2016年、日本映画史に残る大ヒット作『君の名は。』を世に贈り出したコミックス・ウェーブ・フィルム(以下、CWF)が、今夏放つ最新作『詩季織々』。3名の若手監督が、中国の3都市を舞台に、「衣食住行」をテーマとした3つの短編を描く。監督を務めたのは、中国を牽引するアニメブランドHaolinersの代表リ・ハオリン氏、実写映画『ストームブレイカーズ 妖魔大戦』(2015)を大ヒットさせたイシャオシン氏、そしてCGクリエイターとしてCWFを支え続けてきた竹内良貴氏だ。竹内監督は全編のCGチーフも兼任している。竹内監督と共に、本作のCG制作を担当したのが植田 祐氏と桑田尚幸氏である。今回は『詩季織々』の公開を記念して、彼らCGチームに集まっていただき、竹内監督誕生の裏話や今だから言える制作秘話など、余すことなく語っていただいた。3人の口からどのようなエピソードが飛び出したのか。遠慮なし、語りっぱなしの120分の模様をお伝えしよう。

詳しいCGメイキングは本誌『CGWORLD vol.241』アニメCGの現場にて!

TEXT_野澤 慧 / Kei Nozawa
EDIT_斉藤美絵 / Mie Saito(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota

『詩季織々』 予告篇
©「詩季織々」フィルムパートナーズ

CGチーフから監督へ、竹内監督インタビュー

Q:どのような経緯で、監督を担当されることになったのでしょうか?

竹内良貴氏(以下、竹内):もともとは、5年くらい前にHaolinersからCWFに共同制作のオファーがあったことがはじまりです。当時は制作ラインが確保できませんでしたが、その後『君の名は。』の制作が終われば、制作ラインに余裕が生まれるとの判断から、本企画が動き出すことになりました。その時点で中国と日本からそれぞれ監督を立てることは決まっていて、その日本側の監督として声をかけていただきました。

  • 竹内良貴/Yoshitaka Takeuchi
    コミックス・ウェーブ・フィルム所属。映画『秒速5センチメートル』(2007)をはじめ、ほとんどの新海 誠監督作品に携わってきた。近年ではCGチーフとして映画『君の名は。』(2016)にも参加。数々のヒット作を裏から支えてきた新海監督作品の「柱」のひとりである。本作『詩季織々』全編のCGチーフ、そして『小さなファッションショー』ではオリジナル作品として初監督を務めあげた。コミックス・ウェーブ・フィルム期待の若手クリエイターである。

Q:初監督ということで、不安はありませんでしたか?

竹内:これまでにも自主制作で作品をつくっていたのですが、今回は商業作品ですし、30分近い長めの尺だったので、気合を入れないと大変だなと感じていました。ただ、川口さん(川口典孝氏/CWF代表取締役)からも「うちのクリエイターを監督に据えて制作したい」とずっと言われていたので、これを機に頑張ってみようかな、と。

Q:自主制作と商業作品とで、ちがいは感じましたか?

竹内:自主制作と商業的な作品の大きなちがいとしては、多くの方が関わっているということですね。対応とか、お願いの仕方には気を遣いました。やはり、それぞれのスタッフで得意なことや不得意なことがありますから、そういうところを考慮しつつ、適材適所に作業を割り振らなければなりません。一方で、いろいろな方がいると、自分が想像すらしていなかったものができ上がることもあり、そこは面白かったですね。自分ひとりではつくりきれない部分もあるので、良いなと感じた要素は積極的に採り入れています。例えば作画でいうと、スティーブというオネエ口調のキャラクターは、スタッフのアイデアに助けられました。脚本からだけではどうしてもイメージが定まらない部分があったのですが、最初に上がってきた作画の画を見て「なるほど! こういうのもありか」と納得して、現在のようなキャラクター像に落ち着きました。


作画スタッフのアイデアを採り入れて味のあるキャラクターとなったスティーブ(中央)
『小さなファッションショー』©「詩季織々」フィルムパートナーズ

Q:CWFといえば美しい美術背景が特徴的ですが、監督として特別な指示は出しましたか?

竹内:CWFの美術の特徴なのですが、通常は設定画をきちんと起こしてから描くような、部屋に置いてある小物などは美術スタッフにまかせてしまっています。僕が設定を起こしていなくても、作品の世界観(美術)をよく理解しているスタッフ各自が必要なものを考えて描いてくれ、結果として作品にマッチする画になりました。


中国 広州の街並み
『小さなファッションショー』©「詩季織々」フィルムパートナーズ

Q:CGチーフとしての経験が活きたところはどこですか?

竹内:自分が監督をする作品ではCGレイアウトをたくさん使おうと思っていました。監督としてCGレイアウトをつくれば、そのままOKテイクになりますから(笑)。本来はレイアウトの全てのチェックが通った後に、美術に原図を渡した方が良いのですけど、時間的な制限もあったので、ある程度CGレイアウトが上がった状態で、そのまま原図として渡すこともありました。本作はCGチーフを兼任していたこともあって、制作スケジュールが詰め込まれていて、スケジュールがずれ込んだこともあり、3本同時並行で進行していたこともあったので、こうした工夫で何とか乗り越えています。

Q:難しかったことはありますか?

竹内:作画の作法で、わからない部分もありました。そのようなところは演出さんに間に入っていただいて、フォローしてもらっています。最も大変だったのは、コントロールの方法が作画とCGとでちがうことですね。作画にもCGにも、絶対に変更不可能なポイントがあり、そこが大きくちがいました。どの工程でどのような指示を出せば対応可能なのかというタイミングが、作画の方がシビアだったのです。作画は仕上げで色を塗ってしまうと、そこから線を直すのはなかなかハードルが高く......。CGであれば、レンダリング時間こそかかりますが、作画よりは手軽に修正できますので。


『陽だまりの朝食』©「詩季織々」フィルムパートナーズ

Q:監督を担当された感想をお聞かせください。

竹内:監督業は大変だと身をもって感じました。CGチーフとして参加するときとは責任の重さがちがいましたね。監督は作品のねらいを考えて、各工程や演出で必要な要素を盛り込むことが求められます。また、多くのスタッフも関わっていて、作品全体はもちろん、関係するスタッフ全員にも責任をもたないといけません。大変ではありますが、新鮮な気持ちで新しいことに挑戦できて、楽しかったです。


『小さなファッションショー』©「詩季織々」フィルムパートナーズ

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CGスタッフからみた『詩季織々』制作の舞台裏

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CGスタッフからみた『詩季織々』制作の舞台裏

Q:本作に参加されることになった経緯を教えてください。

植田 祐氏(以下、植田):『君の名は。』の制作が終わった頃に、竹内さんから「CGをやらない?」と誘ったのがきっかけです。アニメ業界には制作進行として入って、右も左もわからないような状態だったんですけど、竹内さんのCG作業を見ていて、CGが面白そうだなと思っていました。

  • 植田 祐/Yu Ueda
    コミックス・ウェーブ・フィルム所属。『君の名は。』では制作進行として参加。制作業務を全般にわたり担当し、同作の完成を機に、竹内氏からの誘いを受けてCGデザイナーへと転身する。CGスタッフとして本格的に作品に参加するのは『詩季織々』が初となる。本作では3編全てに参加し、クルマや自転車、カメラマップなどを担当。過去にはお笑い芸人をしていたという変わった経歴のもち主で、現場のムードメーカーでもある。

竹内:植田さんは原画撮影の作業でAEを使っていて、撮影の仕事にも興味をもっていたようでした。

植田::はい。撮影にも興味がありましたね。今までCGを勉強したことはなくて、パソコンにも特に詳しいわけではなく不安があったので「本当に良いんですか?」と何度も聞いていました。あまりにしつこく聞きすぎたため、竹内さんが「う~ん......」と誘ってくれたことを悩みはじめてしまったので、これはまずいと思い「ぜひお願いします!」という感じでCGをはじめました。

竹内:他の作品で少しCGの作業をしてもらいましたが、本格的な作業は『詩季織々』が初めてだよね。

植田::制作がはじまったばかりの頃は、ことあるごとに竹内さんにチェックしてもらっていました。『君の名は。』で制作進行として迷惑をかけた分、ここで少しでも力になれたらなと。今では、少しは力になれたかなと思います。

竹内:だいぶ助けてもらいましたね。

桑田尚幸氏(以下、桑田):私の場合は、CWFさんがCGの人手を増やしたいということで、所属しているスピードにお話をもらいました。社内で私に声がかかり、もっていた仕事のタイミングもきりが良く、2つ返事でCWFさんへの出向を決め、『詩季織々』に参加させていただいています。

  • 桑田尚幸/Naoyuki Kuwata
    スピード所属。ゲーム内のCGアニメーションから実写映画のVFXまで、CGを広く手がけるスピードで、モデリングからコンポジットまでひと通りの経験をもつ。さらに仕事の幅を広げたいと考えていたところに、コミックス・ウェーブ・フィルムから声がかかった。出向というかたちで『小さなファッションショー』のCG制作に参加。ミシンをはじめ、劇中の多くのCGを担当。植田氏からは「ミシンマスター」として崇められている。

竹内:スピードさんは愛知県に本社があって、その地の名産である「せともの」の原型技術と絡めた3DCG制作もやっている会社です。そういう様々な技術をもつ会社で腕を磨いたクリエイターさんに協力していただきたいと思いました。映画『プランゼット』(2010)でお世話になった粟津 順監督がいらっしゃるという背景もあって、スピードさんに相談させていただいたのです。


作中で描かれる「食べ物」は繊細な描写が光る
『陽だまりの朝食』©「詩季織々」フィルムパートナーズ

Q:中国が舞台ということで、気を付けたポイントはありますか?

竹内:ロケハンでは上海にあるHaolinersの本社に訪問し、『上海恋』の舞台となる街をスタッフみんなで見てきました。そのときに感じたのは、道の広さなどが日本とは全然ちがうことです。建物も高くて密集していました。



美しく描かれた上海の街並み(上)と石庫門(下)
『上海恋』©「詩季織々」フィルムパートナーズ

植田::上海ではクルマが凄く速いスピードで走っていたり、大渋滞していたりした印象が強いです。「俺が進むから道を避けろ! という感じで、いたるところでクラクションが鳴らされていました。ただ、作品にそういう雰囲気を入れると、その部分に意識がいってしまうので、今回はあえて採り入れていません。

竹内:『小さなファッションショー』の舞台は都市部がメインなので「ザ・中国」という風景はあまり出てきませんが、日本との微妙な差異を表現するために、中国の写真なども参考にしています。

Q:CG制作として何か感じたことはありましたか?

竹内:本作では、CGチーフとしてのチェック作業や指導を中心に行なっていたので、制作の実作業については、おふたりにお願いしている部分が多いです。

植田::『上海恋』は初心者の自分と竹内さんだけだったので、教えてもらいながらやっていきました。


『上海恋』©「詩季織々」フィルムパートナーズ

竹内:それこそ、3ds Maxでのボックスの出し方からね(笑)。徐々に慣れていってもらい、カメラマップでは美術さんへの発注や最終的な微調整だけ僕がして、それ以外の作業はやってもらいました。

植田::カメラマップは貼っていて楽しかったです。『上海恋』の終盤、トラックで仰向けに寝ているシーンがあるのですが、そこのカメラマップも貼らせていただきました。竹内さんが丁寧に発注して、美術さんが丁寧に描いてくれたのを僕が貼る。それだけで、自分がつくったんだっていう感じがして、気持ち良くなれます(笑)。

竹内:桑田さんには『小さなファッションショー』のミシンをお願いしました。

桑田::ミシンなんて小学校以来触ったことがなかったので、植田さんの家にミシンがあると聞いて、あらゆる角度から写真を撮っていただいて、参考にしました。

植田::参考資料を渡せば、桑田さんにミシンをやってもらえるな......という魂胆でしたね(笑)。

桑田::本作が初めてのアニメの仕事だったので、やってみると驚くことが多かったです。例えばモデリングでも、ラインを出すためにポリゴンを割くという、今まではあまりやってこなかった方法が必要になりました。

竹内:寄りのシーンではミシンのスピードにも気を付けていただきました。

桑田::アニメのフレームレート(FPS)のちがいは新鮮でした。今までは30fpsなどでアニメーションを付けることが多かったのですが、作画のアニメだとリミテッドアニメーションなので、コマを抜くようになります。キーとなるコマを大事にするという点は、意識して気を付けていましたね。

植田::本作を通して、桑田さんというミシンマスターが誕生しましたね!


CGで制作されたミシンは作中に度々登場する
『小さなファッションショー』©「詩季織々」フィルムパートナーズ

桑田::植田さんは......『陽だまりの朝食』で自転車を担当されていたので、自転車マスターですかね?

竹内:自転車マスターは業界にたくさんいるので、ライバルが多いですよ!

Q:本作に参加してみていかがでしたか?

植田::普通は自分の意志でCGをやりたいと思った人だけが、CGデザイナーになるのだと思います。そういう面では、CGもパソコンもほとんど知らない自分にとって、ハードルは高かったです。専門用語もそうですし、CGでできることは無限大にあるので、アニメで使われる部分はどこまでなのかを知っていなければ、何もできないと感じました。それでも自分は制作進行をやっていたので、CGが作画とどれくらい絡むのかとか、アニメ制作の専門用語とかはある程度理解できていて、その部分に救われたことは大きかったと思います。

桑田::私は本作が初めてのアニメのお仕事でした。アニメならではの手法は新鮮でしたね。素材の出し方も、ライティングも、アニメの作法のようなものが最初はわからなくて大変でしたが、アニメについてわからないことは植田さんにひたすら聞いて、CGを作画や美術背景にのせる感覚を学ばせていただきました。

Q:読者の方へコメントをお願いします。

桑田::『詩季織々』は心にじんわりとくる素敵な作品に仕上がりました。この作品に携われて良かったと思います。

植田::カメラマップを用いたシーンでは、CWFの持ち味である美しさを一層引き出せたと思います。そこも観ていただけると嬉しいです。

竹内:中国と一緒に作品をつくったケースとして、成功している作品だと自信をもっています。現代の中国を、CWFの綺麗な美術背景でリアルに描きました。実際に中国へ訪れる機会はなかなかないと思うので、この作品を通じて中国を身近に感じていただきたいです。日本での上映を皮切りに、Netflix配信や中国での劇場公開など、広く展開していきますので、注目して観てください。

<スタッフサイン入りリーフレットをプレゼント!>


アニメ作品『詩季織々』のリーフレットに、竹内氏・植田氏・桑田氏がサインを入れてくれました。お三方のサイン入りバージョンと竹内監督のみのサイン入りバージョン各1名様、合計2名様にプレゼントいたします。プレゼントをご希望の方は、下記要項を確認の上、ふるってご応募ください!
提供元:コミックス・ウェーブ・フィルム

【応募方法】
1.CGWORLDの公式アカウント「@CGWjp」をフォローする。
※当選のご連絡にはTwitterのDMを使用しますので必ず「@CGWjp」をフォローしてからご応募ください
2.規定のテキストとハッシュタグ「#CGW_詩季織々」をつぶやく。
3.当選者にはDMにてご連絡いたします。
【応募期間】
2018年8月12日(日)まで
【注意事項】
※本キャンペーンへのご応募には、Twitterのアカウントが必要となります。
※規定の文章がすべて入るようツイートしてください。
※当選の発表は、Twitter上でのDMをもって代えさせていただきます。
※発送先は日本国内に限ります。
※応募完了の確認、当選・落選についてのご質問や、お問い合わせは受け付けておりません。
※当選ご連絡後7日以内にお返事がいただけない場合には当選が無効となりますのでご注意ください。

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  • 『詩季織々』
    8月4日(土)テアトル新宿、シネ・リーブル池袋ほかにて公開
    配給:東京テアトル
    監督:イシャオシン(『陽だまりの朝食』)、竹内良貴(『小さなファッションショー』)、リ・ハオリン(『上海恋』)
    キャスト:坂 泰斗、寿美菜子、大塚剛央
    制作:コミックス・ウェーブ・フィルム
    &cpyo;「詩季織々」フィルムパートナーズ
    shikioriori.jp

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    定価:1,512円(税込)
    判型:A4ワイド
    総ページ数:128
    発売日:2018年8月10日