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CPU・GPUベースが混在し、レンダラ戦国時代を迎えたCG・映像業界。ハードウェア面でも新世代CPUや超高速ストレージなどの新製品が市場を賑わしている。こうした中、2018年のCG・映像制作で必要なマシンスペックとは何か? コロッサスとマウスコンピューターのコラボレーションで検証が行われた。
ハードもソフトも日進月歩の中で、2018年に求められるPCスペックとは?
アートとエンジニアリングが融合するCG制作。CGアーティストといえども、技術革新に対する的確なキャッチアップが求められている。特に近年はCPUベース・GPUベースのレンダラが登場し、「レンダラ戦国時代」ともいえる状況を呈してきた。一方で新世代CPUや大容量・高速SSDストレージが登場するなど、CG制作のベースとなるマシン選びにおいても、選択肢が広がっている。
ただし、最適なマシン構成といっても、アーティスト視点と経営者視点では、自ずと規準も異なる。「予算が許す限り最高のPC」を使用したいのがアーティストの常だが、経営者からすれば機材の減価償却やレンダラのライセンス費用なども踏まえた、総合的な判断が必要だからだ。実際の導入には既存パイプラインやソフトウェアとの整合性、OSのバージョン対応といった視点も必要になる。
そこで今回は少数精鋭の実力派CGスタジオ、コロッサスで代表を務める成田修一氏と、同社シニアデザイナーとしてディレクションやR&Dを担当し、PC自作にも造詣が深い澤田友明氏に依頼。機材面ではクリエイター向けに「DAIV」ブランドを展開するマウスコンピューターと、同社で法人向けプロダクトマーケティングを主導する金子覚氏の協力を受け、「2018年のCG・映像制作で求められるマシン構成とは」というテーマで検証を行なった。
ゲーム・映画・イベント向け映像と、様々なジャンルでハイエンドなCG映像を制作しているコロッサス。同社では「コストパフォーマンスが高く、各々の業務に最適なハードウェア構成が選べる」という理由から、長年BTOマシンが使用されている。一方のマウスコンピューターも、国内生産にこだわるなど、手厚いサポートと高いコストパフォーマンスで成長してきたBTOメーカーだ。
ちなみに澤田氏と金子氏は2017年11月5日(日)に開催された「CGWORLD2017 クリエイティブカンファレンス」でも登壇し、同テーマで講演を行なった。本記事はその内容をベースに、さらにブラッシュアップさせたものだ。2018年におけるマシン選びの参考にしてほしい。
検証ハードウェアについて
今回の検証ではマウスコンピューターのクリエイターブランド「DAIV」で販売中のPCをベースにカスタマイズされた2機種と、コロッサスで使用されている4K動画編集マシンの3台が使用された。
検証マシン①では、CPUに1世代前の製品である第7世代インテル Core i7-7700を中核とした「DAIVDGZ510S1-SH2」をベースに、メモリを32GBに変更した。これに対して検証マシン②では最新となるCore X世代の中でも、2017年11月時点で最上位モデルとなるCore i9-7900Xを中核とした「DAIVDQX750U1-PS5」をベースにしており、メモリも同じ32GBとなっている。Core i7-7700は4コア8スレッドながら、クロック周波数は3.6GHzとCore i9-7900Xの3.3GHzを凌駕。一方でCore i9-7900Xは10コア20スレッドのメニーコアで、ターボブースト時のクロック周波数も最大4.50GHzと、Core i7-7700の最大4.20GHzを凌駕する点がポイントだ。そのため対応するCPUソケットとマザーボード側のチップセットも新規格となり(囲み参照)、従来の製品と互換性がなくなっている。
このほか、ストレージは共にシステム用としてSATA接続のSSD(240GB)を搭載。他に検証用としてSATA接続のハードディスク(7200pm/2TB)とSATA接続のSSD(240GB)、そしてPCIe VMe3.0x4接続の新世代SSD、Intel® Optane™ SSD900P (480GB)を増設している。
これに対してコロッサス側ではCPUにXeon E5-2600v2を搭載し、GPUにAMD FirePro W8000、検証用ストレージにPCIe 3.0X8接続のSSDを6枚搭載したマシンが用意された。SSDはLSI MegaRAIDカードによってRAID=0で認識されており、スループットを上げて高速化させている。4K編集用PCとして実際に業務に使用されているもので、検証マシン2台との速度差が気になるところだ。
DAIV-DGZ510S1-SH2
-
● OS:Windows 10 Pro
● マザーボード:インテル Z270 チップセット (ATX / SATA6Gbps 対応ポート×6 / M.2スロット×1)
● CPU:インテル Core i7-7700 プロセッサー(4コア / 8スレッド / 3.60GHz /TB時最大4.20GHz / 8MBキャッシュ)
● GPU:NVIDIA GeForce GTX1060 / 3GB
● メモリ:16GB [ 8GB×2 ( PC4-19200 /DDR4-2400 ) / デュアルチャネル ]
● ストレージ:240GB SSD ( 6Gbps 対応 )2TB HDD (6Gbps)
● 電源:500W( 80PLUS SILVER )
● 価格:¥144,800(税抜)
※検証機はメモリを32GBに変更しています
DAIV-DQX750U1-PS5
-
● OS:Windows 10 Pro
● マザーボード:インテル X299 チップセット (ATX / SATA6Gbps 対応ポート×8 / M.2スロット×2)
● CPU:インテル Core i9-7900X プロセッサー(10コア / 20スレッド / 3.30GHz /TB時最大4.50GHz / 13.75MBキャッシュ)水冷CPUクーラー
● GPU:NVIDIA Quadro P5000 / 16GB
● メモリ:64GB [ 8GB×8 ( PC4-19200 /DDR4-2400 ) / クアッドチャネル
● ストレージ1:480GB SSD ( 6Gbps 対応 )
● ストレージ2:480GB インテル Optane SSD 900P
● 電源:850W( 80PLUS PLATINUM )
● 価格:¥705,600(税抜)
コロッサス社内使用 4K映像編集PC
● OS:Windows 10 Pro
● マザーボード:不明
● CPU:インテル Xeon E5-2600v2 プロセッサー (6コア /12スレッド / 2.10GHz / TB時最大2.60GHz /15MBキャッシュ) CPUクーラー不明
● GPU:AMD FirePro W8000 / 4GB
● メモリ:32GB [ ( PC3-12800 / DDR3-2400 ) ]
● ストレージ:240GB SSD (SATA)、LSI MegaRAID(SSD×6 RAID=0、1.2TB(PCIe 3.0×8))
POINT 01
Core i9-7900Xプロセッサーの実力とは?
- 今夏に登場したインテル新世代ハイエンドCPU「Core X」シリーズの最上位モデル(2017年11月時点)。対応ソケットが「LGA2066」に変更となり、チップセットも「Intel X299」が必要になったため、使用時には対応マザーボードが必要だ。消費電力も140Wとなり、水冷CPUクーラーが必要になる。もっとも、10コア20スレッドという性能は驚異的で、シングルスレッドの実行速度も、ターボブースト時で最大4.50GHzを記録するほど。PCI Express拡張スロットの直通レーン数も44で、PCI Express X16スロットを2本使用し、合計で32レーン(16GB/s)を必要とするNVIDIA SLI環境下でも、余裕を持った処理が実現できる。
POINT 02
Intel® Optane™ SSD 900Pの実力とは?
- 次世代高速メモリ「3D XPoint」が搭載された、初の一般消費者向けSSDストレージ製品。3D XPointは現在のSSDで用いられているNAND型フラッシュメモリと比べて、読み書き速度と寿命が1,000倍以上も改善された次世代規格。これまでは主にデータセンター向けに用いられてきたが、Optane SSD 900Pではじめて、BTOマシンなどでも使用可能になった。製品はPCI Express X4接続対応の拡張カードタイプとU.2接続の2.5インチHDD互換タイプがあり、実際の読み書きは対応インターフェイスの上限に縛られるが、メインメモリなみの低い遅延速度を誇るのが特徴。なによりスロットに挿入するだけで使用できる手軽さが魅力だ。
CASE 01
Adobe Premiere Proリアルタイム再生テスト
●検証条件
Adobe Premiere Proでフッテージのフレームレートを30fpsに設定し、4Kモニタでフル画面表示の状態行った上で、300フレームの動画素材をリアルタイム再生。その際に「コマ落ちインジケーター」を使用して、コマ落ち回数を記録した。
●検証結果
NUKEやAfter Effectsではコンポジット時に内部処理が発生するのに対して、Premiere Proではほとんど内部処理が発生せず、純粋なスループットのみが比較できる。こうした理由からPremiere Proを使用してストレージ間の比較を行なったところ、予想通り性能差が如実に現れる結果になった。HDDではフルHDですでにコマ落ちしており、4Kでは使用に耐えない。SSDでもフルHDでは大丈夫だったが、4Kで大量のコマ落ちが発生している。これに対してOptane SSDではフルHD、4Kの双方でコマ落ちが見られなかった。ストレージごとの読み書き速度と、データ転送速度の違いが原因だ。もっともSSDを6枚刺してスループットを上げたコロッサスPCでは、CrystalDiskMark 5を用いたベンチマークではOptane SSDよりも高いスコアを出している。しかし、実際には4Kでかなりのコマ落ちが発生。ベンチマークは良くても実際の使用には耐えないという結果になった。
結果まとめ>>>>
Optane SSDなら4Kリアルタイム再生も可能
CASE 02
Mayaを利用したレンダリングテスト
●検証条件
本誌224号レンダリング特集で検証されたものと同じデータが使用された。テスト1【画像下左】では268万ポリゴンでエリアライト1灯を用いたシンプルなシーン。テスト2【画像下右】では148万ポリゴンながら87灯のエリアライトと53枚の4Kテクスチャを使用。
●検証結果
レンダリングにCPUレンダラでマルチコア対応のArnoldを使用し、CPUパワーの違いを計測するために行われた本検証。本誌224号当時と併せて、Arnoldも1.4.2.2と最新の2.0.2.4(Arnold 5)の2種類で行われた。それによるとi7-7700が搭載された検証マシン①ではマルチコアで最短3分38秒、Core i9-7900Xが搭載された検証マシン②ではマルチコアで最短1分20秒でテスト1のレンダリングが終了した。
より複雑なシーンデータのテスト2でも、検証マシン①は最短40分28秒、検証マシン②では15分30秒でレンダリングが終了している。この検証結果を当時のものと比較すると、GPUレンダラであるRedshiftやOctaneのレンダリング速度を上回る結果となった(当時の検証ではGPUにNVIDIA Quadro P5000を使用)。業界内ではGPUレンダラの普及も進んでいるが、本格的に活用するにはハードウェア面で相応の投資も必要になる。また、CPUのメニーコア化は今後も進行していく。こうした中、最新CPUとCPUレンダラの組み合わせに、改めて注目したい。
結果まとめ>>>>
最新CPUとCPUレンダラの組み合わせに再注目
CASE 03
Maya Bifrost使用シミュレーションデータテスト
●検証条件
Maya Bifrostを使用し、1フレーム261.9MBのキャッシュデータ(230MB+16.6MB+15.3MB)を300フレーム(合計データ135GB)用意して、データを読み込みながらレンダリング。ストレージごとにかかった時間を比較してみた。
●検証結果
Optane SSDに対してSSDは1.28倍、HDDでは1.8倍の時間がかかり、ストレージのスペックで明確な差がついた。特に1フレームの容量が大きなファイルほど、この傾向が顕著に出ると考えられる。単純計算で60分で終わる作業が80~100分かかることになるため、この差は大きいと言えるだろう。具体的にタスクマネージャーでストレージのアクティブ状況を確認すると、HDDでは平均して70%程度となっており、SSDでは30%程度、Optane SSDでは5%程度に抑えられている。そのためデータ容量が大きくなるにつれて、性能に余裕がないHDDでは単純に処理時間が増加。SSDでも遠からず処理が頭打ちとなることが予想される。これに対してOptane SSDは余裕があり、大容量ファイルの扱いにより適しているといえる。実際、Optane SSDは書き込み速度だけでなく、読み込み速度も速い。そのためデータの読み込みが必要な状況でも、このように大きな差が発生することがわかった。
結果まとめ>>>>
大容量ファイルほどOptane SSDが真価を発揮
Maya Bifrostを使用したシミュレーションデータテスト考察
①かなりの差がついた、HDDの1.8倍 SSDの1.28倍
②CPU、GPU処理よりもリードに時間が掛かっている
③リード速度に明らかな差が出ている
まとめ
今回の検証から、改めて高速ストレージと高速CPUの組み合わせが有効であることがわかった。まずストレージの高速化では、従来のSSDの転送速度を遙かに凌駕するOptaneSSDが登場したことで、4Kリアルタイム再生が可能になり、巨大ファイルの転送速度も高速化された。またCPUにおいては、マルチコアに対応しているCPUレンダラを使用すると、明らかに高速化されることがわかった。特に10コア以上になると、GPUレンダラよりも高速になる場合がみられた。
インテルではCore i9シリーズで、すでに10コア/20スレッドから18コア/36スレッドを搭載するモデルを発売しており、マルチコア対応CPUレンダラの価値はさらに上昇しそうだ。もっとも、こうした性能をフルに活かすためには、対応マザーボードや高速メモリをはじめ、マシンのトータルバランスが必要になる。また、現在のレンダラはPC1台に対してライセンスフィーがかかるため、コア数が増加すればそれだけメリットがある。そのため2018年は「ストレージの高速化」、「CPUへの投資」の2点をキーワードに、総合的な見知からのマシン選びが求められそうだ。
編集後記
本文中では省略されているが、今回の検証では「経営者目線と現場目線」や、「レンダリングソフトのライセンス価格」が隠れた主役になった。現在多くの国内CGスタジオでは、Windows7+Maya2015+mental ray or V-Rayで制作環境が構築されている。ここで問題となるのが、Maya2015がWindows 10でサポートされていないこと。OSを更新することでツールやプラグインなどに不具合が生じるリスクがある。Windows10とMaya2017への乗り換えが必要だと理解していても、二の足を踏まざるを得ないというわけだ。また、Maya2017でArnoldが標準搭載されたとはいえ、ここで課題となるのがレンダーライセンスだ。特にスリム型PCを数十台規模で並べて内製レンダーファームを構築している中小スタジオなどでは、すべてのノードでライセンスが必要になるため、コスト増がのしかかる。たしかに、ArnoldのレンダーライセンスはPC台数に比例するため、最新PCやメニーコアの恩恵が受けやすいのは事実。CPUにおけるメニーコア化の進展は近年における大きなトピックであり、レンダリング時間がコア数の増加で改善されるのも検証通りだ。その一方で実際の導入には、こうした隠れたコストも発生する。やはり、答えはスタジオごとにあるといえそうだ。
インテル® Optane™ SSD 900Pを搭載した
マウスコンピューター DAIV-DQX750U1-PS5
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● OS:Windows 10 Pro
● マザーボード:インテル X299 チップセット (ATX / SATA6Gbps 対応ポート×8 / M.2スロット×2)
● CPU:インテル Core i9-7900X プロセッサー(10コア / 20スレッド / 3.30GHz /TB時最大4.50GHz / 13.75MBキャッシュ)水冷CPUクーラー
● GPU:NVIDIA Quadro P5000 / 16GB
● メモリ:64GB [ 8GB×8 ( PC4-19200 /DDR4-2400 ) / クアッドチャネル
● ストレージ1:480GB SSD ( 6Gbps 対応 )
● ストレージ2:480GB インテル Optane SSD 900P
● 電源:850W( 80PLUS PLATINUM )
● 価格:¥705,600(税抜)
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TEXT_小野憲史
PHOTO_蟹 由香