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5月25日(月)に新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言が解除された。コロナ禍への対応として日本の3DCG制作現場でもリモートワーク(テレワーク)の導入に至ったが、ウィズコロナ、さらにはアフターコロナを見すえた制作環境、ワークスタイルの模索が現在進行で行われている。今回は、Unreal Engineによる豊富なゲーム開発実績を武器に、建築や自動車などの非エンターテインメント領域のコンテンツ制作にも精力的なヒストリアに、その取り組みを聞いた。
TEXT_神山大輝 / Daiki Kamiyama(NINE GATES STUDIO)
<1>2ヶ月以上にわたるリモートワークで得られた知見
CGWORLD(以下、CGW):よろしくお願いします。ヒストリアさんでは、UE4のスペシャリスト集団としてゲーム、非ゲーム問わず多くの作品を制作されていると思いますが、現在はどういったお仕事を中心に行なっておりますでしょうか。
ヒストリア代表取締役・佐々木 瞬氏(以下、佐々木):ヒストリアの主軸はゲーム開発ですが、最近では自動車や建築、放送業界など非エンターテインメント領域でも幅広くコンテンツを制作しています。ゲームエンジンであるUE4を技術的に一番突き詰めて使っているのがゲーム開発になりますが、その知見を活かしてノンゲームのコンテンツ制作にも取り組んでいます。
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NVIDIA Quadro P4200 搭載クリエイター向けノートパソコン
Pascal™アーキテクチャを採用したモバイルワークステーション用GPU『Quadro P4200』は、8GBの高速大容量GDDR5メモリによって、忠実度の高い複雑な視覚効果、自然な美しいシミュレーション、解析を行うことが可能になりました。シェーダーモデル5.1に準拠し、OpenGL4.5、DirectX12をサポートすることで、インタラクティブ性を犠牲にすることなく、CAD、デジタルコンテンツ制作、及びビジュアライゼーションアプリケーションなど、より複雑なコンテンツを強力にサポートする最新のグラフィックス機能です。 - NVIDIA Quadro P3200 搭載クリエイター向けノートパソコン Pascal™アーキテクチャを採用したモバイルワークステーション用GPU『Quadro P3200』は、6GBの高速大容量GDDR5メモリによって、忠実度の高い複雑な視覚効果、自然な美しいシミュレーション、解析を行うことが可能になりました。シェーダーモデル5.1に準拠し、OpenGL4.5、DirectX12をサポートすることで、インタラクティブ性を犠牲にすることなく、CAD、デジタルコンテンツ制作、及びビジュアライゼーションアプリケーションなど、より複雑なコンテンツを強力にサポートする最新のグラフィックス機能です。
ヒストリアのゲーム事業での制作作品一例。
『Caligula Overdose/カリギュラ オーバードーズ』/©FURYU Corporation.
ヒストリアの非エンターテインメント分野のブランドであるヒストリア・エンタープライズにて、2020年6月2日(火)にUE4とMegascansを使用したインタラクティブデモ"Cutting-Edge Test Drive"を公開した。
UE4 Interactive Demo: Cutting-Edge Test Drive - PV | historia Enterprise
CGW:ヒストリアでは、新型コロナウィルス感染症対策として、4月3日(金)に一時的なオフィスクローズを行われ、4月6日(月)からフルリモートワークへ移行されました(※1)。現在もフルリモートワークを継続中ですか?
※1:[新型コロナウイルス感染症対策] ゲーム開発会社のオフィスクローズ&フルリモート移行の事例紹介
佐々木:基本的にはそうですね。現在、弊社の規模は外部委託の方も含めると約60名ですが、そのうち2割ほどが出勤しています。徒歩圏内に自宅がある社員や、自宅のネットワーク回線が厳しい社員などに出社を許可しています。
CGW:リモートワークの感想を率直に教えていただけますか。
佐々木:「思ったよりもできた」というのが正直なところです。一番の理由は、ビデオチャットツールの進化で、以前に比べると画質と音質の両面でクオリティが向上したと実感しました。弊社では社内のビデオ会議にはZoom、チャットにはSlackを利用しています。全社での朝礼や各プロジェクトチームごとにミーティングルームを用意して業務を行なっていました。
CGW:職種や業務内容によっては、リモートワークの向き不向きがあったと思うのですが、いかがでしょう?
フルリモートワーク期間中のヒストリアのオフィス内観(写真提供:ヒストリア)
佐々木:われわれのようなクリエイティブな職業というのは「やりやすい面」と「やりにくい面」が明確に二分されてしまいました。特に、企画の立案や仕様をつくっていく上流工程と、実作業を行う下流工程では、その差が明確に表れましたね。個人的な感覚では、完全に分業できる業務であればフルリモートワークでも支障ないかも知れませんが、ゲーム開発のようにアジャイル型のスタイルではフルリモートワークは難しいと思います。
CGW:プランナー、デザイナー、エンジニアなど各セクションがコミュニケーションを密にとりながら、トライ&エラーをくり返してゴールへと向っていくのがアジャイル型の開発スタイルなので日常的な対面でのコミュニケーションが大切ですよね。
佐々木:Zoomなどのビデオチャットが高画質になったと言っても、対面でのコミュニケーションとの情報量の差は依然として大きなものです。バーチャルなオフィスで、ラグなく自由自在に動けたりコミュニケーションができるというところまでVR技術が進歩すれば可能かもしれませんが、今はまだ明確な差があり、"休憩時間の雑談"みたいなことをビデオチャットで代替するのにも限界があります。その意味では、リーダー職のマネジメントコストとストレスが増大したと思います。
CGW:リーダー職は、開発メンバーに指示を出す、制作物のチェックを行うといった業務が多く求められる立場だと思うのですが、リモートワークではどのような苦労がありましたか?
佐々木:コミュニケーションの齟齬を防ぐため、いつもより細かい指示を出す必要がありました。同時に、メンバーにタスクを気軽に渡しづらい状況にもなっていました。「そんなつもりじゃなかった」「聞いてない」といったトラブルは、精神的にも辛いものがありますから。また、「作業者の画面をちょっと見て進捗をチェックする」ということもできないため、作業データの確認は10GB以上のビルドデータを自宅でダウンロードしてから起ち上げる必要があるなど、時間的なコストも多くかかりました。その他、操作感のフィードバックが伝わらなかったり、Zoomの圧縮された画面越しに確認したものが、後々実機で見ると印象が大きく違ったという問題もありました。
Zoomによるミーティングの例(画像提供:ヒストリア)
CGW:実際に作業されるPCは、全社員が持ち帰っている状況でしょうか?
佐々木:はい。リモートデスクトップ経由ではUE4の操作が難しいためです。セキュリティ対策として、会社から設備補助金を支給した上でリモートワーク専用の環境整備を社員にお願いしました。同居人に作業を見られない環境を整えるために、仕切りを購入したり、ポールを立ててカーテンを締められるようにするなど、物理的に空間を区切るよう指示をしました。
CGW:かなり綿密にセキュリティ対策を行なっているように感じます。今後、3DCGをはじめとするデジタルコンテンツ制作現場の働き方はどのように変化していくとお考えですか?
佐々木:リモートでの業務対応は確実に増えていくでしょう。今回のリモートワークから得た知見は、例えば介護の問題などに直面した際にも活かせると思いますし、様々な観点からリモートの働き方を認めていける姿勢が必要になってくると思います。一方、われわれのクリエイティブな仕事、特にゲーム開発の場合は、集まることで生まれる価値、温度感などが存在します。リモートワークという観点だけで語るなら、欧米のようにjob description(職務記述書)が明確であれば、期待される役割ごとに待遇を分けてもっと踏み込んだ施策を打つこともしやすいかもしれません。しかし、日本の中小規模の開発はみんなで創り上げていくスタイルが主流ですし、気質やビジネス的にマッチしているとも思います。どちらが良い悪いの話でもありませんし、どのようなコンテンツをつくるのかでもスタイルは変わってくると思います。どちらにせよ、いままで一種の正解があった時代から、フラットな価値観で自分たちの頭を使いシステムを構築していく必要のある時代に移行しました。他社や他国の事例の一面だけ見て真似るのではなく、どのような背景でその制度が運用されているかを捉えて、良い形で取り入れていきたいと思います。
<2>業界全体でこれからのワークスタイルを創り上げていく
CGW:緊急事態宣言が解除されて1ヶ月以上が経過しました。ヒストリアでは、どのような勤務体制を整える計画ですか?
佐々木:7月のどこかで従来までのオフィスに出勤する体制に戻す予定です。既にリリースされている運営フェイズのタイトルはリモートワークに対応しやすいことも分かってきましたが、弊社のゲーム開発はコンシューマとアーケード、そしてVRの開発が中心です。特に新規タイトルの開発では、開発機が必要ですし、日常的なコミュニケーションが欠かせないのでオフィスに出社するスタイルが適しているので。また、新人研修などもリモートワークではできることが限られてしまいます。
CGW:確かにリモートワークによる教育には、多くの職場が課題に感じていると思います。
佐々木:例えば、業務の進め方に問題があって注意するとします。対面であれば指導を終えた後に、指導員と別のスタッフがフォローすることができますが、リモートでは「みんなで育てる」ということがやりづらいですよね。ただ、従来までのオフィスに出社する体制に戻すと言っても単純にコロナ以前のやり方に戻すつもりではありません。
CGW:どういうことでしょうか?
佐々木:コロナ後も継続するシステムとして、週に1日は「自由出社の日」を設ける予定です。その日は、希望する人はリモートワークを選択できるようにすることで、働き方の柔軟性を高めたいと考えています。コロナとは関係なく、もともと週一くらいでマネージメント層も含めて集中できる日を作りたいと思っていたので、この機会に一度試してみたいと思います。
CGW:両者の良いところを取り入れるという考え方ですね。ですが、社有のデスクトップPCを週1で持ち帰るというのは難しいと思うのですが?
佐々木:そうなんです。これまで弊社ではPCは全てデスクトップ型を導入してきました。リモートデスクトップツールの検討は進めているのですが、それとは別にノートPCも検証は進めたいなと思っています。VR等のインタラクティブコンテンツをイベント会場で運用したり、社外でプレゼンテーションする等の目的でノートPCも数台所有しているのですが、最新のノートPCがどのくらい開発に耐えうるのかも把握しておきたいと思っています。
Virtual Model Room "SolidVision" - PV
CGW:ヒストリアさんはコンソールやアーケードタイトルの開発が中心で、エンタープライズ分野の案件もハイエンドのものが多いと思うので、相応に高機能のノートPCが必要になりそうですね。PCを購入する際の選定はどなたが担当されているのですか?
佐々木:基本は私です。リアルタイムCGコンテンツの開発が中心なので、グラフィックスボードとメモリを重視しています。必要に応じて、その時に最もコストパフォーマンスが高い構成のPCを購入するようにしています。
CGW:ノートPCについてですが、パソコン工房「SENSE∞」の15型4KウルトラHDクリエイターノートパソコンなどはどうですか?
佐々木:ゲーム開発の場合はGeForceで十分だと思うのですが、エンタープライズ分野ではクライアントさんがQuadro搭載マシンを使われていることが多いので今後はQuadroの導入もアリですね。現在、運用しているノートPCは、VRコンテンツを遅延なく動かすためにわりとハイスペックのものを使っているのですが、重量が5Kg近くになってしまっています。その意味では、これだけのスペックで約2.24Kgというのはとても魅力的です。
CGW:ありがとうございます。最後に、CGWORLD読者へのメッセージをお願いします。
佐々木:今回は、これからのクリエイティブワークスタイルというテーマでお話させていただきましたが、クリエイターが最も大切にすべきなのは「良いものをつくる」ということです。これが大前提なので、ワークスタイルを考える上でも働きやすさだけでなく、クリエイティビティが上がる環境づくりという観点から考える必要があるでしょう。そのためにはヒストリアだけで取り組むべきではなく、業界全体での知見の共有も必要だと思います。先日はアニマの笹原さん(※2)と対談させていただきましたが、大変良い刺激を受けました。今後も様々な方と交流していきたいと思います。
※2:株式会社アニマ 代表取締役 笹原晋也氏
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