小学校でのプログラミング教育開始と、コロナ禍による休校が重なった2020年度の学校教育。緊急事態宣言が終了した今も、全国の教育機関で様々な余波が続いている。こうした中、いち早くオンラインでの学びを進めたのが、株式会社LITALICOが運営する「LITALICOワンダー」だ。同社では4月からオンラインのみで授業サービスを行う「LITALICOワンダーオンライン」もスタートしている。オンラインでのプログラミング教育や、授業運営の工夫などについて聞いた。

INTERVIEW_小野憲史 / Kenji Ono
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada

少人数&オーダーメイドのユニークな授業設計

「こんにちは!」、「元気してた~?」

授業がスタートするや否や、子どもたちの笑顔が目に飛び込んできた。もっとも現実の世界ではなく、PCのモニタ越しだ。

ビデオ会議システムのZoomを活用し、メンターと子どもたちがコミュニケーションを取りながら、思い思いのプロラミングを進めていく。IT×ものづくり教室「LITALICOワンダー」の新しい授業スタイルだ。取材に伺った渋谷教室では、「ゲーム&アプリプログラミングコース」と「ゲーム&アプリエキスパートコース」の授業を見学できた。それぞれScratchUnityを使用して、ゲームづくりを進める内容だ。90分の授業は、和気あいあいとした雰囲気で進行し、滞りなく終了した。

Zoom上での授業風景(渋谷教室)

都内17箇所の教室で、LITALICOワンダーを展開する株式会社LITALICO。もっとも事業内容はプログラミング教育に留まらない。2005年に「障害のない社会をつくる」を掲げて創業以来、就労移行支援サービス「LITALICOワークス」、発達障害者向けのソーシャルスキル&学習教室「LITALICOジュニア」など、様々な学習支援を進めてきた。

2015年にはネット事業に乗り出し、発達障害ポータルサイト「LITALICO発達ナビ」、働くことに障害のある方向けの就職情報サイト「LITALICO仕事ナビ」をスタート。他に障害や特性のある人向けにライフプランの設計を支援する「LITALICOライフ」など、幅広い人々の支援を行なっている。2016年にマザーズ上場、2017年には東京証券取引所第一部に市場変更し、10期連続で増収を続けている。

中でも近年注目を集めているのがLITALICOワンダーだ。「考える、つくる、伝える」をテーマに、テクノロジーを活用した最先端のものづくりを横断的に学ぶことができるもの。公立小学校におけるプログラミング教育の開始に先駆け、2014年にスタートした。

コースは「ゲーム&アプリプログラミングコース」、「ゲーム&アプリエキスパートコース」、「ロボットクリエイトコース」、「ロボットテクニカルコース」、「デジタルファブリケーションコース」の5種類で、未就学児から高校生までコース別に幅広い年齢層を対象としており、生徒数は約3,000人にのぼる。

このように「幅広い意味での社会における障害の克服」を掲げる同社にとっても、コロナ禍による社会変化は想定外の出来事だった。

渋谷教室で教室長をつとめる河合貴氏も、「ロボット制作や3Dプリンタといった、実際にモノを使って学ぶコースが一部休止になり、PCとネットがあれば学べるゲーム&プログラミングコース/エキスパートコースがオンライン授業に移行しました。最も多い時期では10人程度のスタッフが教室からオンラインで各家庭に接続し、ビデオ会議システムを使って授業を継続しました。途中でツールを変えるなど、運営で試行錯誤がありました」と語った。

  • 河合 貴/Takashi Kawai
    株式会社LITALICO
    LITALICOワンダー渋谷教室・教室長

LITALICOワンダーのポイントは「少人数&オーダーメイド」の授業運営だ。1人のメンターが対応する生徒数は3~4人まで。特定のカリキュラムは存在せず、子どもたちがやりたいことをメンターが聞き出し、それを実現するための手助けを行なっていく。

授業は週1回と週2回のコースがあり、開始時期と終了時期は生徒によってバラバラだ。2年、3年と継続して学ぶ子どもたちも少なくない。テキストがわりのWebサイトや教材はあるが、最初からオリジナルのプログラムをつくりたがる子どもたちもいる。いずれもコロナ前からのスタイルで、オンライン化においても、このスタイルを守ることが前提となった。

実際、授業を見学した際も、「『青鬼』(インターネットで人気のあるホラーゲーム)のようなゲームがつくりたい」、「オリジナルの3DCGキャラクターがつくりたい」などと、参加者によってつくりたい内容がまちまちだった。

それに対して「いきなり全部をつくるのは難しいから、まずステージをつくってみたら?」、「3DCGキャラクターをつくるなら、このツールを使ってみると良いよ」といった具合に、メンターが適切に誘導。画面越しに話しかけたり、チャットで参考サイトを紹介していた。参加者はいずれも小学校低学年で、ScratchだけでなくUnityでスクリプト制作に挑戦している者もいて驚かされた。

ゲーム&アプリプログラミングコース(上)とゲーム&アプリエキスパートコース(下)の授業風景

対面授業をベースに4月からオンライン授業に拡張

5月25日(月)に国の緊急事態宣言が終了し、徐々に社会生活が回復しつつある昨今。6月上旬に教室を訪れたときも、教室には少なからぬ生徒や保護者が見られた。しかし、オンラインでの授業継続を望む声もあり、当面は通塾とのハイブリッド形式で進めていくという。

このように渋谷教室では、もともと教室で対面授業を行なっていた生徒たちが、コロナ禍によってオンラインに移行した経緯があり、メンターとの信頼関係ができていた(これは他の教室でも概ね同じだ)。それでも当初はスタッフ側も保護者側もツールやネットワークなどで戸惑った部分があったという。

「最初はビデオ会議システムにGoogle Meetを使用していました。Googleアカウントがあれば誰でも無料で使用でき、導入がスムーズだったことと、オンライン授業で必須となる画面共有の操作がしやすいことが理由でした。ただ、同時接続者数や時間帯によって、画面が粗くなったり、音声が聞こえにくくなったりすることがありました。そのため、よりデータ容量の軽いZoomでの通話に切り替えました。今では通塾生の割合が増えてきたこともあり、特に通信面で大きな問題は発生していません。有線LANを使用していた時期もありましたが、今では無線LANでこと足りています」。

授業を見学する中で気づいた点があった。授業が始まると、メンターと子どもたちとの間で画面越しに近況報告がはじまり、今日の目標などがお互いに確認される。もっとも、実際の作業が始まると、メンターの使用するPCは主に生徒との画面共有や調べものに利用される。そのため、子どもたちの顔が表示されないことの方が多いのだ。

一方で大学でのオンライン授業などでは、ビデオ会議システム上で「顔出し」がルール化されている場合もある(主な目的は学生のサボり対策だが、講師側からも「学生の顔が見えないままの講義では、壁に向かって喋るような徒労感がある」とする声がある。一方で、このことが通信量の増加につながっているという指摘もある)。子どもたちの表情が映っている方が、授業が進めやすくはないのだろうか。

「そんなに子どもたちの表情を見ていなければいけない、という風には感じていません。むしろ画面共有を通して進捗を確認することの方が大事かなと思っています。もちろん、授業の開始と終了時に、画面越しに顔を合わせて挨拶したり、雑談したりすることは心がけています。コロナ禍で子どもたちも、保護者の方も、ストレスが溜まりやすいところがありますからね。そこはLITALICOワンダー全体で心がけているところです。ただ、いざ授業が始まってしまえば、そこまで必要ではないかと思います」。

座学ではなく、PCを用いた演習形式の授業を、すべてZoomで行う例は大学や専門学校でも珍しい。筆者が非常勤講師を務める教育機関でも、試行錯誤が続いている最中だ。少人数形式の授業という点を差し引いても、先進的なように感じられた。

一方でオンラインで困るのが機材トラブルだ。PCのセットアップやツールのインストールもさることながら、突発的に機材のトラブルが発生したり、通信状況が悪くなることもある。こうした問題を解決するために、保護者に相応のリテラシーが求められる。

「手順を記したマニュアルを作成して、お客様全員に配布しています。ある程度リテラシーがある方なら、それで進めていただけるようになっていて、中には子どもたちが自分でセッティングを済ませたりすることもあります。ただ、それでも4割くらいの保護者の方は、どこかしら不明点を抱えられるようです。そのため電話でサポートを行なったり、ときにはPCごと郵送してもらい、こちらで設定を済ませて送り返したりすることもありますね。むしろ1回オンラインで繋げられれば、そこで安心感をもっていただけるので、まずは1回繋げてみませんかと、お声がけしています」。

実際、子どもたちにとってはZoomを使用し、画面越しに会話するだけで、大きな挑戦だ(これは大人にとっても同じで、特にベテランの講師ほど対応に手間取る例が見られる)。そのためコースに初めて参加する生徒には、ツールのガイダンスを兼ねて、様々なアイスブレイクが行われるという。わざとメンターがWebカメラの視界から外れておき、いきなり画面に飛び出してくる「Zoomかくれんぼ」などは好例だ。

他にWebカメラでメンターがジェスチャークイズを行い、答えをチャットで返してもらうなどもある。「それぞれの教室で、メンターごとに、様々なやり方が考案されています」。

保護者へのフィードバック風景

デバッグを学びの機会としてメンターと共に成長

また(筆者も痛感しているのだが)、プログラミングにはバグがつきものだ。Scratchのようなビジュアルプログラミング言語ならまだしも、Unityのスクリプトを画面越しにデバッグするのは、かなり熟練度を要する。デバッグが上手くいかず、モチベーションが折れてしまう学生も少なくない。

また、子どもたちをサポートするためには、プログラミングのスキルだけでなく、高度なファシリテーション能力も必要だ。どのような研修やサポートが行われているのだろうか。また、どのような点に注意して授業運営が行われているのだろうか。

「メンターの多くは情報系や理工系の大学生で、最初にしっかりと研修を受けていただきます。そのため、ある程度しっかりとした知識があることが前提になっています。その上で、子どもたちがつまずきやすいエラーには傾向があります。変数名がちがっていたり、コンポーネントの追加でミスをしていたり、といった具合ですね。まず、そこをチェックするようにしています」。

「その上で、授業運営では子どもたちの目標設定がすごく大事だなと思っています。受講者の中には、初めてパソコンを使ってScratchをやる子もいれば、最初からUnityをやりたがる子もいます。自分が何かつくりたいものを設定して、それをつくりきることがゴールなので、そこに至るまでの道のりがどれくらい大変なのか。それが子どものレベルに合っているのか。それらをメンターがきちんと理解するようにしています。その上で『君の実力だと4コマくらい必要だね』、『じゃあ、今日はここまでやろうか』といった具合に目標を分解していく。そんな風に個別に調整してもらっています」。

「つくっていく過程では、様々なバグが発生します。ただし、バグを乗り越えていくことも学びです。ゲームをつくっていく上で発生するエラーは、その子自身がメンターと一緒に乗り越えていくべきだと思っています。エラーが起きたとき、ただ答えを教えるのではなくて、なぜエラーが発生したのか。どのようにすれば解決できるのか。自分で解決できる力を養ってほしいなと思っています。エラーは出て当たり前。Scratchに比べて、Unityが大変なのも当たり前。その上で、いかに丁寧にメンターがサポートしていけるか、というマインドでやっています」。

渋谷教室のデジタルファブリケーションコースでつくられた作品

このように、スタッフと子どもたち、そして保護者の協力の下、オンライン授業に対応しつつあるLITALICOワンダーの取り組み。とは言え、オンラインだけで完結できないものもある。成果物の展示会などはそのひとつだ。LITALICOワンダーでは毎年、子どもたちが成果物を見せ合う「ワンダーメイクフェス」を秋に開催していた。しかし、今年はコロナ禍で早々に中止が決まっている。ただし、アウトプットの機会創出はモチベーションの面でも重要だ。そのため、今年は下半期にオンラインでの開催が検討されている。

「また、完成した成果物を共有するだけでなく、制作中のものを気軽に公開できるようなことも、できれば良いと思っています。自分も趣味でものづくりをしているんですが、制作過程のものをアップして、それにリアクションがつくと、モチベーションになりますからね」。

「制作途中で詰まっている箇所を公開すると、それに対して解決策が得られるような場所がオンラインでつくれれば、プログラミングの家庭学習にもずいぶん役立つと思います。プライバシー的な問題をはじめ、様々な課題がありますが、何かしら良い方法が見つかればと思っています」。

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カリキュラム担当者に聞くオンライン化のねらいと工夫

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カリキュラム担当者に聞くオンライン化のねらいと工夫

このように各教室で試行錯誤をくり返しながらオンライン対応が進められているLITALICOワンダー。その一方で本年4月から、全てオンラインで授業を行う「LITALICOワンダーオンライン」もスタートした。LITALICOワンダーと同様に、自分の好きなペースでプログラムを進める「スクール(月謝型)」スタイルだ。取り組みのねらいと現状について、サービス開発部グループ マネージャの和田沙央里氏に聞いた。

  • 和田沙央里/Saori Wada
    東京本社LITALICOワンダー事業部
    サービス開発グループ マネージャー

CGWORLD(以下、CGW):簡単に業務内容のご説明をお願いします。

和田沙央里氏(以下、和田):はい、主にLITALICOワンダーで新規カリキュラムの開発と教材の開発、そして内部の研修の開発を行なっています。昨年はゲーム&アプリエキスパートコースのカリキュラム開発に注力していました。初心者だったお子さんが、自然にスキルアップできるようなコースの開発を行なってきました。

CGW:オーダーメイドの授業運営とカリキュラムの組み合わせについて、具体的に教えてください。

和田:そうですね。ご指摘の通りで、私たちの授業のサービスは一斉の講義形式ではありません。3~4人の子どもたちに対して1人のメンターがつき、それぞれの子どもたちが興味に従って、様々な取り組みをします。そのため、一人一人に合わせて個別の課題を出したりだとか。アレンジをしたりなど、オーダーメイドの授業をすることが必要になっていきます。ただ、そうはいってもベースとなる教材も必要です。そのため、ScratchでもUnityでも、大きく3段階に分けています。 ひとつ目は横スクロールアクションゲームのように、ベーシックなゲームのつくり方を、ひとつずつ段階を追って説明していくものです。これらはWebサイトとして用意していて、子どもたちが自由に参照しながら進めていけます。次の段階では移動やジャンプといった具合に、ゲームで必要なアクションや機能について、個々にまとめられたカードを用意しています。それぞれのカードにプログラムが記されていて、これを組み合わせることで、様々なゲームがつくれるようになっています。 最後はテーマだけが設定されていて、シューティングゲームをつくろう、〇〇ゲームをつくろう、といったものですね。こうした教材やカリキュラムを使いながら、メンターが子どもたちを支援していくスタイルになっています。

公式サイトより

LITALICOワンダーオンラインを通して広がる学びの環境

CGW:それは興味深いですね。徐々に拡充されていったかたちでしょうか。

和田:はい。2014年にLITALICOワンダーがスタートして以来、ベースとなる部分は同じですが、細部で徐々に変化しています。ひとつはScratchからUnityに移行する過程で、開発環境が変わっても同じものがつくれるという点が、大きなポイントになることがわかりました。実際、Scratchを使いこなしている子どもで、Unityに上手く移行できず、再びScratchに戻ってしまう子どもたちがいます。もちろん、本人がScratchをやりたいのならそれでも良いのですが、上手くサポートできるに越したことはない。そこでポイントになるのが、「どちらでも同じように、自分の作りたいものが実現できる」ということ。そのための支援に力を入れるようになっています。 また、ScratchにしてもUnityにしても、プログラミングだけではなくて、その周辺領域も重要であることがわかってきました。例えば絵を描いたり、音楽をつくったり、オリジナルの3Dモデリングをしたり、といったことですね。こうした周辺領域もあわせて取り組むことで、はじめて子どもたちの表現力や、創造力が伸ばせることがわかってきたんです。そのため、授業を進めるときも寄り道したり、メンターと子どもたちが一緒に学びながら進めていくといったことが、コースの特徴になってきたと思います。

CGW:こうした中、4月から新たにLITALICOワンダーオンラインがスタートしましたね。この背景とねらいについて教えてください。

和田:コロナ禍によって自宅で学びたいというニーズが増えたことが直接のきっかけでしたが、もともと授業をオンラインで実施する考えはありました。これまで17箇所で教室を展開してきましたが、いずれも首都圏のみで、渋谷などターミナル駅の周辺に展開していたので、興味はあるけど教室に通えないというお子さんの声が、これまでも上がっていたんですね。また、地方在住の方や海外の方にも弊社のサービスを届けたいという思いもありました。

CGW:4月からスタートしたばかりですが、何名くらいの方が学ばれていますか?

和田:LITALICOワンダーオンライン単独では、まだまだこれからといったところなのですが、LITALICOワンダー全体で見れば、2,000名以上がオンラインで受講しています。中には関西・九州・そしてアジアやアメリカなど海外で学ばれているお子さんもいます。これらはLITALICOワンダーオンラインならではのものですね。

公式サイトより

CGW:オンラインとオフラインで受講者にちがいはありますか?

和田:全体としてはあまり変わらず、小・中学生に幅広くご受講いただいています。その上で教室では未就学児童から小学3年生までのお子さんが多いんですが、オンラインではもう少し年齢層が上がって、小学2年生から5年生くらいのお子さんも多いですね。男女比は6:4から7:3の間で、これはどちらも変わりません。ただ、オンラインだと周りの男の子の多さを気にせずに、気兼ねなく参加できる女の子がいるといった声を頂くこともあります。必要であれば、女の子にはまず、女性メンターをつけるといった配慮をすることもできます。

CGW:ゲームやCGクリエイターの男女比は世界的に見ても8:2と言われているので、それよりも多いですね。これが今後、どのように推移していくか楽しみですね。ちなみにメンターの男女比はいかがでしょうか?

和田:男性の方が多いのは事実ですが、それほど変わらないですね。

CGW:オンラインコースと通塾でカリキュラムに何かちがいはありますか?

和田:いえ、基本的には同じものです。

CGW:渋谷教室ではカリキュラムや授業運営もさることながら、メンターと子どもたちの信頼関係が重要だと言われていました。一方でオンラインコースでは、リアルでの信頼関係がないまま、最初からオンライン授業が始まることになります。どういった工夫をされていますか?

和田:オンラインでもメンター1人に子どもたちが最大3人という構成は変わらないのですが、いきなり他の子どもたちと一緒に学ぶのではなく、最初の2ヶ月間はメンターと1対1で授業を始めて、ある程度お互いを知り、関係性をつくってから、コミュニティに交ざってもらうようにしています。子どもたちだけでなく保護者の方からも、それまでのプログラミング体験や、特別に配慮が必要なことなどを電話でヒアリングするようにしています。 また、メンターと子どもたちだけでなく、子どもたち同士で繋がりがもてて、みんなで学んでいる感じがもてるように、授業内で発表したり、作品を見せ合うような時間を、オンラインでは長めに取るようにしています。 一方で対面だと発言がしづらかったり、手を挙げにくかったりするお子さんでも、オンラインだとチャットでどんどん発言してくれる......そういった面もあるようです。人によって、文字だけのコミュニケーションの方がやりやすい場合があるようですね。

公式サイトより

メンターと保護者で求められる関係性の構築

CGW:保護者のITリテラシーも千差万別だと思います。

和田:そのとおりですね。仕事でPCを使っている方もいれば、セットアップからお手伝いするような方もいます。Zoomをインストールするところから始まるのですが、中にはカメラがついていなかった、マイクがついていなかった、といった方もいらっしゃいます。その都度、電話でサポートをしています。

CGW:Scratchであればまだ、PCもそこまでスペックが必要ではありませんが、Unityだと「うちのPCでは動きませんでした」みたいなこともありそうですね。

和田:そうですね。あとはUnityのセットアップにすごく時間がかかるんですね。工程もたくさんありますしね。お子さんと保護者のサポートをもらいながら、スタッフが手伝うようなかたちで取り組んでいます。中にはPCを宅配いただいて、こちらでセットアップして送り返す、といった場合もあります。

CGW:自分も専門学校で30人のクラスと2人のクラスを受けもっているのですが、それぞれメリット・デメリットがあると感じています。少人数クラスならではのモチベーションの保たせ方について、何かコツはありますか?

和田:メンターとお子さんの信頼関係に加えて、子どもたちそれぞれの課題設定が大事になってきますよね。そのためモチベーションが低い生徒に対しては、いきなり何かをやらせるのではなく、その子が一番やりたいことや、好きなことをちゃんと聞いて、目標設定をすることが大事かなと。その上で、だんだんモチベーションが上がってきて、制作に取り組めるようになっていったら、他の人と繋げていくような順序があるのかなと思いますね。

CGW:まさにメンターのファシリテーション能力が重要ですね。ただ目標設定について、学生でもなかなか言語化が難しいところがあります。小学校低学年の子から、上手く「自分のやりたいこと」を聞き出す上で、コツはありますか?

和田:難しいですね。最低限、お子さんの声をちゃんと聞く、尊重して聞くというところは、どのメンターにも強調しているところです。90分授業がある中で、最初の10~15分ほど時間を取って、今日やることを個別に話していく時間を取るんですね。ただ、対面だったら口頭でできることでも、オンラインだと会話が......特に低学年のお子さんは難しいところもあります。そのときは事前につくりたいゲームの絵などを描いてもらって、それを見せてもらったりだとか。逆にメンターがタブレットに絵を描いて見せたりだとか。そういう視覚的なものも併用しながらコミュニケーションを取っています。

CGW:なるほど。絵を描かせるというのは、良いやり方ですね。

和田:特に低学年のお子さんには有効ですね。そんなふうに描いた絵を基に、メンターが「今日はこれこれこういうことをやろう」、「この主人公の動きをつくろう」といった具合に、コミュニケーションを取っているところはあります。

CGW:学生は得てして自分の力量がよくわかっていなくて、グループ制作などで風呂敷を広げたがる傾向にあります。そこでたいてい失敗するんですね。まあ、失敗するのも経験だと思うんですが、そこでモチベーションが折れては逆効果です。何か良いやり方はありますか?

和田:確かに、いきなり『マインクラフト』みたいなものをつくりたいだとか、すごい世界観のものをつくりたいなどと、よく子どもたちは言ってきます。そんなときでも上手いメンターは、具体的に『マイクラ』のどの部分が好きなのかを聞き出して、要素を細分化して、そこだけをゴール設定にするというやり方をしていますね。

CGW:そこは自分も真似していきたいですね。ちなみに大学や専門学校では、常勤の講師はまだしも非常勤だと、講師同士で横の繋がりがあまりなかったりします。メンター同士のつながりや、メンターをフォローするしくみはありますか?

和田:そうですね。メンターが授業中で子どもたちを対応する一方で、授業全体をディレクションできる社員スタッフがチャットの方で常駐しています。授業を進める上で困ったことがあったら、チャットベースでヘルプを求めることができるような体制になっています。

公式サイトより

CGW:メンターにとっては、子どもたちとの信頼関係もさることながら、その背後にいる保護者の方との連携も重要になってきそうですね。

和田:授業の最後に必ず、保護者の方にカメラに映っていただいて、授業内容の共有を行う時間を設けています。1人ずつ、この子は今日はこういうところを頑張っていたとか。次回はこんなことをやる予定だとか。そういったコミュニケーションを取っています。

CGW:保護者にもいろんなタイプがいそうですね。上手くメンターと二人三脚で子どもをサポートしていける保護者もいれば、そうではない方もいると思います。保護者の立場からすると、メンターとどういった関係を結べるようにしていくと良いのでしょうか?

和田:お子さんの成長は、保護者の協力なしには支援できないのが事実です。そこ上手く協力関係が結べるように、お子さんに対する関わり方を、保護者の方にも常にお伝えするようにしています。 例えば、私たちはお子さんが「自分でできるようになること」を重視しているので、答えをすぐに言わずに、すごく待つんですね。じっと待ってみて。その子が失敗するところも見て。そこから成功に導くといったことをやっています。 ただ、親御さんの中には、目の前で子どもができないと、かわりに自分がやってあげたくなることがあるんですね。そんなときには、お子さんが失敗しても良いから、自分でできるようになることが大事だという意図を説明した上で、もう1回お子さんにやり直してもらったり......。そういった関わり方をしています。

CGW:主役はお子さんだということですね。お父さん、ちょっと待って、というか。

和田:そうなんですよね。特に教室とちがって、ご自宅ではお子さんの手元が見える分、その傾向が強いようです。

CGW:そんなふうに、どんどん前のめりになってくる方もいらっしゃると思うんですが、その一方で、何もわからないので先生全部お願いしますみたいな方も多いのかなと思います。

公式サイトより

環境の変化に伴い自ら卒業していく受講者たち

和田:子どもたちが何をやっているかまったくわからない、という保護者の声を聞くという話は、メンターから良く耳にします。プログラミングにしろ、3Dモデリングにしろ、専門領域ですからね。そのため、今やっていることのどの部分がすごいのか。どの部分が子どもが一番こだわってつくったポイントなのかを、専門的用語を排して、わかりやすい言葉に置き換えて説明したり。ときには、お子さん自身から保護者の方に伝えてもらったりしていますね。

CGW:メンターの指導や、メンター向けのカリキュラムの作成は、お子さん向けのカリキュラムと同じくらい、あるいはそれ以上に重要になりそうですね。オンラインならではのチェックポイントであったり、メンター向けのカリキュラムを作成するときに重視されていることはありますか?

和田:いろいろありますが、画面のレイアウトはそのひとつですね。1台のPCで、Scratchも教材もビデオチャットも全部表示させようとすると、けっこう大変じゃないですか。そのため、適切なウィンドウ配置について、全員がちゃんとレクチャーできるようにトレーニングしています。

CGW:実際、Unityだと色んなレイアウトがありますね。

和田:そうなんですよね。それが揃っていないと、教材とPCが揃っていても難しいですからね。授業に入る前に、必ず全部できるようにしています。

CGW:メンターの採用と育成ではどのようなことをされていますか?

和田:基本はOJTになりますが、毎回授業の記録を取るように指導しています。今回やったことと次回やることだけではなくて、個々のお子さんが中長期的にどういう目標があって、そのために今日何をやったか、というようなことですね。例えばオリジナルゲームをつくる、といった目標があって、それに対してやることは何かを擦り合わせ、その上で次回やることを決めるなどです。この記録をきちんと取ることで、目標設定の精度を高めていくような指導をメンターにはしています。

CGW:つくりたいものを子どもたちが自分で決めるということは、終了条件も自分たちで決めるということですよね。何をもってお子さんたちはLITALICOワンダーを卒業されるんでしょうか。

和田:本当にそこは、個々のお子さんにおまかせしています。見ている限りだと、LITALICOワンダー以外の場所でも技術的なコミュニティに所属してモノづくりをするようになると、卒業も近いのかな、などと思います。一方で小学校から中学校という風に、ずっとLITALICOワンダーでプログラミングを続けているお子さんもいます。また、専門的なことをもっと学びたいから、より上級の学校に進学するようなお子さんもいますね。そんな風にして、徐々に離れていくというか。

CGW:自分の環境が変わることで、節目が生まれてくるということですね。平均でどれぐらいの期間、続けられるんでしょうか?

和田:人によってバラバラなんですが、多くの方は2年くらい通われます。長い方だと4~5年通われていますね。

CGW:2年でどれくらいのアプリやプログラムがつくれるようになりますか?

和田:開始時の学年にもよるんですが、高学年であれば2年もあれば、Scratchでまったくの初心者から始めて、Unityである程度は作れるくらいになります。4年ぐらい通うとゲームをアプリ化したり、チームを組んでU-18向けのコンテストに出場したりします。

公式サイトより

CGW:Scratchに比べてUnityはデバッグが大変ですよね。何か良いデバッグのやり方はありますか?

和田:そこはまだまだ改善の余地があるところですね。子どもたちにデバックをさせる上で、どういう手順で問題解決をしていくのかみたいなところは、これからつくっていくのかなと思っています。モチベーションが折れやすいところでもありますし。ずっとデバッグに取り組めるお子さんもいれば、もうダメだ~みたいな感じのお子さんもいるので。ただ、自分で取り組む力や、自分で解決する力を身につけるチャンスでもあるので、良いやり方を考えたいですね。

CGW:メンターがデータを引き上げて、自分でデバッグして、子どもたちに戻すといったこともあるのでしょうか?

和田:そういうときもありますね。ただ、その際も単にデバッグされたデータを渡すのではなくて、原因をきちんと説明したり、解決策について話し合ったりしています。いきなり答えを言うようなかたちで戻すことはありません。

CGW:ワンダーメイクフェスのように、オンラインコースだけの発表会や、参加者同士のコミュニティをつくったりする予定はありますか?

和田:まだ具体的には決まってはいませんが、オンライン上での発表の場みたいなものは、お子さんにとってもすごく価値があるので、やっていきたいと思っています。作品を投稿するだけのオンラインコンテストのようなものであれば、実際にイベントを行うよりも短い期間でできると思うので、実際に発表する場と、コンテストみたいなものを、あわせて検討したいなと思っています。

子どもにあったオンライン授業を選ぶ

CGW:対面形式の塾やプログラミング教室がどんどん増えています。その中でオンラインに移行していくものも増えていますし、最初からオンラインのものもあります。対象もお子さんから社会人の学び直しまで本当に幅広いですよね。

和田:そうですね。

CGW:しかもビデオ会議システムで行うものもあれば、動画教材中心のものもあって、本当に多種多様だと思うんです。ただ、なかなか外から見てるとよくわからないのも事実です。こうした現状をどういうふうに見ていらっしゃいますか?

和田:仰るとおりで、今までオンラインコースの受講を通して、保護者の方からお話を聞く中で感じているのが、オンライン授業といっても多種多様なのに、ひとくくりにされがちなことなんですよね。一斉配信の講義型のものもあれば、Webサービスで完結するようなものもあって。その中でも弊社はビデオ会議システムを使って、対面型でやっている訳なんですけれども。

CGW:それぞれ長所と短所がありますよね。

和田:そうですね。我々のような対面型だと、時間が固定にはなりますが、わからないときにすぐに聞ける良さがあります。また、最初の環境設定でつまずいたときでも、ちゃんとサポートしてもらえます。そのため、より初心者から始められる部分があるのかなと思います。 他に、よりリアルに近いコミュニケーションが取れる点も大きいかなと思いますので。そんなふうにサポートの手厚さや、コミュニケーションを含めて重視される方であれば対面式をオススメしたいです。

CGW:逆に決まった内容を切り出してパッケージにまとめて、動画教材にするといったことも、ひとつの考え方としてありかなと思います。

和田:何か良い方法があれば今後、試していきたいと思います。ただ、弊社ではお子さんにあわせてオーダーメイドで授業を提供していくことをすごく大事に思っているので、そこに反しないかたちであれば。例えば先に動画教材を配信して、後から個別対応するような、いわゆる反転授業の形式ですよね。そうしたアイデアを組み合わせることで、授業の体験を向上させていけるようなものであれば、取り組んでいきたいなと思っています。

CGW:確かに反転授業はプログラミング教育に向きそうですね。他に何かコメントなどはありますでしょうか?

和田:他の形式とちがって、弊社のような対面形式は、実際に体験してみないと良さがわからないところがあるんですね。そのため、もし興味があれば一度、お子さんと一緒に体験授業に挑戦していただければと思います。特にオンラインでは教室に行かなくてもいいので、ハードルが下がるのかなと。公式サイトからお申し込みいただけます。

CGW:ありがとうございます。まだまだコロナ禍で教育機関の混乱が続く中、本日は学校の授業づくりや企業のオンライン研修などに応用できそうな話をたくさんいただきました。今後の展開を楽しみにしております。