6月30日にHigaCGチャンネルでおなじみ、CGモデラーの前東勇次氏より発表された、若手CGアーティスト向けの3DCGコンテスト「三次元無双」。同コンテストの応募作品の中でひときわ注目を集めたのが、Kei Kanamori氏が制作したCGムービー作品「」だ。

書道と流体シミュレーションを融合するというコンセプトのもと生み出された「舞」について、映像制作の裏側を探るべくKei Kanamori氏にインタビューを実施した。

CGWORLD編集部(以下、CGW):「舞」の制作経緯を教えてください。

Kei Kanamori(以下、Kanamori):書道の流れるような筆運びと、墨の流体感を融合させるというアイディアでした。中高で書道をやっていた頃から、墨の流れと一緒に筆を動かすような事を頭の中で想像しながら字を書いていたことがあって、それを映像で表現したいとずっと考えていました。

「花」と書いて水墨画の花が咲く、などいろいろなアイディアがありましたが、最終的に鳳凰の「舞」というテーマに決めました。自分で実際に字を書かないと、この映像を作る意味がないと思ったので、カッコよく書けるように筆を練習するところから制作がスタートしました。

CGW:Kanamoriさんのプロフィールを教えてください。

Kanamori小さい頃から洋画が好きで、高校2年の時にCGに興味を持ち、Blenderを始めました。小学校の頃から折り紙などの物作りが好きで、折り紙の数学的な造形の感覚が、CGと似ていたことがきっかけでCGに夢中になりました。ちなみに書道は中高の6年間取り組んでいました。

その後、大学に入ってからMayaを使いはじめ、今回の作品のために昨年からHoudniを始めました。現在大学4年生で卒業制作に取り組んでいて、将来は海外就職を目指しています。

CGW:「舞」の制作で工夫したポイントはどこでしょうか?

Kanamori広がりながら潰れたり、紙との摩擦でねじれたり、筆の柔らかさを再現することにこだわりました。映像の0:39あたりで筆を反対側に倒す動きなど、実際の書道にある特徴的な筆使いも再現できるような仕組み作りをしました。自分で筆を動かしている様子を撮影してトレースしたり、作業中にも実際に筆を握って、自分の指の力の入れ方を観察をしたりしながらアニメーションを進めました。

カメラワークに100%のコントロールが欲しかったので、筆も含めてフルCGにする決断をしましたが、最終的な映像では筆と手がCGであることすら気にならないようなクオリティを目指しました。

CGW:筆が通った後、墨が文字の輪郭を形作る部分はどのように作られているのでしょうか?

Kanamori:映画『メッセージ』の文字の表現がイメージに近かったので参考にしました。最終的な墨のルックはパーティクルですが、墨の動きはHoudiniのpyroシミュレーションを使いました。墨が煙のように広がった後に、文字のシルエットに戻ってくるように、ベクトルの情報で細かく流れをコントロールしています。

それに加え、文字の形から墨になって崩れていく風化エフェクトを作り、それを逆再生させたものと組み合わせることで、流体から文字が形成されていくように見せています。

CGW:今回、苦労したのはどういった点でしたか?

Kanamori:リグもアニメーションも、もともと経験があったわけではなく、この作品を作るために勉強を進めていったので、すべてが手探り状態でした。特にカメラワークは、見ていて気持ちのいい映像を作りたかったので、納得のいくものになるまでとても時間がかかりました。

やはり一番大変だったのは墨のエフェクトで、自分のイメージしていた動きに近づけるため、Houdiniでの試行錯誤は2ヶ月以上続き、全く進捗のないその期間はとても辛かったです。墨のパーティクルのレンダリングも夏休み期間いっぱいかかりました。また、最終的なコンポジットも、墨のなめらかな質感と、和紙のザラザラした質感の良いバランスが見つからなくて大変でした。

CGW:今後制作してみたいと考えている作品があれば教えてください。

Kanamori:過去に折り紙のカエルがぴょんぴょん飛ぶ短いVFX映像を作ったことがありましたが、現在取り組んでいる卒業制作では、本格的に折り紙の表現に挑戦しています。これまで映画やゲーム作品の中で、紙がパタパタと折られて折紙に変形するシーンがあっても、僕が知る限り必ずモデルを途中で切り替えたりするなどの”ごまかし”が入っていました。

正方形から折紙になるまでの変形をCGで完璧に再現することにこだわって、”折る”という変形だけで造形する折り紙の美しさを伝えることができるような映像作品を目指しています。今回の作品同様、和紙の質感など和の要素も大切にしたいと思っています。

CGW:海外での就職を目指されていらっしゃいますが、どのようなお仕事を希望されていますか?

Kanamori:『ハリーポッター』や『スターウォーズ』などの洋画を見て育ったので、将来は海外の映画のCG制作に関わりたいと思っています。CGの作業が全体的に好きなのでゼネラリストになりたいです。しかし海外の映画は分業が基本と聞くので、一つ選ぶとしたら、仕組み作りが好きだったり、これまでにない表現に挑戦したいという想いが強いので、エフェクトが自分には合っているのかなと最近は考えています。

Kei Kanamori氏

X:https://twitter.com/kei_kanamori
Youtube:https://www.youtube.com/@kei_kanamori

EDIT_小倉理生(shushu-kikaku