デジタルアーティスト向けのテクスチャツールにフォーカスしているAllegorithmic。同社が開発する Substance ツール群は現在、ペイントや写真を元にしたテクスチャはもちろんのこと、プロシージャルのテクスチャ生成ツールとしてゲーム業界を中心に急速にシェアを高めている要注目の存在だ。今回はCEDEC 2016における講演とカラオケのために来日したという、Allegorithmicのシニア・コミュニティ・マネージャーでありテクニカルアーティストとして活躍するウェス・マクダーモット/Wes McDermott 氏へのインタビューが実現したのでここへお届けする。

TEXT_安藤幸央(エクサ) / Yukio Ando(EXA CORPORATION
EDIT_沼倉有人 / Arihito Numakura(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota



<1>PBRの浸透が3Dペイントツールを普及させた

ーーまずは今回来日された目的と、ウェスさんのお仕事について教えてください。

Allegorithmic/ウェス・マクダーモット氏(以下、マクダーモット氏):今回で3回目の来日になります。Allegorithmic における担当業務は、コミュニティ・マネージャー、コミュニティのサポート、そしてテクニカルアーティストを担当しています。具体的にはチュートリアルを作成したり、トラブルに対応したり、GDCやSIGGRAPH などのカンファレンスで技術デモを行なったり。様々な国のCGスタジオを訪問し、サポートやトレーニングを提供しています。今回の来日では、CEDEC 2016にて「Substance Painter 2.1を使用した高速テクスチャ制作術」という、日本のゲーム開発者向けの講演を行うほか、ユーザー向けトレーニングも行います。

  • いよいよ日本のデジタルコンテンツ業界にも3Dペインティングの波が到来! Substanceスペシャリストが最新動向を語る?
  • ウェス・マクダーモット/Wes McDermott
    Allegorithmic、Substanceスペシャリスト。テクニカルアーティストとして、技術的な知識と、アーティストとしてのスキルのキーとなるバランスを見つけることを追求中。Allegorithmicでは、シニア・コミュニティ・マネージャーを務めるほか、Maya、MODO、UnityとのSubstanceツール群との円滑な連携を目的とするプロダクトデザインを担当している。「Real World MODO and Creating 3D Game Art featuring Unity and Blender pipelines」の著者としても知られる。

    @The3DNinjya

ーーSubstance Painter ならびに Designer、そして Bitmap2material という、一連のツールについて改めて紹介していただけますか?

マクダーモット氏:ひとつ目の Substance Designer は、テクニカルアーティスト向けのツールです。デザイナー、クリエイターが利用する元となるマテリアル素材を作成するためのツールになります。元となる金属質感や、サビなどのマテリアルをあらかじめ作っておいて再利用するかたちで利用します。

Substance Designer 5 - Release Trailer

マクダーモット氏:2つ目の Substance Painter は、Designerよりもアーティストにフレンドリーなツールで、UV展開せずに、3Dモデルを取り込んでそこに直接ペイントできることが特徴です。キャラクターはもちろんのこと、家具、武器など、様々なものをペイントできます。

Substance Painter 2 Release Trailer

マクダーモット氏:そして3つ目のBitmap2material は、b2m と呼んでいます。写真から色などを取り込み、とても簡単に使えるツールです。取り込んだ写真を加工し、つなげて利用しても境い目の目立たない、タイリング用のテクスチャを作ることができます。テクスチャデータはエクスポートして他の3Dアプリケーション、レンダラで使うことができます。

Bitmap2Material 3 - The ultimate PBR map generator

ーーSubstanceツール群はどのような部分に定評があるのでしょうか?

マクダーモット氏:とても、ポジティブな評価を得ています。多くの大手スタジオにも採用していただいています。特にこの2、3年は急速に広まってきました。プロダクションのワークフローがPBR(Physically Based Rendering/物理ベースのレンダリング)になってきた影響が大きいですね。インディ系の小規模スタジオから個人のユーザーにも広がってきました。それと同時に良いフィードバック、ご意見をいただけるようになりました。足りない機能とかも、的確な意見を言ってくれるユーザーに助けられています。Allegorithmic では広く意見を受け容れ、大手スタジオからインディ系のスタジオまで満足していただけるように考えています。実際に、Substance Painter 2.2 のDynamic Material Layering機能は、ユーザーからの強い要望を取り入れたものです。特に『アンチャーテッド』シリーズの開発元であるNaughty Dogには Substance 4 の頃から使ってもらっていて、『アンチャーテッド 海賊王と最後の秘宝(UNCHARTED 4)』開発のために新しい機能を提供しています。

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Allegorithmic公式サイトに掲載されている『UNCHARTED 4』の事例記事

ーーそのDynamic Material Layeringという機能は、どういったものですか?

マクダーモット氏:Substance Painter 2.2 の新機能Dynamic Material Layering とは、シェーダ表現を正確にビジュアライズする機能です。例えばカメラの近くにオブジェクトがありクローズアップした時と、離れた時、つまりは低い解像度と高い解像度ではでテクスチャの見え方が異なってきますが、それらを考慮してより正確にシェーダ表現を行います。実際にマテリアルどのように表現されるのかを、マスクを書いて表現します。単にベイクしたテクスチャではなく、ゲームエンジンで実際にどう表現されるのかをリアルタイムで確認しながら細かくコントロールすることができるのです。

Substance Painter 2.2 Dynamic Material Layering Workflow

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<2>Substanceツール群の展望

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<2>Substanceツール群の展望

ーーUnityなど、他社のDCCツールとの連携にも積極的に取り組まれていますね。

マクダーモット氏:そのとおりです。DCCアプリケーションとしては、Maya、3ds Max、MODO、CINEMA 4D、iClone、Houdini など、ゲームエンジンでは Unity と Unreal Engine をサポートしています。SDK もあるので、カスタムエンジンに組み込むことや、社内ツールのワークフローの中に組み込むことも可能です。

ーー今後実装予定の新しい機能を教えていただけますか?

マクダーモット氏:7月21日から23日にわたりハリウッドの GNOMON で開催した Subscance Days というユーザーイベントで公開したものでは、Substance Designer 5.5 のバージョンで MDL(マテリアル定義言語)を作る機能が新しく追加される予定になっています。これはノードベースのインターフェイスで、グラフを使ってコードを書くことなく、MDLマテリアルを作ることのできる機能です。Substance Painter の次バージョンではスキャンしたデータを基にブレンドする機能が予定されています。

Substance Days Live Action

ーー最近オープンされた「Substance Share」というコミュニティサイトについても教えてください。

マクダーモット氏: Substance Share は、今年スタートしたばかりのサイトです。数多くのポートフォリオ(作品履歴書)を共有し、チュートリアル、アセット、ブラシ、マテリアル、ヘルプなど、デジタルアーティストたちが Substance に関する全てを共有するサイトになっています。

Substance Share - Free Exchange Platform

ーーSubstance ツール未経験の人たちへのメッセージをお願いします。

マクダーモット氏:まずは YouTube にたくさんあるビデオチュートリアルを見てもらって、機能を知ってもらいたいです。YouTube にアップしているビデオはどれもわかりやすさを心がけているのでツール操作の理解が早まるはずです。自信をもってオススメしますよ! また Substance のユーザーコミュニティが非常にツールを愛してくれているので、彼らがつくったハイクオリティな作品を見てもらい、そこからインプレッションを受けてほしい。ユーザーコミュニティで質問してみるのも良いでしょう。テクニカルアーティストとして活躍されている方であれば、複雑な Substance Designer を素早く使えるでしょう。一方のSubstance Painter は簡単なツールなので、誰もが 1日もあれば、満足のいくレベルで使いこなすことができると思いますよ。

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ーーでは、すでに Substance ユーザーの方々にもアドバイスをいただけますか?

マクダーモット氏:お気づきの方も多いと思うのですが、小さいところから着手し、少しづつ、より複雑な処理/表現に仕上げていくのがコツです。ハイトマップやノーマルマップといったグレースケールの単純なところからから始め、チェックしていきます。色や構造をシンプルに保つのが重要です。あとからカラー情報を加えていく方が、細かなニュアンスを最適化していきやすいのです。細かいディテールを最初に加えてしまうと、様々な作業をしていくうちに、気づいた頃には、その細かなディテールが失われてしまうからです。

ーーテクスチャアーティスト全般へのアドバイスもいただけますか?

マクダーモット氏:何かをじっくりと観察し、参照するというリファレンスの作業はとても大切です。実際に物体に触って、ざらつきを感じたり、様々な方向からの反射を観察することもかかせません。悩んだらシンプルな形に、細かく分解していくことが秘訣。それらの情報を積み上げていき、物体全体を見ていくのです。全体像から、細かな一部分まで、様々な段階の大きさに分けていくことでマテリアルを忠実に再現していくことができると思います。

ーー最後に日本のデジタルアーティストたちへメッセージをお願いします。

マクダーモット氏:Substance をぜひ使ってください! 様々な国のユーザーとコミュニケーションをしていると、スタジオごと、ユーザーごと、国ごとに使い方や利用方法は千差万別です。ですからぜひともSubstanceツール群を使っていただき、コミュニティに参加してほしいのです。日本のユーザーの作品や使い方の情報が世界中に発信されることで、そこからさらに新しいアイデアが生まれてくるかもしれません。Substance Share のコミュニティサイトに書き込んだり、メッセージをいただければ、私自身もサポートしますし、世界中のユーザーが助けてくれます。ですから、Substance にぜひ触れてみてください!

いよいよ日本のデジタルコンテンツ業界にも3Dペインティングの波が到来! Substanceスペシャリストが最新動向を語る?

マクダーモット氏のArtStationページ。Substanceツール群に興味をもった人は、その肩書きのとおり、テクニカルとアーティストの両面に精通する彼にいろいろと聞いてみるといいだろう