Rian Digitalの名でTwitterにて精力的に作品を発表している古賀悠悟氏は、都内の高校に通うアマチュア3Dモデラーだ。まだ15歳という若さながら、プロのモデラーになるという目標を掲げ、日々CG制作に励んでいる。そんな古賀氏に、CG制作を始めたきっかけや、これまでの経緯、今後の抱負を語ってもらった。

TEXT_尾形美幸 / Miyuki Ogata(CGWORLD)

制作中は「格好いい」と思っているので、客観的に見直す機会が必要

CGWORLD(以下、C):古賀さんのTwitterを追っていると、徐々に作品が仕上がり、じわじわと腕を上げていく様子が伝わるので、とても面白いです。最近の中学生の中には、ここまで3Dソフトを使いこなす人がいるのかと非常に驚きます。

古賀悠悟氏(以下、古賀):来月(※)からは高校生になります。自分はつくるペースが遅いので、もっと早くなりたいです。友人の中には、良い意味で飽きっぽくて見切りが早く、どんどん新しいことに手を出して知識や経験を積み上げていく人もいます。そういうスタイルも良いなと思うのですが、僕の場合は真逆で、1つの作品を納得いくまでつくり続け、納得がいったら次にいくという感じです。今つくっているロボットのモデルは去年の12月下旬からつくり始め、ようやく質感設定まで終わりました。次はリグを入れ、最終的には映画をつくりたいと思っています。

※ このインタビューは、2018年3月中旬に実施しました。

▲2017年12月から制作を開始した「Demon」。先に制作した「Monarch」(後述)の敵役という設定で、これら2つのモデルが登場する映画をつくることを目指しているという


▲前述の「Demon」のワイヤフレーム


C:モデリング中の「Demon」を自分で添削している画像も公開していましたね。「ちゃんとつくりましょう」「立体感がない」「リアリティない」「どうやって製造するのか」など、容赦のないツッコミだらけで感心しました。同時に、モデリングを楽しんでいることが伝わってきて、なんだか嬉しい気持ちにもなりました。

▲モデリング中の「Demon」に対する添削。古賀氏の造形に対して、古賀氏自らが鋭い指摘を書き込んでいる


古賀:制作中は疑うことなく「格好いい」と思っているので、ちゃんと客観的に見直す機会が必要だと思うのです。じっくりと見て、よくないところにチェックを入れ、後で修正するようにしています。自分がつくるモデルは、あまりリアリティがなく、実際に製造できそうにない場合が多い点が目下の課題です。実在する工業製品などのデザインをよく見て、勉強しなきゃいけないと感じています。例えば「アイアンマン」のパワードスーツは、全体のデザインがすごく良いのに加え、細かい部分のリアリティも素晴らしいですよね。動かすための機構や、ネジの1つにいたるまで、ちゃんと設計されていると思います。そういう部分が、今の自分の作品には足りないと感じています。

▲前述の添削を踏まえ、修正した「Demon」のターンテーブル動画


▲【左】「Demon」の全身のワイヤフレーム/【右】質感設定後のレンダリング画像

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ソフトの使い方よりも、デザインの基礎の勉強が大事

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ソフトの使い方よりも、デザインの基礎の勉強が大事

C:そもそも、どうして3DCGをつくろうと思ったのですか?

古賀:中学校に入り、友達に誘われてコンピューター部に入ったことがきっかけでした。最初はプログラミングをやりましたが、どうにも楽しいとは思えず、やがてUnityを使ってゲームをつくるようになったのです。そのうちアセットストアのモデルだけではもの足りなくなり、Blenderを使って自分でモデリングするようになりました。元々僕は何かをつくることが好きだったので、モデリング自体に夢中になってしまい、ひたすら3DCGをつくるようになったというわけです。今では、学校の授業がない日は6時間くらい制作に当てています。平日の制作時間は平均すると3時間くらいですが、午前3時くらいから起きてつくることもあります。

  • 古賀氏が初めてつくったモデル。「友達から『ゲームで使うスライムをつくってほしい』と頼まれてつくりましたが、使われることはなかったですね(笑)」(古賀氏)


C:このスライム(?)をつくったのはいつ頃ですか?

古賀:2年生になって間もない頃だったと思います。その後は、友達がつくったソフトウェア用のビジュアルや、コンピューター部の展示用ポスターを3DCGで制作しました。ほかにも建物の「Dome」や、パワードスーツの「Monarch」などを制作し、今は「Demon」をつくっています。

▲【左】友達がつくったソフトウェア用のビジュアル/【右】コンピューター部の展示用ポスター


▲「Dome」のワイヤフレーム


▲「Dome」のレンダリング画像


▲【左】「Monarch」のワイヤフレーム/【右】「Monarch」のレンダリング画像。「中学3年生の夏休みからつくり始めて、完成までに3ヶ月ほどかかりました。テクスチャは全てハンドペイントしています」(古賀氏)


▲「Monarch」のターンテーブル動画


C:この2年間で、どんどん腕を上げていますね。どうやってBlenderの使い方やモデリングを勉強したのでしょうか?

古賀:Blenderに関する本やYouTubeにアップされているチュートリアル動画を見て、自分で勉強してきました。最近は『Maya実践ハードサーフェスモデリング』(北田栄二/2015)を参考にすることが多いです。

C:それはBlenderではなく、Mayaの本ですよね?

古賀:ソフトがちがっても、モデリングの基本的な考え方は共通しているので、参考になることは多いです。去年「映像制作の仕事展 vol.2」に行った際、著者の北田栄二さんにお会いできたので、制作中だった「Monarch」をお見せして意見をいただきました。「広い面には、もっとディテールを入れた方が良い」といったアドバイスをもらい、すごく刺激になりました。

C:ものすごい行動力ですね。プロと話したり、作品を見てもらったりした経験がほかにもあれば、教えていただけますか?

古賀:中学校の社会の授業の一環で、自分が興味のある会社を取材する機会があったので、スタジオグッファさんに取材を申し込みました。業務にBlenderを使っている会社なので、すごく参考になりましたね。実際にBlenderを操作しているところも見せてもらったのですが「ソフトの使い方よりも、リアリティのあるデザイン、より美しく見えるデザインにするための基礎を学ぶことの方が大事」という話が印象に残りました。3DCGの世界は変化が早いけれど、デザインの基礎を身に付けておけば、変化に対応できると言われました。だから高校を卒業したら、大学でデザインの基礎を学びたいと思っています。

C:そういえば、古賀さんは粘土造形の写真もTwitterにアップしていましたね。あの写真を見たとき、基礎の重要性を意識しているのだろうと感じました。

  • 古賀氏が美術の授業で制作した手の粘土造形。「粘土造形も楽しいですが、形をつくるだけでお終いになってしまいます。3DCGの場合は、つくったものをゲームに使うことだってできるし、映画に使うことだってできます。その自由度の高さ、広がりの大きさが面白いと感じています」(古賀氏)


C:最後に、今後の抱負を教えていただけますか?

古賀:僕は映画を見ることが好きで、特に『スター・ウォーズ』シリーズや『トランスフォーマー』シリーズが大好きです。だから将来はIndustrial Light & Magic(ILM)のモデラーになりたいと思っています。Blizzard Entertainmentも良いなと思っています。近い目標としては、今は自宅ではノートパソコンで制作しているので、お金を貯めてグラフィックボードを搭載したパソコンを買いたいです。それからスーパースカルピー(樹脂粘土)を使った造形にも挑戦してみたいです。

C:目標がかなうことを願っています。お話いただき、ありがとうございました。