Cinema 4D、BodyPaint 3Dといった多種多様な業界に受け入れられている統合3DCGツールを長年提供し続けるドイツ発のマクソン・コンピューター(以下、MAXON)。2018年7月、32年間MAXONに勤めた創業者3名が引退し、トップの座をデビッド・マクギャヴラン/David McGavran氏が引き継いだ。Adobeに20年間勤め、最近ではビデオ編集関連のプロダクトを率いていた経験を買われて新たな挑戦に身を転じたマクギャヴラン氏に、現在の心境、今後の展開などについて聞いた。

TEXT_安藤幸央(エクサ)/ Yukio Ando(EXA CORPORATION)
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota

<1>20年間勤めたAdobeから、MAXONへ

CGWORLD(以下、CGW):就任の背景、就任後の様子について教えてください。

デビッド・マクギャヴラン氏(以下 マクギャヴラン):2018年に、創業者の3人がそろそろリタイアしたいということで、7月からMAXONに入社することになりました。MAXONでは才能のある方々に囲まれ、非常にエキサイティングな環境で大変喜ばしく思っています。


  • デビッド・マクギャヴラン/David McGavran
    Maxon Computer GmbH CEO

マクギャヴラン:MAXONに入って最初に行なったのは、各国に分かれていた事業所をひとつにまとめることでした。それまでのMAXONは、ドイツ、アメリカ、カナダ、イギリスの4つの会社に分かれていました。創業者が辞めたあと、強いリーダーシップを示す必要があると考え、世界中に散らばっていたそれぞれの会社をひとつのMAXONとしてまとめていきました。現状ではひとつの会社として報告を行い、戦略もひとつ、各国がひとつの戦略に向かって展開するという体制になっています。それまでは各国バラバラだった戦略を、全社でひとつにまとめて展開しているのです。

CGW:なぜ20年も働いたAdobeを辞めてMAXONに移るという決心をされたのですか?

マクギャヴラン:Adobeに入社したのは1998年で、とても長い間働きました(※編集部注:1998年はAdobe Photoshop 5.0頃の時代)。最初はPremiereを担当するエンジニアで、その後Premiere Proを担当しました。Premiere Proに6年ほど携わったあと、After Effectsに移りました。そういったことから映像合成と映像編集両方の知識と経験をもっています。Premiere Proの頃から、エンジニアだけでなくマネージャー職も兼任していました。現在Premiere Proが業界ナンバーワンの製品になったことを誇りに思います。

当時から、日本を含む世界中のポストプロダクション、スタジオなどを訪問し、意見を聞いて回っていました。その後、ビデオ製品グループの主任エンジニアに就任し、Premiere Pro、After Effects、Audition、Premiere Rushの開発を手がけました。こういったAdobe時代の経験から、世界中のカスタマー、大きなTV局などともパートナーシップがあったことや、ワールドワイドのマーケットを担当していたことがMAXONでも役立つと考えています。

Adobe在籍時の終盤からドイツ市場も担当するようになり、2年ほど前からドイツに住んでいます。ドイツの食事はとても大好きですし、妻もドイツ人。子どももドイツで育っています。 長年Adobeで働いていてMAXONに移る一番の理由は、ドイツを愛していたことです。もちろんAdobeでもドイツで働くことはできたのですが、良い機会に恵まれるという人生のタイミングがあると思っています。また20年も同じ会社で働いてきたので、新しいことに挑戦したいという考えもありました。MAXONで、それがドイツでできることも嬉しかったし、AdobeのマーケットとMAXONのマーケットは非常に似通っていて自分の経験が活かせると考えた部分もあると思います。

CGW:CEOとしてこれからどういうことに取り組んでいきたいとお考えですか?

マクギャヴラン:MAXONに入る前は、お客さんとしての視点でMAXONを捉え、より製品を買いやすくしたいと考えていました。MAXONのWebページではCinema 4Dが4バージョン(Prime、Broadcast、Visualize、Studio)あり、それぞれにすぐにダウンロードできるもの、トライアルバージョン、その他のバージョンがあります。


Cinema 4Dの4つのバージョン(MAXON日本語版サイトより)

例えばWebで製品を買おうとすると、4つのうち自分がどの製品を買ったら良いのかよくわかりません。体験版があったとしてもどれが自分が求めている体験版なのかもよくわかりません。そういったモヤモヤを感じ、自分がそう感じるのであれば、もちろん一般のユーザーにとっても同じ悩みがあるのだろうと考えています。

Cinema 4Dは素晴らしい製品で、購入したあとは気に入って使ってくれるユーザーがほとんどです。一方、購入するまでの顧客体験と実際の商品の良さとのギャップが大きいと思っているので、その部分をまず改善していきたいと考えています。

これは先ほどの質問の答えにもなりますが、MAXONは非常に良い製品を扱っており、会社としても成長していますが、新規ユーザーへの接点、入口があまり良くないと感じていました。そのながれを、内側から変革していけるチャンスだと感じたのも、MAXONに入社したきっかけのひとつかもしれません。

<2>オリジナル版の開発者が中核を担い続けているCinema 4D

CGW:Cinema 4Dは、今後どのような分野に展開を考えていますか?

マクギャヴラン:Cinema 4Dの用途は様々な分野にまたがっています。モーショングラフィックスも得意ですし、日本では建築に使われている事例も多く、とても美しい建築CGをCinema 4Dを用いて制作する建築事務所も数多くあります。またアート系のインスタレーションや科学的データの可視化に使っているところもあります。アメリカでは放送関係に強く、日本では建築の他に、プロダクトデザインにも多く使われています。全体としてはモーショングラフィックスとビジュアライゼーション分野での活用が多いですね。

日本のユーザーとしては、先日WOWの方々にお会いしました。Cinema 4Dで制作された映像作品も見せていただいて大変嬉しく思っています。Cinema 4Dの25周年記念映像もWOWに制作していただいたものです。細かいことは何にもリクエストしていないのに、素晴らしい映像を仕上げていただきました。

MAXON 25周年記念ムービー: WOW制作: made by CINEMA 4D

CGW:Cinema 4Dの開発体制について教えてください。

マクギャヴラン:Cinema 4Dの良い点は、いまだに最初のオリジナル版の開発者3人が開発の中心を担っており、強いリーダーシップを取り続けていることです。同じメンバー、同じチームで作り続けているので、思想や、アーキテクチャについてブレがありません。2015年にカナダのモントリオールに開発拠点を設けました。モントリオールの優秀な学生もたくさん雇っており、総勢60名くらいです。チームとしては現在非常に大きくなっていますが、10年以上開発に関わっているメンバーも多く、頼りにしています。

Cinema 4Dの最初のバージョンが今でも継続しているのはとても大切ですが、重要なコアの部分は全て書き直されているのが現在のバージョンです。とてもモダンなプログラミング、洗練されたコードで、とてもパフォーマンスが高いものです。OSや環境に依存しないクリーンなコード体系で、新しい技術を積極的に採り入れながら開発しています。

CGW:学生ユーザーに関してはいかがですか?

マクギャヴラン:多くの学生にMAXONの製品を使ってもらえれば、将来的に彼らはプロフェッショナルになります。彼らがプロになってからも使い続けられるソフトでありたいのです。もちろん無償の学生ライセンスもありますし、学校で教える機会、学生が使う機会を増やし、学生たちがより使いやすいよう考えています。また、MAXON社内でも学生のインターンを雇っており、様々なことをお願いしています。建築・医療関係などCGとは異なる分野でのインターンにも働いてもらっています。

<3>新しい市場のポジションを開拓したい

CGW:今後の展開、予定を教えてください。

マクギャヴラン:ARやVRの体験、Webサイトの表現など、3Dの制作はもっともっと一般的になってきています。様々なところでCinema 4Dが使われており、どこにフォーカスするかというのは大変難しいのですが、3DCG自体は数多くのところで使われていくはずです。今現在どうこうというよりも今後の市場の変化に柔軟に対応していくことが重要で、3DCGそのものがより一般化していく中で新しい技術、新しい市場のポジションを取っていきたいと考えています。

フリーデリケ・ブルキャット/Friederike Bruckert氏(以下、ブルキャット):日本のユーザーの皆さんにも、どんどんフィードバックやご意見を知らせていただきたいです。これから毎年来日し、様々なユーザーからのフィードバックを直接開発に伝えていきます。今週訪問したユーザーからも素晴らしいフィードバックをいただいています。


  • フリーデリケ・ブルキャット/Friederike Bruckert
    Maxon Computer GmbH
    Head of Worldwide Sales

ブルキャット:日本のCinema 4Dユーザーのクリエイティブは素晴らしく、他の国と比べても特殊で難しいリクエストをいただいています。Cinema 4Dのユーザーも自分が言ったことが次のバージョンに反映していけば、とても嬉しいと思います。私自身も仕事をしていて一番嬉しいのは、カスタマーが求める要望を製品として提供できたときです。

CGW:先日開催されたNAB Show 2019にて、GPUレンダラRedshiftの開発元であるRedshift Rendering Technologiesの買収を発表されましたね。

マクギャヴラン:レンダリングは、3Dコンテンツの制作において最も時間がかかり、要求の厳しいものです。Redshiftのスピードと効率の良さ、Cinema 4Dの密接なワークフローの組み合わせは、当社のポートフォリオに完璧にマッチしています。さらに、8月のSIGGRAPH 2019でも大きなニュースがお伝えできると思います。

そして、Cinema 4Dとしては、非常に評判の良い最新版R20が昨年9月にリリースされました。リリース当初から操作メニューに関しては日本語化されていますが、昨年11月にはヘルプに関しても日本語版が提供されています。

Cinema 4D R20 Presentation

ブルキャット:MAXONとしても各国向けのローカライズ、言語に関する課題はとても重要だと考えています。日本に限らず、世界中に向けてローカライズを行なっています。その考えは20年前から変わりません。アプリケーションやヘルプだけでなく、トレーニングやチュートリアルビデオなども英語版と同じタイミングで各国翻訳版を出していきたいと考えています。

CGW:引退された創業者3人にひと言お願いします。

マクギャヴラン:3人の創業者は引退はされましたが、今でも良くオフィスに来て社員たちと交流しています。創業者はCinema 4Dのユーザーのことをとても愛しています。創業者たちが素晴らしい製品、素晴らしい会社を残してくれ、それを続けられることを誇らしく思っています。ユーザーのみなさんにもCinema 4Dを愛し続けてもらえるよう、私にぜひ任せていただきたいと思っております。

CGW:日本のユーザーへひと言お願いします。

マクギャヴラン:既存のお客様に関してはぜひこれからもご意見をいただいてコミュニケーションをとっていきたいですし、まだCinema 4Dを使っていない方々は、ぜひ体験版を使っていただき、何が足りないか、どうしたら使っていただけるか、お伝えいただければと思います。クリエイターのみなさんが楽しみながら、創作活動をできるようにするのが、私の仕事です。みなさんに素晴らしい作品を作っていただいて、とても感謝しています。