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大幅なバージョンアップが行われたAutodesk Maya 2011。では、この最新版を実際に商業制作に導入した場合、どのようなメリットがあるのだろうか。そこで今回は、株式会社オー・エル・エム・デジタルのスタッフにその使い心地を尋ねた。

制作現場の"潤滑油"となるルックデヴ・チーム

『ポケットモンスター』や『イナズマイレブン』等のアニメ向けCGから『ヤッターマン』、『十三人の刺客』といった実写向けVFXまで幅広く手掛けているオー・エル・エム・デジタル(以下、OLMデジタル)。現在、同社にはCGスーパーバイザーの森泉仁智(もりいずみよしのり)氏率いる「ルック・デベロップメント・チーム(以下、ルックデヴ・チーム)」と呼ばれるチームが存在している。「僕は、映画『ヤッターマン』(2009)を機に入社しました。このプロジェクトでは、初めて使うレンダラをベースにレンダリング・パイプラインを構築する必要があったのですが、トラブルとか色々ありまして(苦笑)。この時は、1人でトラブル解消に取り組んでいたのですが、その後、新しいツールの導入やパイプラインを新たに整備し直すといった業務が他のプロジェクトでも増えてきまして、段々と自分だけでは対処しきれなくなったんですね。そこでまず、藤本(卓哉氏)を誘い、1人また1人と増やした結果、チームとして定着しました」。現在は、4名編成で活動する「ルックデヴ・チーム」は全員MELスクリプトが書けるという、テクニカルにも強い人材で構成されているそうだ。そして、その根底には"画づくりが出来る人材であるか"という不文律があるとのこと。「チームメンバーには『ウチのデザイナーが作り出す表現の3歩先を目指せ』と、いつも言っています。それを実践すべく、技術的にも遅れをとらないように日頃から情報収集したり、新しい製品が出たら隙あらば使ってやろうみたいなところはありますね。そうした意味では、技術の習得度合い以上に新しい技術に対する関心や、それを使いこなそうという意欲の高さを重視しています」(森泉氏)。いわば森泉氏がテクニカル・ディレクターとして率いるテクニカル・アーティスト集団とでも言えそうだ。

こうした小回りの効く少数精鋭のチームだからこそ、基幹ツールがバージョンアップした際もまずは率先して試しているのだとか。ルックデヴ・チームでは、Autodesk Maya 2011のテストを今年4月から開始、当然ながらいきなり長期案件に投入するのは無駄にコストとリスクを増大させるだけなので、イベント映像やPVなど、短期かつ単発の案件から商業制作に導入していったそうだ。「テスト段階ではプロダクションで使うという前提では考えていなかったです。その後、ゲームタイトルのPVとか単発の仕事が入ってきて、"じゃあAutodesk Maya 2011を使ってみよう"という感じで使用する機会が増えてきています」(森泉氏)。

ひと通り使ってみての印象

ノキアのアプリケーション開発フレームワーク「Qt(キュート)」ベースへと刷新された、ユーザーインターフェイスが象徴するように、抜本的な改良がなされたAutodesk Maya 2011。ソフトウェアを立ち上げた時点で一目瞭然な前バージョンとの違いにアップグレードへ二の足を踏むユーザーも多いだろう。しかし、森泉氏は操作感の戸惑いよりもQtベースのUIへと変わったことで今後への期待がより高まったと言う。「僕のチームは、他部署に比べてMELを書くことが多いのでUIにこだわるスタッフが多いんですよ。だからQtに変わったことで、UIをカスタマイズに要する時間を短縮できると考えています」。また、mental rayのコアのバージョンが上がったことでレンダリング時、イメージをLUT(ルックアップテーブル)で表示して様々な調整が出来るところが凄い便利になったと、主にライティングやシェーディングを担当している山科雄毅氏は続ける。「OLMデジタルでは、実写プロジェクトに関わることも多いのですが、色周りは特に気を遣うところなので、今回LUTが入ったことは凄く良い所だと思います」。さらに今後、ポスプロから貰ったLUTのデータをMayaに直接読み込むことで中間ファイルがなくなり作業フローも大分効率化できるのではという期待もあるそうだ。

Maya2011基本UI1 Maya2011基本UI2

Autodesk Maya 2011では、新たにUIエンジンとしてノキアが開発・販売を行なっているQt(キュート)を採用。カスタマイズの利便性が高められている

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実戦投入で確かな手応えを感じた

今年12月に発売された 『イナズマイレブン3 世界への挑戦!! ジ・オーガ』のPV制作では、一連のCG作業をAutodesk Maya 2011で完結させたという。通常、劇場作品などの長期案件期間中ソフトウェアのアップグレードは行わないため、疑問に思われるかもしれないが、ここでは新機能の使用を目的としているのではなく、あくまでモデリングやレンダリング、アニメーションなどのべーシックな部分で使用することを目的にいち早く実戦投入することで、メインツールを会社全体でアップグレードするための布石としたわけだ。「重いデータをあまり扱わなかったということもありますが、実際に使用していく中で大きな問題はなかったですね。また、Autodesk Maya 2010で作られたサッカースタジアムのデータをAutodesk Maya 2011に読み込んで使用したのですが、特に問題はありませんでした」(森泉氏)。また、自社開発のプラグインに関しても全て検証したというわけではないそうだが、ある程度のものは大丈夫だったそうだ。

最近では、来年発売予定の某ゲームタイトルPVプロジェクトにて流体エフェクト(Fluid Effects)機能を使い大規模な炎エフェクトを制作したそうだ。ルックデヴ・チームがAutodesk Maya 2011を短期案件で導入した理由にFluidのアップデートが大きく関係しているという。これは制作する画が城壁の上から眼下に広がる街全体が燃えているというモノで、この炎全てをFluidで作成するのに適していたからだ。実際にこの表現を担当した藤本卓哉氏は、「前バージョンまでは、Fluidは処理が重いのでなるべく使わない方向で作業をしていたのですが、Autodesk Maya 2011になってからAuto Resize機能を含め、多くの面で確かな改良が施されていると思います。プレビューなども大分速くなったので、作業効率が凄く上がりましたね。前のバージョンでも同様の表現を作ることは可能ですが、スケジュールやコスト面で折り合いがつかずに利用を断念することが多かったので嬉しいところです」とふり返る。

Maya 2011 Fluid機能

流体エフェクト機能のUI(Autodesk Maya 2011)。本文で触れた大規模火災の表現では、100以上のFluid素材を組み合わせるというかなり大きなデータになったそうだが、納期に間に合わせることができたという
PHOTO_大沼洋平
 

そして森泉氏は、まだ"本格的に試せてはいない"とした上でnParticleには期待をしていると話す。「以前まではRealFlowみたいな事を Mayaでやろうとすると作業用マシンへの高負荷が原因でプロダクション的には使いづらかった。ですが、最新版ではキャッシュとnParticleのメッシュ化アルゴリズムの改良により信頼度が増したようなので、かなり期待していますよ」。

Maya 2011 んParticle機能

確かな改良を実感するトピックの1つとして「nParticleの強化」を挙げてくれた。「キャッシュの信頼性が向上し、より多くのパーティクルが出せるようになっているのでメッシュ化したものが実用的になったと思います」(森泉氏)
 

ソフトウェアのかなり根幹の部分での刷新が行われたAutodesk Maya 2011だが、森泉氏にとって、今回のバージョンアップは"今後"という部分でかなり期待が大きいという。「レンダーレイヤーなど先の部分を作って頂いても、その後仕様が変わったりする可能性を考えると安心して使えないというのがあるのですが、今回のようにLUTやPythonのnamespaceコマンドに代表される根幹の部分を抑えて頂けると、そこに対してちょっとしたものを開発するだけでパイプラインが色々作れるのではというのがあるので今後への期待が凄くありますね」(森泉氏)。細かいリギングやキャラクターアニメーションの機能などの検証はこれからだというが、常に"画づくり"を第一に考え、今ある機能をいかに効果的に組み合わせて映像クオリティを高めていくことを心掛けているルックデヴ・チームとしては、今回のAutodesk Maya 2011は底堅いバージョンアップだと評価しているそうだ。

TEXT_宮田悠輔
PHOTO_大沼洋平

映画『劇場版イナズマイレブン 最強軍団オーガ襲来』ポスター

映画『劇場版イナズマイレブン 最強軍団オーガ襲来』
12月23日(木・祝)爆熱公開

企画・総監修・ストーリー原案 - 日野晃博
監督 - 宮尾佳和
脚本 - 冨岡淳広
アニメーション制作:オー・エル・エム/オー・エル・エム・デジタル
配給:東宝
© LEVEL-5/FC イナズマイレブン MOVIE 2010
 
『劇場版イナズマイレブン 最強軍団オーガ襲来』公式サイト
 

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