業界でリガーの人材不足が叫ばれ始めて久しい。こうした中、リガー専門スタジオとして2017年に発足したリブゼント・イノベーションズのBACKBONEスタジオ(以下、BACKBONE)。発足当時にもインタビューを実施したが、設立3年目を迎える現在、リガー交流イベント「リグナイト」や育成カリキュラム「リグ道場」といった独自の取り組みを進めている。BACKBONEの福本健太郎氏と、リグ道場を受講したカナバングラフィックスの宮田眞規氏、アカツキの堀内李緒氏に話を聞いた。
INTERVIEW_小野憲史 / Kenji Ono
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota
<1>リガーが集まる交流イベント「リグナイト」
CGWORLD(以下、CGW):設立以来、大活躍されているとのことで何よりです。
福本健太郎氏(以下、福本):ありがとうございます。2017年7月にBACKBONEを旗揚げして、約2年半。今では社外で働いているリガーも含めて、スタッフ数が10名になりました。当初から、最大でも10名前後で活動したいと考えていましたが、いろいろな人とのご縁がつながり、予定より早く想定していた人数で活動できるようになりました。
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福本健太郎 / Kentaro Fukumoto
リブゼント・イノベーションズ株式会社
BACKBONE事業部長
1978年兵庫県生まれ。大学卒業後、専門学校を経て2002年に株式会社デジタル・フロンティアに入社。アニメーター、セットアップグループリーダーとして活動し、2007年に株式会社ポリゴン・ピクチュアズに移籍。アニメーションの経験を活かした「アニメーター目線のリグ」、「軽いリグ」、「量産・効率化リグシステム」の開発を得意とし、ゲーム、映画、TVシリーズなどの長編案件でリギングスーパーバイザーとして活躍。2012年にアセット部部長に就任しリギング、モデリング、エンバイロメントの3グループを統括。2017年、リグに特化したBACKBONEスタジオを設立
backbone-studio.com
CGW:素晴らしいですね。
福本:そういえば、2019年2月にオートデスク様の情報サイト「AREA JAPAN」で、スキニングに関する「Mayaパーフェクトスキニングウェビナー~美術解剖学に基づくロジカルスキニング講座~」に登壇させていただいたのですが、ウェビナーを視聴された方からBACKBONEに応募がありましたし、これまですごく良い出会いが続いています。
CGW:業務の方はいかがですか?
福本:ここ最近は、ゲームやフェイシャルに関する案件が多く、難易度の高い開発案件も増えてきました。スタッフ数が10名に増えて技術的にチャレンジできる幅も広がったので、研究開発と受託業務のバランスを取りながら楽しく進めています。
CGW:そんな中、様々な活動を進められていますね。
福本:起ち上げ当初から、業界への貢献やリガーが枯渇している状況を何とかしたいと考えていたので、情報発信やセミナーは精力的に進めていく予定でした。リグに関する技術ブログから始めて、現在は「リグナイト」と「リグ道場」も展開中です。リグナイトはコミュニティ向けのリグの勉強・交流会、リグ道場は法人向けのリガー育成プログラムとなります。今年からは、BACKBONEのリソースの空きの状況がわかるよう、Webサイトでリソース表の公開も始めました。Webサイトが新しくなり、いろいろな試みが見えるようになっているので、ぜひ見にきていただけると嬉しいです。
CGW:「リグナイト」とはどういったものでしょうか?
福本:リガーの皆さんに、業界や会社の垣根を越えて、食事をしたりお酒を飲んだりしながら、一緒に勉強・交流をしていただくというリグの勉強会です。リグで悩まれている些細な疑問や、社内では相談しにくいことをざっくばらんに話をして、一緒に楽しく勉強できればと思い、2018年9月に始めました。現状は3~4ヶ月ごとのペースで、全員が発言できるように20~25名くらいの規模で開催していて、次で5回目となります。
第4回リグナイトの様子
福本:リグは勉強するための教材や環境が不足していたり、周りに同業者が少ないといった状況で、独学で勉強することも多いと思います。そうした環境が何年も続くと悶々としてしまい、下手をすると視野を広げるという名目だけで会社を退職してしまうこともあります。ひとりで抱え込まず、業界のリガーの皆さんと技術的な悩み相談や交流できる場があれば、楽しくリグの勉強ができて、視野も広がるんじゃないか......。そういった思いで始めてみました。
CGW:何か共通のテーマはあるんですか?
福本:主にリグについての内容となります。リガーにとって一番近いクライアントはアニメーターなので、まずはアニメーターに要望を聞いてみようということで、第1回は「リガーとアニメーターの座談会」をテーマにしました。リガー約10名、アニメーター約10名に参加を募り、事前にお互いの要望や質問などのアンケートにご協力いただいて、当日はその結果を基にディスカッションを行いました。ただ、業界のマニアックな人たちが集まったので、みんな知りたいことがバラバラなんですよ(笑)。
CGW:目に浮かぶようです。
福本:リガーからアニメーターに聞きたい質問は、とても興味深い内容ばかりでした。1つのコントローラで移動と回転を制御できた方が良いのか、または別々に制御できた方が良いのか。他にもGUIの使用頻度や、これだけは欲しい機能などもりだくさんで。アニメーターとの座談会は1回だけのつもりでしたが、まったく話が尽きず、3回目でようやく終わりました。今後は、ジョイントの位置やスケールの対応方法など、リグの技術的な内容もテーマに取り上げていく予定です。
第1回リグナイトの事前アンケート結果の一部
CGW:運営において気をつけていることはありますか?
福本:できるだけ全員が発言できるよう、進行にはとても気をつけています。リグナイトは議題に対しての結論を出すことが目的ではなく、悩んでいることや課題を共有して、一緒に勉強することを目的としているので、発言に対する否定的な意見はNGとしています。当然、各社様の機密事項や守秘義務に抵触する発言もNGですね。
CGW:参加者はどのように集められましたか?
福本:第1〜3回では自分の知り合いや、仕事で知り合った方々にお声がけして、招待制のクローズドで開催しました。3回開催してようやく形になってきたので、4回目からは紹介枠と一般枠を半々にして、一般枠はConnpassで募集しました。中には、大阪や福岡に在住の方や、リガー志望の学生も参加されていました。
CGW:第4回のテーマは何でしたか?
福本:「ゲームと映像のリグのちがい」です。それぞれの業界のリガーにお集まりいただいて、ワークフローのちがいや現状の課題などについて、深く掘り下げてディスカッションしました。
第4回リグナイトの事前アンケート結果の一部
宮田眞規氏(以下、宮田):自分は第1回に参加させてもらいました。途中でお食事タイムがあって、そこからすごく盛り上がりましたね。会が終わっても駅の近くでみんなが輪になって、話がつきませんでした。
福本:2次会あったんですね。午後10時でお開きにしたんですが、皆さん帰る気配がまったくないんですよ。まだまだ話し足らない!と(笑)。
宮田:すごく良い会でした。指のボーンの位置や瞼の動きなどの話があり、鱗が落ちる意見がたくさん飛び交っていました。同じ会社でやっているとどうしても上下関係がありますが、ここだとぶっちゃけて話せるところもあって、すごく勉強になりました。
CGW:宮田さんはもともと、リガー志望だったんですか?
宮田:そうですね。学生時代に、書籍『Mayaリギング 正しいキャラクターリグの作り方』を手にとったことがきっかけです。とても勉強させていただきました。CGWORLDでリガー座談会の記事を読んだのも大きかったです。福本さんも出席されていましたよね。
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宮田眞規/Masanori Miyata
カナバングラフィックス
リギングアーティスト
www.kanaban.com
CGW:入社されて何年目になりますか?
宮田:リガーとして2015年にカナバングラフィックスに入社して、5年目になります。ただ、弊社は全員で十数名の規模なので、リガーは長く僕しかいなかったんですよ。自分としても、ある程度ノウハウが貯まっていた一方で、これで良いのかという思いもあったんです。そのため、有意義な会になりました。
CGW:堀内さんも参加されたんですか?
堀内李緒氏(以下、堀内):私は3回目に参加しました。弊社は2Dゲーム中心でやってきた会社なので、リガーと社内で直接話す機会が乏しいんですね。そのため、リガーがアニメーターに感じていることなどをお聞きできて、すごく良かったです。逆に自分でリグが組めるようになれば、社内でも啓蒙活動につながるんじゃないかなと。会社の力にもなるでしょうし。
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堀内李緒/Rio Horiuchi
アカツキ
モバイルゲーム事業部 デザイナー
aktsk.jp
CGW:なるほど。
堀内:もともとアニメーターで、リグにも興味がありました。というより、ずっと避けていたんです。学生時代にリグを習いましたが、苦手意識だけが残ってしまい、4~5年くらい手をつけていなかったくらいで......。
その一方で、このままリグから逃げ続けていて良いのかな、という思いもありました。アニメーターなのに、リグを組めないのは......という。そんな中、社内で「リグについて集中的に学べる機会があるけど、どうする?」と提案を受けまして、BACKBONEさんにお世話になることになり、研修最終日にリグナイトに参加させていただきました。
CGW:アニメーターがリグを組めると、どういったメリットがありますか?
堀内:ただ動きをつけるだけと考えると、人によっては考える範囲が狭くなってしまうと思っています。関節の可動域だったり、筋肉の動かし方だったり、解剖学的な視点等いろいろな点で考える深さにも限界が出てくると思うんです。逆にそういったことまで深く考えられる人じゃないと、キャラクターのアニメーションの説得力も浅くなってしまうというか......。アニメーターである自分にとって、一番嬉しいことは「キャラクターが活き活きと動く」こと。そのための知識が欲しいと思っていて、そのひとつがリグでした。
CGW:今後リグナイトはどうなっていきますか?
福本:次回は2020年3月ごろを予定しています。できるだけ多くの方に参加していただきたいので、今後は招待枠と一般枠の比率を4:6くらいに変更しようと考えています。学生の方も恐れずにどんどん参加してほしいですね。詳細はBACKBONEのWebサイト上で告知していくので、定期的にチェックしていただけると嬉しいです。
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<2>リグ道場ではニーズに合わせて2種類のコースを用意
<2>リグ道場ではニーズに合わせて2種類のコースを用意
CGW:続いて「リグ道場」の話をお伺いしたいのですが、これはどういったところから?
福本:起ち上げ当初から、教育事業を行いたいと考えていたのですが、学生向けではなく法人向けの、よりプロフェッショナルな教育を考えていました。制作の現場では、教育のためのトレーニング期間や、教育者のリソースの確保が難しく、どうしてもOJTでの教育になりがちですよね。特にリーダークラスの方はたくさんの仕事を抱えているので、教育に手が回らないことも多いですし、お困りの会社さんも多いかもしれません。
CGW:そのとおりですね。
福本:特にリグは特殊な職種なので、一時的に需要が高まっても、波が過ぎればリガーの手が空くことがあります。その期間で教育や研究開発ができれば理想ですが、手空きの際は他の職種にヘルプで入ることも多いですし、そもそも教育者の手が空いていないという問題もあります。
CGW:なるほど。
福本:自分も過去にそういった経験があるので、スタジオを起ち上げた当初から、クライアント様の手が回らないところで何かお手伝いができないか、リーダーの負担を減らすお手伝いができないかと考えていました。いろいろと考えていたところ、カナバングラフィックス代表の富岡さんとのご縁で始まったのがリグ道場です。
CGW:具体的にはどういったサービスを?
福本:実制作の業務を通して、実戦形式でプロフェッショナルなリグのスキルやノウハウを学んでいただく「OJT型教育」と、オリジナルの教育カリキュラムをベースに学んでいただく「カリキュラム型教育」の2つのサービスを展開しています。どちらのサービスも、受講者の苦手な分野や伸ばしたい分野、悩みなどを細かくヒアリングしてカウンセリングを行います。その分析から、オリジナルのカリキュラムを作成し、それに基づいて学んでいただきます。
BACKBONEスタジオ公式サイトより、リグ道場のOJT型教育(左)、カリキュラム型教育(右)の内容
CGW:カリキュラム型教育の内容は、御社の研修でも使用されているものでしょうか?
福本:基礎的な内容は同じですね。BACKBONEの新人研修では、まずリグの考え方や解剖学について学ぶのですが、この内容はとても重要視しているので、OJT型とカリキュラム型、どちらのサービスにも含めています。ただ、リグのシステムは会社様によってちがいますし、映像とゲームでもそれぞれちがうので、基礎的な内容は踏まえつつ、受講生の特性に合わせたかたちにカスタマイズしています。
CGW:実際の受講風景はそれぞれ、どんな感じだったんでしょうか?
福本:宮田さんは、BACKBONEとカナバングラフィックス様とでつながりのあったクライアント様の案件で、弊社のスタッフと一緒に業務をしながら学ぶというOJT型の受講でした。解剖学やスキニングなどの基礎的なところから大量生産のしくみまで、業務のなかで幅広く学んでいただきました。
堀内さんの場合は、最初にアカツキ様の案件を我々が受託業務でお手伝いさせていただく話が進んでいました。ただ、弊社で開発したリグを納品しても、アカツキ様の社内でリガーが不足していては満足に運用できないですよね。そこで堀内さんに、そうした人材になっていただくことを目標に、不足しているスキルをオリジナルのカリキュラムで学んでいただきつつ、一緒に案件の業務を進めました。OJT型とカリキュラム型を混ぜた、少し特殊なかたちでしたね。
CGW:すごく良いアイデアだと思うんですが、調整が大変そうですね。
福本:はい、クライアント様のご理解がなければなかなか難しいですし、タイミングにも大きく左右されます。OJT型の場合は、必ずクライアント様に確認をしていますが、とてもありがたいことに、リガーの人材育成に理解の深いクライアント様が多く、宮田さんのときも、「ぜひやりましょう!」と快く承諾していただけました。
CGW:宮田さんはリグ道場でどういったことを学びましたか?
宮田:弊社はデフォルメのきいたキャラクターを扱うことが多いのですが、今回のリグ道場ではヒト型キャラクターのリグが組めたことで、学びが広がりました。習ったことをすぐに実務で活かすことができたのも良かったですね。最初は3ヶ月の研修期間の予定でしたが、6ヶ月に延長させていただいたくらいです。
CGW:カナバングラフィックスさんとして、宮田さんをリグ道場に送り出すにあたって何か理由はあったんでしょうか?
宮田:きっかけとしては、2018年に開催されたイベント「Rigging help me!『リガー、集まれ~!』」で、福本さんたちと一緒に登壇させていただいたことです。当時はイベントの後しばらく自分の業務予定がない時期があり、技術的にも頭打ち感があったので、弊社代表の富岡(聡氏)と相談しまして、出向させていただくことになりました。いろんなタイミングが重なった感じです。期間的には2018年の4月から9月までですね。
福本:宮田さんの出向がリグ道場の始まりでもあるので、カナバングラフィックス様と、リグ道場を快く承諾していただいたクライアント様でなければ、実現できなかったかもしれません。富岡さんとは前々からご縁がありましたし、自分自身も学生時代に良くしていただきました。イベントでも、「宮田が伸び悩んでいて......」というお話を直接うかがって、では一緒にやりましょう!となりました。
CGW:まさに人の縁ですね。堀内さんの出向受け入れも、そうしたながれの中で決まったのでしょうか?
福本:そうですね。アカツキ様との打ち合わせの中で、カナバングラフィックス様との取り組みについて、簡単にご説明させていただいたんです。そうしたら、たいへん興味をもっていただきまして。
堀内:私が会社から話をもらったのが、まさにその直後です。「福本さんという方がいて、出向を通してリギングの教育をしてもらえるそうだけど、興味ある? すごく厳しいらしいよ?」、「興味あります!」と二つ返事でした。出向したのは2019年の2月から4月までの3ヶ月間です。
CGW:リグ道場を経て、仕事に復帰されていかがでしたか?
宮田:社内の体制づくりに必要なことが見えてきました。まだまだ道半ばですが、それを基に効率化を目指す取り組みを始めています。また、工数の見極めに関するスキルが増しました。それまでは自分が漠然と考えているだけでしたが、リグ道場で教えられたことで、自信がもてました。それによって開発全体で発言力が増しました。
CGW:若手に教育したりすることはありますか?
宮田:ちょうど2019年から新人リガーが入ったので、教わったことを基に研修を行うことができました。また、弊社ではモデラーがスキニングの一部を担当するなど、他の職種がリガーの一部を担当することがあります。そうした場面でも自信をもって説明できるようになりました。実際、社内セミナーで講師も担当しています。BACKBONEさんから学んだことを基に、自分なりの経験を踏まえて説明するようにしています。
CGW:実際、専任のリガーがいないと会社として成長しにくいですよね。
福本:アセットが大量に登場する案件では、大量生産のしくみを整えて、ツールなども入念に準備する必要があるので、そういった案件では専任のリガーは必要かもしれません。富岡さんからも、大型案件に対応するための知見を増やしたい、というご相談をお聞きしていたので、宮田さんには、大量生産における考え方や設計方法など、全て体験していただきました。
CGW:堀内さんはどうですか? フルタイムでの出向だったのでしょうか?
堀内:1週間のうち2日出向する週と3日出向する週が交互に続く感じでした。
福本:堀内さんは、アカツキ様案件のOJT型教育でもあるので、出向されていない日はアカツキ様のオフィスで作業されていましたね。
堀内:まさにプロジェクトの延長で研修が行われたので、すごく実践的で勉強になりました。出向日ではない日には、宿題的にもち帰った作業を行い、そのときに出た疑問質問をまた出向日にもっていき、1つ1つわからない部分を潰していくようなながれでした。プロジェクトのレギュレーションに沿いつつ基礎の基礎から教えていただいて、これまで意識が及んでいなかったところや、以前躓いていた部分の原因がクリアになりました。クオリティラインも高くて、中途半端なレベルではOKが出ませんでした。そういう意味では「厳しかった」ですね。でも、そうした厳しさがないと、下のレベルで止まってしまうのも事実なので......。細かくチェックしていただいて、とてもありがたかったですね。最終日にもたくさんリテイクをいただいたので、出向終了後も修正を行なっていました。
福本:リグ道場は、技術だけでなく、クオリティやスケジュールもしっかりと自己管理できるように、タスク管理の指導も行なっているので、確かに厳しかったですね(笑)。長時間労働ではなく、しっかりと8時間労働の中でスケジュールを守りつつ、クオリティを出せる人材に育ってほしいので、オペレーション作業のスピードまで細かく指導していました。お2人のクオリティが下回っていたり、スケジュールが遅れそうなときは、クオリティとスケジュールを担保するために弊社のスタッフや私が手を入れていましたが、できるだけお二人自身で完結できるよう、何度もリテイクをくり返して、最終的には立派に成長されていました。
宮田:納品物をみれば、だいたいBACKBONE社内の誰が直したか想像がつくんですよ。それって悔しいじゃないですか。自分でなるべく求められる品質まで達するように努力するようになりました。
CGW:堀内さんは通常業務に戻られて、いかがですか?
堀内:まだスピード感をもってリグを組むには修行していかないといけませんが、簡単なものから始めています。以前のようなリグに対しての抵抗はだいぶなくなりました。今では楽しさも感じられています。
リグ道場で教えていただいたことは全てドキュメントにまとめています。会社からは「まったくリグを組んだことがなくても、その資料を見れば1人で組めるくらいわかりやすい内容にしてほしい」と言われています。ものすごくハードルが高いんですけどね。2020年の夏くらいには、もっと業務に自信がもてるように精進していきます。
CGW:アカツキさんでも同じように、堀内さんがリガーとして一人立ちすればするほど、リッチな3Dゲームがどんどん開発できそうですね。
堀内:しっかり身に着けて自身のスキル面での貢献と、社内でも教えていけるくらいになれるようがんばります。
CGW:そもそも人材教育に投資しようという会社は、今まさに伸び盛りの状況にありますよね。そうした会社の成長に対してBACKBONEが寄与できるというのは、やりがいがありますね。
福本:はい、何かしらのかたちでお力になれるのはとてもありがたいですし、我々もとても勉強になります。
CGW:ちなみにリグ道場で学べることで、御社ならではの要素はありますか?
福本:ツールの使い方やテクニックよりも、考え方や本質を理解していただくことを重視しています。ロジカルに考えてリグを設定できれば、ツールに依存することもないですし、ジョイントやスキニングなどの動きの本質を理解して設定できれば、自然とアウトプットの質も上がります。洞察力や考察力を養って、「なぜこういう動き方をするのか」「なぜここに骨があるのか」など、全てにおいてしっかりと説明できるようになってから、テクニックを教えるようにしています。
僕も同じ案件で担当している業務があるのですが、教育の一環として、僕の作業風景を数時間かけて観察していただくこともあります。作業をする中で、ときには失敗することもありますが、なぜ失敗したのか、その上でどう対応し、どういった意図で修正したのか、プロセスも含めて失敗も全てお見せするので、見て学ぶことや感じることも多いと思います。
宮田:自分のときも、ものすごく複雑な、頭を抱えてしまうようなリギングについて実務を見せていただいて、どういうロジックでリグを組んでいくか、ベースの考え方とともにひとつずつ説明していただきました。中でも「Mayaでどうやってノードを組むかは、後から考えれば良い」と言われたことが、すごく印象的でした。
CGW:御社のスタッフと同じ扱いなんですね。
福本:そうですね。リグ道場を受講されている期間は、隔週で行なっている社内勉強会にも参加していただきますし、ときには学んだことを発表していただくこともあります。毎月、全員がブログの記事を書くブログデーがあるのですが、宮田さんにも学んだことのアウトプットとして、ウェイトの付け方に関する記事を書いていただきました。
CGW:それは良い話ですね。
福本:堀内さんには、ドリブンキーに関する記事を書いていただきました。まだ公開したばかりなので、反響が楽しみです。
CGW:大学や専門学校で教えられることと、業務の現場で求められることの乖離が、どんどん広がっていますよね。だからこそ社会人向けのリカレント教育について需要が高まっていますが、なかなか状況が追いついていません。そうした中、リグ道場のような試みは興味深いですね。
福本:タイミングの問題もあるので、まだ探り探りですが、これからも貢献できるよう頑張ります。大学や専門学校でのリグ教育については、リグナイトで取り上げたいテーマでもあるんです。学校の先生方と現場のリガーが10名ずつ集まって、お互いにディスカッションできれば、面白いんじゃないかと。我々も学校で教育されているリグの内容にとても興味がありますし、先生方のリグに関するお悩みやご相談などで、お力になれることがあるかもしれません。今後のテーマで検討したいと思います。
[[SplitPage]]<3>CGスタジオとして異例のリソース全公開
CGW:最後に社内リソースの全公開についても、ねらいを教えてください。
福本:中長期で、クライアント様が自らのプロジェクトの予定としっかり照らし合わせて、前もって打診していただけることで、お互いに計画的に受発注できることをねらいとしています。また、リソース表を「見える化」することで、「空いている」「空いていない」ということをお問い合わせすることなく、リソース表を見てご判断いただけるので、クライアント様のお問い合わせの負荷が下がる効果があります。こういったBACKBONEの試みが上手くいって、他の会社さまにもこのカルチャーが浸透すると、発注側にも受注側にも大きくメリットが生まれるかもしれない、と考えて公開することにしました。
CGW:御社は常に仕事が埋まっているイメージがあるんですが......。
福本:いえいえ、急なキャンセルなどで、一時的に空いてしまうときなどは稀にありますし、一部スタッフの手が空くときもあります。空きが多いときは「こんなにリソースが空いていて、このスタジオは大丈夫か?」と思われる危険性もあります。ただ、隠しても空いているときは空いていますので(笑)。それよりも、プロジェクトの受発注の最適化や、マッチングのお手伝いをする方が重要かなと。
CGW:どれくらい先までの状況を公開される予定ですか?
福本:現在は5ヶ月分を公開していますが、8〜9ヶ月分の公開も検討しています。まだ実験的に公開したばかりなので、いろいろと模索している状況です。
公式サイトで公開中のリソース状況。10名の社内スタッフについて、5ヶ月分の空き状況が掲載されている
CGW:それにしても、自社のリソースを公開するCGスタジオって、他に類をみないですね。
福本:正直ちょっと怖い気持ちもありますが(笑)。まずは実験的に進めてみようと思っています。
CGW:本業もさることながら、取り組みが盛りだくさんですね。
福本:「BACKBONE」のスタジオ名には、頼れる裏方として業界を支えたい、という想いが込められていますので、今後もいろいろと取り組んでいこうと考えています。もしニーズがあれば、リグ道場ならぬ「リグ・キャンプ」などもやってみたいですね。朝までリグについて語り合う、的な。
CGW:個人的には、ぜひ御社のカリキュラム型教育の内容をベースに『リガーになる本』を書いてもらいたいです。
福本:リグの教材って本当に少ないですよね。若手のリガーに聞くと、ほとんどの方が『Mayaリギング 正しいキャラクターリグの作り方』で勉強をされているようです。リグの本を執筆したい想いはあるのですが、今はなかなか時間が取れなくて......。いつか書きたいですね。。
CGW:ありがとうございました。ますますのご活躍を楽しみにしています。