「心が動くワクワク体験を届ける」モバイルゲームの開発・運営を手がけるアカツキのロジカルなゲーム開発手法をお送りする本連載。第4回は体験をつくるために重要な分野横断の開発環境を目指すチームづくりについて、文化形成から採用、育成までを現場主導で行うクリエイティブチームに話を聞いた。

なお、アカツキ クリエイティブチームでは共に働く仲間を募集中だ。詳しくは下記バナーより参照してもらいたい。



アカツキのロジカルなゲーム開発事例を紹介する連載企画の第4回は「体験を生み出す、次のチームのあり方」と題し、アカツキ CDO(チーフ・デザイン・オフィサー)村上一帆氏をはじめとする4名のメンバーに話を聞いた。前回まではイラスト制作やUIデザイン、アニメーションなど実際のコンテンツに関わる領域を解説してきたが、今回は土台となるレイヤーとして組織論を取り上げる。この理由について、「個々の分野を突き詰めるだけでは、根本的にわれわれが向き合っていくべき体験づくりの認識が揃いにくい。分野ごとの特化ももちろん重要ですが、セクショナリズム的な考えだけではセクションごとの最適解しか得られないからです。体験づくりにおいては、多分野が横断的に関わっていくための広い視野や知識が必要です。これをなし得るための採用や育成を基軸とした文化形成が、チームにとって最も重要なことだと考えています」と村上氏は説明する。

アカツキのクリエイティブチーム(以下、アカツキCT)がユニークなのは、チームの文化形成にはじまり採用から育成までを現場デザイナーの主導で行うという手段をもっていること。統合的なナレッジシェアを含む横断的な文化をいかにして形成するのか、そしてどのような手段でメンバーに文化を浸透させていくのかを村上氏に聞くとともに、現役のデザイナーとしての業務のほかに採用活動を主体的に行う矢部由季子氏、ゲーム以外の新規事業のUIUXのクリエイティブディレクターと育成を兼任するカサハラトモアツ氏、そして入社2年目にしてアートディレクターとして活躍する嶋原千高氏に、組織づくりに関するそれぞれの担当領域について解説してもらった。

<POINT1> 組織のストーリーを共有する
理想の文化は「旅するサーカス」 目指すイメージを明確にする

アカツキCTでは、個やチームのあり方(To Be)を考え相互に共有していくことでチームが進化していくという考え方に基づいて、イメージや言葉をつくり共有している。2~3名の仲間内であれば、各自が考えていることも雰囲気で共有できるが、数十人を超えるメンバーともなればその難易度は爆発的に上がる。そのため、言語化、ビジュアル化を行うことで、思想を共有し色づけ、文化を形成していく。

そして、アカツキCTでは「ただ人が集まっているだけの集団ではない、"サーカス"のようなチームの創出」をTo Beとして考えている。「サーカス」は「個性と自由と信頼をもち、演目に合わせて個々が混ざり合い、旅をしながら進化し、言語を超えた感動を生み出す」という要素を内包したワードであり、こうしたビジュアルを想像しやすい言語化はチームのイメージ共有を促進するという。「われわれは体験づくりに重きを置いていますが、どこかに向かうためには意思が必要です。個々としてもチームとしても目指す方向(ビジョン)や、あり方を共有できるようイメージや言葉にしていくのが自分たちの役割です。例えば、シルク・ドゥ・ソレイユのようなチーム、といえばビジュアルまで想像しやすくなります」(村上氏)。ただの集団ではなく、自分たちの思想や特徴を相互理解することで化学反応が起こるようなチームが理想だ。

▲アカツキCTでは、採用、育成、そして文化を統合して「ストーリー」と考える。組織としてどこを目指すか、全員でどういった事柄を成したいのか、仲間同士で価値観を共有するベースとなるのがストーリーだ。村上氏は「サーカス」というわかりやすいキーワードで目指すべきTo Beの姿を定義づけており、この将来像を全員が意識することで単なる集団ではない相互作用のあるチームがつくり上げられるという

<POINT2> チームの文化づくり①
知ることのきっかけをつくりリスペクトを深める

規模拡大の過程においては、新しいメンバーと元からいるメンバーが別の方向を向いてしまっていては、目指すべき体験づくりはおろか、プロダクトとして完成させることも難しくなる。一方で新しいメンバーの思想も交わることが、チームが進化する上で大切な要素だ。そのためチームにおいては「人数が増える中でも、多くのメンバーが一緒に文化を考え共有し、そのプロセスを楽しむこと」が重要である。

こうした意識の下、アカツキCTでは「リスペクト」をひとつの軸とし、「相手を知ること」と「相互理解」の2段階による文化醸成を図っている。嶋原氏によると、「相手を知ること」は対話を基に相手に興味をもつことを指し、そうしたコミュニケーションの場を積極的につくっているという。具体的にはメンバー同士のシャッフルランチを月に一度行うほか、毎月のチームディナーの場で知るきっかけとなるコンテンツを設けるなど、対話を通じて互いのことを知る機会を意識的に多くつくっている。

また、文化の浸透におけるもう一段深い要素である「相互理解」は、互いの認識を共有し合うことを指す。アカツキCTであれば週に一度のチームミーティングを行うが、そこではプロジェクトシェアや、各自のプロフェッショナル論、個人の進化におけるBefore&After、ときに個人のビジョンなどの話題を通して、思った意見を互いに述べていく。「場の設計やきっかけづくりだけでなく、そこから発展した情報の共有を"分かち合い"と呼んでいます。こうしたながれを経て、互いの人となりや考えていることなどを共有していきます」(嶋原氏)。

▲「相手を知ること」と「相互理解」の2段階を重要視する上で、コミュニケーションが欠かせない要素となる。アカツキではディナー、ランチなどの食事の場や、チームごとのミーティングなど、チームを一緒に創っていく仲間との対話を意図的に多く設けている。発表後の分かち合いでは、少人数に分かれ、意見を出し合うことで異なる視点からの気づきを相互に得ることができるほか、それぞれの考え方のちがいを個性として理解することができるという

<POINT3> チームの文化づくり②
感性のちがいをかけ合わせメンバー主体でつくり上げていく

アカツキCTでは半年に一度ほど、チームづくりのコンセプトを決めるためにリーダー陣でオフサイトミーティングを行なっているが、その場で導き出した思想をそのまま指示するわけではない。ミーティング内容を踏まえてもう一度、今度はメンバーを増やして同様のミーティングを行うことで、同じプロセスを再度辿りながらコンセプトを一緒につくっていくという。「コアメンバーだけで考えた思想を完成形として着地させることはしません。"一緒に考える時間"が大切で、少しでもチームメンバーの想いが付加され、そのプロセスを楽しめるメンバーが増えることが理想」(村上氏)。感性のちがいは気づきになり、視座のちがいは育成になる。

村上氏はチームづくりに関わるミーティングなどは通常業務の30%ほどの思考リソースを割いて行なっているが、これについては「短期的にみて、忙しい時期は避けたい気持ちもありますが、中長期を考えると絶対にやった方が良いです。"僕たちが楽しめる世界をつくる"というのが主体となる考えなので、大事なものを捨てて"いたくないチーム"になるのは何も楽しくない」と村上氏は説明する。現在は嶋原氏を含む複数のメンバーで「大切にしたいこと」を1枚にまとめたカードを作成中。メンバーがいつでも想いを感じられることで、集団ではなくチームとしての成熟を目指していくという。



▲チームづくりのコンセプトは定期的にオフサイトで話し合われており、ときにはチームビルドのために外部のコーチを招いて現在や未来について話すという。ここではチームの拡大後のビジョンや体制などが話し合われるが、アカツキではリーダー間で話し合われた内容をそのままトップダウンで指示することをなるべくしない。同様のプロセスを今度は大人数で行うことで、参加者の主体性を育むとともに積極的な意見の交換を行い、多くのメンバーがチームのコンセプトを共につくり上げていくかたちで文化の共有を図っている

<POINT4> デザイナー主導の採用
採用のゴールは「仲間になること」

アカツキCTでは、実際の業務に関わるデザイナー主導の採用活動が行われている。プロジェクトではUIデザインをリードする役割である矢部氏は採用活動を牽引するメンバーのひとりで、現在は面接だけでなく各地の大学や専門学校へ足を運んでの採用活動やワークショップなども積極的に行なっている。矢部氏を中心として採用に関わるコアメンバーは6名、面接の担当まで含めると実にチームの半数以上が採用活動に関わっている状況という。

現場主導の理由は、理想とする候補者に出会える機会を最大化するため。一緒に仕事をしていくことになる現場側の人間が候補者の人となりをみた方が良いという判断と、現場主体のワークショップなどを通じてスピード感をもってコネクション形成を行えるという利点を最大限活かす目的がある。矢部氏は通常業務の2割ほどを採用活動に割いているそうだが、「一連の活動も企画を立てて実行し、それをふり返るというPDCAサイクルがあるので、場づくり、機会づくりの設計という意味ではクリエイティブなことだと思っています」と語る。つい視野が狭くなりがちな専門分野において、採用活動を通じて様々な人と出会うことによる視野の広がりは、メンバーにとっても価値があると考えているようだ。

▲<A>通常の採用活動ではリーチできない層に対してアプローチする手法のひとつとして、現場主導のワークショップも行われている。事例として挙げられたのは、ソーシャルゲーム業界未経験の方向けの「UIデザインワークショップ」。実際のUIデザイン業務を体験することで、業界に目を向けてもらうことが目的という

▲<B>ワークショップでの課題の一例。参加層は幅広く、求職活動を行なっている方々だけではなく、ワークショップの内容に興味をもったデザイナーの参加もあり、「普段の面接では会えない人たちと直接会えるのが良いところ」とのこと

▲<C>また、求人サイトへの掲載などについても企画立案から詳細な企画書をクリエイティブチームで作成し、進行している

<POINT5> スキル以上にマインドにフォーカスした育成
成果と成長を軸とした"気づき"を与える育成論

採用活動だけでなく、その後の「育成」も責任をもって現場が担当する。レジャー予約サービス「SOTOASOBI」など、アカツキのゲーム以外の分野でブランディングやUIUX関連のクリエイティブディレクターを歴任するカサハラ氏もメンバーの育成を担当するが、ここで述べる育成は一般的な企業の研修ではなく「気づきを与えるもの」だと同氏は説明する。

「スキルを学ぶ方法は世の中にあふれていますし、個人のやる気で身につく部分も大きいのでスキルの育成は個人に委ね、それ以上にマインドの育成を重視しています。なぜなら、マインドが高まれば各自の色が強まり、個人としてもチームとしても魅力が高まるからです。なので、個々人の人生がより豊かになるようにという思いも合わせ、その部分にフォーカスを当てるようにしています。例えば、決まったルールを丁寧にこなす、というよりはルール自体を変えて良いという視点を与えることも"気づき"になります。自分自身やお互いの関係性に深く向き合うことなので、自分だけで成長を追うことは本当に難しいし、ときに苦しい。そういった点を一緒に追っていきたいと思っています」(カサハラ氏)。

育成にはプロジェクトでどうバリューを出すかという"成果"と自分自身の"成長"という2軸があり、後者は自立、スキル、チームという3つの要素から成り立っている。最終的にはマネジメント不要なチームを目指し、個とチームの力を最大化できるような状態が理想だ。週に一度という高頻度の1on1ミーティングやトレーナーとの交換日記、推薦図書の紹介や書籍の購入費用負担などの実利的なサポートなどを基に、短期ではなく長期的な視点に立って育成を行なっている。

▲アカツキでは推薦図書というかたちで、書籍の貸与や購入補助が行われている。集団ではなくチームとして機能させていくために、そしてマネジメントの不要な組織をつくっていくためには個々人が広い視点をもつ必要があり、そういった新たな視点や気づき、そして共通言語をもつにはやはり読書は重要なのだという。もちろん強制ではなく「意識が向いたときに手に取れるようにしておく」というかたちではあるが、こうした取り組みから興味をもち、自発的に組織論を学ぶ社員も多い。嶋原氏もそのひとりで、入社後は4ヶ月で60冊ほどを読破したという

▲トレーナーとの交換日記のイメージ。プロジェクト業務、アカツキCTとしての横断的な業務など様々なジャンルごとにトレーナーとコメントをやりとりすることで、成長を一緒に追っていく

<POINT6> アカツキの未来
「個のビジョンとチームのビジョンの融け合い」で未来をつくる

村上氏がチームづくりに直接携わることになった4年前、アカツキCTの規模は5名程度。その後成長を続けたアカツキは現在クリエイティブのメンバーとして40名が在籍し、さらに規模拡大に向け動いている真っ最中だ。

今のチームだけをみていてもスケールにつながらないため、ビジョンやToBe、チームの構造、コミュニケーションなどは300人規模になったときを想定して考えながら、今は次のフェーズのためにリーダーに任せて、共に成長を追っている状況だという。「チームは結局のところ人の集まりです。文化は1日では出来上がらず、積み上げと人との向き合いでしかないので、型にはめて一気に全員と理解し合いましょう、というのは絶対に無理です。一歩一歩、大切だと信じることを諦めずやっていくしかない。そして、背中を押してくれる仲間がいるのはとても心強いですし、様々な挑戦やそれぞれの成長の気づきにつながる。また背中を押したくなるメンバーが多くいるのは幸せなことだとも思っていて、そんなコミュニティにしていきたいです。今後は、これから向かう未来のストーリーも僕の頭の中で決めるというよりは、よりみんなでつくっていくという方向にもっていきたいと考えています。僕の頭はきっかけにしかすぎず、集合知として思いもよらないところへ融け合っていきたい。何より結果よりもみんなでプロセスを楽しんでいけたらと。そして今後成長していくメンバーや、これから増えていくだろうメンバーと共にビジョンやTo Beも進化させていきたい」(村上氏)。

会社のスケールアップと同時にストーリーの登場人物が増え、メンバー同士のかけ合わせによって自分たち自身がワクワクできるような未来をつくりたい。笑顔ながらにそう語るアカツキのメンバーの今後におおいに期待したい。




TEXT_神山大輝(NINE GATES STUDIO)

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過去連載

第一回連載 >>『Logic01 物語体験にフォーカスしたイラスト制作』はこちらから
第二回連載 >>『Logic02「わかりやすさ」と「体験」を両立するUIアニメーション』はこちらから
第三回連載 >>『Logic03 感情に寄り添うインターフェイス表現』はこちらから