MODOとLightWaveを愛用し、数多くのアニメCGをつくってきたサブリメイションの小石川 淳氏と塚本倫基氏。前編では、MODOを使い始めた経緯や、映画『ひるね姫 ~知らないワタシの物語~』(2017)(以下、『ひるね姫』)におけるMODOの活用事例を伺った。後編では、同作におけるLightWaveの活用事例と、MODOのさらなる活用の可能性をたずねていく。
TEXT_尾形美幸 / Miyuki Ogata(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota
映画『ひるね姫』における、LightWaveの活用事例
CGWORLD(以下、C):サブリメイションさんでは、モデリングの大半はMODOで行い、リギング以降の工程ではLightWaveを使うことが多いそうですが、LightWaveを使う理由はどこにあるのでしょう?
小石川 淳氏(以下、小石川):先ほども言ったように(※1)LightWaveはかなりの数のポリゴンを扱えるので、われわれの無茶振りにも難なく応じてくれます。以前の作品で、1画面の中に16万隻の宇宙船を並べるという演出をした際には、ハイポリゴンの宇宙船をインスタンスで16万隻配置して、一遍にレンダリングすることができました。
※1 前編参照
C:ものすごい力業ですね。
小石川:本来であれば、もうちょっとスマートな方法を考えるべきだったと思うのですが、スケジュールの都合でそうせざるを得ませんでした(苦笑)。
塚本倫基氏(以下、塚本):操作時の軽さに加え、レンダリング時の軽さの面でもLightWaveのパフォーマンスには満足しています。加えて、3Dレイアウトシステムの存在が大きいですね。
▲インタビューを受ける小石川氏【左】と塚本氏【右】
小石川:YAMATOWORKSと当社は、アニメCG制作に特化したLightWave用のプラグインセット(※2)を共同開発しています。その中の一部に、3Dレイアウトシステムがあるのです。
※2 「YSプラグイン」という名称で、こちらで無償公開されている。
塚本:アニメCG制作は作画さんとの共同作業が不可欠なので、作画さん用のガイドを効率的につくれるシステムはとても重要です。『ひるね姫』の場合も、MODOで構築した作画ガイド用のモデルをLightWaveにインポートし、LightWave上で作画ガイドを制作しています。
▲作画ガイドを制作中のLightWaveの画面。太い黒枠の内側が画面に表示される領域だ。アニメではパン(カメラの横移動)やティルト(カメラの縦移動)などが頻繁に行われるため、黒枠は柔軟に縦横移動や回転ができるようになっている。カメラ移動時のスタートフレームとエンドフレームを明示するため、フレームの色や透明度を変更できるようにもなっている。また、背景の海面にはグリッドが表示されている。「地面、海面、壁などには、作画さんや美術さんが奥行きを測るためのグリッドを表示できるようにしています」(塚本氏) ©2017 ひるね姫製作委員会
▲LightWaveで制作された作画ガイド。これは50mmのレンズで描画されているが、画角を変えることも可能だ ©2017 ひるね姫製作委員会
▲作画ガイドをインポートしたAfter Effectsの画面。キャラクター、近景、中景、遠景などが、すべて別レイヤーで描き出されている ©2017 ひるね姫製作委員会
▲完成カット ©2017 ひるね姫製作委員会
▲作画ガイドを制作中のLightWaveの画面。横に伸びる赤線はアイレベル(目の高さ)を表している。「カメラの高さを基に、自動的にアイレベルが表示されるようになっています。この線を参考に、あおり気味に描くか、俯瞰(ふかん)気味に描くかといったことを算出するので、作画さんや美術さんにとっては不可欠の要素です」(塚本氏) ©2017 ひるね姫製作委員会
▲LightWaveで制作された作画ガイド。これを基に、キャラクターの作画や美術(背景)の制作が行われる ©2017 ひるね姫製作委員会
▲作画ガイドをインポートしたAfter Effectsの画面 ©2017 ひるね姫製作委員会
▲完成カット ©2017 ひるね姫製作委員会
C:かゆいところに手が届く、細やかな3Dレイアウトシステムを構築なさっていますね。
小石川:監督や演出さんなどの要望を聞きながら、少しずつ進化させてきました。最近は3Dレイアウトシステムがかなり浸透してきましたが、それでも作画のレイアウトに近い使い勝手を再現した方が、監督や演出さんの反応は良いですね。
塚本:監督や演出さんが同席し、画面を見ながら指示を出すこともあるので、画面を切り替えることなく、マウス操作だけでカメラを柔軟に動かせるシステムにしています。モデルをその場で差し替えたり、キャラクターのポージングをあれこれ直すこともあるので、レスポンスの良さが非常に重要になります。ただ、このシステムにはまだ欠点があって、素材出しが煩雑です。作画ガイドとして活用するためには、キャラクターや背景を細かく素材分けして描き出す必要があります。1枚画ではなく、壁だけ、ベッドだけ、キャラクターだけの画がほしいなど、要望はカットごとにちがうので、それに応じて描き出すのは結構手間がかかります。
小石川:あまりクリエイティブな作業ではないので、やっている方はおもしろくない点も問題ですね。こういう作業こそ、自動化する必要があると感じています。
C:3Dカットであっても、このレイアウトシステムを使うのでしょうか?
塚本:使いますね。『ひるね姫』の3Dカットの場合は、このレイアウトシステムで付けたカメラワークを使っています。例えばエンジンヘッドが屋外で殴り合いをするカットの場合、カメラワークは3Dレイアウトシステムで付け、そのデータをアニメーターに渡しています。だからアニメーターはエンジンヘッドなどのアニメーションのみに集中できるわけです。多分、限りなくフル3Dに近いアニメをつくるようになっても、レイアウトシステムは残ると思います。美術(背景)だけは手描きの場合もあるでしょうし、演出チェックでは2D的な見映えを考慮しますから。
▲エンジンヘッドが屋外で殴り合いをするカット ©2017 ひるね姫製作委員会
MODOは非常にユーザーに優しい
C:ここまでの話をまとめると、MODOを使う主な理由は、モデリング機能が優れており、効率的なつくり込みや修正ができるからで、LightWaveを使う主な理由は、数多くのポリゴンを扱えるのに加え、使い勝手の良い3Dレイアウトシステムを構築しているからということでしょうか?
塚本:はい。現時点では、これがベストの組み合わせだと思っています。ただ、MODO版のPencil+ 4 ラインがリリースされ、よりアニメ制作にフィットした機能が追加されれば、使うソフトやワークフローが変わってくるかもしれません。
小石川:当社の本間靖範というスタッフはかなりMODOの機能を研究しており、アニメーションやレンダリングまで含めた自分なりのワークフローを構築しています。「MODOは非常にユーザーに優しく、小さな組織が使う統合ソフトとしては最適である」というのが彼の結論で、特にリギング関連の機能を評価しています。キャラクターのモーフィングやボーンを別のキャラクターに移行しても、ある程度自動的にフィットさせてくれるので、あとは細かい調整をするだけで事足りると言っていました。ただし使っている人が周りにほとんどいないので、現場で試す機会が少ないんですよ(苦笑)。
塚本:そこが難しいところではありますね(苦笑)。
小石川:今のところ、CG映像業界でのMODOのシェアはそれほど高くないですが、初心者やアマチュアにとっては使い勝手の良いソフトだと思います。初心者の場合、まずモデリングで何割か挫折して、リギングでさらに何割か挫折して、アニメーションを付けることなく終わるというパターンが多いですから。
C:ユーザーに優しく、とりわけモデリング機能が優れているMODOであれば、挫折しにくいというわけですね。
塚本:MODOから3DCGを始めれば最初のハードルは低いと思います。モデリングは根気を必要とする作業なので、使いにくいツールであるほど、途中で投げ出したくなります。「使いやすいモデリングツール」という点では、MODOは最適解の1つだと思います。加えて、実際にモデリングをする前に、たくさんリサーチをすることが大切です。私自身、モデリングの最初の1日目はリサーチに当てています。普段見慣れているものでも、よくよく実物を見てからつくり始めてほしいです。自分のつくったモデルを上手いアニメーターに動かしてもらうと、すごく楽しいですよ。それがモデラーの醍醐味だと思います。
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映画
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©2017 ひるね姫製作委員会
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