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重要なのは子どもたちとの信頼関係と目標設定 ~オンラインに拡張するLITALICOワンダーとコロナ禍でのプログラミング教育

重要なのは子どもたちとの信頼関係と目標設定 ~オンラインに拡張するLITALICOワンダーとコロナ禍でのプログラミング教育

小学校でのプログラミング教育開始と、コロナ禍による休校が重なった2020年度の学校教育。緊急事態宣言が終了した今も、全国の教育機関で様々な余波が続いている。こうした中、いち早くオンラインでの学びを進めたのが、株式会社LITALICOが運営する「LITALICOワンダー」だ。同社では4月からオンラインのみで授業サービスを行う「LITALICOワンダーオンライン」もスタートしている。オンラインでのプログラミング教育や、授業運営の工夫などについて聞いた。

INTERVIEW_小野憲史 / Kenji Ono
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada

少人数&オーダーメイドのユニークな授業設計

「こんにちは!」、「元気してた~?」

授業がスタートするや否や、子どもたちの笑顔が目に飛び込んできた。もっとも現実の世界ではなく、PCのモニタ越しだ。

ビデオ会議システムのZoomを活用し、メンターと子どもたちがコミュニケーションを取りながら、思い思いのプロラミングを進めていく。IT×ものづくり教室「LITALICOワンダー」の新しい授業スタイルだ。取材に伺った渋谷教室では、「ゲーム&アプリプログラミングコース」と「ゲーム&アプリエキスパートコース」の授業を見学できた。それぞれScratchUnityを使用して、ゲームづくりを進める内容だ。90分の授業は、和気あいあいとした雰囲気で進行し、滞りなく終了した。

Zoom上での授業風景(渋谷教室)

都内17箇所の教室で、LITALICOワンダーを展開する株式会社LITALICO。もっとも事業内容はプログラミング教育に留まらない。2005年に「障害のない社会をつくる」を掲げて創業以来、就労移行支援サービス「LITALICOワークス」、発達障害者向けのソーシャルスキル&学習教室「LITALICOジュニア」など、様々な学習支援を進めてきた。

2015年にはネット事業に乗り出し、発達障害ポータルサイト「LITALICO発達ナビ」、働くことに障害のある方向けの就職情報サイト「LITALICO仕事ナビ」をスタート。他に障害や特性のある人向けにライフプランの設計を支援する「LITALICOライフ」など、幅広い人々の支援を行なっている。2016年にマザーズ上場、2017年には東京証券取引所第一部に市場変更し、10期連続で増収を続けている。

中でも近年注目を集めているのがLITALICOワンダーだ。「考える、つくる、伝える」をテーマに、テクノロジーを活用した最先端のものづくりを横断的に学ぶことができるもの。公立小学校におけるプログラミング教育の開始に先駆け、2014年にスタートした。

コースは「ゲーム&アプリプログラミングコース」、「ゲーム&アプリエキスパートコース」、「ロボットクリエイトコース」、「ロボットテクニカルコース」、「デジタルファブリケーションコース」の5種類で、未就学児から高校生までコース別に幅広い年齢層を対象としており、生徒数は約3,000人にのぼる。

このように「幅広い意味での社会における障害の克服」を掲げる同社にとっても、コロナ禍による社会変化は想定外の出来事だった。

渋谷教室で教室長をつとめる河合貴氏も、「ロボット制作や3Dプリンタといった、実際にモノを使って学ぶコースが一部休止になり、PCとネットがあれば学べるゲーム&プログラミングコース/エキスパートコースがオンライン授業に移行しました。最も多い時期では10人程度のスタッフが教室からオンラインで各家庭に接続し、ビデオ会議システムを使って授業を継続しました。途中でツールを変えるなど、運営で試行錯誤がありました」と語った。

  • 河合 貴/Takashi Kawai
    株式会社LITALICO
    LITALICOワンダー渋谷教室・教室長

LITALICOワンダーのポイントは「少人数&オーダーメイド」の授業運営だ。1人のメンターが対応する生徒数は3~4人まで。特定のカリキュラムは存在せず、子どもたちがやりたいことをメンターが聞き出し、それを実現するための手助けを行なっていく。

授業は週1回と週2回のコースがあり、開始時期と終了時期は生徒によってバラバラだ。2年、3年と継続して学ぶ子どもたちも少なくない。テキストがわりのWebサイトや教材はあるが、最初からオリジナルのプログラムをつくりたがる子どもたちもいる。いずれもコロナ前からのスタイルで、オンライン化においても、このスタイルを守ることが前提となった。

実際、授業を見学した際も、「『青鬼』(インターネットで人気のあるホラーゲーム)のようなゲームがつくりたい」、「オリジナルの3DCGキャラクターがつくりたい」などと、参加者によってつくりたい内容がまちまちだった。

それに対して「いきなり全部をつくるのは難しいから、まずステージをつくってみたら?」、「3DCGキャラクターをつくるなら、このツールを使ってみると良いよ」といった具合に、メンターが適切に誘導。画面越しに話しかけたり、チャットで参考サイトを紹介していた。参加者はいずれも小学校低学年で、ScratchだけでなくUnityでスクリプト制作に挑戦している者もいて驚かされた。

ゲーム&アプリプログラミングコース(上)とゲーム&アプリエキスパートコース(下)の授業風景

対面授業をベースに4月からオンライン授業に拡張

5月25日(月)に国の緊急事態宣言が終了し、徐々に社会生活が回復しつつある昨今。6月上旬に教室を訪れたときも、教室には少なからぬ生徒や保護者が見られた。しかし、オンラインでの授業継続を望む声もあり、当面は通塾とのハイブリッド形式で進めていくという。

このように渋谷教室では、もともと教室で対面授業を行なっていた生徒たちが、コロナ禍によってオンラインに移行した経緯があり、メンターとの信頼関係ができていた(これは他の教室でも概ね同じだ)。それでも当初はスタッフ側も保護者側もツールやネットワークなどで戸惑った部分があったという。

「最初はビデオ会議システムにGoogle Meetを使用していました。Googleアカウントがあれば誰でも無料で使用でき、導入がスムーズだったことと、オンライン授業で必須となる画面共有の操作がしやすいことが理由でした。ただ、同時接続者数や時間帯によって、画面が粗くなったり、音声が聞こえにくくなったりすることがありました。そのため、よりデータ容量の軽いZoomでの通話に切り替えました。今では通塾生の割合が増えてきたこともあり、特に通信面で大きな問題は発生していません。有線LANを使用していた時期もありましたが、今では無線LANでこと足りています」。

授業を見学する中で気づいた点があった。授業が始まると、メンターと子どもたちとの間で画面越しに近況報告がはじまり、今日の目標などがお互いに確認される。もっとも、実際の作業が始まると、メンターの使用するPCは主に生徒との画面共有や調べものに利用される。そのため、子どもたちの顔が表示されないことの方が多いのだ。

一方で大学でのオンライン授業などでは、ビデオ会議システム上で「顔出し」がルール化されている場合もある(主な目的は学生のサボり対策だが、講師側からも「学生の顔が見えないままの講義では、壁に向かって喋るような徒労感がある」とする声がある。一方で、このことが通信量の増加につながっているという指摘もある)。子どもたちの表情が映っている方が、授業が進めやすくはないのだろうか。

「そんなに子どもたちの表情を見ていなければいけない、という風には感じていません。むしろ画面共有を通して進捗を確認することの方が大事かなと思っています。もちろん、授業の開始と終了時に、画面越しに顔を合わせて挨拶したり、雑談したりすることは心がけています。コロナ禍で子どもたちも、保護者の方も、ストレスが溜まりやすいところがありますからね。そこはLITALICOワンダー全体で心がけているところです。ただ、いざ授業が始まってしまえば、そこまで必要ではないかと思います」。

座学ではなく、PCを用いた演習形式の授業を、すべてZoomで行う例は大学や専門学校でも珍しい。筆者が非常勤講師を務める教育機関でも、試行錯誤が続いている最中だ。少人数形式の授業という点を差し引いても、先進的なように感じられた。

一方でオンラインで困るのが機材トラブルだ。PCのセットアップやツールのインストールもさることながら、突発的に機材のトラブルが発生したり、通信状況が悪くなることもある。こうした問題を解決するために、保護者に相応のリテラシーが求められる。

「手順を記したマニュアルを作成して、お客様全員に配布しています。ある程度リテラシーがある方なら、それで進めていただけるようになっていて、中には子どもたちが自分でセッティングを済ませたりすることもあります。ただ、それでも4割くらいの保護者の方は、どこかしら不明点を抱えられるようです。そのため電話でサポートを行なったり、ときにはPCごと郵送してもらい、こちらで設定を済ませて送り返したりすることもありますね。むしろ1回オンラインで繋げられれば、そこで安心感をもっていただけるので、まずは1回繋げてみませんかと、お声がけしています」。

実際、子どもたちにとってはZoomを使用し、画面越しに会話するだけで、大きな挑戦だ(これは大人にとっても同じで、特にベテランの講師ほど対応に手間取る例が見られる)。そのためコースに初めて参加する生徒には、ツールのガイダンスを兼ねて、様々なアイスブレイクが行われるという。わざとメンターがWebカメラの視界から外れておき、いきなり画面に飛び出してくる「Zoomかくれんぼ」などは好例だ。

他にWebカメラでメンターがジェスチャークイズを行い、答えをチャットで返してもらうなどもある。「それぞれの教室で、メンターごとに、様々なやり方が考案されています」。

保護者へのフィードバック風景

デバッグを学びの機会としてメンターと共に成長

また(筆者も痛感しているのだが)、プログラミングにはバグがつきものだ。Scratchのようなビジュアルプログラミング言語ならまだしも、Unityのスクリプトを画面越しにデバッグするのは、かなり熟練度を要する。デバッグが上手くいかず、モチベーションが折れてしまう学生も少なくない。

また、子どもたちをサポートするためには、プログラミングのスキルだけでなく、高度なファシリテーション能力も必要だ。どのような研修やサポートが行われているのだろうか。また、どのような点に注意して授業運営が行われているのだろうか。

「メンターの多くは情報系や理工系の大学生で、最初にしっかりと研修を受けていただきます。そのため、ある程度しっかりとした知識があることが前提になっています。その上で、子どもたちがつまずきやすいエラーには傾向があります。変数名がちがっていたり、コンポーネントの追加でミスをしていたり、といった具合ですね。まず、そこをチェックするようにしています」。

「その上で、授業運営では子どもたちの目標設定がすごく大事だなと思っています。受講者の中には、初めてパソコンを使ってScratchをやる子もいれば、最初からUnityをやりたがる子もいます。自分が何かつくりたいものを設定して、それをつくりきることがゴールなので、そこに至るまでの道のりがどれくらい大変なのか。それが子どものレベルに合っているのか。それらをメンターがきちんと理解するようにしています。その上で『君の実力だと4コマくらい必要だね』、『じゃあ、今日はここまでやろうか』といった具合に目標を分解していく。そんな風に個別に調整してもらっています」。

「つくっていく過程では、様々なバグが発生します。ただし、バグを乗り越えていくことも学びです。ゲームをつくっていく上で発生するエラーは、その子自身がメンターと一緒に乗り越えていくべきだと思っています。エラーが起きたとき、ただ答えを教えるのではなくて、なぜエラーが発生したのか。どのようにすれば解決できるのか。自分で解決できる力を養ってほしいなと思っています。エラーは出て当たり前。Scratchに比べて、Unityが大変なのも当たり前。その上で、いかに丁寧にメンターがサポートしていけるか、というマインドでやっています」。

渋谷教室のデジタルファブリケーションコースでつくられた作品

このように、スタッフと子どもたち、そして保護者の協力の下、オンライン授業に対応しつつあるLITALICOワンダーの取り組み。とは言え、オンラインだけで完結できないものもある。成果物の展示会などはそのひとつだ。LITALICOワンダーでは毎年、子どもたちが成果物を見せ合う「ワンダーメイクフェス」を秋に開催していた。しかし、今年はコロナ禍で早々に中止が決まっている。ただし、アウトプットの機会創出はモチベーションの面でも重要だ。そのため、今年は下半期にオンラインでの開催が検討されている。

「また、完成した成果物を共有するだけでなく、制作中のものを気軽に公開できるようなことも、できれば良いと思っています。自分も趣味でものづくりをしているんですが、制作過程のものをアップして、それにリアクションがつくと、モチベーションになりますからね」。

「制作途中で詰まっている箇所を公開すると、それに対して解決策が得られるような場所がオンラインでつくれれば、プログラミングの家庭学習にもずいぶん役立つと思います。プライバシー的な問題をはじめ、様々な課題がありますが、何かしら良い方法が見つかればと思っています」。

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カリキュラム担当者に聞くオンライン化のねらいと工夫

Profileプロフィール

河合 貴/Takashi Kawai

河合 貴/Takashi Kawai

LITALICOワンダー渋谷教室・教室長

和田沙央里/Saori Wada

和田沙央里/Saori Wada

東京本社LITALICOワンダー事業部
サービス開発グループ マネージャー

スペシャルインタビュー