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大ヒット上映中の『シン・エヴァンゲリオン劇場版』(以下、『シン・』)は、最終的に作画で仕上げるものも含めて全体の約7割ものカットが3DCGをベースに制作されている。これにより、CGが得意とする写実性とアニメーション本来の醍醐味が一体化された傑作が誕生した。本稿ではUnityによるバーチャルプロダクション(PV)がどのように活用されたのか、そして今後のデジタルアニメーション制作について、カラーとユニティ・テクノロジーズ・ジャパン(以下、UTJ)のキーマンたちに語り合ってもらった。

TEXT_葛西 祝 /Hajime Kasai
EDIT_沼倉有人 / Arihito Numakura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota

CGシーンでアングルハントを膨大にくり返すために

左から、CGI 監督 鬼塚大輔氏(カラー)、テクニカルディレクター アニメ/フィルム 林 和哉氏(UTJ)、システムエンジニア 阿部湧人氏(カラー)、シニア・パッケージ開発者 シンダルタ タヌイジャヤ氏(UTJ)

――『シン・』では、UnityによるVPを導入したそうですが、そのねらいを教えてください。

カラー CGI監督 鬼塚大輔氏(以下、鬼塚):庵野(秀明『シン・』総監督)さんは「自分の頭の中にあるイメージだけでつくってしまうと、これまでにつくってきた作品と似たような仕上がりになってしまうので、他の人の意見が必要だ」と、言い続けていました。従来のアニメ制作では、脚本を基にひとりの演出家がコンテを描きますが、VPを利用するとカメラワークや構図に、様々な人たちのアイデアをダイレクトに反映させることができます。その結果として、今まで観たことのない映像表現が生まれるのです。

▲カラーが自社開発したVPシステムを体験する、林氏とタヌイジャヤ氏。図のような等身大とEVAのような巨大なキャラクター目線など、様々な設定で撮影可能となっている。『シン・』では、摩 砂 雪氏ら演出陣がカメラマンを務めていた。「カメラマンが原画マンなので、複数のアングルをキーフレームにして、Cinemachineで繋いで動画に仕上げるという機能も実装しました。アクションシーンでは、スロー再生で撮影して、MP4で書き出す際に通常速度に戻すといったことも可能です。芝居は固定で、何度も自由にアングルハントを行うのが目的なので、モーションコントロールカメラの逆アプローチと言えます」(鬼塚氏)

――今回のVPシステムはUnityベースで開発されていますが、Unityを選ばれた理由を教えてください。

鬼塚:当初は別のゲームエンジンも検討しましたが、UTJさんがアニメ制作への活用にも積極的に取り組まれている姿をみて、「今後も様々なかたちでコラボレーションできるのではないか」と考えました。Unityを導入する以前は、東宝のスタジオを借りて光学式のモーションキャプチャ収録を行いながら、VPによるプリビズを作成していました。ですが、この手法だとスタジオの使用料やアクターさんの手配など、手間とコストがかなり発生しますし、撮影したデータを編集室に持ち込むまでに数日を要しました。庵野さんが『シン・』でVPに求めたのは「同じアニメーションを様々なアングルで撮って、それを編集でつないでみるという作業を膨大に行えるようにしたい」ということでした。そこでUnityによるリアルタイムCGを用いたVPシステムを開発したのです。

――制作後半になってもVPシステムを使うことはありましたか?

鬼塚:ありました。『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』シリーズでは、公開直前まで、全セクションでリテイクを重ねるのが常なので(笑)。『シン・』の制作でVPを最後に使ったのは、Dパートで描かれる第13号機と初号機の格闘シーンでした。画コンテの段階では5カットしかなかったのですが、背景セットが出来上がると、VPを使って400ものアングルを撮りました。その結果、40近くまでカットが増えたのですが、最終的な構成が決まったのは初号試写の1ヶ月前くらいでしたね。

最終コンポジットもUnityで実現させたい

  • 執行役員 大前広樹氏(UTJ)

――UTJでは「(仮称)Anime Toolbox」という、アニメ制作向けの機能拡張を進められているそうですね。『シン・』におけるカラーさんの取り組みを聞かれた感想はいかがですか?

UTJ 執行役員 大前広樹氏(以下、大前):壮絶な現場だったんだなあ、と改めて(笑)。より良いもの、より面白いものを追求される上で、Unityが少しでも役に立てたのなら嬉しいです。『シン・』では、通常のアニメ制作とはまったく異なる手法を用いられたようですが、映像制作にリアルタイムCGを取り入れることで、制作後半でも新たなアイデアを試して、良かったら採用するといったことを実践できることに大きな可能性を感じています。

鬼塚:カラーでは、とにかく試行錯誤を重ねます。そうした意味でも「Anime Toolbox」は興味深いです。最終ルックに近い状態でVP撮影ができて、それを編集できたら、さらにアイデアをふくらませることができるはず。VPによるアングルハントだけでなく、本番のコンポジット作業もUnityで行えるようになれば、ライティングなどのルックにも最後までこだわることができるようにもなるので今後の機能拡張に期待しています。

――Unityによるアニメーション制作を進める上で課題に感じていることはありますか?

鬼塚:現状ではDCCツールからUnityにデータを読み込むときのコストがまだまだ高いことですね。キャッシュベースでやりとりしているのですが、書き出すだけでかなり容量が増えてしまっています。また、アニメの制作現場にはエンジニアが絶対的に不足しています。そのため、自社開発したツールを外部パートナーさんに提供するのはハードルが高いことも課題ですね。社内に常駐のエンジニアがいないスタジオでも、簡単にセットアップできる仕組みがあると嬉しいです。そうした意味では、画のクオリティを上げることもさることながら、社外を含めた環境づくりに力を入れようとしているところです。

大前:エンジニアがいなくてもコンテンツがつくれる環境の実現は、われわれのテーマでもあります。Anime Toolboxも、そうした取り組みのひとつです。カラーさんにもぜひ試してみていただき、いろいろとフィードバックをいただけることを期待しています。目標としては来年、Unityの次期バージョンをリリース予定なので、そのタイミングで正式に実装できればと思っています。その前に、オープンβみたいなかたちで公開することも視野に入れています。もちろんUTJだけで開発しているのではなく、ワールドワイドでアニメなどメディア&エンターテインメント向けのツール開発に取り組んでいます。

開発中のAnime Toolbox のひとつ「VisualCompositor」。「指定したカメラで撮影したオブジェクトを解像度自在の2Dレイヤーとして扱い、平面合成を実現します。キャラクターレイヤーと背景レイヤーに、パースの変わらない状態でカメラワークを付けることができます」(タヌイジャヤ氏)

▲「CompositorGraphViewWindow」。ノード形式で、様々な方法で素材をインプットし、Layer Nodeにつなげることで2D合成する。Layer Nodeの重なり順で上下関係を指定している

▲メインカメラは大判の画だが、寄り目のカットとして合成、立ち位置も調整し、上下にパラを足して緊張感を高めた。完成動画は、足下からの縦パンで、キャラクターと背景のレイヤー引きのスピードを変えている

――日本のフィードバック内容は、ワールドワイドで見るとユニークですか?

大前:UTJが機能としてまとめたものって、かなりユニバーサルなニーズに応えているんじゃないかと思っているんです。「プロとして良いものをつくろうとしたら、そうなるよね」的な。

UTJ テクニカルディレクター 林 和哉氏:私は、映像制作現場出身で、撮影や編集、グレーディングを中心に活動してきました。縁あってUTJに入りましたが、Anime Toolboxが目指しているところに共感する部分がすごくあります。現場だったらこういうUI/UXが好まれるはず、といった現場のニーズをふまえた提案をしていきたいと思っています。ノンゲームの領域でUnityの活用はさらに進んでいくはずです。鬼塚さんがおっしゃられたように、Unityでエディットを完成させるところまでもっていきたいですね。

UTJ シニア・パッケージ開発者 シンダルタ タヌイジャヤ氏:私は、もともとゲーム業界で活動していました。前職でゲームアーティストやデザイナー向けのツールをつくっていた時は、そのツールをどれだけ使いやすくできるかを念頭に置いていましたが、ゲーム会社と違って、アニメ会社にほとんどエンジニアがいない、あるいはひとりもいないので、そのユーザビリティへの考えをより一層高めなければいけないと思うようになりました。AnimeToolboxの使いやすさがアニメ会社の仕事に役に立てるように、Anime Toolboxを仕上げていきたいと思います。

▲バーチャルカメラを操作する、カラーのシステムエンジニア 阿部氏。「現在、VPシステムの運用・管理は自分ひとりで行えています。社内にあるので、スタジオへの移動がなくなりましたし、DCCツールとUnity間のデータコンバートを工夫することで、1 日で1,000ショットぐらい撮 影してもその日のうちに編集室へ持ち込めるようにもなりました」

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