2Dで描かれたマンガやアニメのキャラクターを、原画のタッチそのままに動かすことのできるLive2D Cubism(キュビズム)。その進化系であるLive2D Euclid(ユークリッド)では、複数の原画(psd形式)を変形・つなぎ合わせて、原画のもつ繊細なタッチをそのままに3D空間で動くモデルデータを作成できる。このEuclid登場の背景を、Live2D代表取締役の中城哲也氏に紹介いただいた。

※本記事は2017年6月上旬に実施された取材内容に基づきます。

TEXT_安藤幸央(エクサ)/YukioAndo(EXACORPORATION)
EDIT_山田桃子 / Momoko Yamada
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota

<1>会社員時代にアイデアを思いつき、独立

ーーまずはLive2D社の紹介をお願いします。

Live2D社は今年で創業から12年が経ちました。Live2Dというソフトウェアの開発と制作だけでここまで発展してきた会社です。Live2Dは、作画そのままの表現を進化させたい、という思いから開発がスタートしました。アニメーションやゲームの世界では現在、3DCGの技術を用いて作画のテイストを表現するという作品が多いですが、Live2Dでは線の一本一本を、作画でしか描けない自由度で表現しています。作画が2Dのままでうまく変形し、あたかも3DCGのように立体的に見える......そういった3DCGとはまた異なる表現を追求しています。

Live2D代表取締役 中城哲也氏

ーー現在の会社の規模はどの程度のものですか?

現在、Live2D社では50人ほどが働いています。プログラマが24人、デザイナーが13人(アルバイト含む)です。創業時から意識しているのは、一番最初のユーザーは外部の人間ではなく社内の人間でなくてはならない、ということです。なのでLive2Dに対する意見や要望が、すぐに届く環境であって欲しいと考えています。とは言え、社内の人間だとツールの使い方が統一されてしまうので、世界中のユーザーを相手にするためには、遊びで使う人からプロまで、あらゆるレベルのユーザーを想定しなくてはいけないと思っています。

ーー創業のきっかけはどういったものですか?

会社を立ち上げる前、別の会社で働いていた頃にLive2Dのアイデアを思いつきました。現在の会社を創業する5年前、今から17年前の2000年頃のことです。前に働いていた会社でもグラフィック関係の開発をしていて、作画のイラストを動かすことも試していたので"これは凄いことができるのではないか"と思いついたんです。

Live2Dの元となったアイデアはその当時の社長にも話し、「面白い!」と賛同してもらえて、会社としてそのプロジェクトを手がけてもよいと言われました。その会社では取締役にまでさせてもらったのですが、本業が別にある会社で、自分のアイデアがちゃんと実現させられるのか? と疑問に思うところがありました。実際に、メインのビジネスが他にある中で実現可能かもわからないアイデアをビジネスにするのは相当無理があり、会社に在籍したままアイデアを活かすのはとても難しいと考えていました。けれども大きな可能性は感じていたので、もともと独立願望があったこともあり、アイデアを実現させるために創業したのです。

そもそも、自分の独立願望が養われたのは子供の頃でした。親父も独立したがっていたのですが、様々な事情で実現できなかったみたいです。そんな父親の姿を見て育ったので高校生の頃から"独立"ということを意識するようになりました。大学では起業セミナーなどを主催するサークルに所属しており、その活動からもかなり影響をうけました。

ーー絵を描くことも好きだとお聞きしましたが?

小さい頃、少しだけ漫画家になることを夢見ていました。漫画家に憧れて小さい作品を描きましたが、1~2ページ描いて自分には難しいことがわかりました。子供が皆、漫画家に憧れるようなものですね。高校時代には美術部に潜り込んで絵を描いたり、学校祭のポスターのコンテストに応募して200作品の中から優勝したりと、絵を描くこと自体は昔から好きでした。自分にとって絵を描くことはモノづくりの一種で、プログラミングもモノづくりという意味では同じだと思います。おまけに漫画もプログラムも、たった一人でも全体像を設計・構築でき、世界に通用する凄いものがつくれるかもしれない。そういう意味で2つは似ていて、モノづくりの中でもとても魅力的なジャンルだと思います。

Live2Dサンプル作品集

<2>出資金でつないだ不遇の時代を経てチャンスを掴む

ーー創業してから数年間、厳しい時代があったようですね。

最初の1~2年は一人でやっていたので、イケイケで夢いっぱいだったんですけどね(笑)。最初の4年間はLive2Dを使ってもらえず困りました。当時はFlashが流行っていたので、Live2Dの初期シリーズではFlashアニメの『やわらか戦車』のような表現を目指していたのですが、なかなかビジネスに結びつかず......。友人・知人から出資をうけて、勝負にでましたが、どうにもこうにも厳しい時代が続きましたね。

Live2Dを導入してもらうにはまずゲーム分野がよいだろうと考えていたのですが、当時はゲーム用途にも最適化されておらず、必要な機能も絞りこまれていませんでした。ゲーム用に最適化されたバージョンもなかったのでFlashやWebをターゲットにしていましたが、そのうち資金も尽きてしまいました。

売上がほとんど立たないまま資金がなくなり他のメンバーには全員辞めてもらわざるを得ない状況になりました。給与の遅配だけは辛うじて免れましたが、そのままの体制で続けるにはLive2Dに専念するのを諦めて無関係の受託開発などを受けるしかない。それでは会社の存在理由そのものが変わってしまうと、わがままを通させてもらいました。元々売れていない状況でLive2Dに興味を持って集まったメンバーだったので、外から応援してもらうような関係になり、今でもたまに飲みに行っています。

転機となったは、バンダイナムコゲームス(現バンダイナムコエンターテインメント)の作品です。その作品の開発を担当していたガイズウェアの亀谷社長が、実績がなくても良い技術であれば積極的に採用される方で、紹介いただいてから1年ほど経って「Live2Dで表現力が上がるなら次のタイトルで使えるかもしれない。今、どういう状況?」と聞かれまして。その後、アドバイスをいただきながらLive2Dの研究開発も進め、このプロジェクトが会社にとって転機となりました。

そこでいただいたアドバイスを参考に、Live2Dをベクターグラフィックスでつくったものから3Dエンジン上でポリゴンを使って表現するしくみにつくり変えました。こうして3Dエンジンに移行してなかったら、会社は今頃潰れていたかもしれません。

Cubismの作業画面。作画素材をパーツ分けして使用する

次ページ:
<3>Live2D CubismとLive2D Euclid

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<3>Cubismとその進化形Euclid

ーーLive2D CubismとLive2D Euclidについて教えてください。

Live2DにはCubismとEuclidというシリーズがあり、Cubismの方は一枚の原画からのモデリングに特化した、イラストレーターの方でも使いやすいツールになっています。バンダイナムコゲームスに採用され、3Dエンジンに対応することが決まった時に、Live2D Cubismというシリーズが生まれました。Live2Dという技術体系があって、製品としてはCubismという名前なわけです。一方、本格的な3D表現を可能にしたEuclidは2014年に開発を開始し2017年4月に1.0をリリースしました。開発には4年ほどかかっています。

Cubismの作業画面

ーーEuclidの登場は、ニーズがあってのことなのでしょうか?

Live2Dの理想は、作画のまま動かせるというものです。ただし2Dよりももっと自由に動かしたいという声もありました。例えば顔の部分だけLive2Dでつくり、3Dモデルのボディにはめ込んで使いたいなど。そういった様々な要望からEuclidは生まれました。Cubismは、初期のツールの延長線だったので開発時にとくに問題はなかったのですが、Eculidに関しては技術的課題だらけで「そもそも実現できるのか?」という不安もあったのですが、様々なハードルを越え世に送り出すことができました。

Euclidの開発は、プロトタイプづくりから始まりました。もともとLive2D Vectorと、Live2D CubismではJava(3.0からはKotlin)を使っていましたが、EuclidではC++というプログラミング言語を使用しています。グラフィックスツールをJavaでつくるというのは珍しい選択でしたが、様々なプラットフォームでも動作するマルチプラットフォーム対応のプログラミング言語を選んだことは、結果的に良い選択だったと思います。

Kotlin:最近、Androidスマートフォンのアプリ開発にも使えるプログラミング言語として注目を浴びているオブジェクト指向プログラミング言語

ーーEuclidの開発は、実際にどのように進められたのでしょうか?

EuclidではC++に加えて、さらにQtというGUIフレームワークを採用しています。これは3DCGツールMayaや、コンポジットツールNUKEでも使われているフレームワークです。

Cubismでは1枚の原画からキャラクターを動かすことができるのですが、±30度程度の角度までしか動かすことができませんでした。そこでEuclidでは、上下左右全ての方位で360度自在にキャラクターを回転させてみることに挑戦しました。様々な方向から描いたキャラクターの原画を用意して、キャラクターを回転させる。最初は十数枚の原画を使って実現していましたが、最新版では2枚の原画からでも動かせるような技術になっています。初期のプロトタイプは自分がつくったのですが、商品化に向け本格的に開発するとなってからは、若手中心のチームにまかせたところ、プロトタイプとは別次元の良いツールにしてくれました(笑)。

Euclidアニメーションエディターの画面

<4>Live2Dの現在と今後の目標

ーーLive2D社で働いているのは、どのような方々ですか?

先ほどもお話した通り、現在、社員は約50人、平均年齢が30歳ほどで20代の社員も多いです。外国籍のプログラマもおり、ドイツ、台湾、インドネシア出身のメンバーもいます。皆、母国在住の状況から直接採用しました。インドネシア出身者は、弊社が開催したコンテストで優勝したメンバーです。最初はインドネシア語と英語、中国語が話せる反面、日本語は全く話すことができなかったのですが、日本語を覚えつつうまくコミュニケーションをとりながら働いてくれています。

ドイツ出身のメンバーは職歴はプログラマがメインではなかったようですが、プログラマとして社内でトップクラスの実力・知識量を持ちます。何より論理的思考で、相手を正しいと思う方向に説得しようとする姿勢は学ぶべき所が多いですね。このように日本だけでなく世界に採用の門戸を開くことは、ユニークな人材が集まり、挑戦しがいのある取り組みだと考えています。

ーーCubism3.0、Euclid1.0が正式リリースされたばかりですが、海外と国内のシェアの割合は?

Cubismは国内と海外で10:1程度の割合です。海外からの引き合いは、主に中国、韓国を中心とするアジア圏が、欧米よりも先行しています。それらは日本のコンテンツに親近感をもっている国、萌えキャラに抵抗感がない国です。欧米だと表現によっては規制にひっかかる場合もあります。Cubismが使われているUbisoft『City of Love』はやはり萌えキャラではなく、欧米テイストの彫りの深いキャラクター表現で利用いただいており、フランスで大好評で、74ヶ国でiOSのダウンロードランキングのトップ5、14ヶ国でiOSの収益ランキングトップ10に入りました。

参考記事「"生きているキャラクターを見つめながら対話をする"という視覚的体験を提供したい」
www.live2d.com/ja/interviews/cityofloveparis

また、韓国SHIFTUPの『DESTINY CHILD』というタイトルでは、かなりの準備期間が費やされました。トータルで3年かかり、もっとつくり込みたいという要望から300体のキャラクターが用意されました。こちらも韓国のApple、Google Storeで50日間1位を獲得し続けた人気タイトルです。つい最近日本でのリリースも発表されました。

Live2Dが導入されて特に評価されているのは、会話のシーンなどでキャラクターの表情や動きが生き生きと表現できる部分です。こういった場面はイラストのタッチを3Dで再現するのが難しいところですし、全てを手描きアニメーションで描き起すにはコスト的に見合わない。そのような理由から、従来、動かないのが当たり前だったようなシーンに活用するのが、かなり喜ばれている事例になります。

ーーゲームでの導入が多いですが、評判はいかがですか?

3DCGでキャラクターをつくると、監修と制作との間でやり直しが多く発生するのに対して、Live2Dでは基本的に原画そのままなので、監修はかなり楽です。原画を描いた作家さんにとっても、イメージどおりの仕上がりになるのでかなり喜ばれています。

UbisoftがLive2Dの採用を決めたのは、『ファイアーエムブレムif』で使用されていたのを見たのがきっかけだったそうです。Live2Dはお金をかけて宣伝するわけではなく、作品がまた作品を呼び込むという良い循環があります。アジア圏ではそういう循環がうまく回りはじめていて、半年ごとに次のタイトル、次のタイトルと続き、続編でも使ってもらえるというリピート採用もあります。

ユーザーもますます増えてきています。ゲームユーザーの中にも、Live2Dが使われているとわかってプレイするユーザーが増えてきているようです。単なるベクターアニメーションとはちがう表現だと、気づいてくれているんですね。

理想を言えば、Live2Dの表現を手描きアニメーションと見ちがえるほどのクオリティまで高めたいのですが、まだまだそこまでの完成形には到達できていません。その一方、手描きアニメでは描ききれない細やかなイラスト表現を動かすことができていると思います。

Live2D Euclidのデモ動画

ーーLive2D技術が向かない分野はありますか?

現状ではプラットフォーム型のゲームや、スプライト表示が動き回るような作品にはあまり向きません。例えばマリオのようなキャラクターベースの横スクロールゲームなどです。Cubismが得意とするのは、立ち絵の会話型のゲームにおける作画ならではのテイストをもった、自然な動きです。Euclidは2D的、アニメ的な表現を3Dで行なっている全ての利用シーンで使われることを目指しています。

ーーLive2Dに向いた原画の描き方はありますか?

上手い絵は上手いまま、下手な絵は下手なまま、素直に動かしてしまうのがLive2Dの醍醐味です(笑)。商業的なLive2Dの使われ方では、原画を描いた人が動きも担当することは、ほぼありません。なので、原画は原画で完成作品として生み出し、動きは別のデザイナーが付けていくことになります。個人の方は絵を描きながら動かして、描き足して、動かしてというサイクルになることが多いのではないかと。 描く人がLive2Dのしくみを把握し、動き方を想定して過不足なくレイヤー分けされて描かれていると圧倒的に動かしやすくなりますが、絵を描く方は何も考えずに描きやすいように描いて、それを効率よく動かせるのが理想と思い進化を続けています。

ーー現在、実験中だというEuclidのVR表現について教えてください。

Euclidで作成した女の子のキャラクターモデルを、VR空間に表示させるというデモを作成しています。作画のテイストを保持したまま自然に動き、昨年に制作した別のEuclidのVRデモよりも細部の表現力が増したので完成度は高まっているのですが、フレームレートの関係などまだまだ開発の余地があると思います。これからどんどんクオリティを高めていって、スネ夫の髪型など、作画ならではの表現をどんどんVRで再現してみたいですね。

Euclidで作成したVRガール「風花」

ーー今後の予定などあれば、教えてください。

創業以来100%の力をLive2Dに注いできましたが、これからは本格的に世界中で使われることを目指して体制を整えていきます。開発、デザイナーなど、社員をあと10名ぐらい増やそうと思い、募集をかけています。なので弊社の事業に共感していただけた人は、ぜひ入社して欲しいです。技術職だけでなく、営業や広報担当など様々な職種を募集していますので、ぜひよろしくお願いします。

また、Live2DとしてはCEDECに出展することが決まっています。先日、米国オースティンで開催されたSXSWでも等身大パネルを展示して評判を集めていました。その他にも、近々大きめの発表ができる予定で進行していますので、楽しみにしていてください。映像事例として、驚くような前進が感じられる発表ができると思います。



  • Live2D Cubism
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    Live2D Euclid
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