。デザイナーそれぞれに、背景やキャラクターだけではなく全体を見られる視野を身につけてほしい、という若手スタッフを育成する目的もあったそうだ。

右から 秋友 覚 氏(プロジェクトリーダー)、丸野未奈 氏(リードエフェクトアーティスト)、北村康高 氏(アートディレクター)

開発の目的や方針について、プロジェクトリーダーの秋友 覚氏(以下、秋友氏)によれば「『技術ブランディング』という意味合いが強く、アプリを通して社内外にコロプラの技術力を認知してもらう狙いがあります。また、本作の開発ではユーザー体験に明確な方針をもっていて『3DCGをゆっくり観てもらうこと』でした」とのこと。それを受けて、画面上のUIは少なめに、ジャンプなどのアクション要素も無くしている。「弊社にはコテコテのゲーム好きが集まっているので、アクションさせたい! という要望も挙がり、せめぎ合いはあったのですが、3DCGを観てもらうという目的に沿って全員が制作したことで、短期間で完成させることができました(秋友氏)」。

また、本作をリリースした経緯について「技術デモは映像として発表されることが多いですが、実際のゲームでの使用を想定した場合、リアルタイムで描画する必要があり、今回はあえてアプリとしてリリースすることで開発的な逃げ道をなくす、という目的もありました」と秋友氏は語った。

『プリンシプルズ』での新技術への挑戦

本作は「技術デモ」アプリという位置づけだが、ここからはどのような取り組みを行なったかを紹介していこう。

レベルデザインもアートチームが独自で行なったとのこと。

まずアート面に注目すると、フォトリアル表現へのこだわりが随所から窺える。作品の舞台は地下であるために太陽光が届かないという設定だ。工事用の電球を想定したポイントライトを置き、プレイヤーが迷わないように、かつアクション可能な場所が目立つように、など機能面でデザインを考慮した上で、雰囲気のある画づくりを行なっている。この雰囲気を壊さないよう、今回、火花や衝撃波の粒子エフェクトはエフェクトツールとしてVisual Effect Graph(以下、VFX Graph)を採用している。VFX Graphはアーティスト側で表現を細かく調整でき試行錯誤することができたという。また、エンジニア側では解像度、アンチエイリアス、ブルーム等、豊富なグラフィックオプションの開発を行ない、設定ごとのグラフィックスの違いを感じられるようになっている。

次に開発ツールについてだが、HoudiniSubstance Designerなどのソフトを有効活用したことが、制作時間の短縮につながったそうだ。Houdiniはエフェクト制作に、背景やキャラクターにはSubstance Designerが使用され、植物のモデリング用にSpeedTreeも導入。グラフィック面以外にも、サウンド表現の向上を図り、Wwiseというミドルソフトウェアを使うことでプログラム作業の工数を短縮しつつもリッチな3Dサウンドを実現している。

『プリンシプルズ』はエンジニアたちが自由に技術トレンドを取り入れ研究・検証するためのデモという側面もあったそうで、「つくって終わり、ではなく、社内外で技術を共有することも目的としていたので、本作が完成した9月以降は、このプロジェクトで得た知見をコロプラ社内でConfluenceSlackで共有し、他のプロジェクトでその技術を活用するための最適化を考えるなどの時間に充てました。その部分はリードエフェクトアーティストの丸野、アートディレクターの北村ががんばってくれました(秋友氏)」。

本作は技術研究部のスタッフだけで開発されたわけではなく、他のプロダクトに参加しているスタッフも一時的に参加して制作された。参加メンバーが従来のプロダクトに戻った際に、ツールやライブラリ、開発の知見を共有してもらうことを意図してのことだったという。

■本作におけるコロプラの取り組みの詳細は以下の記事をチェック!
>>『「HDRPの表現をURPでも可能にする」URPへの移行を実現したコロプラの次の挑戦とは?』

>>『技術開発を自己満足で終わらせない。コロプラ技術デモにおけるVFX表現の取り組み』

▼今後の新作アプリ開発に向けて

今回、『モンスターユニバース』『プリンシプルズ』の2タイトルを開発・リリースしたことで、ノンフォトリアル表現とフォトリアル表現の両方でリッチなゲームグラフィック開発技術があることを示したコロプラ。

「今後は『モンスターユニバース』以上のゲームがリリースされるでしょうし、これから新規に開発着手するタイトルについては『プリンシプルズ』相当のものが出せるようになるはずです。グラフィックの技術面、リッチさでお楽しみいただけたらうれしいです」と『モンスターユニバース』でプロジェクトリーダーを務めた池田氏は自信をのぞかせる。

グラフィック表現の幅を格段に広げたコロプラの今後の動向に期待したい。

※画像は開発中のものを含みます。
©︎COLOPL, Inc.
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▼アプリ情報・ダウンロードリンク

『MONSTER UNIVERSE(モンスターユニバース)』

配信国

約170ヵ国

対応言語

日本語・英語※英語はテキストのみ。ボイスは日本語のみ

配信PF

iOS, Android, steam ※スマホPCのモンスター同士で交配可

最低スペック

iOS:iOS 13.0以降 iPhone 8 Plus 以降 メモリ3GB以上(一部非対応端末あり)、Android:Galaxy S9

価格

無料

アプリ内課金

あり(追加キャラクター(キャラクターエピソード付き)、キャラクターパック)

『PRINCIPLES(プリンシプルズ)』

配信国

日本

対応言語

日本語

配信PF

iOS, Android

最低スペック

IOS:iPhoneXS、Android:Galaxy S10相当

価格

無料

アプリ内課金

なし

TEXT_武田かおり 、EDIT_小倉理生