昨年3月、macOS High Sierra 10.13.4のリリースにより外付けグラフィックプロセッサ(eGPU)の利用が可能となった。それに伴い、ノートパソコンのグラフィックス性能を拡張するため、市販のグラフィックスボードを外部接続して利用するためのeGPU拡張ボックスが各社から続々と販売され始めている。今回は米・Other World Computing(OWC)のeGPUモジュール「Mercury Helios FX」について、OWCの製品担当副社長ケン・ヒギンズ/Ken Higgins氏に伺った。
TEXT&PHOTO_安藤幸央(エクサ)/ Yukio Ando(EXA CORPORATION)
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)
<1>eGPU拡張ボックス「Mercury Helios FX」とは
CGWORLD(以下、CGW):Mercury Helios FXについて教えてください。
ケン・ヒギンズ氏(以下、ヒギンズ):Mercury Helios FXは、グラフィックスボードを外部接続できる外付けGPUケースです。現在の推奨グラフィックスボードはAMD Radeon RX 580ですが、加えてAMD Radeon RX Vegaなどの新しい機種にも対応しています。MacだけでなくWindowsマシンでも利用できるのが特徴で、ケーブルを1本接続するだけで使えるのが便利なところです。ノートパソコンへの電源供給も同時に行われます。
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ケン・ヒギンズ/Ken Higgins
OWC Global Director of Branded Sales
www.owcdigital.jp
ヒギンズ:グラフィックスボードは、フルレングスのものを1枚搭載することができます。今後eGPUのしくみが変わらない限り数年は使い続けられるので、例えば最初はGeForce GTX 1080、次にGeForce RTX 2080と安価なものから予算に応じてステップアップしていくこともできます。マシンとの接続はThunderbolt 3で行います。特定のマシンで使うだけでなく、用途に応じて繋ぎ替えて使うことも可能です(※)。グラフィックスだけでThunderbolt 3の帯域を使い切ってしまうため、残念ながら複数台をデイジーチェーンで繋ぐといったことはできません。
※注:システム的に厳密にはアンマウントするか、または再起動が必要
Introducing the OWC Mercury Helios FX
ヒギンズ:macOSからのeGPU利用は、アップルの仕様により、グラフィックスボードから出力される画面のみが高速化されます。残念ながらeGPU接続時、ノートパソコン本体の画面そのものは高速化されません。これはWindowsでのeGPU利用と大きく異なる点と言えます。さらにMac miniやMac Proなどをサーバ運用した場合は、ディスプレイ出力がない状態と認識してeGPUアクセラレートの恩恵が受けられなくなるため、利用には注意が必要です(※)。
※注:OWCの別ブランドであるNewerTechのアダプタを使用することで回避可能
昨年11月、Inter BEE会場にて展示されていたMercury Helios FXの外観とその内部
CGW:Mercury Helios FX、eGPUが対応しているソフトウェアについて教えてください。
ヒギンズ:AMDのドライバに対応しているソフトウェアであれば、無条件で速くなります(例えば、iMac Pro搭載のAMD Radeon向けにチューニング済みのソフトウェアなど)。NVIDIA用のMac対応ドライバは、以前リリースされていたドライバを変更して使っている人も一部にいますが、正式なものではなく、推奨している使い方ではありません。
また、VRでの利用も想定しています。HTC Viveであれば、VRレディのハイエンドのマシンでなければ使えないのが一般的ですが、Mercury Helios FXを利用すればノートパソコンでも使えるようになります。GeForce GTX 1080を搭載したMercury Helios FXをThunderbolt対応のノートパソコンに接続すれば、KANDAOの8K 360度カメラの画像をリアルタイムでスティッチングすることも可能です。ただ、GeForce RTX 2080でゲーム中の描画がレイトレーシングできるかとなると、まだドライバが完全に対応していないため難しいところではあります。
ヒギンズ:AMDのグラフィックスハードウェアが搭載されているMacと、同じグラフィックスハードウェアをeGPUで利用する場合とでは、3Dベンチマークを測ってみてもほとんど差がなく、Mercury Helios FXを利用することによるオーバーヘッドはほとんどないと考えて良いでしょう。さらに、高品質の静音ファンを利用しており、GPUが起動しているときなど必要なときしかファンが回らないしくみになっています。
<2>「テクノロジーは全てを可能にする」OWC社について
CGW:OWC会社のなりたち、背景などについて教えてください。
ヒギンズ:OWCは30年前、創業者であるラリー・オコナー/Larry O'Connorが14歳のときに始めた会社です。「テクノロジーは全てを可能にする」を理念に掲げ、Macintoshコンピュータのユーザーがそのマシンをできるだけ長く使えるように、Macintoshのハードウェアアップグレードのビジネスを始めて今年で30年になります。ひと昔前は直接ハードウェアを拡張できましたが、最近のMacは簡単には拡張できなくなっていますので、徐々にコンピュータの機能を拡張させる周辺機器の製造販売に軸足を移しています。
昨夏にはイーフロンティアとの協業が決まり、日本での製品ローンチが実現しました。今後もどんどん新しい製品をリリースしていくので期待していてください。
CGW:サポート体制についてはいかがですか?
ヒギンズ:日本でのサポートはイーフロンティアにご相談ください。全ての製品はシリアル番号で管理しており、Amazonでのレビューも良い評価をいただいています。環境問題にも考慮し、外装の箱をそのままハンドキャリーとしても利用できるようになっています。
ハンドキャリーとしても流用できる外箱
CGW:日本での今後の展開について教えて下さい。
ヒギンズ:昨年末から、東京・二子玉川の蔦屋家電や秋葉館などにてOWC製品の常設展示・販売を行なっています。また、従来の550W電源モデルに加え、1月のCES 2019で新たに650Wの電源を搭載したMercury Helios FX 650を発表し、日本でも出荷が始まっています。ハイエンドのグラフィックスカードが今後どのように進化していくかわかりませんが、Mercury Helios FX 650はデスクトップパソコンなどのようにCPUやマザーボード用の電源を必要としないため、よりハイパワーのグラフィックスボードも安心して使うことができるでしょう。
CGW:日本の読者にひとことお願いします。
ヒギンズ:eGPUを活用することで、CGレンダリングのような重い処理もラップトップパソコンでストレスなくできるようになり、マシンの選択肢が広がります。ぜひMercury Helios FXを使ってみてください。
CGW:ありがとうございました。
Mercury Helios FX 650W
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● 価格:54,000円(税込)
● 対応OS:Windows 10 64bit Build 15063以降、macOS 10.13.3以降
● 対応マシン:Thunderbolt 3搭載のMacまたはWindows PC
● インターフェイス:Thunderbolt 3
● 電源:650W
● 問い合わせ:イーフロンティア