[PR]

4K/8K案件の増加に伴い、ゲームエンジンを用いたリアルタイムレンダリングによるCG制作が、自動車・建築・製造業などの非エンターテインメント分野で急速に浸透している。そうした高速化の次に注目されているのが、リアルタイムレイトレーシングによる質感向上だ。Unityも対応を進めており、現在リアルタイムレイトレーシング機能を搭載したExperimental版が公開されている。本稿では、広告向けの自動車CG制作を手がけるアマナデジタルイメージングに、NVIDIA Quadro RTX 6000とUnityの組み合わせによるリアルタイムレイトレーシングの実力を検証してもらった。

TEXT&PHOTO_小野憲史 / Kenji Ono
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)
PHOTO_蟹 由香 / Yuka Kani

自動車の複雑な質感もリアルに、高速に再現

「現在、弊社がメインで採用している3ds MaxとV-Rayによるワークフローでは、静止画を1枚レンダリングするのに3時間かかっていましたが、これがわずか30秒で完了し、レンダリングの下準備にかかる手間も劇的に改善されました」。アマナデジタルイメージングで長年、自動車の静止画CG制作に携わってきた3DCGアーティストの横尾達也氏は、Unityによるリアルタイムレイトレーシングの実力を、このように評価した。


  • 横尾達也/Tatsuya Yokoo
    アマナデジタルイメージング "croobi"

4K/8K案件の増加により、プリレンダリングによる従来のワークフローではちょっとした修正でも大幅な時間を要するようになってきた。こうした問題は、リアルタイムレンダリングの導入で一気に解消される可能性がある。アマナデジタルイメージングでも2015年前後から、継続的な研究開発を行なっている。

リアルタイムレンダリングが4K/8K案件に対する第一の矢だとしたら、第二の矢に相当するのがリアルタイムレイトレーシング対応だ。ゲームエンジンのUnityでも、2018.1で正式サポートされたHDRP(HDレンダーパイプライン)をベースに、リアルタイムレイトレーシングへの対応(=RTR HDRP)を進めてきた。2019年のGDCではNVIDIA・BMWとのコラボレーションで、BMW 8シリーズクーペのプロモーション映像を公開。その完成度の高さに世界が驚いた。

Reality vs illusion: Unity real-time ray tracing

これに限らず近年のCG業界で、リアルタイムレイトレーシングに注目が集まっていることは言うまでもないだろう。2018年にMicrosoftがレイトレーシング対応API、Direct X Raytracing(DXR)を発表し、NVIDIAもPascalアーキテクチャなど既存GPUの一部でDXR対応を表明、一気に身近な存在になってきた。UnityのRTR HDRPも、DXR準拠によるものだ。現在GitHub上でExperimental(実験)版が公開され、対応OSとGPU(※)を用いれば、誰でも検証できる環境が整えられている。

※:Windows10 October 2018 Update以降の対応OSと、NVIDIA製のRT対応コア搭載グラフィックスボードが必要

NVIDIA Quadro RTX シリーズ
www.nvidia.com/ja-jp/design-visualization/quadro/
NVIDIA RTXによるリアルタイム レイ トレーシング
www.nvidia.com/ja-jp/design-visualization/solutions/rendering/

そこで今回、アマナデジタルイメージングではNVIDIA Quadro RTX 6000搭載グラフィックスボードを使用し、UnityのスタンダードアセットであるUnity Carの3DCGモデルでRTR HDRPの技術検証を実施。同じくUnityのHDRP環境でレンダリングを行なった映像と比較した。その結果、いくつか課題も存在したものの、総じてRTR HDRPならではの強みが見えてきたという。中でも横尾氏が評価したのが、冒頭にあげた圧倒的な時間コストの節約だった。

NVIDIA Quadro RTX 6000

「従来のHDRPでは構造物が入り組んでいる箇所や複雑な相互反射が発生する箇所などを正しくレンダリングするため、専用のライティングを行なったり、リフレクションやライトブルーブなどの設定を行なったり、細かいレイヤー分けをしたりする必要がありました。ホイール、ミラー、ライトの内部、サイドミラー、内装などです。これがRTR HDRPでは最低限の下準備で、違和感のない出力結果が得られました。プリレンダー級といっても良いほどです」(横尾氏)。



HDR環境でのレンダリング結果

検証環境
CPU:Intel Core i9-7980XE
RAM:64GB
GPU:NVIDIA Quadro RTX 6000
使用モデル:Unity Car(200万トライアングル)

特に相互反射の表現が手軽に実現できるようになったことは、自動車CGの制作において大きな意味をもつと横尾氏は語る。自動車業界ではデザインに対して強いこだわりがあり、写真素材でも高い完成度が求められるからだ。中でもライティングは重要で、車体の光沢やインテリアの質感などで自動車の印象は大きく変わる。これがリアルタイムに調整できる効果は非常に大きい。「スクリーンスペースリフレクションでは限界があった部分でも、正しく反射がなされるため、より説得力が増しました」(横尾氏)。

グローバルイルミネーション(GI)が正しく表現されるようになった点も効果が大きいという。これまではライトプローブの活用で調整していたが、タイヤと地面の接地点などで違和感が発生しやすく、専用のシェーダで修正することもあった。これがレイトレーシングでリアルな影が表現できるようになり、こちらでも出力結果の説得力が増したのだ。「HDRPでもかなりフォトリアルな画づくりが可能でしたが、RTR HDRPでさらに向上したように感じられました」(横尾氏)。



スタジオ環境でのレンダリング結果

このように横尾氏は、RTR HDRPの採用で、レンダリングの実時間もさることながら下準備の時間が一気に減少した点をメリットとして挙げた。下準備とは、アンビエントオクルージョンのベイクで必要なUV展開を行なったり、エラーを1つずつ手作業で修正したりといった作業だ。インテリアのCG制作では、アクセルやブレーキペダルなどの足回りが正しくレンダリングされるよう、リフレクションブローブを細かく設定する必要もある。いずれもクリエイティブな作業とは言いがたいものばかりだ。

一方で「クリアコートの設定がONかOFFのみで、細かく設定できない」、「レイトレースシャドウが4つのエリアライトに限定される」といった制限も確認された。直近では今秋にRTR HDRPのフルプレビュー版公開が予定されている。正式版の発表もそう遠くない未来だと予測されるため、改善に期待したい。

また、プロデューサーの鈴木健哉氏は「Experimental版であっても、A4サイズ以下の静止画出力なら、Photoshopで多少修正するだけで、プロダクトで使用できるレベルだ」と述べた。プリレンダリングでの画像出力でも、最終的にPhotoshopで仕上げを行う手順は変わらない。ポスターやカタログといった、より高いクオリティが求められる静止画出力は従来のワークフロー。アドキットと呼ばれる小サイズの販促物向けならRTR HDRPといった具合に、作業を切り分けることも考えられるというわけだ。


  • 鈴木健哉/Kenya Suzuki
    プロデューサー
    アマナデジタルイメージング

その上で鈴木氏はRTR HDRPがもたらすワークフローの改善にも期待したいと語った。前述の通り、現在のCG制作ではチェックバックの時間が無視できないものになっている。これがRTR HDRPが普及すれば、関係者全員がその場でライティングを確認したり、修正したりすることが可能になる。5G回線の普及で出力画像のストリーミング配信などが浸透すれば、タブレットなどを活用し、遠隔地で即時判断するなども現実味が出てくる。これにより、作業の効率化が期待できるのは明らかだろう。

ただし、そのためにはGPU、OS、ツールなど、3DCGの制作環境全体が成熟していくことが求められる。横尾氏は「ソフトウェア側が安定するのに5年、制作環境全体が枯れきるのに、10年ぐらい必要」だと話した。もっとも、3DCGの制作環境はこれまでも段階的に成熟を進めてきた。今から10年前といえば、映画『アバター』が大ヒットし、立体視3Dに関する技術が注目されていた頃だ。今や立体視3DはスマホVRでも用いられるほどの"枯れた"技術だ。RTR HDRPも同じ進化を辿ることが予想される。

こうした中、技術進化の波を見極めて、今から検証を進めていくことは、スタジオの将来性を考える上で重要な要素となる。RTR HDRPはそれだけの影響力を秘めた存在だと言えるだろう。

Information

●Unity のリアルタイムレイトレーシング | Unity
unity.com/ja/ray-tracing