株式会社アニマロイドには「モデリングの鬼」と称するモデリング専門チームがあり、 モデラーを目指す学生向けの勉強会を2週間に1回のペースで開催している。 リーダーの中澤元喜氏に、モデリングのトレーニング方法を伺った。

自分の限界までクオリティを突き詰めてもらう

勉強会に参加する学生は多いときで10人弱、期間は定まっておらず、モデラーとして就職できたら卒業だと中澤氏は語る。「実制作を学ぶ機会のない、メディア学部などの大学生が多いですね」。
ただし、この勉強会では基本的なツールの使い方は教えないという。「本やインターネットで簡単に調べられることは教えません。モデリングの課題を出し、自宅で作り、次の回に講評し、修正した方が良い部分があればもち帰ってさらに作り込む......。その繰り返しです」。自分の限界までクオリティを突き詰めてもらうため、作り込む期間も決めていないという。
「同じ課題を1年近くやり続ける人もいます。自分で考える力を付けてほしいので、どこで終わりにするかは個々人に決めてもらいます」。1つ1つの課題とじっくり向き合い、破綻のないモデルデータを作ることが目標だと中澤氏は続ける。
「スカルプトツールを使ってもかまいませんが、最終的にはMayaや3ds Max等で支障なく扱えるデータを作れなければ、モデラーは務まりません」。映像制作におけるモデリングは、それだけで完結する仕事ではない。「アニメーターをはじめ、後工程の方々が使い易いデータでなければいけない。そのためにどうすべきか......といったことも伝えるようにしています」。

01.身近にあって手で触れるモチーフをモデリングする

"モデリングの鬼"の受講者の手による100円ライターの課題。1 の実物を参考に、3 の3DCGが作られた。2 はモデリング途中の画面だ。モデリングだけに留まらず、マテリアルの設定や三点照明によるライティングなど、基本的な画づくりの方法も身に付けてもらうそうだ

初心者は、身近にあって手で触れるモチーフのモデリングから始めるのが良いと中澤氏は語る。「実物、写真、フォトリアルなCGの順に情報量はそぎ落とされていきます。だったら、得られる情報量が最も多い実物を参考にする方が、より説得力のあるモデルを作れますし、観察力も養われます」。
例えば観察した情報の3割しか拾えないなら、写真やCGを使うよりも、実物を使った方が、より多くの情報を吸収でき、上達も速いという。「実物の情報を3割でも反映できれば、実物に見えます。
ドラゴンやロボットなど、現実にないものを作りたい気持はわかりますが、ドラゴンの絵やCGを参考にしていたのでは、得られる情報量は多くありません。"モデリングの鬼"では、100円ライターのような身近なモチーフから始めてもらいます」。
ドラゴンをモデリングするにしても、現実世界にいるワニやトカゲを参考にするなど、なるべく"実物を見る"というアプローチを大切にしてほしいという。「私自身は美術大学を受験するために、デッサンなどの基礎練習を数多くこなしました。その経験は、今の仕事に役立っていると感じます。けれど、デッサンするモチベーションが湧かない学生も多くいます」。
だったら、ここで紹介したように、実物を3DCGを使ってデッサンすれば良いと中澤氏は語る。「実物の縦横比をノギスで計測し、パラメーターに入力して形をとる。それも立派なデッサンです」。

02.観察した情報を言語化しパラメーターごとに分解する

たとえ実物に向き合ったとしても、漫然と見るだけなら観察力は上がらないと中澤氏は語る。「作っても作っても上達しないと感じている人は、観察した情報を細かく言語化して、パラメーターごとに分解すると良いですよ」。
例えば"黒い石"を観察したとしよう。"四角く角張っており、青みがかった黒色で、所々に白い斑点のようなものがある。窪んだ場所には灰色の砂のようなものが溜まっており、キラキラと細かく反射している。ただし反射そのものはぼやけている。基本的に表面の肌理は粗いが、指で触ると滑らかに感じられる程度......(以下略)"というように、感じたことを紙に書き出していく。「写真だと、そのものがもつ色なのか、反射による色なのかを判断しづらいので、手に取れる実物が良いですね」と中澤氏は補足する。

"言語化できた"ということは"意識できた"ということであり、別の形、つまりは3DCGとして出力できる可能性が高いということだ。このような視覚・触覚による観察に加え、例えば"黒い石はブラックトルマリンの原石で、トルマリンの屈折率は1.624~1.644である"といった情報を調べることも大切だという

そうやって得た情報を、今度はCGのパラメータに置き換えていく。"四角く角張って"という情報は、ポリゴンの形状を変えて表現する。"青みがかった黒色"はディフューズ、"キラキラと細かく反射"はスペキュラ、"表面の肌理は粗い"はバンプマップを使えば表現できる。
「上手な人は、このプロセスを無意識、かつ瞬時にやっているのです。慣れないうちは、全部の要素をいっぺんに表現しようとせず、まずは形状。形状が終わったらディフューズ、次はバンプマップ、最後にスペキュラというように、1つ1つ、着実に反映させていくことをお勧めします」。

03.上手な人に見てもらいアドバイスを受ける

"モデリングの鬼"の受講者が作成したロボット。中澤 氏の指摘を受け、Afterではさらにリアリティが増している。「特に白い装甲部分のキズや汚れ、質感などを見ていただきたいです。キズや汚れの大きさ、濃度、位置、全体の粗密のバランスにまで気を配った結果、必然性が増し、より魅力的なモデルへと進化しています」

先に紹介したトレーニングを経て、それでも納得のいくモデルが仕上がらないという人もいるだろう。「上手な人に見てもらい、アドバイスを受けることも重要です。自分だけで黙々と作り続けても、なかなか上達できません」と中澤氏は語る。
前述した美大受験用のデッサンの場合も、多くの受験生は美術予備校に通い、先生の講評を受けながら腕を磨く。「"モデリングの鬼"には、私に加え、同じゴールを目指す仲間達もいます。そういう人の目にさらされながら作る方がプレッシャーは大きいので、集中力も増します。結果として、1人だけで作る場合よりも速く成長できるのです」。
最初から上手な人はいないので、恥ずかしがる必要はないと中澤氏は補足する。「自分の学校の先生に見てもらうのも良いし、インターネット上の投稿サイトに掲載するのも良いでしょう」。色々な人が、まったくちがう意見を言うこともあるだろう。しかし、それも良い経験だと中澤氏は語る。
「学校の先生に習ったことと、私の言うことがちがうといって戸惑う人もいます。けれど、モデリングもリギングも、会社や個人によってやり方がちがうのは当たり前なのです。その時々の"正解"を自分で考えられるようになってほしいですね」。

"モデリングの鬼"の開催風景。その内容 は、下記URLにて紹介されている (modeling-devil.blogspot.jp)

TEXT_尾形美幸(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充