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優れたコスパを武器に、大きな注目を集めているAMD製CPU。これまでとはひと味ちがう新たなデジタルヒューマンを生み出すクリエイティブスタジオが、その性能をチェック。独自の目線で、その使い勝手や気になるポイントを探ってもらった。

TEXT _近藤寿成(スプール)、検証協力_村田智洋(ボーンデジタル)、 EDIT_池田大樹(CGWORLD)



  • AMD

    50年以上の歴史を持つアメリカの半導体製造会社。「Athlon」や「Ryzen」シリーズなどを展開するCPUとともに、「Radeon」シリーズによるGPUの両方を開発する。さらに、CPUとGPUを1つに統合したAPUなども手掛けている。
    https://www.amd.com/ja


小規模のクリエイティブスタジオが挙げるCPU選びのポイント

AMD製CPUの比較検証企画としては第2回目となる今回。検証に協力してもらったのは、設立2年目の小規模スタジオながら、オリジナルキャラクターのデジタルヒューマン「Rin」を手がけるKakela Studios。自宅のPCでもAMD製CPUを愛用する代表取締役の一丸敦生氏に、デジタルヒューマンの制作をメインとした業務内容でそのパフォーマンスを検証してもらうと共に、小規模スタジオならでの着眼点から語ってもらった。

CGWORLD本誌264号の表紙を飾ったRinの制作では、工程によって様々なDCCツールを使い分けているのが大きな特徴だ。例えば、モデリングにはMayaとZBrush、衣装制作にはMarvelous Designer、コンポジットにはDaVinci Resolveを使用。当然、複数のアプリケーションを同時に起動させて並行処理することも少なくない。さらに、レンダリングにArnoldを使用しており、その処理スピードは「コア数が増えれば、より速くなる」(一丸氏)ため、CPU選びにおいて一丸氏はクロック数の高さと同時に「コア数(=スレッド数)」の重要性を説く。

Rinの大きな魅力として「ハイクオリティ(フォトリアル)」があるが、その実現の裏に特別な技術力などの秘訣はなく「丁寧なブラッシュアップを愚直にくり返しているだけ」と語る一丸氏。また、修正後の微妙な表情のちがいは「ビューポートだと識別しづらい」ことから、その都度レンダリングを実行して仕上がりを確認しているそうだ。制作時にはこのような手順を何度も踏んで試行錯誤をくり返すため、必然的にレンダリングの処理スピードは作業時間に大きな影響を与えることになる。その意味でも、コア数はRinの制作において大きなファクターとなるのだ。

一方で、一丸氏が経営者目線で気になるのがコスト感である。アーティスト目線で作品のクオリティや作業効率を優先するのであれば、コア数の多いハイスペックなCPUを選びたいところだが、経営者の立場で考えると価格はやはり無視できないからだ。また、Kakela Studiosのような小規模スタジオ(=中小企業や個人事業主)にとって、取得金額が30万円未満の固定資産を費用として一括償却できる「少額減価償却資産」は、節税の面で活用すべき制度となる。
そのため、PC機材の選定において「30万円」という価格は1つの大きな目安であり、それをふまえた「コストパフォーマンス」も重要なポイントの1つとなる。

これらの点を踏まえて、今回はKakela StudiosがAMD製CPUを搭載する3機種と対抗検証機を比較。Maya+Arnoldのレンダリング検証や、各種アプリケーションの操作感などを探った。

▲Kakela Studios 一丸敦生氏

検証ハードウェアについて

今回は、AMDが提供する2機種のPCに、Kakela Studiosで一丸氏が利用する現行機と、その現行機と同等の性能を備えたインテルCPUを搭載する比較用の対抗検証機を加えた4台で検証した。

AMDの検証機1は、AMDのハイエンドデスクトップ向けCPU「Ryzen Threadripper 3970X」を搭載し、GPUに「Radeon RX 5700 XT」を備えた「Ryzen Threadripper 3970Xモデル」。32コア64スレッドのRyzen Threadripper 3970Xは、基本クロックが3.7GHz、最大ブースト・クロックが4.5GHzという性能で、実売価格は約25万8,000円となかなかの高額だ。

検証機2は、AMDのメインストリーム向けCPUで最上位クラスに属する「Ryzen 9 3900X」を採用した「Ryzen 9 3900Xモデル」。Ryzen 9 3900Xは12コア24スレッドながら、クロック数だけ見ればRyzen Threadripper 3970Xに見劣りしないスペックで、実売価格も約6万6,000円とかなりリーズナブルになっている。

これに対してKakela Studiosの現行機は、CPUに「Ryzen 7 3700X」、GPUに「GeForce RTX 2070 SUPER」を採用したBTOPC。Ryzen 7 3700Xはコア数こそRyzen 9 3900Xに劣るが、クロック数はそん色ない実力を持つ。しかも、実売価格がRyzen 9 3900Xよりもさらに安い約4万4,000円で購入できる点が大きなポイントだ。

そして対抗検証機は、CPUに「インテル Core i9-9900K プロセッサー」、GPUに「GeForce RTX 2070 SUPER」を搭載。インテル Core i9-9900K プロセッサーはスペック的にRyzen 7 3700Xとほぼ同等ながら、実売価格は約5万円と1割ほど高くなっている。



※実売価格は2020年10月15日現在のものです

POINT1:Ryzen Threadripper 3970Xの実力とは?

  • 2019年11月に発売された第3世代Ryzen Threadripperの上位モデルで、Ryzen 3000シリーズなどの第3世代Ryzenプロセッサーと同世代の高性能x86コア「Zen 2」アーキテクチャを採用。CPUソケットが「Socket sTRX4」に変更され、チップセットも「AMD TRX40」が採用された点が大きなポイントだ。第1世代や第2世代のSocket TR4と互換性がないことから、使用の際には対応マザーボードが必要となる。第2世代と比較してコア数やスレッド数に大きな違いはないが、クロック数が向上したほか、L3 キャッシュも64MBから128MBに増加。さらに、メモリは4チャネルでDDR4-3200までに対応し、PCIe 4.0などもサポートするようになった。

POINT2:Ryzen 9 3900Xの実力とは?

  • 2019年7月に発売された第3世代Ryzenの上位モデルで、CPUソケットは「Socket AM4」に対応。基本クロックで3.80GHz、最大ブースト・クロックで4.6GHzという優れた性能が魅力だ。7nmプロセスの「Zen 2」アーキテクチャを採用しており、第2世代までの「Zen」と比較してIPC(Instructions Per Clock:1クロックで処理できる命令数)が最大で15%向上し、浮動小数点演算性能も2倍になった。メモリは2チャネルでDDR4-3200までに対応し、PCIe 4.0もサポートする。そのほか、LED照明付きのCPUクーラー「Wraith Prism」が標準で付属する。

CASE 01:ワークフロー全体におけるパフォーマンス評価

すでに紹介したように、一丸氏はデジタルヒューマンの制作において、モデリングにMayaとZBrush、衣装制作にMarvelous Designer、コンポジットにDaVinci Resolve、レンダリングにArnoldと、様々なアプリケーションツールを使用している。今回はデジタルヒューマンの実務作業をベースに、検証機1と検証機2で各アプリケーションを使ってもらった。

各アプリケーションの使用感に違和感などはなく、複数のアプリケーションを同時に起ち上げて操作しても「特に大きな問題はなかった」(一丸氏)。パフォーマンス面においても全体的に良好。大きな負荷のかからない処理やマルチコアに対応しないケースでは目立った性能差は見い出せなかったものの、ArnoldやMarvelous Designerなどでは確かに実感できる圧倒的な性能差があったという。

例えば、本誌264号の表紙を飾ったRinの画像(解像度:3,282×4,258ピクセル)をArnoldでレンダリングした場合、Kakela Studiosの現行機では9時間程度かかっていたが、Ryzen Threadripper 3970X搭載の検証機1では1/4程度の時間で終わったそうだ。Ryzen 9 3900X搭載の検証機2についても、現行機比で1.5倍程度の処理スピードを感じたという。

また、Rinのインスタグラム(rin_the_future)に掲載されている画像(解像度:1,080×1,080ピクセル)の場合では、検証機1の処理スピードは一丸氏の体感で、現行機の4~6倍ほど優れていると感じたそうだ。具体的には、現行機だとレンダリング完了までに5分程度かかっていたため、これまでであれば「少し別の作業に取り掛かろう」(一丸氏)となっていたが、検証機1であればすぐにレンダリング済みの仕上がりをチェックすることが可能になる。修正した顔の表情や目線のちがいはビューポートだと識別しづらいことから、「その変化をすぐに確認できるのは、アーティストにとって非常に大きい」と一丸氏は話す。

そのほか、実際のCM制作の仕事で使ったデジタルヒューマンの軽い素材(遠景で解像度はフルHD)では、現行機で1分以上かかったのに対して、検証機1では約30秒で完了するほど改善された。

CASE 02:Maya+Arnoldによるレンダリングのテスト

[ 検証条件 ]

デジタルヒューマン、Rinの制作を念頭に、Maya+ArnoldでのCPUレンダリングにかかる時間を計測した。画像素材の解像度は2,000×3,000ピクセル。

マルチコアに対応するArnoldのCPUレンダリングでは、CPUの総合的な性能が処理スピードに直接的な影響を与える。そのため、それぞれのレンダリング時間を見てみると検証機135分26秒と最速で、検証機2の1時間10分42秒、対抗検証機の1時間41分31秒と続き、現行機が2時間20分24秒となった。この順番は、概ねCPUのコア数やクロック数に準じた結果といえるだろう。特に、検証機1のCPU、Ryzen Threadripper 3970Xと検証機2のCPU、Ryzen 9 3900Xのクロック数はほぼ同等であるほか、GPUやメモリ、ストレージなどは同じものを搭載しているため、CPUのコア数が処理スピードの差としてはっきり表れている。

一方で、コスパの観点から見てみると、検証機2よりもレンダリング時間が約2倍早かった検証機1のCPU、Ryzen Threadripper 3970Xは、検証機2のCPU、Ryzen 9 3900Xよりも実売価格が約4倍高い。GPUやメモリ、ストレージなどに差がないことをふまえると、コア数のメリットを活かした処理スピードでは検証機1が圧勝であっても、コスパ面では検証機2が圧倒的に優れていると言える。

また検証機2のCPU、Ryzen 9 3900Xの価格は、対抗検証機のCPU、インテル Core i9-9900Kプロセッサーよりも3割増しとなるが、今回の検証では30分以上早い結果となり、概算で約1.5倍の処理スピードとなった。対抗検証機の搭載メモリは検証機2の半分にあたる32GBとなるため純粋な比較はできないが、その点を考慮しても検証機2のコスパの高さは魅力的だ。

デジタルヒューマンの制作では「納得のいく表情やクオリティを出すために、多くの時間をかける。だからこそ、必然的にレンダリング回数も増えていく」(一丸氏)ことから、制作工程の中で何度もくり返されるレンダリングの時間は、可能な限り短い方がいい。一丸氏も「レンダリングにもっとも時間を取られるからこそ、結局はその時間短縮に行き着く」と語っており、コストをふまえつつ「その時間をどれだけ短縮できるか」が、CPU選びの重要なポイントとなる。

検証を終えて

圧倒的な性能重視か、それともコスパ重視か

今回の検証を終えて、一丸氏は性能面で検証機1を「圧倒的だった」と高評価する。レンダリングの処理時間を大きく削減できるだけに、より多くの修正対応も可能になるなど、ワークフローを変えてしまうほどのレベルだ。それだけに、アーティストにオススメできる逸品であり、「最終的なクオリティの向上にもつながる」と結論付ける。

ただし、25万円を超える実売価格は、経営者としては手が出しにくいのも事実。税制の活用も含めてコストを重視するのであれば、Ryzen Threadripper 3970Xを選ぶのは難しい。その点、Ryzen 9 3900Xは約6万6000円で購入できることから、30万円未満で実用的なPCを組むことも十分に可能だ。高コスパという点からも、一丸氏は「現実的な選択肢の1つとなり得る」と太鼓判を押した。

まとめ

01:Ryzen Threadripper 3970Xの性能は圧倒的
02:Ryzen 9 3900Xは非常にコスパに優れている
03:小規模スタジオではRyzen 9 3900Xが現実的な選択肢