2015年3月に書籍『After Effects NEXT LEVEL』を出版したVFXディレクターの佐藤智幸氏が、その続編となる『After Effects FIRST LEVEL』をボーンデジタルより出版する。3月下旬発売予定の本書は、サブタイトルに「ゼロからはじめる映像制作基礎テクニック」とある通り、After Effectsの各機能の解説に加え、映像や画像の仕組みなどの基礎知識も解説している。さらに3月31日(土)には東京で、4月7日(土)には大阪で、本書を題材としたセミナーも開催する。本書の執筆にあたり、どのような思いで取り組んできたのか、脱稿間もない佐藤氏に語ってもらった。

TEXT_尾形美幸 / Miyuki Ogata(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota

▲『After Effects FIRST LEVEL』のプレビュー映像。本書で実践できる演習を紹介している

コンポジットという手段を知れば、作品のクオリティをアップできる

CGWORLD(以下、C):まずは佐藤さんのキャリアを教えていただけますか?

佐藤智幸氏(以下、佐藤):10∼20代の多くはずっと音楽活動をやっており、ピアノを中心に鍵盤楽器を演奏していました。その活動が一段落したのを機に、土木設計の会社でCADオペレーターのアルバイトを始めたのです。会社にお願いして3ds Maxを導入してもらい、独学で勉強し、住民説明用の道路や景観などのCGをつくっていましたね。

C:アルバイトなのに、すごくアグレッシブですね。

佐藤:わざわざ買ってもらったので、チュートリアルなどを片っ端から読み、必死で勉強しました(笑)。ただ、もっとエンターテインメント性のある仕事をしたいという思いが強くなり、28歳の頃からTV局で生放送番組のCGをつくるようになりました。その後TV局内のVFXチームに移動し、CGプロダクション勤務を経て31歳でフリーランスになりました。現在はコンポジットを中心に、映画やドラマ制作の仕事をしています。最近だと『NHK大河ファンタジー 精霊の守り人』でVFXディレクタ一を務めました。主な使用ツールはAfter Effects、NUKE、3ds Max、Cinema 4Dなどです。

  • 佐藤智幸
    VFXディレクター/VFXデザイナー

    1977年生、福岡県出身。音楽活動を経て、CGデザイナーヘ転身。TV局内にて活動後、某CGプロダクションに移籍。その後、フリーランスヘ。VFXディレクタ一、VFXデザイナーとして、映画・ドラマのVFXを中心に活動し、LlVE映像やCDジャケットのデザインなども手がける。また、CG専門学校にて講師も行なっている。最近の参加作品は『NHK大河ファンタジー 精霊の守り人』など。
    tomoyuki-sato.themedia.jp/


C:専門学校の講師を始めたのはいつ頃ですか?

佐藤:36歳の頃からで、講師歴は5年目です。『After Effects NEXT LEVEL』を執筆したのは講師2年目のときで、3年目から教科書として使い始めました。今はヒューマンアカデミー秋葉原校で、週1回、午前11時から午後6時にかけてのクラスを担当しています。途中休憩は挟みますが、ほぼぶっ通しで教えていますね。2018年度からは『After Effects FIRST LEVEL』も教科書として使う予定です。

C:だとすると、どちらの書籍も「使い勝手のいい教科書がほしい」というのが執筆の動機だったのでしょうか?

佐藤:そうです。『After Effects NEXT LEVEL』の構想を練っていた頃、ちょうどボーンデジタルがAfter Effectsの本を書ける人を探していたので、ぜひやりたいと名乗り出ました。そして実際に『After Effects NEXT LEVEL』を講義で使ってみて、「足りないな......」と感じた内容を書籍にしたのが『After Effects FIRST LEVEL』です。前回は執筆に8ヶ月かかりましたが、今回は5ヶ月で書き上げました。執筆は楽な仕事ではありませんが、書き始めると楽しくなり、前回以上のスピードで取り組むことができました。

C:見習いたいです(笑)。『After Effects NEXT LEVEL』だけでは学生や入門者には難しすぎるので、それを補完する入門書を執筆したということでしょうか?

佐藤:はい。まず、今も昔も学生の志望職種はほぼモデラーです。まれにアニメーター志望が数名いる程度で、コンポジター志望は2年に1人いるかいないかという状況です。学生にコンポジットという仕事を理解してもらうめには、『After Effects NEXT LEVEL』では触れていない、映像制作の基礎から教える必要があると感じたのです。学生の中には、コンポジットという工程自体を認識しておらず「CGをつくって、1回レンダリングしたら完成!」と思っている人たちも少なからずいます。

C:成分別にレンダリングして、コンポジットで調整するという発想がないわけですね。

佐藤:はい。コンポジットという手段を知れば、例えモデラー志望であっても、作品のクオリティをさらにアップできます。それを理解してもらうためには、After Effectsの基本操作を解説する入門書が必要だと思いました。実際の講義であれば、足りない部分は私が口頭で補足できます。しかし書籍を使って自学自習する場合には、『After Effects NEXT LEVEL』だけでは難しいと感じるかもしれません。そういう方は、ぜひ『After Effects FIRST LEVEL』から始めてほしいと思います。入門者でも迷いなく学べるよう、まちがいやすいポイントは丁寧に解説することを心がけています。

  • 佐藤氏が手がけたSUPER FORCEの1stアルバム『WE ARE THE JUSTICE』のアートワーク。本作は静止画だがAfter Effectsを使って制作されている。「Photoshopとちがい、After Effectsはすべての画像加工を非破壊で行えるためトライ&エラーが容易です。使えるエフェクトの数も豊富なので、静止画の仕事であっても、高い確率でAfter Effectsを使っています」(佐藤氏)


▲『WE ARE THE JUSTICE』のアートワークのメイキング映像。本作はCinema 4DとAfter Effectsを使って制作されている

講師として学生と接してきた5年分のノウハウを濃縮

C:続いて、本書の具体的な構成を教えていただけますか?

佐藤:「1章 映像に関する知識」では、シーン、カット、色、フレームレートなど、映像制作を行うにあたって必要な基礎知識を解説しています。2章以降では、実際にAfter Effectsを操作しながら、映像制作の基礎と、After Effectsの基本機能の両方を学べるようになっています。

▲「3章 ワークフロー」は、演習用素材データ(ダウンロード可)を使った作品制作を通して、After Effectsのワークフローを体験できる構成になっている。「ファイルの読み込みから、書き出し、最終整理まで、一通りのながれを解説しています。まずは手を動かし、実際に操作をすることで、After Effectsを使った映像制作の雰囲気を味わってもらうことを意図しています。この章の内容を実践すればAfter Effectsの基本的なワークフローを理解できるので、ここだけは読み飛ばさないでほしいですね」(佐藤氏)

※書籍の誌面画像は制作中のものです


▲学生や入門者がやりがちな失敗、誤解しがちな点などは「POINT」として強調している。「講義をする中で、学生がやりがちな誤操作については、特に注意して解説しています」(佐藤氏)

※書籍の誌面画像は制作中のものです


▲「12章 サウンド」では、音楽活動をしていた経験を生かし、リズムや譜面に関する基礎知識も解説している。「After Effectsを使いたい人の中には、モーショングラフィックスをつくりたい人が数多くいると思います。モーショングラフィックスの制作ではリズムに対する理解がすごく大事です。After Effectsの書籍に譜面の解説を入れていいものか少し迷いましたが、モーショングラフィックスをつくるなら必ず役立つ内容なので、思い切って入れることにしました」(佐藤氏)

※書籍の誌面画像は制作中のものです


▲12章では、バスドラムの音にシンクロして、バスドラムの画が動く映像を制作する。「演習用素材データとして、画像はもちろん、サウンドのファイルもダウンロードできるので、この演習を実践すればモーショングラフィックス制作に必要な知識を学習できます」(佐藤氏)

※書籍の誌面画像は制作中のものです


▲「14章 メイキング映像制作」はデモリール制作に応用できる内容なので、学生には特にお勧めだ。「就職活動では、ポートフォリオに加えデモリールも必要とする学生が数多くいます。がんばって作品をつくったら、完成形を見せるだけではもったいないですよね。制作過程も見せることで、自分のスキルを確実にアピールできます。本書は13章の演習でつくった作品をもとに、14章のメイキング映像をつくる構成になっています。ただし、13章を飛ばして14章を始めることもできるように、14章用の演習素材データも用意してあります」(佐藤氏)

※書籍の誌面画像は制作中のものです


C:本書には、講師として学生と接してきた5年分のノウハウが濃縮されているように見えますね。

佐藤:そうだと思います。学生に教えてみて、反応のよかったことを盛り込むよう心がけました。本書は、これから映像制作を始めたい方や、コンポジットの基礎を学びたい学生には最適の内容に仕上がっていると思います。PhotoshopやIllustratorを使ったグラフィックデザインをしている方にも参考になるでしょう。ぜひお手にとってご覧ください。そしてフィードバックをいただけると、とても嬉しいです。

C:本書をきっかけに、コンポジットの面白さに目覚める学生が増えることを願っています。

書籍情報

  • After Effects FIRST LEVEL
    ゼロからはじめる映像制作基礎テクニック


    発売日:2018年3月下旬
    著者:佐藤智幸
    定価:本体3,200円 + 税
    ISBN:978-4-86246-408-8
    総ページ数:384ページ(予定)
    サイズ:B5判


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セミナー情報

After Effectsは使うと面白い!
ゼロからはじめる映像制作"超"基礎テクニックセミナー(東京・大阪)


■開催日時
【東京】2018年3月31日(土)15:30〜17:00(開場15:00)
【大阪】2018年4月7日(土)15:30〜17:00(開場15:00)

■参加費
無料 ※事前登録制

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