CGWORLDクリエイティブカンファレンス2019にて、ゲームのUI/UXデザインに関するワークフローが体系的に紹介された「UI!UI!UI! ~トライ&エラーに負けない技術~」。先日公開した講演レポートに続き、講演者のバンダイナムコオンライン・太田垣沙也子氏に、これまでのキャリアをふり返りながら、ベースとなった考え方について聞いた。

INTERVIEW_小野憲史 / Kenji Ono
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada

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実はモデラー志望だった!? 意外な志望動機

CGWORLD(以下、CGW):改めてご経歴から教えてください。

太田垣 沙也子氏(以下、太田垣):日本工学院八王子専門学校を卒業後、2009年にゲーム制作会社に新卒で入社しました。まだPS2が生き残っている時代で......そこからコンシューマー、アーケード、モバイル、PCと、ひと通りやらせていただきまして。担当タイトルはIPものが中心で、『機動戦士ガンダム』、『THE IDOLM@STER』、『たまごっち』などなど......、その当時からバンダイナムコ系のタイトルが多かったです。その後、2015年にバンダイナムコオンラインに転職しました。今でもIPものが中心で、時々オリジナルタイトルを担当します。

CGW:バンダイナムコグループの数多くのIPに携わられてきたんですね。

太田垣:まだ担当させていただきたい作品がたくさんあります。

CGW:最初からゲーム業界志望だったんですか?

太田垣:いえ、そういうわけでもなくて。ゲーム以外にも、映像でもアニメでも良かったんです。そもそもUI/UXデザインではなく、3DCGに興味があったんですよ。専門学校でも3DCGを全般的に学びまして、特に興味をもったのがモデリングとVFXでした。卒業制作も実写合成系の映像作品でした。

CGW:そうなんですね。驚きました。

  • 太田垣 沙也子/Sayako Ootagaki
    株式会社バンダイナムコオンライン ビジュアルデザイナー
    ゲームデベロッパーでの受託開発を経て、2015年にバンダイナムコオンラインへ入社。『機動戦士ガンダム』、『THE IDOLM@STER』などのIPタイトルを中心に、PS2時代からコンシューマー・アーケード・スマホ・PC向けゲームのUIデザイン、リードビジュアルを担当
    www.bandainamco-ol.co.jp

太田垣:もっとも、ゲーム自体はすごく好きでした。初めて買った家庭用ゲームが『ポケットモンスター 赤』(1996)で、小学3年生の頃でした。当時ゲームボーイポケットで遊んでいて、電池が8時間くらいもつんですが、1日2回電池を換えるくらいのめりこみました。自分で好きなゲームの企画を考えて、自由帳に書いたりもしていましたね。

CGW:子どもの頃から漠然とゲーム開発者になりたいなみたいなイメージはありましたか?

太田垣:いえ、当時はまだつくるというより、楽しむ方に全力投球だったので。しかもけっこう現実的な子どもだったので、あまりクリエイターとかそういうのはイメージしてなかったですね。アナウンサーとかに憧れていました。

CGW:それが、どういった理由で3DCGに興味が沸いたんでしょうか?

太田垣:もともと絵を描くのが好きな子どもで、学生時代に描き溜めたスケッチブックも50冊以上ありました。ただ、当時から2Dイラストは狭き門だと言われていました。その一方で3DCGが中学から高校生にかけて、どんどん台頭してきました。そこで3DCGを仕事にすれば、食いっぱぐれることはないんじゃないかと母親からのアドバイスがありまして(笑)。両親がともに自営業で、女性でも手に職をつけた方が良いという方針だったんですね。3DCGは映画などでも良く使われてるからと、応援してもらって。じゃあ専門学校に行こうと。

CGW:慧眼ですね。ちなみにご両親の職業は?

太田垣:父親がミュージシャンで、母親が美容師でした。どちらもクリエイティブ系の仕事ですね。

CGW:学校ではどんなことを学びましたか?

太田垣:2年制コースで、MayaPhotoshopAfter Effectsを勉強するだけで精一杯みたいなところがありました。さっきも言ったように、モデラーかコンポジッターになりたかったですね。

CGW:デッサンの授業などはありましたか?

太田垣:ありました。実は専門学校に入って初めて本格的にデッサンをやりました。正直あまり得意ではありませんでしたが、先生から「3DCGをやる人間は、必ずしもデッサンが上手でなくてもいいが、対象を観察する力は必要だよ」と指導をしてもらって。見る力を養うことに注力しました。

余談ですがデッサンをするとき、対象物を観察するのにしっかり時間を使えというのは、本当にその通りだなと思います。アウトプットは対象物を見て、脳内で整理できたことを純粋に出力するという作業なので。あとは、もうどれだけの時間をそれに当てられるかどうかなと思いました。

CGW:ほかに面白かった授業はありましたか?

太田垣:After Effectsの授業が面白かったですね。2Dデザイナーはタイムラインの概念に触れないまま就職する方もいますが、そこが専門学校で勉強できたことが今、UI/UXデザイナーをやっていく上ですごく活きています。気持ちが良いアニメーションとは何かとか。

CGW:確かに、そこは美大でもやらないですしね。

太田垣:かなりピンポイントな専攻でないと、学ばないでしょうね。

入社してからはUI/UXデザイナー一筋

CGW:それが、どういった理由でUI/UXデザイナーになられたんでしょうか?

太田垣:私が就職したのは、母校とつながりが深い企業でした。実は就職活動の登竜門として、先生から勧められたんですね。ありがたいことに内定をいただくことができ、そこからはもうUI/UXデザイナー一直線です。

CGW:どういったところが評価されたんでしょうか?

太田垣:実は高校生の頃から独学でWebサイトの制作をやっていました。学生時代だけで、20本ぐらいのサイトをつくった経験があって。最初のうちはホームページビルダーを使っていましたが、次第にDreamweaverを使うようになり、そのうちHTMLをコードエディタでいじるようにもなりました。それを履歴書に書いていたら、興味をもってもらえたんですね。ちょうど会社自体が、ゲームの受注開発をしながら新規事業としてWebにも注力していた時期でした。そこでゲーム開発と並行して、Web制作もやるというかたちで入社させていただきました。

CGW:Web案件ではどういったものにかかわりましたか?

太田垣:B2B向け企業のWebサイトの起ち上げや、自社サービスのプロモーションサイトなど、いろいろ手がけました。

CGW:その一方でゲームのUI/UXデザインも担当されたんですね。どういった案件でしたか?

太田垣:最初に手がけた案件がマルチプラットフォームタイトルで、Wii、PS3、Xbox360、DS、PS2の5大マルチ案件でした。そこでUIのローカライズをやらせてもらいました。会社的にいえば、「Web制作の経験があるなら、UI/UXデザインもできるでしょ」くらいの感じだったと思います。

CGW:2009年だと、そういった幅の広いマルチ案件がありましたよね。ただ、いきなりUI/UXデザインといわれても、困りますよね。

太田垣:そうですね。ただ、取っかかりとしては良かったです。先輩方のデザインしたUIをローカライズするのが仕事でしたから。その時は7ヵ国語向けにしましたね。

CGW:とはいえ、ドイツ語とか、むちゃくちゃ長いじゃないですか。当時ならではの苦労などもありましたか?

太田垣:そのとおりです。英語だと3文字で済むものが、ドイツ語だと10文字近くなったり。あとはPS3用につくられたUIを、PS2などに移植したこともありました。一度きれいにデザインされたものをリダクションする必要があって。デザイナーとしてはプライドとの戦いでした。きれいに減色できるように工夫したり......。今はもうそんな悩みは少なくなりましたが。

CGW:当時はどういった開発環境でしたか? プランナーが画面上の座標を指定し、それを基にUIデザイナーがパーツをつくって、プログラマーが実装するといったワークフローが主流だったように記憶しています。

太田垣:まさにそんな感じでした。まだゲームエンジンのような統合開発環境が存在しなかったので、各社ともにハウスツールを使ったり、エクセルを使ったりしながら、手作業で進めていましたね。今でこそUIデザイナーがテクスチャをつくって、アニメーションをつけて、ある程度でき上がった段階で組み込めるようになっていますが、昔はちがいました。バラバラにデザインされたものを、座標やアニメーションのフレームなどをプランナーとすり合わせつつ指定して、エンジニアに実装してもらっていました。そのため、でき上がったものがイメージとちがうことも多かったです。

CGW:そういえば、いわゆる和製英語を使ってしまって、修正する必要があったりといったことも、ありましたね。そんなときでも、自作のフォントを使っていた場合は、いちいち打ち直すしかなくて。ときにはUIで使われているフォントに、全て長体をかけたりしたことも。

太田垣:自分の場合はJIS第二水準のフォントを全て、漢字まで含めて、1文字ずつ潰れないように修正したことがありました。あのときは本当につらかったですね。今はもう、当時を覚えている方もだいぶ少なくなりましたが(笑)。

CGW:当時のUIデザイナーは労多くして功少なしというか、あまり報われないイメージがありましたが、当時の仕事の面白さはなんでしたか?

太田垣:当時は受託開発だったので、クライアントの理想のゲームをつくるというスタンスでした。とはいえ、UIデザイナーとして全て言いなりになってしまうと、必ずしも万人受けするUIになるとは限らないので、こちらから提案していって、より優れたコンテンツに磨き上げていくところが面白かったです。

実際、UI/UXデザイナーは開発の後半にアサインされて、ゲームの根幹ができ上がっていて、味付けだけしてほしい的な要求をされることもありました。でも、やっぱりそれだけだと問題が発生することもあって。そもそも面白いの? 使いやすいの? みたいなところで、壁に突き当たることが多かったんです。そのため受託という立場であっても、企画的な側面に踏み込んでいきました。その方が最終的にゲームが面白くなるし、自衛にもつながるという。

CGW:自衛にもつながるんですよね(笑)。

太田垣:そうですね。そこに面白さとやりがいを見出していました。

機能と世界観を共存させるために必要なこと

CGW:例えばRPGのように、アイテム管理の概念が入ってくると、使いやすいUIが重要になってきますよね。一方でアーケードの格闘ゲームやシューティングゲームのように、まずボタンを押させることが重要なゲームでは、UI/UXデザインの重みが全然ちがってくるじゃないですか。好きなゲームジャンルというか、UI/UXデザイナーとして腕がふるえるジャンルなどはありますか?

太田垣:弊社では便宜上、ゲームのモードでインゲームとアウトゲームという呼び方をしています。アウトゲームではUIが主役になるケースも多いので、腕のふるいがいがあります。これに対してインゲームでは、ほとんどのタイトルで3DCGが主役になるので、UIはそこを邪魔しないように最大限気を遣います。主役を活かすように、そっと寄り添うような立ち位置を心がけていますね。

CGW:2009年ごろだと、UI/UXデザインには使いやすいだけじゃなくて、世界観の一部を表現する役割があるという概念が、もう出ていたと思います。両者は矛盾するところがありますが、両立させる上で工夫されていたことはありますか?

太田垣:本当にそうですね。けっこうこれ、重要な命題だと思うんですよね。主張しすぎることでUIの描画領域が増えると、逆にどんどんプレイのための領域が減ってしまいますし。

CGW:そもそも論として、プランナーやエンジニアが考えるUIと、UI/UXデザイナーが考えるUIでは、似て非なる部分があるのではないでしょうか?

太田垣:そこのすり合わせでいうと、開発の序盤でUI/UXのトーン&マナーをプランナーやエンジニアとしっかり確認するようになりました。そのうえで、汎用的なUIパーツをある程度想定して準備しておくことも重要ですね。講演でお話しした内容と重なりますが......。

CGW:ああ、なるほど。

太田垣:昔の開発スタイルでは、プランナーから仕様が上がってくると、画面ごとに必要になるパーツを、その時々でつくっていました。そのため最後に統一感を出すのに、けっこう苦心していました。今は上流工程からトーン&マナーの資料をちゃんと定義して、プランナーやエンジニアと共通意識をもつことで、後半になって全体がばら付いたり、思っていたのとちがうという認識のずれを、かなり抑えることができるようになりました。

CGW:いつ頃からそういう風に変わっていきましたか? 昔のRPGなどでは、モードごとにUI/UXの方向性がちがうことがありました。それこそファミコン、スーパーファミコンの時代だと、モードごとに決定ボタンとキャンセルボタンがちがうなども、珍しくありませんでした。PS3あたりから、ゲーム全体を通して統一感を出そうみたいなながれになってきたように思います。

太田垣:やっぱりそのぐらいからだったと思いますね。自分の例で言えば、ゲームでIPを扱わせていただく以上、元となる世界観を絶対崩してはいけない。その上で使いやすいデザインにしたい、という思いがありました。クライアントとも、そこを熱く語ることが多かったんです。当時は若い世代が多い会社だったこともあり、3年目でアートディレクターをやらせていただきました。そのときにトーン&マナーの統一感を強く意識するようになったんです。

CGW:まさにPS3世代ですね。

太田垣:そうですね。他にゲームのモードによってまったくちがうアイコンや表示物が出るとしても、ゲームの中で進行色と警告色を一貫させるように心がける、なども意識するようになりました。とりあえず意味はわからなくても、この色のボタンを押していけばゲームが進んでいくとか。逆にこの色のボタンは押すのに注意してくださいとか。こういったところを統一しておかなければ、お客様が迷ってしまいますよね。

実際、アウトゲームでは、あるボタンを押すことで、プレイアブルのキャラクターが永久に消えてしまうことがあります。インゲームでも、今この判断を誤るとゲームの勝敗に直結する、などといった危険性があります。こういった注意喚起を世界観に即したかたちで行いたいという思いが、UI/UXデザインにはありますね。

UIに使用するカラー設計の資料。開発が進むにつれ色数を増やしたくなるケースがあるため、序盤ではある程度絞っておくことがポイントだという

CGW:それに加えて2012年あたりになると、モバイルゲームがどんどん盛り上がってきますよね。『パズル&ドラゴンズ』が筆頭で、ゲームに課金要素が加わるようにになりました。そのためアウトゲームの重要性がすごく増えていき、そのながれでUI/UXデザイナーの仕事が増えたイメージがあります。

太田垣:実際、かなり増えました。特に当時のモバイルは3Dの描画がかなり弱かったので、2D頼りでした。その結果、カードゲームなどの魅力的な2Dビジュアルを推していくタイトルが爆発的に増えました。あそこでUI/UXデザイナーの線引きが行われた部分があったのではないでしょうか? 当時はもともとUI/UXデザイナーに興味があって仕事をしていた人と、ドッターやグラフィッカーの延長線上で、結果的にUI/UXデザインをやらされていた人が混在していました。その結果、UIがメインになるようなモバイル系のタイトルが普及してきたことで、UI/UXデザイナーの生き残りが、多少あったのではないかと思います。

CGW:ちなみにガラケーのソーシャルゲーム制作に関わられたことはありますか?

太田垣:あります。HTMLとFlashを組み合わせたタイトルが多かったですね。

CGW:あれこそ画面は小さいし、表示するものがいっぱいあるし、通信量との戦いもあるし、おまけにバナー広告が至るところにありましたよね。いったい、どこを押せばいいんだと、イライラしながら遊んでいました(笑)。

太田垣:よくわかります。ガラケーのソーシャルゲームでは、単なるデザインだけではなく、内部的なデータ構造を意識する必要がありました。データをいかに軽くするかについても、デザイナーが気を遣わなければいけなかったんです。リッチな演出とリダクションの技術が同時に求められました。ネイティブアプリだけではなく、Webアプリも多かったので、デザイナーがHTMLを触る必要がありました。ここで学生時代の経験が活きたんです。まさか、ゲーム制作でWebのスタイルシートを触ることになるとは、夢にも思いませんでした。

CGW:当時はWeb屋さんからガラケーのソーシャルゲームをつくるところも多かったですよね。

太田垣:多かったですね。Web業界で働いていた人を、UI/UXデザイナーとして採用することもけっこうありましたし。一方で当時のソーシャルゲームは開発規模が非常に小さかったので、UI/UXデザイン以外も担当していました。ゲーム内でキービジュアルの作画をしたりもしましたね。もともと絵を描くことが好きだったこともあり、そこで夢が叶いました。

CGW:ファミコンの時代によくあった、パレット表現みたいなテクニックは、まだありましたか?

太田垣:モバイルではGIFがまだ主流だったので、ありました。PS2もパレットの意識があったので、フルカラーの素材を専用ツールで16色に減色したりしていました。

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UI/UXのワークフロー今昔物語

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UI/UXのワークフロー今昔物語

CGW:こうしてふり返ってみると、2009年~2012年という、ガラケーからスマホに大きく転換していく時期に業界に入られたのは、けっこう面白いタイミングでしたね。

太田垣:面白いタイミングでした。恵まれていたと思います。

CGW:ゲーム業界とWeb業界が融合していく中で、それぞれの強みを感じられたことはありますか?

太田垣:そもそもWebのUI/UXデザインには、情報を読ませたり、モノやサービスを売るという明確な目的があります。これに対してゲーム業界出身のUI/UXデザイナーは雰囲気やワクワク感も重視する傾向があって。特にグラフィッカーあがりだと、オシャレ感を出すために文字の大きさを小さくしすぎて、視認性が下がってしまったことがありました。逆にWeb出身の方はインタラクションとしてのデザインは強いんですが、気持ちのいいアニメーションだとか、こってりした訴求力のあるデザインがちょっと弱かったりして。そこはゲーム出身の方が強みがありました。そのため、それぞれのいいところを活かしたチームが作れると、すごくハマる感じでしたね。

CGW:最近はどのプラットフォームが多いですか?

太田垣:今はPCが多いです。

CGW:PCは画面が大きいから大変ですね。MMORPGやRTSなどが顕著ですが、うっかりすると画面がアイコンだらけになりがちです。

太田垣:しかも画面の最小解像度と最大解像度が、お客様の環境ごとに全然ちがうので。いまだに1,024×768ピクセルの画面が生き残っていたり、逆に4K解像度だったり。それぞれのモニタ環境で違和感なく成立させることに、苦心していますね。

CGW:いくつかUIのバージョンをつくるんですか?

太田垣:つくりますね。もっともつくり方もプロジェクトによって様々で、ざっくりと割り切るパターンもあれば、工数が潤沢に取れれば、キチンと全種類を用意することもあります。UI/UXデザイナーとしては、それぞれのデバイスにあった解像度で用意してあげたいんですが・・・。

CGW:デバイスがどんどん新しくなっていく中で、UIの開発スタイルも変わっていったと思います。PS2のころは前述したように、まだプログラムの直打ちやハウスツールが中心でした。PS3時代になると、ScaleformのようにFlashを使用したUI/UXデザイン向けのミドルウェアが出てきましたよね。あれでかなりワークフローが改善された印象があります。その後、UnityUE4が出てきて、さらに楽になりました。

太田垣:私の場合だと、Scaleformではありませんでしたが、同じようにFlash上でUIをデザインして、インハウスのエンジン用にデータをコンバートしてくれるツールがありました。これでUI/UXデザイナーがエンジニアに実装する際、いちいちお願いしなくても良くなって、かなり楽になりました。今でもプロジェクトによっては、インハウスのゲームエンジンを使用していますが、汎用ゲームエンジンの場合だとナレッジを相互に共有できて、非常に助かるんですよ。

UE4を使用するプロジェクトでのUI仕様ドキュメント例。汎用ゲームエンジンが普及したことにより、エンジニアへの実装依頼にかかるコストが大幅に削減された

CGW:どんどん開発環境が変わってきたんですね。その一方でUI/UXデザインは、あまり学校で教えられる機会がないんですよ。学生が勉強しておいた方が良いツールはありますか?

太田垣:基本のPhotoshop、Illustratorはもちろんですが、ゲームのUI/UXデザイナーを志すなら、UIのプロトタイプツールは使っておいた方が良いでしょうね。講演でも話したように、個人的にはAdobe XDをオススメします。UI/UXデザイナーは設計の段階が重要で、Adobe XDを使うとデザインの前段をデザインできます。ただ、そこは好みもあるので。他にSketchや、Affinity Designerなどもいいですね。いずれにしても、単なるグラフィックとしてのクオリティではなくて、ゲームのフローを通した一連のプロトタイプデザインを学生のうちから勉強しておくと、かなり役に立つんじゃないかなと思います。

CGW:Adobe XDでフレームワークをつくると、それをUnityなりにエクスポートできるのですか?

太田垣:まだそこまでは便利になっていなくて。あくまでプロトタイプ用として割り切って、チーム内の意識を統一する目的で使っています。実はAdobe XDからWebには出力できるんですが、ゲームエンジン向けの対応はまだなんですよ。実際、UI/UXはWebをはじめ、ゲーム以外の業種で先行している印象があります。ゲームは少しずつ、それを追いかけている感じですね。

開発の上流工程だからできること

CGW:そんな風に仕事をされていく中で、デザイナーには2つのタイプがあると思っています。第一に感性だけで突っ走って、すごいアウトプットを出すんだけど、言語化できないタイプ。第二に自分のノウハウを言語化して、人に説明できるようになるタイプです。太田垣さんは後者だと思いますが、そんな風にUI/UXデザインについて、言語化や体系化を意識されるようになったきっかけはありますか?

太田垣:数年前までは誰か1人ズバ抜けた開発者がいて、その人が血ヘドを吐いてがんばれば、何とかなりました。UI/UXデザイナーが1人しかいないプロジェクトも普通でした。しかし、昨今では開発規模がだいぶ大きくなっていて、開発費が最低でも数億円、中には数十億円というタイトルが一般的になっていますよね。そうなると、チームでの開発や協力体制が必須になります。私の直近のプロジェクトでも、UI/UXデザイナーが5名体制ですね。そのうえで、さらに外部の協力会社さんに手伝っていただいている状況なので。そうなってくると、UI/UXのデザインプロセスの標準化が必要になると考えました。

その背景にあるのが開発ツールの標準化です。これまではインハウスツールでの開発が一般的で、タイトルが変わるごとに、それまでの実装スキルが役に立たなくなりました。しかしUE4やUnityが出てきたことで、実装スキルを別タイトルに活かせるようになりました。そのためナレッジをドキュメント化して、残しておくことに、すごく意味があると感じるようになりました。そこで、どんなメンバーが何名体制でデザインして実装したとしても、一定水準以上のクオリティとスピードを担保できるようなワークフローをちゃんとつくっていかなきゃいけないというふうに、系統立てて考えることになったんです。

大規模なチーム開発においてはレギュレーションの共有が必須。太田垣氏のかかわるプロジェクトではConfluenceを活用しているとのこと

太田垣:それとほぼ同じぐらいの時期から、売り切りのゲームがどんどん減っていき、長期運営タイトルが主流になっていきました。講演でもお話ししましたが、売り切りタイプのときは開発で100点満点をとって、その上でたくさん売れたらハッピーという感覚でした。しかし今は常に80点を取り続けるような、永遠に完成しないUI/UXデザインというスタイルに変わってきました。そういう意味でも体系化されたワークフローが重要になってきたのかなと思います。

CGW:実際、一度ヒットすると、10年ぐらい運営されるゲームもありますよね。

太田垣:そうですね。弊社でも『機動戦士ガンダムオンライン』がこのたび7周年を迎えました。他に『SDガンダムオペレーションズ』『ガンダムマスターズ』などもかなり長いタイトルですね。いずれも会社の売り上げを支える重要なタイトルです。

CGW:ちょっと話が前後しますが、バンダイナムコオンラインに転職されて、デベロッパーからパブリッシャーに移ってこられたことで、UI/UXデザイナーとして仕事の変化はありましたか? 

太田垣:すごくありました。それまで受託開発中心だったものが、パブリッシャーになったことで、企画開発からリリース運営までをワンストップでできるようになりました。そのため自由度が増した反面、自分たち自身でシビアなクオリティコントロールやコストの管理が必要になりました。また、お客様からの反応がダイレクトに届きますので、責任の重さを感じると同時に、やりがいも高まりました。両方の世界が見られて良かったです。これが片方だけだと、隣の芝生は青く見えるというか、わからなかったんじゃないかな? 

CGW:一般的にデベロッパーよりもパブリッシャーの方がポジティブなイメージがありますが、デベロッパーならではの楽しさは何でしたか?

太田垣:クライアントが許してくれる限り、好きなだけクオリティを追求できるところでしょうか。責任判断がパブリッシャーにおまかせなので、開発だけに集中して、ある意味ではすごく自由にやれるんですよね。今となってはクライアントも苦労していたんだろうなっていうのが、よくわかります。これがパブリッシャーだと売り方を考えたり、版権元との調整だったりが必要になります。その上で、これは事業として成立するのか、みたいなところまでシビアに考えないといけないですから。

CGW:企画を立てるって、そういうことですしね。

太田垣:これが受託の場合は貰ったお金とスケジュールの範囲で、のびのびとクリエイティブに注力できるので、それはそれですごく恵まれていたなと思います。

CGW:一方でパブリッシャー側になると、より上流工程にUIデザイナーが参加しやすくなるわけですよね。

太田垣:そうですね。社内でも早い遅いはありますが、自分の関わるプロジェクトでは、少数でいいので早めに上流工程に。できれば1~2名ぐらいはUI/UXデザイナーをアサインしてもらえるように働きかけをしています。

CGW:UI/UXデザイナーがゲーム開発の上流工程に参加することで得られるメリットとして、具体的にどんなものがありますか?

太田垣:UI/UXデザイナーに限らず、ビジュアルスタッフ全般に見られる傾向で「仕様がないとつくれません」という受け身の姿勢がありますよね。これが改善される可能性があります。3DCG演出との絡みがある部分などは好例ですね。例えばガシャ演出で、画面上で3DCGによるガシャが動いていて、その手前に「ガシャを回す」みたいなボタンUIの組み合わせがある場合、これまでだと開発後期まで誰も手を付けず、宙ぶらりんになりがちだったんですよ。

CGW:なるほど。

太田垣:これがUI/UXデザイナーが上流工程にかかわることで、「これって早めにコンテを切って、3DCG側に発注していかないと、完成しないですよね」などといった話が、積極的にできるようになりました。実際、チームとしての姿勢がかなり変わってきたと思います。

CGW:本来ならプランナーの役割なんですが、つい抜け落ちちゃうんですよね。

太田垣:そうなんですよね。また最終形のビジュアルイメージをプランナーだけでもてるかどうかという問題もあります。デザイナーが加わることで、表現の幅を広げた状態で議論ができるのかなと。そんなふうに本当はビジュアルから提案できることがあるのになと思っていたところに、少し切り込んでいけるようになったかなと思いますね。

CGW:実際、同じゲームメカニクスでもビジュアルが変わるだけで、ゲーム体験が大きく変わりますよね。その意味でもビジュアルデザインは、すごく重要ですよね。

太田垣:そうだと思います。

今後のUI/UXデザイナーに求められること

CGW:今後新しいデバイスがどんどん出てきて、ゲーム機もどんどん変わっていくなかで、ゲームのUI/UXはどうなっていくんでしょうか? 例えば同じゲームがベースでも、VRゲームではまたちがったUI/UXデザインが求められます。

太田垣:大きく3つあると思います。まず画面の解像度についてです。今は4K映像が普通になってきていて、8K映像もすぐそこまで見えてきています。ただ、どんなに画面が大きくなっても、人間の脳が一度に処理できる情報量は基本的に変わりません。一方でデザイナーは、描画できる領域が広がることで、つい1つの画面にたくさん情報を詰め込みたくなりがちです。これを今まで以上に、ぐっとこらえることが大切になります。今、ユーザーが一番欲しい情報は何なのか、余白を上手に活かしたデザインとはどういったものかいったことを、今まで以上に突き詰めて考えていく必要があるのかなと。特に欧米より日本の開発者の方が、情報を詰め込みたくなる傾向にあるように感じます。

CGW:我々の2Dデザインのベースには、スーパーのチラシだったり、漫画『コロコロコミック』の表紙的なものがありますよね。

太田垣:『コロコロ』は私も小さい頃、大好きだったので、ついやりたくなるんですが、そこはぐっとおさえて(笑)。本当に今、ここを見てほしいっていう要素を、ちゃんと抽出して、優先度付けしていく必要がありますね。それに画面の解像度が上がると、PPI(Pixel per Inch)の高いデバイスが相対的に増えていきます。今まで日本のタイトルでよく、ドットを活かした1pxデザイン的なものが多かったと思いますが、今後はより滑らかな曲線や、繊細な表現ができるようになっていきます。そのため、そちらを魅力的に表現することが求められるんじゃないかと思います。

CGW:余白を活かしたデザインのくだりは元雑誌編集者として耳が痛いです。

太田垣:第二に情報の伝達性では、よりユニバーサルデザインの要素が必要になってくると思います。今後クラウドゲームが本格的になっていきますよね。そうなると、1つのゲームが文字通り世界中で遊ばれる可能性が高まります。そのためには、単なるローカライズではなくて、最初からカルチャライズを意識していく必要があります。その際、年齢・性別・文化・国境を超えたユニバーサルデザインを心がけることで、どなたでも安心してゲームを楽しんでいただける環境がつくれると思っています。他に目の見えない方、耳の聞こえない方でも楽しめるエンターテインメントの需要もどんどん高まっていくのではないでしょうか。

CGW:渋谷駅の地下の案内標識が典型例ですが、画像検索などで10年前、20年前の構内の写真と比べると、今と全然ちがいますよね。すごくカラフルになっていて、ピクトグラムが多用されています。一方で単にベタベタなデザインが良いと思われている懸念もあります。

太田垣:そこは難しいですよね。昔だったら男性用トイレのマークは青色で三角、女性用トイレは赤色で逆三角、というステレオタイプ的な表現が主流でしたが、そうした思い込みを一度リセットすることが大切でしょう。そのうえで、本当に必要なデザインは何かを考えること。言い方を変えれば、ターゲットユーザーに本当の意味で向き合うときが来たのかなと思っています。デザインの押し付けではなくて、いろいろな人がいることを前提に、その中で市場を取っていくような考え方です。

CGW:実際、クラウドゲームを介して、世界中で同じコンテンツを楽しめる時代になってくることで、炎上リスクが広がる懸念もありますね。

太田垣:そうですね。そのためには差別的な表現をしないように、より一層気をつける必要があります。日本では当然とされている表現でも、国や地域によってはNGになるケースもありますしね。UI/UXデザイナーは、昔から倫理的にNGな表現や、政治・宗教がらみの表現を意識してきましたが、今まで以上に気付いていなかったことが、たくさんあるだろうと予想しています。

CGW:そして最後の要素です。

太田垣:それがご指摘にもあったVRゲームです。ここではより、3DCG側との綿密な連携が求められます。これまでUI/UXデザイナーはPhotoshopやIllustratorなど2Dデータを制作するツールを中心に学んできましたが、今後は3DCGの実装部分についてもどんどん造詣を深めていき、平面的な表現から飛び越えていく必要があります。そうすれば、より素晴らしい体験に繋げられるでしょう。ビジュアルだけではなくて、サウンドだったり、触感だったり。最近ディズニーでは、匂いまでUXの一部にしているほどです。実際、近い将来「香りデバイス」が出てきてもおかしくないですよね。そうした時代に取り残されないように、普段からゲームだけでなく、いろんなエンターテインメントの体験を積極的にしていく必要があると感じています。

CGW:近年のタイトルでは、『エースコンバット7 スカイズ・アンノウン』(2019)のVRモードのUI/UXデザインが良くできていました。まさに3DCG側との連携が必要になりそうですね。

太田垣:グループ会社のバンダイナムコスタジオが開発したタイトルですね。鍵を握るのはプロトタイピングだと思っています。実際、ゲームエンジンが普及したことで、VRコンテンツの開発障壁が少なくなりました。そのため早い段階から開発を始め、イテレーションを重ねて、UI/UXデザイナーが積極的に上流工程に参画していく必要があります。こういうデバイスにはこういう特性があるとか、こういうインタラクションがもっと企画部分に活かせるんじゃないかなとか。ビジュアルから、どんどん提案できる部分があると思います。

CGW:3DCGとUI/UXデザインの融合はVRゲームだけでなく、PCや家庭用のAAAタイトルでも進行中ですね。

太田垣:映像業界ではプリプロダクションという工程がありますよね。ただ、プリプロの重要性が認知されたのも最近の話だと思います。これとまったく同じことがゲームでも言えると思っていて。プリプロにもっとUI/UXの予算と期間を投入していただきたいなというのが、個人的な希望です(笑)。

CGW:もっとも、残念ながらUI/UXデザイナーの志望者は、あまり多くはありません。

太田垣:モデリングなどに比べると、地味な仕事に思えるかもしれません。そもそも専門の職種が存在することすら、最近になってようやく認知されてきたように思います。その一方で、私はこの仕事にすごく誇りをもっています。ビジュアルの中でも数少ない、ゲームの中身全てを俯瞰して見られるパートだからです。実際に業務ですごく感じるのが、プランナーさんやエンジニアさんをはじめ、他職種のメンバーとコミュニケーションを取る頻度の多さです。他の職種とかかわりあいながら仕事を進めていくのが、とても楽しいんですよ。

また、お客様が自分のデザインしたUIを使いこなして、快適にゲームプレイを楽しんでいただいている様子を見たときも、すごくやりがいが得られます。そういう魅力をもっと周知していきたいと思っています。

キャリアパスの面でも意外と広がりがあるんですよ。ゲーム全体を俯瞰で見る立ち位置であるがゆえに、アートディレクターや、企画的な意味でのディレクター、それからプロジェクトマネージャーなどにステップアップしていける可能性があります。実際、自分もプロマネに挑戦しているんです。そのため、UI/UXデザイナーはつぶしがきかないと思っている人がいたら、ちがうと言いたいです。今回の記事をいろいろな方に読んでいただいて、UI/UXデザイナーの魅力が伝わり、もっと仲間が増えると嬉しいですね。

CGW:ゲーム開発者の中でも、UI/UXデザイナーはボタンやゲージといったパーツをつくる人、下手するとアイコンをデザインする人みたいなイメージがあります。でも、そうではないぞということですね。

太田垣:はい、そうではないぞと言いたいです。

CGW:そんな太田垣さんにとって、UI/UXデザインとは何でしょうか?

太田垣:再び命題が来ましたね......。ちょっと女性的な表現になるかもしれませんが、「空気のような恋人」だと思っています。

CGW:名言をいただきました。

太田垣:UIはお客様に最も近く、そばにいるのが当たり前。普段は意識しないけれど、絶対になくてはならない存在です。医者のジレンマではありませんが、究極的にはグラフィックとしてのUIがいっさい表示されていなくても、快適にプレイできることが、今後UI/UXデザイナーが実現していくべき命題だと思っています。

CGW:みんなそこに挑戦していて、死屍累々ですが、テクノロジーの発展によって、近い将来に実現できそうな気もします。そこに意識的な人が、これからのUI/UXデザイナーには、求められるのかもしれませんね。実際、視線入力やボイス入力なども、どんどん一般化していくでしょうし。

太田垣:そうですね。単純な2Dグラフィックデザインだけをやっていると、仕事がどんどん取ってかわられてしまう危機感はあります。

CGW:最後に学生のうちから意識しておくといいこと、勉強しておくと良いことはありますか?

太田垣:「コミュニケーション」と「ホスピタリティ」です。私の通っていた専門学校は文化祭などの行事を本気でやるタイプの学校で、私も熱心に取り組みました。CG科の有志で焼きそばの模擬店を出したりしましたが、チラシを自分たちでデザインしたり、クーポンのサービスを考えたりして、1日で約2,000食を売ったんです。そのためにはみんなで協力する必要がありますが、学校にはいろんなタイプの学生がいますよね。社会人になると、共通の趣味嗜好や気の合うメンバーで固まってしまいがちですが、学生のうちはいろんな境遇の方がいます。UI/UXデザインでは、そういった個々の背景を理解することが大切なので。

CGW:ユーザーのコンテキストを理解することが大事だということですね。

太田垣:はい、こういう考え方もあるんだということを、学生のうちに存分に広げておかないと、視野が狭まってしまいますので。そのため授業もさることながら、授業以外の活動も全力で楽しんでほしいですね。

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