Digital Domainの社内ツールとして始まり、Foundryが取り扱うようになって以降、業界標準のコンポジットツールとして多くのプロダクションで使われ、パイプラインに組み込まれるようになってきたNUKE。今回、ロンドンから来日したFoundryのNUKEファミリー・シニアコマーシャルプロダクトマネージャー、クリスティ・アンゼルモ/Christy Anzelmo氏、タイムライン製品プロダクトマネージャーのフアン・サラザール/Juan Salazar氏にインタビューする機会を得たので、NUKEの現状とこの先の展望について伺った。
TEXT_安藤幸央(エクサ)/ Yukio Ando(EXA CORPORATION)
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota
<1>数多くのオスカー受賞作に活用されてきたNUKE
What's new in Nuke 11
――現在のNUKEについて教えてください。
クリスティ・アンゼルモ氏(以下、アンゼルモ):NUKEの最新バージョンは11シリーズとなりました。いままでは年に1回のアップデートでしたが、最近は1年に複数回リリースするようになっています。バージョン11.0で大きな機能を採り入れ、11.1が現在の最新版です。お客様からの評判はとても良く、リリース更新の頻度とともに、安定性が増しているという評価をいただいております。
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クリスティ・アンゼルモ/Christy Anzelmo
NUKEファミリー・シニアコマーシャルプロダクトマネージャー(Foundry)
www.foundry.com/
――NUKEを活用した最近の作品を教えてください。
アンゼルモ:NUKEは様々な映画、TV、ゲーム、ありとあらゆるところで使われています。NUKEがどの作品で活躍したというよりも、ほぼ全ての映画でNUKEが使われているのです。ここで名前を挙げると全ての映画ということになってしまいます(笑)。TVドラマ、ゲームのカットシーンでも大活躍しています。NUKEが関わった映画作品は、この6年間で何作品もオスカーを受賞しています。また、喜ばしいことにNUKEそのものも、今年の2月、2017年度のアカデミー科学技術賞を受賞しました。
2018 Sci-Tech Awards: Nuke Compositing System/アカデミー科学技術賞受賞の様子
アンゼルモ:NUKEが活用されている作品の例として、『ブレードランナー2049』(2017)は第90回アカデミー賞で視覚効果賞を受賞しました。その他『猿の惑星』シリーズ、『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』(2018)、『LOGAN/ローガン』(2017)、Pixarの『リメンバー・ミー』(2017)、ディズニーの全ての映画タイトルや、TVドラマでは『ゲーム・オブ・スローンズ』、『ウエストワールド』などです。また、テイラー・スウィフトの『Bad Blood』MVでもNUKEが活躍しています。さらに米国で最も多くの人々が観ると言われているスーパーボウルにおける全てのCMにもNUKEが使われています。
Game of Thrones, Image Engine and Nuke
――日本の事例にはどのようなものがありますか?
アンゼルモ:日本の最近の事例では、例えば『いぬやしき』は、とても素晴らしい仕事をしています。先日のセミナーでもデジタル・フロンティアさんにプレゼンテーションしていただきました。この作品は、海外のハイエンドプロダクションにおけるNUKEの使い方と同じ高いクオリティ、モダンなテクニック、モーションキャプチャを駆使してつくられており、VFXとして非常に印象深く素晴らしいものでした。
<2>NUKEの機能は「アーティストがクリエイティブに使える時間を増やす」ためにある
――NUKEにおいて、最近ユーザーに人気のある機能は何でしょうか?
フアン・サラザール氏(以下:サラザール):最近では「プロジェクションセットアップ」が一番人気です。3次元空間のセットアップが好評で、最近は特にスマートベクターの人気も高く、この機能でアーティストがハッピーになれると好評です。さらにディープコンポジション、CG素材とのコンポジティングはNUKEにしかできない特徴的な機能です。
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フアン・サラザール/Juan Salazar
タイムライン製品プロダクトマネージャー(Foundry)
www.foundry.com/
――NUKEの機能強化の方針は?
サラザール:NUKEの基本的なコンセプトは、素早く使いこなすことができ、アーティストがクリエイティブに使う時間を増やすことです。私たちは実際のお客様に会うことを最も大切にしています。アーティストやプロダクションの人に会い、彼らのニーズに沿って開発しています。NUKEはアーティストが効率的にコンポジット作業をするためのソフトとしてつくられたわけで、特にチーム、コラボレーション作業などに威力を発揮します。最近はライブグループの機能を活用し、チームワーク作業で非常に効果を発揮しています。
――NUKEのプロダクトとしてのこの先の進化について、具体的にどう考えていますか?
サラザール:NUKEは業界標準のツールで、特にハイエンドの業務では広く使われています。安定性をもった強靭なソフトウェアで、機能がとてもパワフルです。世界中のみなさんに使われていることが、業界標準であることを物語っています。直接の競合ではありませんがAdobe After Effects、AutodeskのFlame、Fusionといったツールと一部重複するところもあるかと思います。NUKEとしてのこれからの挑戦は、もっともっと速くしていくことです。より速く、効率的に作業できる、そういったツールであり続けることが開発のテーマです。例えば、GPUの利用で処理を速くしていく、UIの改善、アーティストエクスペリエンスの向上のために細かい改善を実施し続けています。
SIGGRAPH 2017 Demo - Nuke Studio 11: Powerful Compositing, Editorial and Review
<3>業界のトレンドにも真摯に対応していく
――業界標準のフォーマットや言語等への対応状況はいかがですか?
アンゼルモ:Alembic、FBX、EXRなどといった業界のスタンダードへ対応していくか? と言われればもちろん「YES」です。PythonやPySideでパイプラインを構築できる強みとともに、VFXの標準プラットフォームのアップデートに合わせていく方針です。MARI、KATANAも同様の開発方針です。
――GPUへの対応については?
アンゼルモ:NUKE 11では、Mac ProなどのAMD系のGPU搭載マシン、Windows、Linuxでは主にNVIDIA系GPU搭載のマシンに対応しています。NUKEはOpenCLをサポートしており、NUKE 11より前はMacでは非対応でしたが、NUKE 11からOpenCLをサポートするようになって全てのプラットフォームでGPUの恩恵が受けられるようになりました。外付けGPUへの対応も、将来の検討事項としてリストに入っています。
――先日、Appleから今後の最新Mac OSではOpenGL、OpenCLが非推奨となることが発表されました。OpenCLを利用しているNUKEとしては今後どのように対応されますか?
アンゼルモ:NUKEとして、クロスプラットフォーム対応は大変重要だと考えています。Appleの発表は、私たちとしてはびっくりするニュースではありますが、マルチプラットフォーム、ひいてはMacプラットフォームをこれからもサポートしていくことには変わりありません。OpenCLも今すぐなくなるわけではないので、時間をかけて今後の情勢を見極めていきたいと考えています。FoundryのシニアマネジメントチームとAppleとの間で密に話をしているので、しばらくしたらはっきりとした方針が出てくると思います。
――パイプラインツールとの連携は?
アンゼルモ:NUKEはオープンシステムなので、どのようなパイプラインツールとも連携できます。Autodesk SHOTGUN、ftrack、NIMなどのプロジェクト管理ツールがよく使われています。
――VR映像や、360度動画の制作には対応していますか?
アンゼルモ:NUKEでは Cara VRプラグインで、スティッチ(映像のつなぎ合わせ)、ステレオ対応を行うことができます。NUKE単体としてもインタラクティブなコンテンツのプロジェクトでも使っていくことができます。
<4>NUKEユーザーのためのセミナーを多数開催予定
――NUKEユーザーのコミュニティとしてはどのようなものがありますか?
サラザール:NUKEのユーザーはもともとお互いのテクニックを共有する習慣がありNukepediaをはじめとして様々な情報がネットに上がっています。Facebook、Twitter、reddit、fxguide、Digital tutors、また、YouTubeの公式チャンネルにもいろいろコンテンツがあるのでご活用ください。
オンライン百科事典Wikipedia風にNUKEに関する情報が集まっている「Nukepedia」
――今後のセミナー、イベントの計画などあれば教えてください。
アンゼルモ:Foundryでは今後もたくさんのセミナーを企画しています。NUKEアーティストの養成を重要な方針として、スキルアップセミナーを多数開催します。NUKEユーザーの知識、スキルを向上してもらえるようなセミナーです。現在決まっているものとしてはニューヨーク、モントリオールでの開催、8月のSIGGRAPH 2018や、来春ドイツで開催されるFMX 2019での開催も予定しています。特にSIGGRAPH 2018ではオールスターイベントを企画しています。NUKEだけでなくMARI、KATANA、MODOも含め、映像制作プロジェクトの発表の場でもあります。ご期待ください。一方、日本ではボーンデジタルが、2ヶ月に1回のペースでNUKEのセミナーを開催しています。CGWORLDクリエイティブカンファレンスでも毎年600人の参加者を集めてFoundry製品を紹介しており、今年も参加を予定しています。
――日本のNUKEユーザー、まだNUKEを使っていない未来のユーザーに向けてコメントをお願いします。
アンゼルモ:NUKEを使ってくれてありがとう。NUKEはファンタスティックなツールでユーザーの声によってつくられています。NUKEを使って、これからも素晴らしい仕事を続けてほしいと思います。NUKEはそういったみなさんをサポートしていきます。
サラザール:まだNUKEを使っていない方、学生さん、これからコンポジットの仕事をしていこうと考えている人へ。コンポジットの仕事は大変です、けれどもNUKEは素晴らしい製品で、NUKEを学ぶことでさらに良い仕事ができるようになります。みなさんもぜひ、素晴らしい仕事ができるNUKEの環境に参加してきてくださいね。