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オムニバス・ジャパンのプロジェクトを支える、制作管理の仕事に迫る

オムニバス・ジャパンのプロジェクトを支える、制作管理の仕事に迫る

オムニバス・ジャパンはTVCM・TV番組・映画・ゲーム・イベントなどの映像制作において、数多くの実績をあげてきた。そんな同社でアシスタントプロデューサーを務める鈴谷 亜紀子氏と、テクニカルディレクター(以下、TD)を務める山口翔平氏に、同社における制作管理の仕事を伺った。

INTERVIEW_ショットガン・トキトウ / SHOTGUN Tokito(ボーンデジタル)
TEXT_尾形美幸 / Miyuki Ogata(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota

大学院でプロデュースを学んだ後、オムニバス・ジャパンへ転職

ショットガン・トキトウ(以下、トキトウ):ここ数年、私は制作管理の仕事に興味をもっており、色々な会社の方に話を伺ってきました。そんな中、山口さんから「当社の鈴谷は、とてもユニークなキャリアをもつ制作管理です」という話を伺い、ぜひ取材をお願いしたいと思った次第です。鈴谷さんは設計事務所や3DCADソフトの販売代理店に約10年間勤務した後、オムニバス・ジャパンへ転職したそうですね。どんな経緯で映像の制作管理に携わるようになったのか、どんな努力をして異業種からの転職を成し得たのか、とても興味があります。

  • ショットガン・トキトウ
    ボーンデジタル

    本名、時任友興(ときとう・ともおき)。1975年、宮崎県小林市生まれ。株式会社ボーンデジタルのSHOTGUN使い。1ヶ月に100件のSHOTGUNの質問を捌きながら、コンテンツ制作環境の向上を目指し日々励んでいる。特技はギターとキャラクターデザイン。お問い合わせはこちらからお送りください!


山口翔平氏(以下、山口):私は鈴谷が入社する1年前に新卒としてオムニバス・ジャパンへ入社したので、ポジションはちがえど、一緒にがんばってきたという思いがあります。制作管理はあまりスポットがあたるポジションではないので、この機会にぜひ色々と話を引き出してください。

  • 山口翔平
    オムニバス・ジャパン
    (テクニカルディレクター)

    2012年4月に新卒としてオムニバス・ジャパンへ入社。テクニカルディレクターとして、ツール作成やカラーマネジメントを担当。『THE NEXT GENERATION パトレイバー 』シリーズなどに参加。最近は360度全天球映像の研究開発を行なっている。


トキトウ:そうさせていただきます。まずは鈴谷さんがオムニバス・ジャパンへ入社するまでの経緯を語っていただけますか?

鈴谷 亜紀子氏(以下、鈴谷):出身は北海道ですが、仙台の大学で建築を専攻し、そのまま仙台の設計事務所に就職しました。当時はマンションや施設の設計アシスタントをしていました。さらに別の設計事務所に転職した後、3DCADソフトの販売代理店への転職を機に関東へ引っ越したのです。その頃は3DCADソフトを導入した自動車メーカーや機器メーカーへ出向し、教育、運用支援、サーバー管理、データ管理などをしていました。例えば3DCADソフトの使い方を教えたり、ちょっとしたサンプルデータをモデリングしたりしましたね。

  • 鈴谷 亜紀子
    オムニバス・ジャパン
    (アシスタントプロデューサー)

    設計事務所や3DCADソフトの販売代理店に約10年間勤務した後、映画専門大学院大学(2013年7月に閉校)の映画プロデュース研究科にて映像コンテンツのマネジメントを学ぶ。2013年3月にオムニバス・ジャパンへ入社。プロダクションマネージャーとして、CM、ドラマ、映画などの映像制作に携わる。2017年にアシスタント・プロデューサーとなる。最近の担当作品は「東京モーターショー2017」のイベント映像、TVドラマ『黒井戸殺し』(2018年4月、フジテレビ系列で放送)など。


トキトウ:映像業界に転職するきっかけは何だったのでしょうか?

鈴谷:設計事務所から3DCADソフトの販売代理店へ転職するまでの間に1年ほどブランクがあって、暇を持て余す中、映画やドラマを山ほど見ていた時期がありました。さらに自分で映像を撮影し、編集したりもしていました。その頃から「映像業界の仕事も面白そうだな」と思い始めたのです。3DCADソフトの仕事を始めた後、Webサイトを通じて映画専門大学院大学の存在を知り、通ってみようと思いました。とはいえ、その時点では仕事を辞めるつもりはまったくありませんでした。講義があるのは火曜日∼金曜日の夜間と土曜日だけだったので、カルチャースクールに通うような気軽な気持ちだったのです。当時は3DCADソフトのeラーニングコンテンツをつくるプロジェクトにも携わっていたので、知識を深めるためにも通おうと思っていました。

トキトウ:それはいつ頃のことですか?

鈴谷:大学に通い始めたのは2011年の4月でした。ちょうど2011年の3月に東日本大震災があって、「自分もいつ死ぬかわからないから、やりたいことを真剣にやろう」と思い始めた時期でもありました。さらに大震災の影響で各メーカーが業務の規模を縮小し、出向先での常駐勤務から社内勤務に移行することになったので、夏頃に会社を辞め、残りの1年半は学業に専念することを決めました。併行して、映画『天地明察』(2012)のVFXスーパーバイザー(以下、SV)の下でデスクのアルバイトをしたりもしました。

トキトウ:そのアルバイトは、大学での人脈を通じて紹介してもらったのでしょうか?

鈴谷:そうです。大学の仲間たちで自主制作の映画をつくったりもしました。周りには映画好き、映像好きの学生がたくさんいたし、講師の中には映画のプロデュースに携わっている人もいたので、いい環境で勉強できました。企画やストーリーテリングから簿記のやり方まで、色々なことを学びましたね。

トキトウ:簿記まで!

鈴谷:映画プロデュース研究科に所属していたので、プロデュースに関連することを一通り学びました。やることは山のようにあったので、この期間は真面目に勉強していましたね。そして2013年3月の修了直後にオムニバス・ジャパンへ入社しました。

トキトウ:どうしてオムニバス・ジャパンへ入社しようと思ったのでしょうか?

鈴谷:在学中にVFXスーパーバイザーの下でアルバイトをした際に「この分野は面白そうだな」と思ったのです。加えて3DCADの仕事を通して3DCGには馴染みがあったので、求人サイトでCGやVFXの関連職種を探しました。当初は編集などのポストプロダクションの営業職で応募しましたが、面接官から「貴女がやりたいのはCGやVFXの方ですね。そちらの部署でも人を募集していますから、話を通しておきます」と言われ、現在所属しているコンテンツプロダクションセンターでの採用が決まったのです。

トキトウ:鈴谷さんと山口さんは、そのタイミングで出会ったわけですね。

山口:そうですね。僕自身、業務を覚えるのに必死の時期でしたが、カラーマネジメントやデータ変換について相談されたことを覚えています。当時も今も、自動車や化粧品などのプロダクト関係の3DCADデータを、Mayaや3ds Maxで扱えるデータ形式に変換する作業が度々発生するので、それを手伝ったりしていました。

鈴谷:3DCADの知識はありましたが、Mayaや3ds Maxの知識はなかったので、最初はわからないことだらけでしたね。

山口:逆にわれわれは3DCADの知識がないので、鈴谷に教えてもらう場合もありました。お互い、わからないことは聞きながら、試しながら、少しずつ色々な経験を積み上げてきました。

鈴谷:人と人の仲介がプロダクションマネージャーの主な仕事なので、人が変われば全てが変わります。マニュアル化しにくく、経験からしか学べないことが多い点が、この仕事の難しさであり、面白さでもあると思います。2017年からはアシスタントプロデューサーという役職に変わり、やることが少し増えましたが、基本的な仕事の内容は変わっていません。

比較的長期の案件では、SHOTGUNを日常的に使用

トキトウ:そんな中、いつ頃からSHOTGUNを導入したのでしょうか?

鈴谷:2015年くらいですね。それ以前はExcelでプロジェクト管理をしていましたが、山口さんから「こういうツールがありますよ」と教えていただき、少しずつ使うようになりました。

▲SHOTGUN導入以前に、鈴谷氏がExcelでつくっていた制作管理表


山口:それ以前からSHOTGUNの検証はしていましたが、チュートリアルをやるだけではなかなか効果がわからず、導入決定にいたらない状態が長らく続いていました。2015年頃に本腰を入れて導入することが決まり、鈴谷も本格的に使い始めたというながれですね。

鈴谷:私はマニュアルを上から順番に読んでいくのではなく、実際に操作しながら試行錯誤するタイプなので、当初は「わからない」と頭を抱えることが多かったです。それでもExcelよりプロジェクト管理に向いていることは明らかだったので、本格導入を目指してがんばりました。

山口:今ではAPIを介してSHOTGUNとMayaを連携させたりもしていますが、当時はExcelの代替ツールとして進行管理の機能だけを使っていたので「クラウド上にあるExcel」のような感覚で操作している人が多かったと思います。

鈴谷:それでも、サムネイルがずれないし(笑)、情報を溜め込んでいけるし、スタッフ間のやり取りはSHOTGUNの中で完結するしで「楽になった」と思うことが多かったです。今では映画やドラマなどの比較的長期の案件では、SHOTGUNを日常的に使っています。一方で、CMなどの短期案件の場合は、関わるスタッフもやりとりする情報も少ないため、SHOTGUNを使わないケースが多いですね。

トキトウ:最近のプロジェクトにおいて、SHOTGUNがどう使われているか教えていただけますか?

鈴谷:TVドラマ『黒井戸殺し』(2018年4月、フジテレビ系列で放送)でのSHOTGUNの使用事例をご紹介します。このプロジェクトでは、2017年の春頃に私がSHOTGUNの初期設定をして、2018年の1∼3月頃に実作業が行われました。オムニバス・ジャパンでは約10人ほどのスタッフが関わっており、建物の壁の色を変えたり、雲や月を追加したりといったVFXを担当しています。

▲『黒井戸殺し』におけるVFX。実写撮影した「黒井戸家」の壁の色や質感【左上、左下】を、VFXで変更している【右上、右下】
フジテレビ『黒井戸殺し』©Fuji Television Network, inc. All rights reserved.


▲『黒井戸殺し』におけるSHOTGUNのオーバービュー。プロジェクトメンバーのコメント、ステータスの変更履歴などがリアルタイムに表示される
フジテレビ『黒井戸殺し』©Fuji Television Network, inc. All rights reserved.


▲『黒井戸殺し』におけるSHOTGUNのショットリスト。各ショットのサムネイル、尺、「黒井戸邸、壁テクスチャー替え」「ヨゴシを入れる」「月追加」といった修正指示、納期、ステータスなどが一覧できる。さらに関連データへのリンクも設定されている。「リファレンスや素材などの各種データがどのショットで使われているか、リンクによって紐付けできる機能は重宝しています。ショットが追加、あるいはオミットされてもリンク情報は残るので、データがバラバラになったり、スタッフが混乱する心配がありません」(鈴谷氏)
フジテレビ『黒井戸殺し』©Fuji Television Network, inc. All rights reserved.


山口:最近はSHOTGUNとMayaの連携を進めており、SHOTGUNへのVersion登録はMaya上のツールから実行できます。ファイルサーバーにデータをパブリッシュすれば、自動的にファイルパスなどの情報がSHOTGUNに登録されるので、スタッフの手間はかなり軽減されました。このツールは、外部開発会社様の協力を得て、PythonやPySideを使って開発しました。今後は3ds Max版のツールも開発予定です。その他にもチェック用のムービーをファイルサーバーへアップロードすると、自動的にSHOTGUNに登録されるツールも作成しています。

▲『黒井戸殺し』におけるSHOTGUNのバージョンリスト。SHOTGUNでは、ファイルサーバーに格納されたアセットやショットのことをVersion(バージョン)と呼ぶ。このリストでは各ショットの担当アーティスト、作業履歴などが一覧できる
フジテレビ『黒井戸殺し』©Fuji Television Network, inc. All rights reserved.


トキトウ:各ショットやバージョンに対して、コメント、納期、リンク情報などが丁寧に入力されていますね。

鈴谷:どんなカラムを追加すれば使い勝手がよくなるか、TDと相談しながら少しずつ改良してきました。お陰で「わからないことがあれば、まずはSHOTGUNを確認する」という習慣がスタッフに根づいてきたので、問い合わせを受ける回数がかなり減りました。例えばディレクターやSVからの修正指示は逐次私がSHOTGUNに入力し、スタッフにはそれを見てもらうようにしています。最近ではMayaやコンポジットのスタッフも、率先してSHOTGUNを改良してくれるようになっています。例えば「ディレクター未チェック」「ディレクターチェック済み」のショットだけを抽出して表示する機能は、スタッフが追加してくれました。

▲【上】画像は、【下】画像の青枠部分の拡大。「ディレクター未チェック」の文字をクリックすると、チェックの終わっていないショットだけが表示される。これはオムニバス・ジャパンのスタッフが独自に追加したメニューだ
フジテレビ『黒井戸殺し』©Fuji Television Network, inc. All rights reserved.


▲【上】画像は、【下】画像の青枠部分の拡大。「プレイリスト_印刷用」の文字をクリックすると、印刷に適した画面レイアウトになる。これもオムニバス・ジャパンのスタッフが独自に追加したメニューだ
フジテレビ『黒井戸殺し』©Fuji Television Network, inc. All rights reserved.


  • 前述の画面を印刷すると左のようになる。「映像業界のディレクターたちの間では『カット(ショット)リストは紙で見たい』『メモをとりたい』という要望が今も根強く残っているので、綺麗に効率よく印刷する方法は特に念入りに研究しました。納品時や先方とのやりとりにおいても、紙のリストが必要になる機会は多いです。その度にExcelでつくり直すのはナンセンスなので、SHOTGUNの表示サイズとプリンターの設定を調整し、印刷するようにしています。SafariやChromeだとサムネイルがずれたりしてうまく印刷できないので、Firefoxから印刷することがポイントです」(鈴谷氏)
    フジテレビ『黒井戸殺し』©Fuji Television Network, inc. All rights reserved.


▲『黒井戸殺し』におけるSHOTGUNのツールリスト。コンポジター用のバッチレンダー、NUKEのスクリプト、作業仕様書などが一覧できる。さらに関連データへのリンクも設定されている
フジテレビ『黒井戸殺し』©Fuji Television Network, inc. All rights reserved.


▲『黒井戸殺し』におけるSHOTGUNの進行状況確認画面。左はマットペイント、中央はCG、右はコンポジットの進行状況が、それぞれ棒グラフで表されている
フジテレビ『黒井戸殺し』©Fuji Television Network, inc. All rights reserved.


山口:SHOTGUNに関してはまだまだ手探りの部分も多く、オムニバス・ジャパンとしての使い方が確立しているわけではありません。案件の内容やプロジェクトマネージャーによって使い方にちがいがあるので、どこまで共有化、統一化を図るか、検討していく必要があるだろうと思っています。

鈴谷:スタッフやチームの要望に応じて、テンプレートを変える場合もありますね。「過去に携わったあの案件と同じテンプレートを使いたい」と言われれば、過去のテンプレートを下敷きに、新規のテンプレートをつくります。おそらく全部を統一化することはできないので、どこまで統一化するのが最善か、見極める必要があると思います。

起こり得る問題を予測して、事前に対処しておく

トキトウ:鈴谷さんが前職で培った経験の中で、今の仕事に役だっているものはありますか?

鈴谷:コミュニケーション能力やスケジュール管理は多くの業界で必要とされるスキルなので、前職時代の経験が活きていると思います。まったく知らない人と話す能力や、スタッフ問で問題がもち上がったときにどう静めていくかといった判断力は、今の仕事でも必要とされます。起こり得る問題を予測して、事前に対処しておくことも大切です。最近は長時間労働や休日出勤を減らそうという意識が高まっているので、事前の対処がとりわけ重要になっていますね。無理なスケジュールのものは交渉してスケジュールを延ばしてもらうかスタッフを増員する、適材適所を心がける、無駄な待機時間を減らすといった対策をとるようにしています。

トキトウ:業界を問わず、いいマネジメントをするためのスキルは共通しているわけですね。

鈴谷:例えば「17時にあがります」と言っていたものがあがってこなければ、無駄な待機時間が発生し、労働時間が増えてしまいます。そういう事態を避けるためには、スタッフ間の密なコミュニケーションが大事だと思います。

山口:加えて、この業界では新しいツール、新しい概念などが日々生み出されているので、それを柔軟に受け入れ、活用できる人は伸びていくし、環境を改善する力があるように思います。

鈴谷:後は、映像が好きであることが重要だと思いますね。

トキトウ:「映像が好き」という気持ちは鈴谷さんが異業種への転職を成し得た原動力だと思いますから、すごく納得できますね。加えて、いいマネジメントをするツールとしてSHOTGUNが活用されているのは嬉しいことです。お話いただき、有難うございました。

Profileプロフィール

オムニバス・ジャパン/Omnibus Japan

オムニバス・ジャパン/Omnibus Japan

左から、鈴谷 亜紀子(アシスタントプロデューサー)、山口翔平(テクニカルディレクター)
www.omnibusjp.com

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